あと、最初にキリト達が叫んでいる理由がわかりにくいので書いておきます。
八幡がグールに見えた、それだけです。
それでは、第二十二話、どうぞ!
目を覚まし、瞳を開けると――辺り一面暗かった。
は?何これ?遂に目が腐りきって見えなくなったの?
体を起こすと、光が射し込んできた。
……まぶしい。
発光源は、部屋にある灯りのようだ。
「うわあああああ!」
「キャアアアアア!」
「うわあああああ!?」
上から、キリト、アスナ、俺だ。
な、なんだ?なにが起こったんだ?
落ち着いて周りを見回すと……は?
「なんだ……これ?」
周りにあったのは、鎧、武器、衣服、下着、って!
「キャアアアアア!」
「は?」
悲鳴がした方を見ると、顔が真っ赤なアスナがビンタの構えで……
「ぶっ!」
痛みはないが、不快な衝撃が俺を襲う。
……とりあえず、説明して下さい……
「で、あの後一体なにが起こったんだ?」
あの後、気絶した(させられた)俺は、なにが起きたかまっっったくわからん。
「う、うん。まずエイトが気絶した後に、アスナに《コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ》コマンドを押してもらったんだけど……多分、部屋の中に入れておいたエイトが埋まっちゃって……」
ああ……だから起きたときに、周りが暗かったのか……
「ああ……だからあんなにアイテムだら……」
背筋が凍った。
コイツ(アスナ)の前で下手なこと言うのやめよう……。
「OK。そこまでは理解した。けど、なんでそんなことをしたんだ?」
「それは……」
説明をしないで、アイテムの山を漁るキリト。
……見た方が早い、という意味だろうか?
ちなみに俺は目を逸らしている。俺、マジ紳士。
「あ、あった」
そう言ってキリトが取り出したのは、壊れたはずのアスナのウインドフルーレ+4だった。
「で、なんで壊れたはずのウインドフルーレがあるんだ?」
ウインドフルーレが見つかったカオスな空気から約三分後。多くのアイテムが床に散らばっていたが、今はキレイにストレージに収納されていた。
「うん、でも長くなるよ?」
……長くなるというなら、今この部屋を借りているアスナの了承が必要だ。
「……別にいいわよ。あなたも無関係ってわけじゃないし」
とのことだったので、宿屋一階で買えるハーブ入りワインとナッツ(らしきもの)を買い(買わされ)、二階に戻る。
「んじゃ、そろそろ教えてくれないか?なんで壊れたウインドフルーレがストレージにあったのか」
俺が会話の口火を切るように告げると、キリトが説明を始める。
「うん、じゃあ、エイトはさっき『なんで壊れたウインドフルーレがストレージに入っているのか』って聞いたよね?」
「ああ、聞いた」
「そこが、この仕掛け……というかトリックっていうか……まあ、仮称するなら《強化詐欺》のキモなんだよね……」
強化詐欺……か。武器強化でどうやって詐欺をするのかが分からないが、説明してくれるだろう。
「口で説明するより、見せた方が早いと思うよ」
そう言うとキリトは、自分のメインメニュー・ウインドウを開いて、可視化にして俺達の方に向けてくる。キリトはある一点を指差し言う。
「ほら、ここ。私の装備フィギュアの右手セルには、《アニールブレード+6》があるでしょ?」
ちゃんと確認して俺達は頷く。
……それにしても、アニールブレードかあ……
俺のアニールブレードは、耐久限界で壊れてしまったため、少々羨ましく見える。
ちょっとブルーな気分になっていると、キリトが背中から剣を鞘ごと外して、足許にゴトリと落とした。
すると、数秒後に、キリトの装備フィギュアの右手セルに表示されるアイコンが灰色になっていた。
俺も数度だが見たことがある。これは確か――
「これが、《装備武器の落下(ドロップ)状態》。戦闘中に手を滑らせ(ファンブルし)たり、Mobの武器落とし(ディスアーム)属性攻撃とか喰らうとこうなるね」
