至らぬところはあると思いますが、これからもよろしくお願いします。
さて、今回は八幡の現実でのどうでもいい設定が明かされます。
それでは第三十一話、どうぞ!
通常、RPGにおいては相手の攻撃の種類は、大きく二つに分けられる。
一つ目は、普通にHPを削るいわば《直接的攻撃》。
二つ目は、ダメージは喰らわないが、SAOにおいてはより大きい危険を招くこともある《間接的攻撃》……ポケ○ンで言うなら電磁波とか超音波だな。それはすなわち阻害効果(デバフ)だ。
SAOでは、茅場晶彦にも初心者への最低限の配慮はあったのか、一層の迷宮区に棲息するコボルド族は、ボスを含めデバフ攻撃を繰り出してこなかった。
《イルファング・ザ・コボルドロード》がディアベルに大ダメージを喰らわせた時に発生した行動遅延(ディレイ)もデバフの一種だが、あれは大ダメージを喰らえば発生するため、コボルドロード特有のデバフという訳でもない。
故に――――俺達プレイヤーが初めて相対する本格的デバフ使いは、この二層迷宮区のトーラス族ということになる。
「来るよ!」
キリトの短い叫びと共にバックジャンプ。《ナト・ザ・カーネルトーラス》――通称ナト大佐の《ナミング・インパクト》を避ける。
「ヴゥゥヴォオオオオオオーーーーーッ!!」
気合いを込めた(ような)雄叫びと共に、遥か上空で降り下ろされた雷を纏ったナト大佐のハンマーは、ボス部屋の青黒い石床を叩き、辺りに雷を放散させる。
もちろん攻撃範囲には誰もいない。どうやら全員回避に成功したようだ。
「全力攻撃一本!!」
今度は俺が叫ぶ。相手は技後硬直で動けず、こちらのパーティーメンバーのHPは全く減っていない。こんな好機を逃す気はない。
エギル以下二名の両手斧とキリトのアニールブレード、アスナのウインドフルーレと俺のスチールブレードがそれぞれのライトエフェクトに包まれ、ナト大佐のHPバーを着実に削っていく。この攻撃でナト大佐の三段あるHPゲージが一本、完全に削り取られた。
「……行けそうね!」
「うん!でもゲージが残り一本になったら気を付けてね。《ナミング》を連発してくるから!」
キリトのベータテスター丸出しの言葉だが、幸いというべきかエギルは反ベータテスターではない。キ、キ……そうだキバオウだ。とリンドも居ないしな。
「ゲージが残り一本になったら未知の攻撃をしてくる可能性があるから気を付けろよ!」
「オウ!」
このパーティーの基本指揮系統はキリト、忠告役というか士気を上げるのは俺みたいな感じになっている。……ガラじゃないが。
俺がパーティーを激励した時に、ナト大佐がディレイから回復、と同時にソードスキルの冷却時間(クーリングタイム)が終了する。
ナト大佐のハンマーが横殴りに振られると思ったエギル達タンク部隊がガード、俺達がカウンターアタックの準備をする。
ボス戦が始まってから五分と少し。
ここまで、俺達H隊は順調に戦っていた。《ナミング》はもちろん、想定外の大ダメージを喰らった奴もいない。あるとすれば敵の大技をガードしても喰らったらダメージを受けるため、回復のためにタンクが二人になることが懸念だが、その時は一番敏捷が高い俺がタゲを取る形でなんとかなっている。
しかし、だ。いくら俺達が順調でも、メインの《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》――通称バラン将軍との戦いが上手くいかなければ意味がない。所詮《ナト・ザ・カーネルトーラス》はオマケ――ボスの取り巻きでしかないのだから。
「回避!回避ーー!」
やや裏返った声で誰かが叫んでいる。これは俺達H隊のメンバーではなく、メインのボス攻略部隊だ。
こちらの戦闘もそこまで切羽詰まっている訳ではないので、ボスの方を見る。
