あと、前回予告の『……』は報復です。本当にささやかです。すいません。
……最近謝罪が多いと思いつつ、第二十八話、どうぞ!
十二月十一日、午後八時少し前――。
……ガッシャガッシャうるせえな……音源俺だけど。
俺は全身にプレートアーマーを着こみ、ネズハのスミスショップに向かっている。……別にダメージディーラーからタンクになったわけじゃないよ?
別にジョブチェンジ(ジョブじゃないけど)したわけではなく、変装だ……変装なのだが……筋力要求値ギリギリで凄い重い。
残念ながら謎が全て解けてしまった……いや、某赤○がやるのはいいが、俺がやるとうざそうだからやめよう……で、謎が解けた(かもしれない)日から既に二日経過している。
界王星で修業しているかのような体の重さを感じながらどうにかネズハの店に到着。今まさに閉店準備をしていたところだった。
「……すまないが、強化を頼みたい」
フルフェイスの装備を被っているためか、声も少し変わっている。
ネズハは店仕舞いをしようとしていた手をストップさせ、俺の方を向く。
俺はキリトから預かったアニールブレードを鞘ごと外し、ネズハに渡す。……俺みたいな奴にホイホイ武器を渡すキリトが将来誰かに騙されないか、僕は心配です。
俺がキリトにアニールブレードを借りた理由は、単純に俺のスチールブレードクラスでは強化詐欺の対象にならないのと、三本ヅノから搾取したため、エンド品のストックがあるだろうからだ。
「プロパティ、確認します」
「ああそうだ、これも頼む」
そう言ってオブジェクト化させたのは剣、剣、剣……
「こ、これら全部、ですか……?」
「ああ、頼む。強化するのは全部《鋭さ》、素材はアニールブレードだけ九十パーになるように、それ以外は三十パーで頼む」
「わ、分かりました……全部で、八千九百八十コルになります……」
俺がオブジェクト化したコルを渡し、剣――約五十本(全て初期装備)を懸命に叩き始める鍛治屋ネズハ。その姿はマジ社畜。
俺はなーんにも悪いことはしていない。他の客はいないし、金だってちゃんと払った。別に一度に依頼できる剣の本数も看板に書いてなかったしな。
カーン、カーン、カーンという音が広場に広がる。キリトの愛剣アニールブレード+6は粉々になったように見せるつもりだろう。
何回も何回も同じ作業をして、もはや涙目なネズハ、男の涙とか誰得だ。
「……まだできないのか?」
若干苛立ちを含めた(ような)声で急かす。
「は、はいっ!!ただいま!!」
じわじわ、じわじわと、まるで毒のように精神を少しずつ削り、追い詰める。効果はあったようで、カーン、カーン、カーンと叩く音のリズムが早くなる。
ネズハの気分は、補習を受けていて、まだ終わらないのか?と先生に言われているような気分だろう。
そしていよいよ、(キリトの)アニールブレード(今所有権は俺だが)の強化にネズハは取りかかった。
剣をカーペットの上の商品より数センチ上に吊り上げ、携行炉に強化素材をくべ、緑色の発光。
ミスディレクションとしては充分すぎるライトエフェクトだが、俺の視界にはちゃんとネズハの左手を捉えている。
その瞬間――。
ネズハの左手の人指し指がすっと伸び、カーペットに並ぶ剣と剣の間をタップする。
アニールブレードが一瞬明滅した。この瞬間にもうアニールブレードはエンド品とすり替えられている。鮮やかなトリックだ。
感嘆するような息をはー、と吐く。
作業は続き、《鋭さ》強化を示す緑色の光を剣が纏い、鉄床の上に載せられスミスハンマーで叩かれる。
三、七、十回と最後にカァァァァンと今までで一番辺りに響く金属音が鳴る。と、同時に叩かれていたアニールブレードが割れ、粉々になる。
「す……すいません!すいません!」
謝って頭を下げているときに武器スキルModである《クイックチェンジ》を発動、アニールブレード+6を手元に出現させる。
「そうか……仕方ない。なんせ最初から搾取するつもりだったんだからな……」
「え……?」
その言葉で顔を上げ、俺の左手に握られているアニールブレード+6を見て驚愕するネズハ。
俺は装備をプレートアーマーなどの重装備から普段の装備へと替える。
「はあ……」
フルフェイス装備がなくなり息苦しさがなくなる。うん、空気がおいしい。
「あ、あの……どなたですか?」
え?つい数日前に会ったよね?隠蔽発動させてなかったよね?
スキルMod。Modとはmodifyの略で、各種スキル熟練度が一定の数値に達したときに取得できる《スキルの強化オプション》だ。
《クイックチェンジ》とは大体の片手武器のMod……らしい。
ちなみに俺は十五レベのため、《片手直剣》、《隠蔽》、《投剣》、《軽業》の四つのスキルを取得している。次に新しいスキルが取得できるのは十六レベらしいので、《索敵》スキルを取ろうと思っている。ソロに戻ることだしな。
と、閑話休題。
まあ俺はキリトから《クイックチェンジ》の話を聞いたとき、熟練度百五十あたりで取得しようと思っていたのだが、今回の件で熟練度百で取らざるを得なかったわけだ。
ネズハの前に現れるのに二日掛かったのも、二層迷宮区で(なぜか二人と一緒に)トーラス族と戦ってスキル熟練度を上げていたためだ。……おかげでレベルも上がったが、マッピングも進みリンドとキ、キ……なんだっけ?まあその両隊がピリピリしているらしいが関係ないしな。
まあ、そんなこんなで《クイックチェンジ》を取得できたのでネズハの前に現れたってわけだ。
通常、武器を交換――というよりすり替えるには、一、ウインドウを開き、二、装備フィギュアの手のセルをタップ、三、表示されるオプションから《装備変更》を選び、四、更に表示されるストレージ窓から目的の武器を探しだし、五、選択してOKボタンを押す、というめんどくさい手順を践まなければいけないのだが、《クイックチェンジ》を取れば僅か二手順。
一、ウインドウを開き、二、ショートカットを押す、だ。
これは俺が試しに使った体験があるのだが、その上、《クイックチェンジ》は、《アイコンを押した時どちらの手にどんな武器を装備するか》をこと細やかに設定できるのだ。例えば、装備対象を特定の武器に指定したり、素手に戻したり――直前に装備していたものと同種の武器をストレージ内から自動的に選択することも。
それこそがこの一件――ネズハが、いや、《レジェンド・ブレイブス》が行っている強化詐欺の最大の肝だ。
まず、強化依頼者から武器を受けとる、この時点で《武器手渡し(ハンドオーバー)状態》になる。勿論所有権は依頼者にあるが、その状態でも《クイックチェンジ》は使用可能だ。
次に、あらかじめカーペットの売り物の下に隠したメニューウインドウのショートカットアイコンを押す。押した瞬間に預かった武器はネズハのストレージに収納され、代わりにエンド品の同じ武器が左手に握られる。
後は武器が砕けるだけだ。
現象としては、強いライトエフェクトが発せられている間にネズハの左手が僅かに明滅したように見えるだけで、知ってて見ていないと気づかないだろう。
万が一バレても、もう一度《クイックチェンジ》を使えばいいだけだ。
盗られかけている武器を取り戻すには、キリトが言っていたように全アイテムをオブジェクト化するコマンドを使うか、同じように《クイックチェンジ》を使うしかないので俺は後者を選んだ。
以上が、俺が思い付いた強化詐欺のトリックと俺が《クイックチェンジ》を取得した理由だ。
次回!『ネズハの告白』です!