今までで一番長いです。
あ、いい忘れてましたが、キリトへのプレゼントは、《コートオブ・ミッドナイト》でした。
翌朝。
「ふわあああああああ」
自分でも長いと思う欠伸をたっぷり数秒して、ウインドウを開く。
――六時五十三分。
は?えーっと、約束の時間は何時だったっけ?
確か……七時だったな。
そこまで考えたところで、寝ぼけていた脳が覚醒する。
――ヤバイヤバイ、ヤバイよ。
装備を整える間もなく、宿屋を飛び出す。
別に知らない奴との約束なら(知らない奴とそもそも約束しないけど)すっぽかしてもいいが、お互い最前線で戦う身だ。会うこともあるだろう。必要以上に険悪になる必要もない。
それに、なにより――――またケーキを奢らせれたら、俺の財布のHPは全損、最悪飯無しになるかもしれない。宿代は前払いしておいたのが唯一の救いか――
こんなときのために、こんなステ振りにしたわけではないが、グッジョブ、俺。
誰かに追われているわけではないが、気分はル○ン・ザ・サード。
前方に何やら黒い人が……ていうかキリトだった。
「エ、エイトも寝坊したの?」
「ああ。ヤバイ急がなきゃ財布が……」
キリトには悪いが、俺は財布が惜しいのだ。より一層速度を上げる。
「悪いがキリト、俺は先に行くぞ。このままじゃ間に合わん」
「えっ、ちょっとエイト!置いてかないでええええっ!!」
くっ、許せ、キリト。
そんな悲痛な叫びを背にひたすら走る。
幸い、時間が早いためか、極少数のNPC(障害物)しかいない。
――このペースなら、ギリギリ間に合うっ……!
南門が見えたっ!時刻は……五十九分!
「セーーーーフッ!」
靴から摩擦で火花が出るんじゃないかと思うくらいの急停止をかける。
柄にもなく大声を出したのは仕方ないだろう。なんせこちとら飯が懸かっていたのだから。
「……時間ギリギリね」
判定はどうやらギリギリセーフのようだ。助かった……
それから約三十秒後、キリトが到着した。
「……全員揃ったわね。なら行くわよ」
……ん?あれ?キリトにはペナルティはないんですか?俺だけ?何それ、超理不尽。いや、キリトにペナルティ課して欲しいわけでもないけど……
さて、ちゃんと装備を着込み、俺達は迷宮区に向かっているのだが……キリトが(怖くないけど)怒っているのだ(むしろ可愛い)。
「あの、キリトさん?置いていったのは謝りますから許してくれないでしょうか?」
「……」
MU☆SHI☆!だと……
「キリトさーん?いや、ホントにスミマセンでした」
声音に真剣味を混ぜて、ちゃんと謝罪をすると、
「……いいよ、許してあげるけど……」
あれ?なんかデジャヴ。……まさか、キリトまで『俺に何でも一回命令権』を求めないだろうな……
俺がそんな考えをしていたときに、キリトが口を開こうとしていて、思わず喉をならし、唾を飲み込む。
「……じゃあ、フレ登録、しよ?」
なん、だと……?
戸塚のアドレス交換以来の衝撃が俺を襲う。
何?フレンド登録?フレンドって友達(笑)の?あの都合のいい金づるとか荷物持ちの?掃除当番を押し付けてくる、あの?
過去の友達ワードに関するトラウマが再生されるが、もはや気にも留めない。
つ、遂に俺の(無理矢理させられた)《鼠》と、(お互いの生存確認のためにした)クラインしかいないフレンドリストにキリトの名前がっ!
実にこの間の思考時間は、0.1秒。過去最速である。
「……そんなんでいいのか?」
なんという謙虚さ。どっかのフェンサーにも見習って貰いたいものである。
「う、うんっ!いいから早く早く!!」
「お、おう」
二回しか使ったことがないので、若干おぼつかない手つきで、キリトにフレンド登録認証を送る。
ピッと鳴った電子音と共に、俺のフレンドリストに《Kirito》の文字が追加される。
「……何やってるのよ、あなた達」
その声で、正気に戻る。
……顔、にやけてなかったよな……?