深紅の剛毛に血が沸騰しているかのような赤い体、腰回りの黄金の布に同じく黄金の鎖にハンマー。シルエットだけ見ればナト大佐と似ているが、決定的に違うのはサイズだ。バラン将軍のサイズはナト大佐の二倍ほどある。
迷宮区には天井という物理的な高さの限界があるから、フィールドボスの《ブルバス・バウ》程ではないが、頭高五メートルもあれば恐れを抱かずにはいられない。
某軌跡シリーズで、人は巨大な人の形をした何かに畏敬の念を抱かずにはいられない的なことを言っていたが、全く持ってその通りだ。一層のコボルド王でも二メートルちょっとだったというのに。
当然、バラン将軍が持つハンマーも巨大な代物だ。大樽ほどもあるハンマーに現実世界で当たったらぺしゃんこだろう。
そのハンマーが振り上げられ、迸る熱いパトス(スパーク)が発生する。リンドの指示で回避行動をタンク部隊もアタッカー部隊もバックダッシュする。直後――。
「ヴゥオオオオルヴァァルァアアアアアーーーーッ!!」
サイズと同様、ナト大佐と比べて迫力二倍の咆哮を放ちながらドデカイハンマーを降り下ろす。あれがバラン将軍のユニーク技、《ナミング・デトネーション》だ。
プレモーションは非常に解りやすいのにも関わらず、二人のプレイヤーが逃げ損ね、スパークに呑み込まれる。スパークが縄のように全身を縛りつけ、動けないようにする。あれは数多あるデバフの中でも最もポピュラーなものである《行動不能(スタン)》だ。効果時間は僅か三秒。
しかし――。たかが三秒。されど三秒。ボス戦ににおいての三秒は長すぎる。
一秒、二秒、三秒……と数える瞬間、カランと乾いた音が鳴った。その音はスタンしているプレイヤーが片手用ショートスピアをファンブルした音だ。そのプレイヤーはスタンが解けた瞬間ショートスピアを拾おうとするが――
「バッ……」
思わず叫びそうになるがなんとか押し留める。代わりに俺がナト大佐の脇腹に《スラント》を叩き込でいる時に、バラン将軍がハンマーを振りかぶり――。
ズガァン!と、二発目の《デトネーション》。
迸った雷は、ショートスピアをやっと拾ったリンド隊メンバーをまたしても呑み込み、硬直させた。
さっきと違うのは、立ったまま硬直していたのに対し、今回はどうっと床に倒れ込んだことだ。アバターを包む緑のエフェクトは《麻痺(パラライズ)》を表している。
トーラス族の真の恐ろしさは、二撃目を喰らうと麻痺状態になることだ。
麻痺は最低でも十分続き、回復するには現時点ではPOTに頼るしかないのだが、麻痺中は利き手しか動かせないため、POTを飲むのも一苦労だ。もちろん自力で離脱などできない。
バラン将軍はめざとく麻痺したプレイヤーをタゲるが、他のパーティーメンバーがボスの前から引きずり出し、そのまま後方に移動させた。
その姿を視線で追っていると、既に麻痺しているプレイヤーが七、八人倒れていて、POTを飲もうと利き手を動かしていたり、効果で麻痺が切れるのを待っていたりしている。
そんな状況を見ていたエギルが呟く。
「本隊はジリ貧くさいな……」
「ああ……不味いな、これ以上麻痺者がでたら撤退が出来なくなって、何かイレギュラーが起きたら対処できなくなるぞ……」
生憎俺はもう少し時間が経てば対処できるようになると思う程楽観的主義者ではない。いのちだいじにがモットーであり、ガンガンいこうぜ!などは以ての他だ。
「じゃあ、今のうちに一度仕切り直して、ナミング対策を徹底したほうがいいんじゃないかな?」
「わたしもそう思う。でも……ここから大声で叫んだら指揮系統を混乱させちゃうかもしれないし……」
「……直接言うしかない、か……」
ナト大佐の三回連続で降り下ろされるハンマーを避けながら俺達は会話をしている。……ついでに言うなら全員こっちを見ている。
え?俺?俺が行かなきゃ駄目なの?
