……今回は駄文が酷いです。すいません。
さて、それでは第二十九話、どうぞ!
――ともあれ、存在を忘れていた奴に(そもそも記憶に入っていたのかすら怪しいが)強化詐欺のトリックを見破られ、愕然としているネズハだったが、やがてポツリと話しだす。
「………謝って、許されることじゃないですよね」
その言葉に俺は答えない。俺は、たまたま強化詐欺の現場に居合わせただけであり、被害者ではないのだから。
「…………せめて、騙し取った剣を皆さんにお返しできればいいんですが……それも無理です。ほとんど全部、お金に換えてしまいましたから……。僕にできることは……あとはもう、これくらいしか……!」
右手のスミスハンマーを落としたことすら気に留めず、走っていくが数メートル走ったところで足を止める――――いや、止めざるを得なくなる。
なぜなら、アスナが怪盗よろしく二階からジャンプしてきたのだ。
……おい、何とは言わんがヒラヒラの物がめくれて見えるぞ。
ちなみにキリトは普通に降りてきて、俺の右隣に立っている。
二階から飛び降りるという精神力が試される業を成功させた細剣使いは鍛治屋に毅然といい放つ。
「あなた一人が死んでも、何も解決しないわ」
……キツいな。事実だけど。もう少しオブラートに言ってやれよ……。俺もそんな気遣いをしないが。
その声とフードから僅かに見える顔で気づいたのだろう。自分が強化詐欺で一時的にだが武器を盗んだ相手だと。
ネズハの顔がくしゃくしゃに歪む。絶望、恐怖、そして何より罪悪感を示している顔だった。
「…………もし、誰かが僕の詐欺に気付いたら……その時は、死んで罪を償おうって、最初から決めてたんです」
「今のアインクラッドでは、自殺は詐欺より重い罪よ。強化詐欺は依頼人への裏切りだけど、自殺はクリアを目指すプレイヤー全員への裏切りだもの」
うわあ……言っていることは正しいんだが……
「言ってることは正しいけど、キツいねぇ……」
「……そうだな」
高みの――いや、横見の見物か?をしながら俺達は呟く。そんなに言ったら、言葉のトゲの先端恐怖症になっちゃうぞ。
その言葉と罪悪感に押し潰されているように身を縮こませ、弾けるようにネズハは顔を上げる。
「どうせ!どうせ僕みたいなノロマはいつか必ず死ぬんだ!モンスターに殺されるのも自殺するのも、早いか遅いかの違いなんだ!」
「デュフッ」
いかんいかん、つい気持ち悪い笑いが出てしまった。
その笑い声で、広場にいる俺以外の三人が俺に視線を向ける――もとい一人は睨む。
……アスナがギロリと睨んでいるのは気持ち悪い笑い声を上げたのが理由ではなく、思わず笑ったことに対してだと祈りたい……。
「い、いや……別にお前の言葉に笑った訳じゃないぞ?本当だ。ただ……そこにいる奴と全く同じことを言っていたからつい……」
アスナの方を見ながら言う。……そういえば、コイツが一層で考えを改めたのはなんでなんだ?未だにわからん。
「あともう一つ、それなら何で強化詐欺なんかやっているんだ?早いか遅いかの違いと思っているなら、さっさと自殺をしていてもおかしくないと思うが……」
「なんで……でしょうね、僕にも解りません」
……人とは案外自分のことが一番理解できていないのかもしれない。
「なら、俺が教えてやる……。まずお前は、なにかしらの理由でお前は戦闘ができなかった、もしくはできなくなった。しかしお前は《レジェンド・ブレイブス》にのけ者にされたくなかった、だから強化詐欺を始めた。だかやるうちに罪悪感が募り『やりたくない』と思うようになった。しかし、今更やめられない。やめたらのけ者にされてしまうから……。のけ者にはされたくないが死ぬ覚悟もなかった。結果、ずっと強化詐欺を続けてきた。……違うか?」
こんなに喋ったのはいつぶりだ?疲れた……。リア充どもはいつもこれ以上話してんの?
