さて、そんなテンションをやめて、真面目に報告を。
活動報告にアンケートがあるので見てください!!
投稿遅れました。すいません。
そして、祝!!お気に入り登録五百件突破&UA五万突破!!これからもソロアート・オフラインをお願いします!
それではひさびさの投稿の第二十六話、どうぞ!
――十分後。
俺達は酒場を出て、再びタランの東広場にいた。
鍛治屋ネズハの監視の(詐欺のトリックを暴く)ためだ。
タランの村は、まるでくりぬかれたような地形をしている。ト○コの珍師範にくりぬかれた山みたいな感じだな。簡単に言えばクレーターだ。だからこの村は、縦方向にもボリュームがある。
そのため俺達が今いる東広場にも多くの高い建物があるのだ。
この建物は、NPCショップでもプレイヤーハウスでもないただの空き家だ。
空き家なんて使い道がないような感じがするが、実際には色々ある。――例えば、今俺達がしている監視だったりだとか。
「なかなかいいアングルね」
そう呟いたのは、俺の右斜め前で椅子に腰かけているアスナだ。
「うん、そうだね。たぶんここがベストポイントだろうね」
それに返答するのは俺の左斜め前で椅子に腰かけているキリトだ。
俺は二人の一歩下がったところに隠蔽スキルを発動させて立っている。……嫌な大和撫子だ。……大和撫子って三歩後ろだったっけ?
隠蔽スキルを発動させている理由は、窓際に立っているため、万が一にもネズハに気づかれないようにするためだ。
「飯、ここに置いとくからな」
引きこもりの人のお母さんみたいな台詞だが、状況としては、張り込みをしている先輩刑事にあんパンと牛乳を買ってきた後輩刑事だろうか。
ちなみに買ってきたのは和訳すると《タラン饅頭》とかいう食い物だ。味は知らん。適当に選んだだけだからな。
「これ……中身何?」
「知らん。二層のメインテーマに沿うなら牛肉じゃないか?」
自分で買ってきてなんだが、絶対に自分からは食わない。得体のしれない食べ物は危ないからな。ソースは由比ヶ浜のクッキー。
「……温かいうちに食べないのか?」
建前である。アスナよ、俺の健全な食生活のために毒味の実験台となってくれ……。
「……いただきます」
「いただきまーす」
キリトもどうやら食べるようだ。味はどうなのか……
そんな疑問は、二人の次に発した声が解答だった。
「「うにぁあ!!」」
あ、これは駄目だわ。阿修羅さん降臨確定だわ。いやー、やっぱ得体のしれない食べ物を食べたらいけないなー。アッハッハ。……どうしよ、阿修羅さん。
「……中身、あったかいカスタードクリーム……その中になんか酸っぱい果物が……」
「………」
何それ、イタズラ?いや、買ってきたのは俺だけどさ……
ひとまず毒ではないようだ(システム的な)。……そもそも圏内でバッドステータスにかかるのか知らないが。
キリトは涙目になりながら口元をハンカチみたいなもので拭いているのに対し、アスナはわなわなと体を震わせている。……何これ、天国と地獄?