そんな心配をしていると、どうやら着いたようだ。
迷宮区への関門的役割を担っている名前付き(ネームド)Mob――――二層においては、唯一のフィールドボスが居る場所に。
「……ちょうど始まるみたいだな」
眼下では、ちょうど攻略部隊(仮称)と二層フィールドボス――《ブルバス・バウ》が戦い始めようとしているところだ。
《ブルバス・バウ》の手前でじわじわと距離を詰めていく攻略部隊。人数は6×2+リザーブ3人の計十五人。
コボルド王の時と比べたら、人数は少ないが、充分倒せるだろう。
現に俺の足防具、《グレーウルフズ・レッグアーマー》をドロップするMob――《グレーウルフズ・リーダー》は、俺がソロで倒したのだから。
………まあ、ちゃんとパーティー同士で統制・連携が出来れば、の話だが。
「ん……?」
おかしくないか?あれ。
アスナも同じことを思ったのか、囁くように声を漏らす。
「あのパーティー、どっちがタンクでどっちがアタッカーなのかしら」
「うん……見たところ似たような構成だけど……」
「……アイツら協力する気ないんじゃねーの?」
だってアイツら、パーティーで明確に色分けしてるしな……
右のパーティーの胴衣がロイヤルブルーに、左のパーティーはモスグリーンに統一している。……人間関係もあれだけ分かりやすくしてくれたらなぁ……
ちなみに余談だが、紺色と灰色は、アインクラッドで一番人気がないらしい。(《鼠》調べ)
今アイツらがやっているように、俺は紺色のジャケット(っぽい防具)に灰色のインナーを着ているため、灰色と紺色の服を着てると、『ビーター』の仲間扱いされるためだ。
思いっきり逸れた思考を二人の会話で戻す。
「……彼ら、攻略部隊を役割分担で再編成したわけじゃなかったのね」
そうなのだ。役割で分担したのではなく、端に「仲のいい人達で組みましょう」状態だ。
……いや、なんで学校行事の時は教師はああ言うんだろうな?
「右の青いパーティーは全員リンドさんの……つまり元ディアベルさんの仲間ね。そして、左の緑のパーティーはキバオウさんの仲間ね」
うわあ……ウマが合わなそうだな……お互いにディアベルの意志を受け継いでいる!!と思っての同族嫌悪か?
……実際にはアイツらじゃなくて、キリトが受け継いでいると言った方が的確だけどな……
俺は一人で考えているとき、二人はあのパーティーについての討論的なものをしているときに、攻略部隊が、遂にボスの反応圏内に入ったらしい。
「ブルモオォォォォーー!!」
フロアボスだった《コボルド王》には及ばないが、確かに威厳のある咆哮は、仮想の空気をビリビリと震わせる。
同時に《ブルバス・バウ》は、四本ものツノを振り立てると、俺が戦った牛よりも速いスピードで攻略部隊に突進していく。
ボスとレイド部隊の距離は、およそ百五十メートルはあるが、部隊にとっては短すぎると思う距離だろう。
ようやく各パーティーのリーダー二人が指示を始めた。内容までは聞き取れなかったが、指示を聞いて双方の重装備戦士が前に立って、同時に盾を掲げて「ウオォォォォッ!!」と吼える。
あれは確か…派生スキルの《威嚇》(ハウル)といって、Mobの憎悪値(ヘイト)を上げるのだが……
「お、おいおい……両方でタゲ取ってどうするんだよ……」
ブルはどちらに突進するかを迷うように、首を振ったが、最終的には青パーティーに決めたようで突進していく。
ハウルを使ったプレイヤーと、その隣に盾持ちがもう一人並び、低く身構える。
二秒後――。
ズガァァァァン!という大音響。ここで防御力が足りなければ吹っ飛ばされるが、さすがは攻略部隊というべきか、十メートル程押されたが、しっかりと持ちこたえた。牛を押し返し、リンド隊の四人がソードスキルを側面から叩き込む。
随分と危なっかしい戦い方だが、なんとかなるだろう。
「ヒヤヒヤさせるわね……。――でも、なんとかなりそう……かしら」
「まあ……元々1パーティーだけで倒せるボスだしねぇ……」
「でもこれ、レイド組んでる意味あるのか?俺でもソロで一層のフィールドボス倒せたぞ?」
「「それはエイト(君)だけだよ(だと思うわよ)」」
いや、キリトさん?あなたから聞いたボスですよ?まさか、本当にソロで行くとは思わなかったのか?
