それにしても、原作十五巻でアリスに死亡フラグがたっている気がするのは作者だけでしょうか?
作者もWeb版SAO読みたかった……などと愚痴りつつ書いた第四十九話、どうぞ!
レッドプレイヤーとの戦闘開始。開始のゴングは剣と剣を撃ち合う金属音――ではなく、いきなり投げられた投げナイフを俺が弾く金属音だった。
「うおっ……」
俺がナイフを弾いている間に、ジョニー・ブラックがいつ取り出したのか二本目のナイフを持って追撃してくる。
ナイフは緑色の液体がついており、一度でも喰らえば動けなくなり、袋叩きだろう。
故に俺は一度距離を取り、耐毒ポーションを取り出して一気に飲む。
「あっ、このっ!」
ナイフを投げてくるがもう遅い。耐毒ポーションを飲み終えた俺は、空になった瓶を放り捨て、ナイフを弾く。
次のナイフを装備する前に接近、両腕を部位破壊しようと剣を振るうがエストックに阻まれる。
「おいおい、二対一ってか?」
「悪い、な。どうも、ジョニー一人では、荷が、重い、ようだ」
「チッ……」
途中で割り込んできた髑髏マスクのエストック使いの言葉に舌打ちをするジョニー・ブラック。こうなるとキツい。
相手は命を奪うことに何の躊躇いもない。負ければ俺もフィリアもお陀仏だ。
こうなれば……ブラフしかないか。
「……まあ倒すこと目的じゃないしな。この部屋に入る前にメッセージ飛ばしておいたから、俺の役目は攻略組が来るまでの時間稼ぎ、お前ら二人くらいなら後十分は軽く耐えてやるよ」
「なに……」
「なんだと……」
「……Suck」
三者三通りの答え方。流石にラフィン・コフィンのトップスリーと言えども、複数の攻略組に勝てるとは思ってないらしい。
「お前ら、後五分で殺せ」
「了解、だ」
「了解っす、ヘッド」
追い詰められたものほど怖いものはない。これからはコイツらも死に物狂いでくるだろう。
未だにPoHに組伏せられているフィリアは動けない。つまり、これから五分、この二人の猛攻を凌がなければならない。
さっそく赤眼男が前衛、ジョニー・ブラックが後衛というフォーメーションをとって攻撃してくる。
確かに赤眼男のエストックのキレとジョニー・ブラックの投げナイフの狙いの正確さは凄まじいが、キレは閃光の異名をとる副団長殿ほどではないし、投げナイフの狙いも俺も投剣スキル使いだから大体解る。
ソードスキルを使った後の技後硬直を狙い、エストックを武器破壊、エストック使いの両腕を斬り落とし、肩タックルの体術スキル《メテオブレイク》で赤眼男をジョニー・ブラックの方へとぶっ飛ばし激突させる。
「ふう……これで解ったろ?お前らじゃ俺には勝てん。それとも……次はお前がやるか?PoH」
俺が問いかけると、黒ポンチョのリーダーは組伏せていたフィリアをゆっくり解放する。
「そうしたいところだが、Game over……時間切れだ」
それだけ言うとPoHは黒ポンチョを翻して、足早に部屋から去っていく。続いて配下の二人も立ち去ろうとするが、出ていく寸前に殺意に満ちた眼で俺を射抜くように睨む。
「俺が、お前を、殺してやる」
「てめえ、覚えてろよ……次に会ったら絶対に殺してやるからな……」
「……そーかよ。じゃあ、しばらくは人殺しをやめて、せいぜい頑張ってレベリングすることだな」
ラフィン・コフィンの三人が立ち去っても静寂は訪れず、フィリアが泣いている声が部屋に響く。
俺はフィリアの近くまで歩き、へたりこんでいるフィリアに目線を合わせるようにしゃがむ。
こういう時に主人公体質な奴は、気が利いた一言でも言ってフラグをたてるんだろうが、生憎おれはボッチだ。フラグたてるどころか地雷踏み抜いちゃいます。
そこそこ高スペックな頭をフル回転させるが、なにも出てこない。我輩の辞書に、慰めるなどという言葉はない!とか言っちゃうレベル。
「あー、あの、アイツらならもういないぞ?」
どうにかこうにか捻り出した言葉は、ただの現状報告。ボッチのコミュ力のなさなめんな!