「………ええ。慣れていないと、かなり焦るわね」
武器を落とす状態に慣れる程武器を落とすのも問題だがな。と、心の中でだけ、突っ込みをいれる。
「落ち着いて次の攻撃を避けてから拾えばいいんだけなんだけど、最初は焦るよねえ…。最初のディスアーム使いの《スワンプコボルド・トラッパー》でも、かなりの犠牲者が出たらしいし……」
「アルゴさんが攻略本で、警告してくれたのにね……。わたし、アイツと戦うときは、お守りがわりに、少し離れたとこにあらかじめ予備のレイピア落としておいたわ」
「おお………今じゃ絶対にやらない方法だなッ!」
視線だけで、さっきのことを言ったら刺す、と言っているのがわかった。
俺がジェスチャーで、絶対言いません!と伝えると、やっと視線の矛を収めてくれた。
「?えっと、脱線しちゃったけど、このまま放っておくと、《放置(リーブ)状態》になって耐久値が減少しちゃうんだけど……エイト、これ持ってみて?」
「ああ」
スチールブレードより重いこの重量、馴染みがある手触り………久し振りだな。
「うん、ありがとうエイト。メインメニューを見てみて?」
メインメニューを見ると、さっきまで薄くアニールブレードとあったのが、空欄になっていた。
「これが、戦闘中なら《武器奪われ(スナッチアーム)状態》ってやつだね。ソロで喰らうとヤバイよ。《クイックチェンジ》を取っておいた方がいいよ」
へえ……一応取っておこう……
俺が《クイックチェンジ》を取る決意をしている間にも、キリトの説明は続く。
「今は敵に奪われたんじゃなくて、仲間に渡したから、《武器手渡し(ハンドオーバー)状態》っていうけど……まあ、とにかく、武器を拾われたり、誰かに手渡しすると、装備フィギュアの武器セルは空欄になるんだ……鍛治屋に渡したときみたいに」
俺みたいな奴を『仲間』なんて呼ぶな、と思いつつも……なるほど、ようやく話が見えてきた。
「つまり……ずっと相手に自分の武器を渡していると、所有権みたいなものが委託してしまうのか?」
俺が言った通りなら、なるほど、《強化詐欺》、ぴったりの名前かもしれない。
「うん。より具体的には、自分が装備してない武器は五分、装備している武器は、一時間経つか、同じ手に次の武器が装備されたときに委託しちゃうんだ……」
一時間。長い時間だが、無くなったと思っている自分の武器を、わざわざ確かめたりしないだろう。
「……じゃあ、さっきあなたが言った《クイックチェンジ》では、違う手に装備した方がいいのね」
「え?うん、そうなるかな……」
そうなのか……俺も左手でソードスキルを出せるようにしとこう……
と、また新たな決意をしていると、アスナが文句を言っていた。
「それにしても、全部のアイテムをオブジェクトさせる必要あったの?」
「あはは……まあ、さっきのコマンドは、《最終的救済手段》だからしょうがないよ……そんなホイホイできたら、アイテムなんか奪われないし……」
どことなく哀愁が漂う声音でキリトが言うと、アスナがさらっと要約する。
「ふーん、便利な分だけ、それなりにめんどくさいのね」
まあ、最終的っていうくらいなら、めんどくさいのも当然だろう。
「それにしても、剣が戻ってきたロジックについては理解したわ」
妙に慣れたような仕草でハーブワインを飲んで、一息ついてから続きを話す。
「でも、これで半分でしょ?だってわたし、確かに見たもの。鍛治屋さんに渡したウインドフルーレが粉々に砕けるのを」
これは当然の疑問だ。砕けたはずのウインドフルーレが、アイテムストレージに入っていたのだから、不思議に思うだろう。
「うん、そっちのロジックはまだ完全には解らないけど、恐らく、ネズハに渡してから消滅するまでにすり替えられたんだと思うよ。彼は、アインクラッド初の鍛治屋にして、初の《強化詐欺師》だったんだよ……」
