不安が一杯で書いたオリジナル話の第四十四話、どうぞ……。
二〇二四年、三月三日、ひな祭りの日。
拝啓小町へ。もし小町が総武高に合格したのなら同学年ですね。今クリアしている層は約六割のため、生きて帰れても小町の方が先輩になっちゃうと思います。
そんなお兄ちゃんが何をしているのかと言うと……
「エイトー!こっちこっち!」
……昨日初めて会った女プレイヤーとパーティーを組んで行動しています。……どうしてこうなった。は、ちゃんと経緯があるから言わないが、パーティー組むと疲れます……
今巷で話題のフィールドがある。エギルの雑貨屋がある五十層に出現したダンジョン――通称《ボーナスステージ》。
どの辺がボーナスなのかと言うと、最前線が五十五層なのに対して、五十層クラスの敵が出てくるダンジョンなのに、トレジャーボックス、またはモンスタードロップで出てくるアイテムが六十層クラスらしいのだ。しかもモンスターから取得できる経験値がそこそこ多いらしい。
勿論五十層クラスとはいえ油断は出来ないが、最前線より弱い敵を倒して最前線より強いアイテムがゲットできるなら食い付かない訳がない。
攻略組に限らず、攻略組まであと一歩といった中層ハイレベルプレイヤーもその限りではない。
俺も例に洩れず、そのボーナスステージ――正式名《欲望の金廊》へと足を踏み入れたという訳だ。
トレジャーボックスを開けるとミミックだった。
「うおっ!」
驚きながらも抜剣して、剣の刃でミミックの噛みつき攻撃を防ぐ。
ミミックが剣から口を放すことはなく、このままだと剣の耐久値が減るため剣を思いっきり振り、上空へと放り投げる。
落ちてくるタイミングに合わせ、体術基本スキル《幻月》……要はサマーソルトキックでもう一度浮かせ、今度は《バーチカル》を放つ。
「グギイィィィィ!」
どちらも下位スキルの為、合計三割ほどしか減らなかったが、ミミックは吹き飛ばされて隙が出来る。距離約三メートル、体勢はまだ整っていない。そう判断し、《ヴォーバルストライク》で一気に距離を詰め、弱点……口の中に剣を刺すと、ミミックはHPが全損、ポリゴンになった。
「だあーっ、疲れた……」
ダンジョンに籠って四時間。アイテム容量もそろそろ限界が近いし、もう帰ろっかなーと思っていた時、地響きの様な足音が聴こえた。
「……な、なんだ……?」
だんだんと近づいてくる足音に怯えながら、戦闘になった時の為に剣を構えておく。
そうやって走ってきたのは――女の子だった。……しかも、後ろに大量のモンスターを連れて。……え?なにあれ、モンスタートレインなの?
「あんたも逃げて!早く!」
すれ違い様にモンスターを引き連れてきた女プレイヤーが言ってくる。
「おいおいおいおい……マジか……」
俺もモンスターを引き連れてきた女プレイヤーと同じ方向に走って逃げる。
女プレイヤーも敏捷寄りのビルドなのか、なかなか追い付けなかったが、それでも俺の方が速いのでいずれ追い付いた。
「そんじゃあな」
と横に並んだ時に囁く。
「えっ、ちょ、ちょっと〜〜!」
許せ。そもそもお前がタゲられたんだからな。
あばよー、とっつぁーんと言い出しそうな勢いでグングン距離を広げていき前を見ると、安全地帯があったため滑り込むように突入して一息吐く。
そして数秒(必要ないが)息を整えていると、背中に衝撃。……そう言えば、コイツも走ってきたの忘れてたわ……
後ろを向いて走っていたためか、俺に激突して倒れ込んでいるという状況が理解できていないようで動かない。女子特有の膨らみが背中を、甘い香りが鼻を襲う。
ふえぇ……柔らかくていい臭いだよお……
男としての本能が刺激されるが、このままでは《ハラスメント倫理コード》に《不適切な接触》とされ、最悪黒鉄宮の牢獄送りにさせる。それは避けたい。
プロレスでギブアップを示しているように床をバンバン叩くと、やっと上から退いてくれた。
「はー、重かっ……」
ヤバイと思って口をつぐんだが、遅かった。恐らく怒りと羞恥で顔を真っ赤にした謎の女は、すでに平手打ちの体勢に入っていて……バチンッ!と寧ろ心地いい音が鳴った。グラグラ揺れる視界の中で、お前がモンスタートレインしようとしたのが悪いんじゃね?と思った。
HPが減らないギリギリの強さで叩けるのは、女子特有のシステム外スキルなのか?
