実は、明日からテスト期間に入るので、更新が遅れます……。
読んでくださっている方達、お気に入りにして下さってる方達、感想を書いて下さってる方達には気長に待って貰いたいです……。
しかも来年(今年?)受験ですし……
長くなりましたが、十九話です。どうぞ。
午後七時。
そろそろ狩りしに行ったプレイヤー達が帰って来る頃だろうか。
MMORPGは、夜からが本領発揮する頃なのだが、やはり小学生の頃の習慣がまだ身に付いているのか、暗くなったら帰らなきゃ!!みたいな感じになる。
……決して、夜にダンジョンにいたところをグールに間違われたとかじゃないよ?ホントダヨ?ハチマン、ウソツカナイ。
「……なあ、アスナ」
名前を呼ばれた細剣使いは、目だけで「何よ?」と言ってるのがわかったので、続きを話す。
「ウルバスって、この時間帯いつもこうなのか?」
騒がしいし、うるさいし、やかましいし……あっ、全部ほとんど同じ意味でした。
「ここ最近は、ウルバスもマロメもだいたいこんな感じだと思うけど。きみ、昼間だけじゃくて夜もどこかに引きこも……隠れてたの?」
おい、今引きこもってたの?って言いかけただろ。何?お前俺の本名知ってんの?
「い、いや少し用があって……」
キリトは事情を知っているから苦い顔だ。
「まあ……隠れていたかと言われたら隠れてた……のか?」
「気にしすぎじゃない?さっきからあなたに絡む人なんかいないじゃない」
いや、ただ生還の喜びとか、夕飯の楽しみから気づかないだけだと思うが……
ちなみに俺は、さっきから逃げる機会を窺っている。
このまま着いていったら俺の財布のHPが0になっちゃうからね!!
「まあ…そうなんだがな……ところで、さっきの話だが……やっぱり理由もなく、こんなにうるさ……賑やかなのか?」
「理由もないってわけじゃないと思うけど」
あ、あるんですか。
理由もなくはしゃぐリア充ばっかだと思ったわー。
「……っていうか、その理由の七割くらいは君でしょ?」
「あー、まあそうだね」
「は?」
七割が俺?……全然思い浮かばないな。
「……どういうことだ?」
言いながら俺は後退していく。
「別に、謎かけでも何でもないわよ。一層に閉じ込められていたときは――」
更に早く後退。隠蔽スキルを発動。後ろを向いて走り出す。
「――この光景は存在……ってあら?」
今さらアスナが気づくが、もう遅い。
ハッハッハ。ステルスヒッキー(隠蔽スキル)は、仮想空間でも健在のようだな。
「どこ行くの?エ・イ・ト?」
ゾクッとした。
や、ヤバイ……この殺気は、一層の時のアスナと同等……だと……?
と、俺が内心でバトル漫画風に戦慄していると、殺気の放出源――キリトがいた。
「うわあああああ!!」
に、逃げねば!敏捷力を全力にして走ろうとしたが、僅かにキリトの手のほうが早い。
「ぐっえっ!」
襟を掴まれ、体の背骨が曲がってはいけない方向に曲がりそうになる。
「エイト?逃げちゃダ・メ・だ・よ?」
「そんなショートケーキ食いたいのかよ……」
ぶっちゃけ執念が凄い。そんな食いたいなら、自分で食えよぉ!俺の財布をいじめないでよぉ!
「えっ?……ち、違うよ!!エイトのバカ!」
「グッ」
キリトが襟を掴んだまま歩くので、再び後ろに引かれる。
呼吸は必要ないが、気道を圧迫されるのは気分が悪い。
「わ、わかった、わかったし、もう逃げないから……手を離してくれ」
「……本当に逃げない?」
「あ、ああ。逃げない」
そういうとやっと離してくれた。
「フーッ」
思わず深呼吸。
「あなた……逃げるなんていい度胸ね?」
……修羅その二が現れた!!
ハチマンはどうする?
戦う
道具
逃げる
土下座
「すんませんっした!」
ハチマンは、土下座を選択した!!
少し引かれた!
「……あなた……プライドないの?」
ふっ、愚問だな。
「そりゃ命のきけ……んんっ!謝るときに捨てられないプライドなんて持ってない」
危ない危ない。これ以上怒らせたら財布が空になりかねん。
「はあ……まあいいわ、行きましょう」
「……お前よくこんな所知ってたな」
俺は《鼠》から情報を買ったのだが……
「アルゴさんから情報買ったのよ。ウルバスで、人があんまり来ないNPCレストランはないかって」
へえ……意外だ。一層であんなことになったのに……んんっ!いかんいかん、煩悩退散煩悩退散。
「……まさかと思うけど……」
全力で首を振り否定する。
い、いや、一層のことなんて思い出してませんよ?