リア充どもの会話のレパートリーの多さを気味悪くおもいながらネズハを見ると、驚いたような顔をしたあとに悲しげな顔をした。
「……そうですね。その通りだと思います。それに、僕も元々は戦闘をしていたんです。だけど、僕は……最初の接続テストで、FNC判定だったんです……」
FNC。Fulldive None Conforming(フルダイブ不適合)略してFNCだ。
脳と信号を直接やり取りするフルダイブマシンであるナーヴギアは、言うまでもなくデリケートな機械だ。本来使用者ごとに細かいチューニングをしなければならないが、俺を含めそんなことをできる人はいないだろう。
しかし、ナーヴギアには自動調整機能があるため、初回の長い接続テストとキャリブレーションを乗りきれば、次からは即ダイブができるのだ。
だが極稀に、初期接続テストで《不適合》の結果が出ることがある。
具体的には、五感のどれかが完全に再現されなかったり、脳からの信号にタイムラグがあったりなどだ。
俺達は広場から移動した空き家でネズハの次の言葉を待つ。
「…………僕の場合は、聴・触・味・嗅の四つは正常に機能するんですが、肝心の視覚に異常が出てしまって……」
……それは明らかに致命的な障害だ。戦うなら……いや、日常でも目が見えないならほとんどのことは出来なくなる。
なら、どうやって目が見えない状態で強化詐欺を行ったんだ?
「正確には、両眼視機能……つまり、オブジェクトとの遠近感が掴めないんです」
なるほど、それくらいならギリギリ武器をスミスハンマーで叩くくらいならできるだろう。
もっとも、戦闘はできないだろう。SAOにおいては魔法、弓、銃などの遠距離武器はない。せいぜい投剣しかないのだから。
……いや、他にもあったな。
「なあ……ネズハ、いやナタク」
「えっ?な、なんで……」
なんで解ったのか、という意味が含まれているのだろう。
ナタク、お前も男なら解るだろ?思春期男子がかかりやすい、あとになって黒歴史確定の時に調べたんだよ……。……なんで俺、自分のことを永久欠神なんて名乗っていたんだ……?
結論、若気の至りは恐ろしい……じゃなくて、
「……戦えるように、いや正確には《レジェンド・ブレイブス》の足手まといになりたくないか?」
そんなことができるのか、という眼差しで俺を見てくるが、首肯する。
「なら、取引だ。俺はお前に戦う術を教える。代わりにお前は強化詐欺の方法を教えた奴を教えろ」
ギブアンドテイクだ。俺は情報屋じゃないが、この話にナタクが乗ってくることは解る。
余程悪どい笑みを浮かべていたのか、キリトとアスナが若干引いている。
俺の予想通りにナタクはポツリポツリと話し出す。
「……あなたの言う通り、最初は戦うことを選んでいたんです。遠距離攻撃なら僕も戦えると思って……」
「……それって《投剣》スキルのことだよね?でも……」
《投剣》スキルは、主武装で使うものではなく、補助、又は不意討ち用の意味合いが強い。一層の《イルファング・ザ・コボルドロード》の時のような例は稀だ。
それはナタクも重々承知しているだろう。
「ええ……一層のはじまりの街で一番安い投げナイフを買ってスキル熟練度上げをしていたんですが……投げきったら何もできないし、かといってその辺に落ちている石ころじゃ威力が低すぎて、熟練度が五十のところで諦めたんです……しかも、ブレイブスのみんなを付き合わせっちゃったから最前線集団に遅れちゃって……」
「で、強化詐欺をしてしまった理由と、その方法を教えた奴は?」
それが一番重要だ。
「……黒い雨合羽みたいなポンチョを着た男が教えてきました。最初は皆否定的だったんですけど、その人の洗脳のような笑いで……」
「……そのポンチョ男のことは?」
首を力なく横に振るナタク。……もう訊けることはない、か。
「わかった……じゃあこっちの番だが……その前に、レベルとスキルは?」
「え?えーっと、レベルは十で、スキルは《片手武器作製》と《所持容量拡張》……それに《投剣》です……」
二度と強化詐欺をさせない方法、それは――――
「お前が鍛冶スキルを捨てるのなら……教えてやる」
――――鍛冶をできないようにすることだ。
次回!『二層ボス攻略会議』です!