そんなことを考えながら、俺は目の前の少女と向き合っていた。しかし少女は口を一向に開かない。そんな空気のなかで俺が喋りかけられる訳もなく、必然的に安全地帯は沈黙に包まれる。
少女は全身の装備の殆どが青と白で、肩から胸にかけての肌が露出しているが、肩は青い短いマントの様なものを、着ている?羽織っている?のどっちかは解らないが装備していて、僅かながら隠れていた。……それでもかなり刺激的な格好だが。
武器は短剣の中でもソードブレイカーと呼ばれる物で、一目見ただけで上質な業物だと解った。考えてみれば当然の事である。最前線から僅か五層下のダンジョンでも通用する物なのだから。
……と、冷静に分析しているつもりなのだが……空気が重い。
別にコイツに付き合う必要もないかと思い、一応忠告してから帰ろうとする。
「……一応言っておくが、さっきみたいな状況になったなら転移結晶を使った方がいい。万が一という事もあるし、MPKに間違われるぞ」
実際俺もPKかと思ったわ。
「う……それはその……ゴメンナサイ……」
シュンとする青装備の女。やめて!何か罪悪感ができちゃうから!
「う……うん、まあ、以後気をつけたらいいと思うぞ?そんじゃあ「待って」……」
何でしょうか。俺なんかした?
「……な、なんだ?」
「あなたってさ、攻略組?」
……どうしよう、素直に言うべきか?
「まあ、そうだな」
下っぱの下っぱの下っぱみたいなもんだけどな。
「そうなんだ!」
急に目をキラキラ輝かせる青装備の女。……俺には一生出来ない芸当だぜ……
「それならさ、私の護衛をしてくれない?」
「は?」
何言ってんの、この娘?出会って一日どころか一時間も経ってないよ?
「順を追って説明するとね、私宝探しが好きなの」
「はあ……」
全く話が見えん。
「でね。ここって《ボーナスステージ》って呼ばれるからには、たくさんのお宝があると思うんだ」
「それは、まあ、そうだな」
実際中にはたくさんのトレジャーボックスがあったしな。
「でも、ここだと一対一なら勝てるんだけど、複数相手じゃ思ったよりキツくて……だから、強い護衛の人が欲しいんだ」
「なるほど……」
要は、宝探しをしたいけど一人じゃキツいから手伝って、ということだ。
「……で、その依頼を承けた場合のメリットは?」
「ここって錠があるトレジャーボックスが多いでしょ?だから、その中身を半分でどう?」
「ふむ……」
段々と話に引き込まれていくのを自覚しながら考える。
提案自体は悪くない。俺が容量が限界になるのに四時間かかったのも、錠があるトレジャーボックスが多かったからというのが一番の理由だ。
それに、錠があるトレジャーボックスは《開錠》スキルを取っていないと開けられないため、レアアイテムが入っている可能性も大きい。
それに――期待爛々の目でこちらを見ている少女の誘いを断ったら……うん、確実にヤバイな。
「……解った。けど、明日からでいいか?ちなみに、期限は?」
「ありがとう!全然OKだよ。期限は明日までだけでいいよ!」
了承の返事をすると、嬉しそうに感謝の言葉を述べ、ウインドウを操作してパーティー申請を受託する。《Philia》……フィリア、か?
「俺はエイトだ。読みは……フィリア、でいいのか?」
「うん、合ってるよ。改めまして、フィリアです。よろしくね、エイト」
次回!『護衛任務』です!