そして、かなり大事?なアンケートがあります、見てください。
アリシゼーションのアリスが可愛いです。ヒロインいれちまおうかな……
風邪完治からの最初の話である第三十八話、どうぞ!
クリスマス。それは、リア充達が騒ぐとともに、イエス・キリストの誕生日である。
リア充どもは誕生日をダシにし、友達、想い人、あるいは恋人と過ごすのだろう。
だが、ちょっと待って欲しい。誕生したときには皆独りであり、だから産まれたら悲しみの産声をあげるのだ。
古人曰く、初心忘るるべからず。
したがって、キリストの誕生日を祝うクリスマスを集団で祝うのは間違っている。
さて、俺の断りの返事を聞いて、驚き、続いて怒りの表情を浮かべて胸ぐらを掴んでくる。
「な……何でだよ!!お前ェ、キリトが死んでもいいってのかよ!!」
前後にブンブンと揺らしてくるクライン。あ〜た〜ま〜が〜ゆ〜れ〜る〜。
「お、落ち着け」
その言葉にようやく落ち着いたクライン。
いや、あのね、クライン君?君の中での俺のイメージってどうなってんの?
「お前の頼みは断る。だが報酬ありの依頼としてなら承けてやる」
はー、と呆れたような大きな溜め息を吐かれたんだけど……
「お前ェのことが攻略プレイヤーじゃなくて、商売プレイヤーに見えてきたぜ……そしてメンドクセェ性格だな、お前ェさん」
「余計なお世話だ……で?依頼するのか、しないのか?」
「もちろん、させてもらうぜ」
……クラインにはディアベルみたいに歯がキラッとするエフェクトはつかないんだな……
そしてクリスマス。
クリスマスフラグMob《背教者ニコラス》は、三十五層迷いの森にあるクライン曰く、俺の性格みたいに捻じくれているモミの木に現れるだろうとのことだった。
クラインからの依頼はキリトを止めることだ。俺が考えた方法は二つ。
一つは蘇生アイテムなんてないと解らせ、諦めさせる。しかし、これを知ったらキリトは生きる希望をなくすだろう。
もう一つは――――
と、そこまで考えたところでキリトが街区から出て、走り出す。
クライン逹ギルド名《風林火山》には少しキツいかもしれない速度だろうが、なんとか着いていってる。
疾走して十分ほどすると、迷いの森が見えてきた。
このフィールド・ダンジョンは名前の通りに踏破が難しいダンジョンだ。
無数の四角いエリアに区切られ、それぞれを結ぶポイントが入れ替わるため、地図アイテムを持っていないととても踏破なんて出来ない。
しかし、ちゃんと用意してきたのかキリトは迷わずに走り出した。どうしても避けられない戦闘を二回だけし、あらかじめマークしていたのであろうモミの木まで、あと一回移動すれば着くところまで迷わず走ってきた。
ここで説得するつもりなのか、風林火山の約十人は木の陰から出ていったため、俺もそれに倣う。
「……尾けていたの?」
一層の時とは違う冷たい声だった。キリトの視線が俺を貫くが、すぐにクラインに向きなおす。
「まあな。うちに追跡スキルの達人がいるんでな」
「なんで私なの?」
「お前ェが全部のツリー座標の情報を買ったっていう情報を買った。オレは、こう言っちゃなんだけどよぉ……」
念のため、索敵スキルを発動させていると、案の定引っ掛かった奴がいた。
元々が一回しか入手できない超レアアイテム。狙うのが俺達だけな訳ないのだ。
「ストップだ二人とも。誰か……三十人くらい来る」
俺の言葉の直後。ザッザッと雪を踏む音と、ガチャガチャという金属音が聴こえてきた。
人数は約十人の風林火山の約三倍――――俺が言った通り、三十人くらいだ。
三十人もの人数を見て愕然としているキリトが、クラインに声を投げかけた。
「あなた逹も尾けられたみたいだね、クライン」
「……ああ、そうみてェだな……」
五十メートルほど離れた場所にいる三十人ものプレイヤーの中に、レベリングしていたダンジョン――通称アリ谷で見かけた顔もちらほらいた。
風林火山の一人がリーダーであるクラインに耳打ちをしている。
「あいつら、《聖竜連合》っす。フラグボスのためなら一時的オレンジも辞さない奴らっすよ」
《聖竜連合》。俺でも知っているギルド名だ。攻略組最強ギルドがアスナが副団長を務める《血盟騎士団》だとしたら、《聖竜連合》は攻略組最大ギルドだ。
レベル的にいえば俺やキリトより低いと思うが、あの人数と戦って勝てるかどうか……
キリトは剣を抜こうとしているが、それを押し止めるようにクラインが叫んだ。
「くそッ!くそったれがッ!!」
クラインはキリトよりも早く自分の獲物である刀を抜き、キリトに背中を向けたまま怒鳴る。
「行けッ!!キリト!ここはオレらが食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなぁ、死ぬなよ手前ェ!オレの目の前で死んだら許さねェぞ、ぜってぇに許さねェぞ!!」
「………」
返事もせずに最後のワープポイントへとキリトは走っていった。
……さて、と。
「さて、依頼主。俺は戦えばいいのか?依頼は『キリトを止めろ』だったが」
「決まってんだろ!お前ェはキリトを追え!!」
「……解った」
俺が最後のワープポイントへと走り出した瞬間、剣と剣がぶつかる金属音を背に俺はワープした。
俺がワープした先は、クラインが言っていた捻じくれた木しかない四角いエリアだった。
俺が入った瞬間、視界端の時計が零時を指し、どこからか鈴の音が響いてきた。
