ソロアート・オフライン   作:I love ?

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さて、今更ながら、ホロウフラグメント(のヒロインであるフィリア)を入れた方がいいのか?と思いました。
そしてキリトに甲斐甲斐しく世話をするアリスさんが本当に可愛いです。やはりヒロインにいれちまおうかな……とも思っています(笑)
なんか最近悩むことが多いな〜と思いつつ書いた三十九話、どうぞ!


三十五層の森にて、比企谷八幡は少女と出会う。

二〇二三年の二月。ただいま迷いの森を探索中であります、隊長。

いや、別にただ探索している訳じゃないんだけどね?ちゃんと理由あるよ?

地図を頼り、二ヶ月以来の迷いの森を脱け出そうとしていると、一瞬木々の向こうから硝子が割れたようなサウンドエフェクトが聴こえた。

この場合の音は、様々な意味合いを持つ。例えば、敵を倒した時、アイテムやオブジェクトの耐久値がなくなった時、そして……プレイヤーのHPが全損した時などだ。

鍛え上げた敏捷力と軽業スキル熟練度で障害物を避け、スピードを緩めずに走る。

僅かに泣き声がした。俺は《聞き耳》スキルをとっていないため、聴力ブーストはされていないから、距離的にはもう近い。

 

「……いた……」

 

別に正義感を出して助ける訳でも、見返りを求めている訳でもない。ただミドルプレイヤーも攻略には必要な存在なのだ。

例えば、商人、情報屋、あとは……亡くなった攻略組の補充人員とかだ。

泣き声の発生源には、やはり泣いているプレイヤーがいた――それも、女プレイヤー。

SAOに来てから女の人と関わること多いな……という関係ない思考を切り替え、ソードスキルを発動させようとする。

相手は《ドランクエイプ》。三十五層最強クラスの敵で、複数のドランクエイプと戦うと、HPが少なくなると持っている壺(の中身)で回復するため、確かにソロではキツいだろう。

なるほど。大方特殊能力を知らずに挑んで返り討ちってところか。俺もここが最前線の時、かなりキツかったしなぁ……。

最前線の頃はスイッチされる前に投剣スキルで倒す、で戦ってたからなぁ……

昔を思い出している間に発動させた《シャープ・ネイル》を一発ずつ当てると一気に爆散。未だ泣いている少女に声をかける。

 

「あー、そのー、大丈夫ですか?」

 

声をかける……が、泣き止まない。泣き止ませようにも理由が分からない。ていうか分かっても出来ないレベル。

ふと、そこで目にはいる物があった――少女が大事そうに抱えている尾羽……だと思う。多分、きっと、メイビー。

あれは確か……《使い魔》の心アイテム……だったか?

《使い魔》。使い魔とはプレイヤーに飼い馴ら(テイミング)されたモンスターのことを指す。

戦闘中、通常は好戦的(アクティブ)なモンスターがプレイヤーに友好的な興味を示してくるというイベントがごくまれに発生する。そこから上手く飼い馴らし(テイミング)に成功すると、モンスターはプレイヤーを手助けしてくれる貴重な存在になるらしい。

そして、テイムに成功した者のことを賞賛とやっかみを込めて《ビーストテイマー》というらしい。

つまり、この少女はビーストテイマー……だったのだろう。

泣いていること、大事そうに抱えている物、さっきから独りにしないでと言っていることから、恐らくドランクエイプに使い魔が殺されて、そのため泣いているのだろう。

さて、泣いている理由は解ったが、どっちにしても泣き止ませることは出来ないのだから、事態は何も進展していない。

そう言えば……二週間ほど前、キリトとした会話を思い出す。

 

 

〜回想〜

 

「あのー、キリトさん?いい加減無理矢理拉致って一緒に飯を食おうとするの、やめては……」

 

俺の切実な懇願を、清々しいような、小悪魔のような笑顔で……

 

「い・や・だ」

 

ハハハ、デスヨネ〜……まあ飯代自分で出してるから何も言えんが……

キリトは基本天使だが、飯に誘う時に限って多少強引だ。ついでに言うなら、こういう飯に誘ってくるときは何かしら聴いて欲しい話があるときだ。

コーヒー(砂糖とミルク大盛)を飲みつつ、キリトに訊ねる。

 

「で?今回はどんな話なんだ」

 

「うんっ!あのね、四十七層の《思い出の丘》ってダンジョンに、使い魔蘇生のアイテムがあるんだって!」

 

嬉々とした様子で語るキリト。だけど……

 

「蘇生アイテムってのはすごいけど、そもそもお前、使い魔いねぇじゃん……」

 

「あっ」

 