「でも、すり替えるといっても簡単じゃないだろ?今までのゲームならともかく……」
今までのゲームなら、武器を鍛治屋に渡した時点で、プレイヤーの預かり知らぬところだが、ことVRMMOではそうはいかない。強化途中の錬成しているところもずっと視界に入り続けるのだ。
「うん……私もそう思ったけど、少なくとも、私の眼から、剣が離れた瞬間があるんだ……強化素材を炉に入れるときに……長くても、三秒くらいだったんだけどね……」
「あ……!そういえばわたしも、炉から出る青い光が出てキレイだから、眼を離していたかも……!」
そーいえば、俺、あのとき何してたっけ?確か………ボーッとしてたな。
「あの数秒間だけは、マジックのミスディレクションみたいに注意が逸れていた……」
「わたしたちの眼が炉に移ってる数秒間に、武器をすり替えたの?ウインドウも開かずに?」
「……けど、そこでやってなきゃ、どこですり替えられたんだ、って話になるぞ」
どう考えても、あそこですり替えたとしか考えられないのだ。
「……まあ、アスナが完全オブジェクト化したことから、詐欺がバレたと思って、しばらくはやらないだろうがな……」
「そうね……見たところ、そんなイケイケな人にも見えなかったし……それに……」
「うん……詐欺する人にも見えなかったしね……」
人を見た目で判断するのはよくないが……態度といい、失敗したときの悲痛な声から、俺も同感だった。
「ま、何にせよ、最前線に出て情報収集、だな」
「うん、そうだね」
「ええ、マロメで聞いた話では、フィールドボスの攻略戦も行われるらしいしね」
少し驚いた。一層のペースに比べたら、遥かに早い。
「……攻略隊のリーダーは?」
「ええと、キバオウさんと、あと一人……リンドさんって人」
キ、キバオウは確か……ああ、あのモヤットボールか。リンド?は聞いたことないな。
「リンドさんは……一層のときに、ディアベルさんのパーティーで、シミター使いの人よ」
……ああ、あの『なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ!!』って言っていた人か。
「いま、あの人、髪を青く染めて、銀色の鎧を着て……ディアベルさんの意志を継いでいるみたい」
「……そうか……」
俺は、今は亡き青い騎士の姿を一瞬思い浮かべる。
「……そういえば、アスナは、フィールドボス攻略に出るの?」
キリトの声で、意識を戻す。
「偵察には加わったんだけど……ただのデッカイ牛って感じで、統制さえ執れてれば、人数必要なさそうだったし……。――それに、ラストアタック・ボーナスとかの扱いとかでちょっと頭ごなしな言い方されて、『なら本選には参加しない』って言っちゃった」
統制が、とれるのか……?あの二人がリーダーで。
「ま、まあ、アスナの言う通り、フィールドボスは大したことないよ。むしろフロアボスが問題で……」
「……そうなの?」
「うん……単純計算で、《イルファング・ザ・コボルドロード》より強いし、攻撃力はそこまでだけど、特殊攻撃が厄介なんだよね……まあ、迷宮区のMobで、対処方法練習できるけど……」
「なら、鍛治屋さんの件はおいといて、明日はその練習に当てましょう」
アスナの提案に、キリトが首を縦に振り頷く。
「おーう、頑張ってこい」
「何言ってるの?あなたも来るのよ?」
げ、絶対嫌だ。
「断固ことわ……」
腕をクイックイッと引かれる。
そっちを見ると、上目使いのキリトがいた。
「エイトも一緒に行こうよぉ〜」
くっ、可愛い……だと!?
「わ、わかった……」
やっぱりキリトに甘すぎだろ……俺。
「じゃあ、明日の朝、七時に南門に集合ね。遅れたら、またケーキ奢らせるからね」
その言葉が合図だったかのように、各々解散。俺とキリトは、帰路についた。
次回!『二層ボスの対処の練習』です!