皆さんも風邪にはお気をつけ下さい……
それでは、第三十六話、どうぞ……
唐突だが、今俺は酒場にいる。別にそれ自体はおかしくない。俺だって酒場くらい使う。問題なのは――
「それでは、命の恩人エイトさんにカンパーイ!」
「「「「カンパーイ!!」」」」
「か、カンパーイ……」
――他の人といるのだ。それも、五人。
……なんでこんなことになったんだっけ?
「フッ、と。こんなもんか」
目の前にいたゴブリンに水平四撃技《ホリゾンタル・スクエア》を喰らわせると、ゴブリンは断末魔を遺して体をポリゴンへと変えた。
二〇二三年、四月八日。
このデスゲームが始まってから約五ヶ月。俺は最前線の十層以上も下の十一層で強化素材集め、及びスキル熟練度上げをしていた。
一般的に前線プレイヤーが中堅層の狩り場を荒らすのはよくないとされている。だから目的を達した俺はさっさ帰ろうと歩いていると――。
なんともバランスの悪いパーティーが通路を少し大きいモンスターに追われながら撤退していた。
五人編成のパーティーで、前衛が盾とメイスを装備した男一人だけで、あとは短剣のみのシーフ型に、クォータースタッフを持った棍使い、長槍使いが二人だ。
あれでは後退するのもやむ無しだろう。
……さて、どうするか。
あのまま他のMobにタゲられなければ安全に逃げ切れるだろうが、万が一ということもある。
基本他人なんてどうでもいいが、死ぬ(かもしれない)のを黙って見ているほど薄情でもない。
知らない人と話さなくてはいけないことにため息を吐きつつ声をかける。
「あ、あのー……よかったら前衛やりましょうか?」
手伝うなら、一応タンク役をやろうと思っているので普段は全く装備しないバックラーを装備する。これはクォーターポイントと呼ばれるようになって、一層ボス以来の犠牲者をだした二十五層ボス、《The Emperor》――通称皇帝のLAボーナス《シールド・オブ・エンペラー》だ。
あのボスはかなりゲームバランスを崩していた。二層のトーラス族とは違う、上から見たら十に見える本来両手で持つはずのハンマーを片手で携え、カラーリングが黒と紫の鎧を着ている――というよりは、鎧の下には肉体が存在せず、さすがは皇帝と言うべきか渇を入れるような咆哮を一定間隔でしてきて(タンブルしているときはなかったが)、耳を塞いでいなかったプレイヤーを無理矢理跪かせるユニーク技を使ってきた。
……その時は背中のマントを斬って短くすれば防御力が下がることに気づき、なんとか倒せたが……
まあ、そんな攻略組を苦しめたボスのLAは、最大強化すれば五十層まで使えるであろうトンでもない代物だったが……
二十五層のボスを思い出したり、普段は感じない左手の重みになれていると、リーダーであろう棍使いが声をかけてくる。
「すいません、お願いします。ヤバそうだったらすぐに逃げていいですから」
返答に頷き、左腰に手をやり剣を引き抜く。
その時には目の前に迫ってきた片手剣使いゴブリンのソードスキルを同じソードスキルで相殺し、すかさず後ろに下がる。
「スイッチ!」
槍使い二人と入れ替わり、違うソードスキルを喰らわせているのを後ろから見ていると、ゴブリンはHPを0にして爆散した。
それを見た俺は残心、索敵スキルで他のMobがいないか確認してから鞘に剣を収める。
「あ、あの……ありがとうございます、助けてくれて」
「え?あ、ああ……なんなら出口まで護衛しましょうか?」
放っておけない、という訳ではないが、このパーティー編成はかなりバランスが悪い。
「心配してくれて、どうもありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて、出口まで護衛お願いしていいですか」
あの後、何回かゴブリンと戦ったが特に問題なく撃破。主街区に戻った俺は、リーダー格のケイタというらしい棍使いに、酒場で一杯やりましょう、と言われて断ろうとしたが、結局押しきられて酒場までついてきたのだ。
酒場で騒いでいるギルド名、《月夜の黒猫団》の五人を見ながら(ゲームシステム的には)アルコールがないジュースをチビチビ飲みながら飯を食べていると、ケイタがおずおずと言った様子で俺のレベルを聞いてきた。
現在の俺のレベルは四十五。この層どころか最前線でも安全マージンをとれるレベルだ。
俺が正直にレベルを告げると、黒猫団の五人は声をオオッとあげた。
「じゃあなんでエイトはこんな下層にいるの?」
「あー、武器の強化素材をとりに、な」
一般的なルールに乗っとるなら、上層プレイヤーが下層の狩り場を荒らすのはよくない。しかしこちとら悪のビーターなのだ。今さらどう思われようとどうでもいい。……別にルールを積極的に破る訳でもないが。
「そ、それじゃあエイトさ……君ならすぐに他のギルドに誘われちゃうと思うからさ……よかったら、うちにはいってくれないか?」
「は……?」
ヘイユー、会って一日の人にギルドに入ってくれって、どれだけ警戒心ないんだYO♪……いや、ホントに警戒心無さすぎじゃない?
「ほら、僕ら、レベル的にはさっきのダンジョンなら問題なく狩れるはずなんだよ」
「ああ……そうだな。でも……」
ぶっちゃけバランスが悪すぎだ。
「うん、君ももう解ってると思うけど、前衛できるのがテツオだけでさ。どうしても回復がおっつかなくて、じり貧になっちゃうんだよね。エイトが入ってくれればずいぶん楽になるし、それに……おーい、サチ、ちょっと来てよ」
ワイングラスを持ちながらこちらに来る黒髪槍使い――サチというらしい――は、ペコリと会釈してくる。
「こいつ、見てのとおりメインスキルは両手長槍なんだけど、もう一人の槍使いに比べて、まだスキル値が低いんで、今のうちに盾持ち片手剣使いに転向させようと思ってるんだ。でも、なかなか修行の時間も取れないし、片手剣の勝手もよく分からないみたいだしさ。よかったら、ちょっとコーチしてやってくれないかなあ」
「何よ、人をみそっかすみたいに」
!!?声がすごく雪ノ下に似てるんだが……そう言えば、ディアベルも材木座に声似てたな……顔は正反対なのに。哀れ、材木座。
「だってさー、この前まで後ろからチクチク敵を刺す役だったのに、急に前に出て接近戦やれなんて、おっかないよ」
「盾の陰に隠れてればいいんだって、何度言えば解るのかなぁー。まったくお前は昔っから臆病すぎるんだよ」
いやー、うん。実際怖いと思うけどね?敏捷極振りにしたのはタンクやりたくないからって思ったのもあるしな……
しかし同じギルドってだけにしては仲いいな……これも人に合わせるのが上手いリア充の為せる技なのか?
そんなことを思いながら二人を眺めていると、視線に気づいたケイタが照れたように言った。
「いやー、うちのギルド、現実ではみんな同じパソコン研究会のメンバーなんだよね。特に僕とこいつは家が近所なもんだから……。あ、でも心配しなくていいよ。みんないいやつだから、エイトもすぐに仲良くなれるよ、絶対」
なるほど、つまりリア充ということですね?理解しました。
俺は、その誘いを――
「いや、いい。俺に関わるとロクなことにならんぞ?」
――蹴った。
次回!『黒猫団との再びの出会い』です!