「……もし、もしあなたがこの味だと知ってて、この食べ物を勧めたなら、わたし、自分を抑えられる自信がないわ……」
ここで冗談でも首を縦に振ったら、ウインドフルーレの餌食か、最低でも拳の餌食を覚悟しなければならない。……最悪の場合、窓から落とされるかも。
「い、いや、違う。断じて違う」
首をブルンブルンと横に振る。そんなことをしている間にキリトが口を拭き終わったようで、アスナにもハンカチ(みたいなもの)を渡す。
上品な令嬢のように口元を拭くと、ものの数秒で綺麗になる。……この世界のハンカチは随分便利なようだ。
こちらをキッ!と睨んで一言、宣言するように言った。
「次に張り込みする時は、食事は自作するわ。二度ととんでもないもの食べさせられたくないし」
なら自分で買ってくれませんかねぇ?なんでショートケーキの時もピーナッツとワインの時も今も俺が買わなくちゃいけないんだよ……
「わあっ!アスナが作るの?楽しみだなぁ」
「え…ええ」
……なんかこいつらを見てると奉仕部を思い出すな……
少し感傷的になりながら、タラン饅頭なるものを一口。うん、(冷めたら)普通に美味いな。
温められていたのはイタズラみたいなもので、食べたら案外美味いな。
アスナも冷めたタラン饅頭を食べて、少しは機嫌を直している――のはいいのだが、肝心の強化詐欺のトリックを見破るほうは芳しくない。
一時間位監視しているが、殆どがメンテの人ばかりで強化の人は二人しかいなかった。
それもミドルクラスの武器(俺のスチールブレードもだが)だからか、どちらも大成功。もはや詐欺などなかったのでは?と思うレベルだが、アスナが《鼠》から買った情報からそれはないと断定。アスナは
『武器強化の失敗ペナルティとして、《破壊》があるのか調べてほしい』
と聞いたところ、《鼠》は
『厳密な失敗ペナルティとしてなら、武器破壊はまず起きナイ。ただ、強化を試みて必ず結果が失敗になる場合はアル。それは、試行可能数が残っていない剣を、更に強化しようとした場合ダ』
だそうだ。ちなみに情報代は酒場の勘定持ち。
つまり、だ。やはりアスナのウインドフルーレはどこかですり替えられていて、強化されたのは強化試行可能回数が0の――所謂エンド品だったって訳だ。
つまり、仮にエンド品が強化詐欺に使われているなら、三本ヅノの時の異常に高額なエンド品の買い取りも説明がつく。あれは強化詐欺の仕込みだったのではないか?
「「エイト(君)」」
二人の声で意識を戻す。いつの間にか広場には人が少なくなっていた。その中に光沢が凄い金属防具と今はダークブルーに見える胴衣を身につけたプレイヤーがいた。間違いない、リンド隊のプレイヤーだ。
リンド隊のプレイヤーは、そのままネズハのところまで歩いて、片手剣を留め具から外した。
あの武器は確か――――固有名詞は《スタウトブランド》……だったか?
キリトのアニールブレードに比べると、少しばかり短く、幅広だ。片手直剣のなかでもブロードソードと呼ばれるものだ。確か、武器のランクとしてはウインドフルーレと同等か、少し上――――
「……すり替えの標的としては充分ね」
「……そうだね。ランクとしてはウインドフルーレと同等位だからね」
どうやら俺のうろ覚えの知識は正しかったようだ。
さて、そうなるとあとはメンテか強化なのだが……
リンド隊のプレイヤーは、留め具から外した《スタウトブランド》を鞘ごとネズハに手渡した。
もしメンテなら、ネズハはすぐに剣を抜いて、アンビルの側面に取り付けられている小型の回転式砥石に当てる。強化なら強化素材アイテムが入っているであろうカーペットに並べられている革袋に手を――――
「強化だ!」
キリトが小さい声で叫んだ。アスナもこくりと頷き、囁いていた。
「左手よ、左手から眼を離さないで!!」
その言葉で窓際にぐっと顔を寄せる二人。おい、顔ぶつけるぞ。
心の中で忠告しつつ俺もネズハの左手に視線を集中させる。
左手に不審な動きは――なし。売り物の既製品に手をつける様子は――なし。左手でシステムウインドウを開く様子は――なし。
色々確認してみたが、特に不審な動きはなかった。
そうこうしてる間も右手は忙しなく動く。アスナの時と同じ動きをしている。違うことと言えば、今回は《重さ》強化の赤い光が発せられたことくらいだ。しかしそれもすぐに収束して待機状態へと移行――。
「……?」
今、ネズハの左手で何かが起きた気がした。だが、肝心なところを見逃したため、何が起こったのかはわからない。
今なおネズハの右手に握られている《スタウトブランド》は、全く同じに見えても恐らくエンド品にすり替えられているだろう。
携行炉から取り出した肉厚――いや、鉄厚幅広の剣は、赤い光で満たされている炉に置かれる。赤い光は全て剣に、今度は鉄床の上に。右手をスミスハンマーに持ちかえ、カァン、カァンと音を鳴らす。これが鍛冶と聞いて真っ先に思い浮かべる行為だろう。
それを五回、七回、九回、十回叩いたところで《スタウトブランド》はやはりと言うべきか、粉々になった。
ネズハの言葉を信じるなら、アインクラッド史上三人目(三人な訳ないが)の強化詐欺の被害者の誕生の瞬間であった。
次回!『名探偵エイト、真実はいつも一つ!』です!