上層の床の背景である夜空に、二筋の銀色の軌跡ができ、ボンヤリとだが軌跡を描いているものの輪郭が見える。どうやら奇怪な形をしたモンスターに引かれているソリのようだ。
ソリがモミの木の真上に達した時、ソリの上にいた人影が上空から降り立った。
雪一粒一粒が散弾のように飛び散り、思わずたじろぐが、雪が収まると人影の姿が露になる。
赤と白の絵に描いたようなサンタ服に三角帽、灰色の捻れた髭、左手の白いプレゼント袋……ここまでなら普通のサンタに見えるが、右手に持った斧に厳つい顔のせいで、夜中にプレゼントを置いていくサンタというより強盗に見える。
クリスマスイベントに合ったことを言おうとしたのだろうが、その前にキリトが一言。
「うるさいよ」
キリトと背教者ニコラスとの戦闘が始まって一時間。戦況は五分五分だった(俺は観戦)。
攻撃してHPを減らす→相手が反撃してくるから避ける→たまに当たる→回復する→また攻撃をするというサイクルが、キリトと背教者ニコラスの戦いの様子だ。
クリスマスイベントボスというだけあって、ゲージは三本で、今は一本と少し削られている。
ニコラスの攻撃パターンは、斧で攻撃、袋で攻撃、ブレスの大きく分けて三つ。その全ての対処法をキリトはもう掴んでいた。
たまにイエローゾーンになるが、未だにレッドゾーンにはなっていない。
「オイオイ……あいつホントにスゴいな……」
そんな感嘆をしている間にも攻撃は続き、ついに二本目も削りきられている。
「やあぁぁぁぁッ!!」
掛け声とともに繰り出された《ヴォーバルストライク》はニコラスの脛に当たり絶叫。膝をつき動けなくなっている。
赤、黄緑、青など様々なカラーをしたライトエフェクトでキリトが攻めていると、最後のゲージが赤になった。
「ウ……ヴオォォォォオッ!」
雄叫びの衝撃だけで周りに雪が吹き飛ぶ。顔の前に腕をやってニコラスから目を離さずにいると、袋からなにやら取り出しているのが見えた。
ニコラスが出したのは、もう一つの斧だった。
「な……にぃ?」
SAOでは二本目の武器を装備するとイレギュラー装備扱いされ、必殺技ともいえるソードスキルが使えなくなる。
それはニコラスでも例外ではないようだが、目は爛々と紅く輝き、明らかに暴走状態だ。
迫りくる斧の連撃に、キリトと言えども初見では完全に避けきれず一撃モロに喰らった。キリトのHPが二割、グンと減る。
「マジかよ……」
俺が驚いたのは暴走状態のニコラスの攻撃力にもだが、もう攻撃に対処し始めてるキリトに特に驚いた。
「ハアアアアァァァッ!!」
再びキリトの剣を《ヴォーバルストライク》の深紅のライトエフェクトが包み、直撃。オォォォォ……という弱々しい叫びを残してニコラスは爆散。少し遅れて地面に置かれていた頭陀袋も辺りを一瞬照らして消えていった。
「終わった、か……」
それにしてもソロでボスを倒したのには驚いた。俺も一層以来……いや、一度だけあったわ。
一人でボスを倒した黒ずくめ剣士を見ていると、戦利品確認……いや、蘇生アイテム確認をしていたのであろうキリトは泣き崩れてしまった。
「うわあぁぁぁぁ……」
……俺は、クラインとは別にもう一つ以来を承けている。依頼内容はメッセンジャーだ。
ザク、ザクと足音を鳴らして歩いて近づくと、グシャグシャな顔のキリトがこちらを見てきた。
「……これで解ったろ?死者は、蘇りなんかしないって」
俯いていたキリトは、力なく立ち上がる。
「俺がここにいるのは、メッセンジャーを頼まれたからだ」
興味がないようにフラフラと歩き去っていこうとするが、次の一言で歩みを止めた。
「サチからだ」
俺はクラインの依頼を承ける数日前、下層でたまたまサチと出会っていた。
お互い会話も何もなかったが、サチが一言だけ言ったのだ。『キリトに届けて欲しい物がある』と。それは録音結晶だった。
『キリトへ、メリークリスマス。まず一つ謝りたいと思います。私、本当はあなたのレベルを知ってました。
未だに隠していた理由は解らないけどうれしかったよ。そんな強いキリトが毎晩毎晩大丈夫って言ってくれたお陰で生きてこれたんだと思います。
だけど、私は臆病で弱虫だから、いつもわたしはいつか死ぬんじゃないかって思ってた。今でもたまにそう思っちゃうんだ。
えっと……えっとね、つまり私が伝えたいのは、もし私が死んでも、君は頑張って生きて、この世界の最後を見届けて、この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫がここに来ちゃった意味、そして君と私が出会った意味を見つけてください。それだけが、私の願いです』
次に流れたサチの歌、『赤鼻のトナカイ』。その歌を聴いて、とっくにキリトは涙を流していた。それでも、サチのメッセージを一字一句も聞き漏らさないように、必死に嗚咽を抑えていた。
『最後に、私にとって、君は、暗い道の向こうでいつも私を照らしてくれた星みたいなものだったよ。じゃあね、キリト。君と会えて、一緒にいられて、ほんとによかった。
私の道を照らしてくれてありがとう。
希望を見せてくれてありがとう。
私を……守ってくれて、本当にありがとう。
じゃあね』
「う、うわあぁぁぁぁぁん!!」
拠り所を求めるように、キリトは俺に抱きついてきた。
あり得ないはずだが、涙に濡れた胸の部分が異様に熱く感じた。
十二月の冬だから、当然周りは寒い。
だけど、本当に何となくだけど、この涙の熱さだけは冷ましてはいけないと、そう思った。
次回!『ビーストテイマーとの出会い』です!