〜回想終了〜

 

などという会話をしていたな……これだ。

 

「あー、その、それ、心アイテムって言うんですけど、それ残ってたら多分まだ使い魔蘇生できますよ?」

 

「え!?」

 

顔をいきなり上げるので、思わずたじろいでしまったぜよ……

 

「ひゃ、ひゃい。四十七層の《思い出の丘》っていうフィールドダンジョンに。名前のわりには難易度が高いんですけど、そのてっぺんに咲く花が、使い魔蘇生のアイテムらしいです……」

 

「ホントですか!!」

 

今度は立ち上がり、一歩近づいてきた。俺は一歩下がる。

……お、おかしいな。レベル的には俺の方が上なのに、勝てる気がしない……だと……?

肉体的距離のATフィールド(パーソナルスペース)が破られようとしたとき、少女が思い出したかのように顔を暗くし、進撃を止める……助かった……

 

「……四十七層……」

 

肩を落とし、残念そうにしている少女。様子と装備から察するにレベルが足りないのだろう。無理もない。今いる層より十二層も上なのだから。

 

「そっちが依頼して、それなりの報酬を払うなら別に一人で行ってもいいんですけど……使い魔を亡くしたビーストテイマーが直接行かないと、肝心の花が咲かないらしいですし……」

 

少しだけ目を見開きこちらを見て微笑んで少女は言った。

 

「いえ……。情報だけでも、とってもありがたいです。がんばってレベル上げすれば、いつかは……」

 

少女はそう言うが、現実……いや、仮想世界はそんなに甘くない。

 

「いや、でも三日以内に行かないと、心アイテムが形見アイテムに変わって、もう蘇生できなくなるらしいですけど……」

 

「そ、そんな……」

 

再び絶望に打ちのめされた顔。

SAOが通常のRPGゲームだったら層の適正レベルは層の数と=だが、今の状況では更に+10の上積みが必要だ。

そのセオリーに乗っとるなら少女のレベルは三十五+10でおよそ四十五。つまり蘇生アイテムを取ろうと思ったら三日で更にレベルを十二も上げなくてはならないのだ。

またもや涙が滲んでいる少女の顔を見て溜め息をついてしまうが、乗りかかった船だ。

アイテムのトレード欄に十個以上のアイテムを入れてOKを押す。

最前線で使うには心許ないが、そこそこ優秀なレアアイテムで、少なくとも少女が今身に着けている装備よりは高性能だろう。

 

「あの……」

 

少女が戸惑いながら聞いてくる。まあ当然だろう。

 

「……それで五、六レベルは底上げできるから、あとは俺が着いていけば多分大丈夫だと思います」

 

内心ではキモいとか思われてないよな……とか、ストーカーに思われてないよな……とか、これで断られたら新たな黒歴史ができちゃうな……とか思っていた。

 

「なんで……そこまでしてくれるんですか……?」

 

おずおずとした、しかし若干警戒の色が入った声で訊ねてくる。

……ま、当然だな。《旨い話しには裏がある》が世界の鉄則だしな。……この警戒心をキリトも少し持って欲しい……

それにしても、理由、理由か。

 

「……リアルではお兄ちゃん、だからかな?」

 

一番これがしっくりくる。もっとも、この少女は小町より更に年下だろうけどな……

そう言うと少女はなぜか笑った……何で?

 

「あ、あの……?」

 

今度はこちらがおずおずと訊ねる。すると少女はスイマセン、とだけ言ったのでこちらも何も言わない。

やがて少女がペコリと頭を下げてくる。

 

「よろしくお願いします。助けてもらったのに、その上こんなことまで……」

 

言いながらトレード欄を操作しようとしているのを見て、声を出す。

 

「お金は別にいらないです……どうせ、余ってた物ですし。むしろストレージが片付いてスッキリしました」

 

それに多少目的とも被るのだが、目的については語らない。しかしその言葉だけで十分だったのか、少女は操作をやめる。

 

「すいません、何から何まで……。あの、あたし、シリカっていいます。あと、あの、敬語いいですよ?あなたの方が年上ですし……」

 

少女――シリカからのお許しも出たので敬語をやめるように努める。

あちらが自己紹介したので、今度はこちらの番だ。

 

「あ、ああ。じゃあやめさせてもらうぞ。俺は、エイトだ。しばらく、よろしく」

 

……俺の人生の中で、初めて噛まずに自己紹介ができた瞬間(かもしれない)だった。

その後、俺達は俺の地図を頼りに俺はすたすたと、シリカは心アイテムを包んで守るように迷いの森を脱け出すために歩き始めた。




次回!『三十五層主街区にて』です!

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