「ま、まあ、付き合いには気を付けろよ」
アイツ恐ろしい程情報持ってるからな。
と、そこでNPCのウェイターがケーキを運んできた――――デカイ。
ウェディングケーキかよと思うくらいデカイ。
「そ、それじゃあどうぞ……」
「「うん、じゃあ、頂きます」」
こんなデカイケーキ、一体いくらするのか……というか、俺が払う必要なくね?無理矢理参加させられた(キリトの涙目+上目遣いであっさり陥落)だけだし……
気分が駄々落ちなのがわかったのか、二人が話しかけてくる。
「冗談だよ。エイトも食べたら?」
「冗談よ。さすがにわたしもそこまで鬼じゃないわ。あなたも食べていいわよ」
「あ、ああ……どうも」
……食べたショートケーキは、とっても美味しかったです。まる。
「……おいしかった……」
「うん、そうだねぇ……」
店を出た二人の第一声だ。まあ気持ちはわかる。実際美味かった。
「へいへい、それはよーござんした」
この顔を見れたならまあ、奢った甲斐があったと思ってしまう。
……やっぱり俺、年下に甘過ぎだろ。さすがリアルジョブお兄ちゃん!!
ちなみにあのショートケーキには、《幸運》バフがついてたらしく、活用する方法を考えている。
「……残念だけど、今さらフィールド行って狩るには足りないね」
そう、この《幸運》バフは、十五分しか続かないのだ。
「そうだね……でも、もったいないね」
運の要素で、今必要なこと……
「あっ」
……今さらながら、狩りの目的を思い出したのである。
で、只今ウルバス東広場。
あの男性鍛治屋に、アスナのウインドフルーレ+4を強化を頼みに来たのだ。
俺は帰ろうとしたのだが、アスナの「あなたの分のバフも加算されるかもしれないでしょ?」というお言葉で来た。
正直、ねえよ……と思ったが、誰かの命を預ける武器――それも、自分も強化素材を集めた武器なので、本当にしょうがなくついてきたのである。
だか、正直胸くそ悪い。
二、三組のカップルがいるため、ずっと「リア充爆発しろ」と呟いてたら、キリトに怖いと言われたため中止する。
おとなしくアスナの武器強化の成り行きを見ているのである。
「こんばんは」
「こ、こんばんは。いらっしゃいませ」
顔からも見た通り、恐らく十代――俺と歳もそう変わらないだろう。
看板には、《Nezha's Smith Shop》と書いてあることから、恐らくあの鍛治屋の名前は、ナタク……おっといかん、中二病時代の読みが……ネズハだろう。
「お、お買い物ですか?それともメンテですか?」
……?なぜ強化は言わないんだ?
まあ、いい忘れただけかと思い直し、もう一度向きなおす。
「武器の強化をお願いします。ウインドフルーレ+4を+5に、種類はアキュラシー、強化素材は持ち込みで」
おお……
俺は、ネトゲ初心者(だろう)のアスナが強化内容を淀みなく言えたことに、父親のように感心する。
しかし、ネズハ(多分)は、眉を困ったように下げる。
「は、はい……素材の数は、どれくらい……?」
「上限までです。鋼鉄板が四個と、ウインドワスプの針が二十個」
うん、まあ、これなら成功率は九十五パーセントくらいだろう。
頭で大まかに計算していると、ネズハは更に困り顔になっていたが、依頼を断るはずもなく、依頼を了承した。
「解りました、それでは素材と武器をお預かりします」
そこまで見て、あとは完成するのを待つだけかー。と思ってボンヤリしていると、不意に右手に柔らかい感触。
「あ、あの〜アスナさん?何ゆえ僕の指を摘まんでいるので?」
女子の手って柔らかいな〜という、自分でもアホか。と思う感想と、手が汗ばんでないよな……という不安と、後ろからの殺気の恐怖に耐えていた。
返ってきた答えは、
「……こうしていれば、あなたのバフも加算されるかもしれないでしょ」
という、これまた、んなアホな。と思う答えだった。
やがて、八回、九回、十回とハンマーがウインドフルーレを叩いたときに、ウインドフルーレは一際強く輝き――――その輝きに耐えられなかったかのように粉々になった。
はい、前書きにもあった通り更新が遅れます。
次回!『アスナの涙、詐欺の可能性』です!