改めて、よく死ななかったな、俺……。
自分がかなり危険なことをしていたと知り、恐怖で少し震えたが、落ち着いたところで、リザーブ役の三人のプレイヤーを見る。
――アイツらは。
「なあ……キリト、あのリザーブ役のプレイヤー……」
「え……」
あの三人は、鍛治屋ネズハの仲間(らしき奴ら)だ。……一応、名前を聞くか、《強化詐欺》に関わっているかも知れないしな。
「……なあ、アスナ。あのリザーブ役の三人の名前分かるか?特に、あの真ん中のバシネット被った奴」
「ば、ばし………?それって、赤ちゃん用ベッドのことじゃないの?」
いや、知らんがな。というかコイツ、頭いいな。……一層の時、偏差値七十とか、学年十位とか言ってたけど、まさか、な……。あり得ない話じゃないだけに、余計怖い。何?アスナってそんなに頭よかったの?何でゲーマーが多い《ソードアート・オンライン》にいるの?-----じゃなくて。
最近脳内で話題が逸れること多いな〜と思うが、今はどうでもいい。
「違う……で、見たことあんの?アイツらのこと」
「あるわよ」
あっさり肯定。そこにキリトが食いついてくる。
「い、いつ?どこで?あの人誰?」
「昨日の午前中、場所はまさにあそこ、名前は……オ、オルランドさんだったかしら?」
「今度は騎士(ナイト)ならぬ聖騎士(パラディン)様かよ……」
何?職業ナイトとか、名前がパラディンとか、意味解らん。
これはあれだな。現実世界に戻っても、ベッドの上でウワアァァァァ!!とか叫んじゃうやつだな。ソースは俺。
思わず三年前の自分を思い出していると、意味が理解できなかったらしいアスナが聞いてくる。
「どういうこと?」
ん、ああ……主に思春期男子が調べることが多いものは解らないか……。でも、ネトゲとかスマホアプリやってる奴って、自分でも知らずに神話に出てくる神とかの名前を覚えてるんだけどな……。天照大御神とかオーディンとか。
閑話休題。
「オルランドっていうのは、フランク王国のシャルルマーニュに仕えたっていうナイトだ。聖剣デュランダルを持った無敵の英雄だ」
聖剣デュランダルは割とメジャーな方だろう。エクスカリバーには劣るだろうが。
そんな中二知識の脳内展開を止める。ぼくがかんがえた最強の聖剣大会になってしまいそうなので、キリトに続いて質問する。
「じゃあ……他の奴の名前は知ってるか?」
「あの両手剣使いがべオウルフさん、反対側の痩せた槍使いがクフーリンさん……だったと思うけど……」
「うわあ……全員英雄の名前じゃねえか……」
ある意味凄いな……
巨大な鉄の盾を使ったり、チャリオット使ったりするの?
「あの人たち、もうギルド名先に決めてるみたい。確か、《レジェンド・ブレイブス》って言ってた」
《レジェンド・ブレイブス》――伝説の勇者達、ねえ………。
ここまできたら、メンバー全員英雄の名前だと思っていいだろう。つまり、《Nezha》の読み方はネズハではなく、恐らくナタク――――まあ、だからなんだって話だが、気には留めておこう。
それに、英雄と同じキャラクターネームといっても、《若気の至り》とは断定出来ない。事実、オルランド達は、最前線一歩手前に立っているのだから。
「……あの人たち、昨日の朝に前線攻略プレイヤーがマロメの村で偵察前の打ち合わせしてるとこに乗り込んできて、一緒にやりたいって言ったのよ」
「それはまた、随分大胆な行動だね……」
キリトも弱ボッチだからか、俺と同じことを思ったらしい。
「リンドさんがステータスを確認したら、レベルとスキル熟練度は平均より落ちるけど、装備がかなりしっかりと強化されてるみたいで……リザーブ役なら大丈夫ってことになったの」
……装備がしっかりとしているのは、恐らく鍛治屋ネズハ――いや、ナタクの《強化詐欺》のお陰だろう。
そんなとき、《ブルバス・バウ》が吼えた。
「ブルルォモオオオォォォォウ!!」
そんな大音量の声の発生源の盆地に目を向ける。
――オイオイ。
青パーティーと緑パーティーのどちらがタゲを取っているのか解らず、防御体制ができていないタンクが転倒する。
重装備のプレイヤーは、防御力が高いが、起き上がるのが遅い。
「アタッカーはダッシュ回避して!」
そんなキリトの叫びが聞こえたかのように、リンドキバオウ含む軽装備戦士が左右に散る。
しかし、僅かに間に合わず――。
ようやく重装備戦士が立ち上がった時には、《ブルバス・バウ》が重装備戦士の間を通り過ぎ、その四本のツノで先にいた剣士二人に引っ掛ける。そのまま頭を直角九十度に振り上げる。
「……ッ!!」
思わず息を詰める。空中にいる間か地面に衝突した瞬間に、攻撃を喰らった二人が硝子の欠片になって消えると思ったからだ。
しかし、さすがは最前線プレイヤーというべきか、最悪の事態にはならなかったが、精神力までは鍛えられてないため足許がふらついている。
そこでリンドが、何やら指示を出していて、二人が後退する。恐らくPOTローテだろう。
それと同時に、リザーブ役の三人の内二人が入れ替わるように前線に出た。
オルランドとべオウルフだ。二人は数メートル走ったところで、一度躊躇うように止まったが、やがてこちらにも聞こえる雄叫びを上げてボスへと走っていく。
その時、オルランドがラウンドシールドで隠れていた左腰から片手直剣を抜き放つ。
抜き放った剣は準レア武器――アニールブレードだった。オルランドはボスに向かって果敢に駆けて行った。
――彼らの戦いは、まだまだこれからだ!!後愛読、ありがとうございました!
………まだ終わりませんよ?あれは、八幡の実況ですよ?
さて、気を取り直して、
次回!『in迷宮区、vsミノタウロス』です。(楽しみにしている人がいるか解らないけど)お楽しみに!