「……俺が行かなきゃ駄目なのか?」
「いや、だって……」
「あなたが一番速いじゃない」
……事実なだけに否定できない。
「……わかった」
はあ……とため息を吐きながら承諾する。
《シングルシュート》で投げナイフを二本投げ、ナト大佐の目に当てる。
ナト大佐の絶叫とうわあ……という声が聴こえたが気にしない。
小町を学校に送るため(だけ)に免許を取得して乗っているバイクで通学しているため、いいとこ百メートル十四秒だが、この世界だとものの九秒で走れる。
やはりと言うべきか、リンドは俺が現れたことに対していい顔はしない。むしろ険悪だ。
「……あんたには取り巻きの相手を頼んだはずだ。何しに……」
「これ以上麻痺する奴が増えると撤退ができなくなる。一旦引くべきだ」
そう言うと指揮官は、バラン将軍――正確にはバラン将軍のHPバーを見る。早くも約半分削られている。
「残り半分なんだぞ。ここで引く必要があるのか」
……だから嫌なんだこういうリーダー気取りたがる奴。自分が一番だと思って他人の話を聞きゃしない。
「あともう一人麻痺したら引く、それでどうや」
意外にもキバオウ?が話に入ってくる。……仕方ない、どちらかが妥協をしなければ話が終わりそうにない。
「……解った」
そう言うと再び走ってきた道を戻る。はしれ、八幡!……距離百メートルくらいだけど。
戻ってくるやいなやキリトとアスナが聞いてくる。
「「どうだった!?」」
君たち仲いいですね……
「あと一人麻痺したら撤退に決まった」
「そう……」
「じゃあ、早くナト大佐を倒してあっちに合流しないとね」
一瞬浮かない顔をしたアスナだったが、キリトの言葉に頷いて二人で走っていく。
俺も投げナイフを手に持ち、投擲の準備をする。
二人の剣と俺の投げナイフがライトエフェクトを纏い、二人の剣は両横腹に、俺の投げナイフは鼻にクリーンヒット。またもやH隊メンバーのうわあ……という声が聴こえた。
この攻撃で最後のHPバーに突入し、ナト大佐は痛覚があるかのように叫ぶ。
「ウグルゥアアァァァ!!」
叫びとともに、見たことがない攻撃モーションに入るが、キリトの指示もまた的確だ。
「突進来るよ!頭じゃなくて尻尾を見て!対角線上に来るから!」
その指示で回避するべき方向が解ったエギルは難なく避け、ナト大佐にソードスキルを叩き込む。彼が下がるやいなやボッチ×3は各々のソードスキルを発動する。
さしもの大佐と言えども立て続けの大ダメージに耐えきれず、頭の周囲に黄色い光をチカチカさせる。あれはスタンしている証だ。
「チャンスだ!全員、全力攻撃二本!」
「オオウッ!」
赤、青、黄色と信号機みたいに色とりどりなライトエフェクトを纏わせた剣でナト大佐をボコる。
フルアタックを成功させ、後ろに下がるとナト大佐の体が紫色に染まっていく。あれは暴走(バーサーク)状態で、攻撃を繰り出す早さが一・五倍になる(らしい)。
その時、コロシアムの反対側でプレイヤー達が叫んでいたが、どうやらバラン将軍のHPバーが最後の一本が黄色くなったらしい。麻痺の奴も増えるどころか減っていて、五人になっている。
「良かった。今度はベータからの変更はなかったみたいね」
……本当にそうか?一層を変更して二層を変更しないなんてあるのか?あとアスナ、それフラグ。
「そうだね。……でも、コボルド王の時だって、ちゃんと見たらタルワールから野太刀に変わっているのに気づけたはずなのに……でも、あのバラン将軍はベータからどう見ても変わってないんだけど……」
そこでキリトは言葉を切る。アスナの顔が僅かに翳っていたことに気づいたためだ。
「……どうしたの?」
「ううん……なんでもない。きっと考えすぎ……ただ、なんで一層は王(ロード)だったのに、二層が……」
アスナの言葉は轟音に掻き消される。音はスタジアムの中央から鳴っているが何も――――いや、あった。
同心円状に敷き詰められた敷石が反時計回りに回り、どんどんせり上がっていく。
その上で、背景が歪んで何か巨大な影が見える。
――明らかに何かある。
影はステージに接地し、太い脚が露になる。下半身から順に姿を現し、腰にはチェーンメイル、上半身はやはり裸。
そして、何より目を引くのが頭の上で輝く王の証、英語で言えばcrown……すなわち王冠。
漆塗りの黒ほど鮮やかではないどす黒い全身を大きく反らし、バラン将軍など比にならないくらいの大音量で吼える。ダメージは喰らわないであろう演出用の雷のエフェクトを迸らせ、第三の、そして最大のトーラス族はほぼ天井に接する位置に六本のHPバーがある。
HPバーの下に、突如現れたトーラス族の名前が明記されていた。
名前は――《アステリオス・ザ・トーラスキング》。
二層の真のボスは将軍以上の階級の名前を持っていた。
次回!『VS真のボス、アステリアス・ザ・トーラスキング』です!