心の中で、自慢にもならない自慢を大声で叫んでいると、急にフィリアが俺を抱き寄せてきた。
「ありがとう……ありがとうぅ〜……」
泣きじゃくりながら絞り出された感謝の言葉。しかし頭にあるのは、ハラスメント行為として認められてないよな……という焦りだった。
「べ、別にお前を助けた訳じゃない」
胸板に当たる柔らかい豊かな胸の感触と甘い匂いにドギマギしつつ口を開いた。
「え……?」
顔を俺の肩から離して真っ直ぐ見つめてくる。近い近い近い近い……
「ただ俺は護衛の依頼を遂行しただけだ」
キョトン、とするフィリアだったが数秒後には立ち直り、楽しそうに笑う。
「フフッ、そっか。なら、ちゃんと街まで護衛してね?」
「……まあ、それが依頼内容だしな」
脅威は去ったため、転移結晶を使わなくてもいいだろうと思い、最初にこの部屋に入ってきた扉へと歩くが、フィリアが歩いてくる気配がない。
「……どうした?」
「こ、腰が抜けて……歩けない……」
……なんかデジャヴ。
「え……いや、じゃあどうすんだよ、帰れないじゃねえか……」
転移結晶を使えば帰れるが、命の危機でもないのに高価な転移結晶を使うのは躊躇われる。
フィリアもそれは理解しているのか、なぜか顔を赤くしながら真剣な声音で言ってくる。
「あ、あの……エイト、おんぶか抱っこかどっちがいい?」
「はい……?」
やだなに言ってんのこの娘。そんなに俺を黒鉄宮の牢屋に送りたいの?
「え……いや、そんなに俺を黒鉄宮の牢屋に送りたいの?」
「ち、違うよ!というかハラスメント倫理コードは圏外では出ないよ?」
あ、そうなんですか。まあ考えてみれば当然か。例えば麻痺になった女プレイヤーを移動させようと男プレイヤーが触ったら一々コードが出てくるのウザいしな。
「ほら、倫理コードの心配はないよ?」
「ぐっ……だ、大丈夫、きっと立てる」
「いや、立てないからこうなってるんだよ?」
なんかどんどん追い詰められているような……
「て、転移結晶を使うのは……」
「高いから無理だよ……」
ですよね〜……ダメだ、これ以上の反論が思い付かん……もういいや。諦めた。なんせ座右の銘が『押して駄目なら諦めろ』だからな。
「わ、わかりました……」
モンスターとの戦闘を極力回避し(エンカウントしても走って逃げた)、虚ろなる者達の修練場、欲望の金廊、欲望の金窟を出て、今はフィールドをアルゲード方面に歩いている。
五分に一回くらいの頻度で、そろそろ下りてくれません?と言っているが、もうちょっとーと返される。
いかに俺が敏捷力極振りと言えども、レベル八十ちょいあれば、人一人担ぐことくらい辛くない。
辛いのは――女子特有の二つの山が柔属性攻撃で、俺のSAN値に継続ダメージを喰らわしていることだ。
ムニムニモニョモニョという感触を背中に受けながら、足早にアルゲードに向かう。
「ねえ、エイト……本当に、ありがとね」
「……別になんもしてねーよ」
「それでもだよ」
「……そうかよ」
いきなり礼を言われて驚いたが、正真正銘この感謝の言葉はフィリアの心の中から出てきた言葉なのだろう。ならば、それを何回も否定する必要はあるまい。
と、そんなことを考えているとそろそろアルゲードの街に着く。
「あの、フィリアさん?そろそろ下りてくれませんか?」
「んー、もうちょっとー」
俺に社会的に死ねと?
「いや、あのね?フィリアさん……」
「やだー」
幼児退行して胸を押し付けんなー!くっ、諦めるべきか、抗うべきか……
「……解った……」
折れた。幸せな感触に負けた訳じゃないよ?ホントだよ?ハチマン、ウソツカナイ。
「ほら、着いたぞ……」
転移門広場前に到着したが、未だにフィリアが下りてくれない。周りの目線が痛いです。
「エイト?」
息が詰まった。この声は……
振り向くと、黒いコートにロングスカート、ブーツ。黒い鞘に収められた片手剣……
「よ、よお、キリト」
「うん、こんばんは、エイト」
あっれぇー?おっかしいなぁ、キリトの顔も黒い影が射しているように見えるよ?
「あ、ああ、こんばんは、キリト。じゃあこれで……」
「待って」
ガシッと腕を掴まれる。フィリアはなにがなんだかといった顔だ。
「な、なんでせうか?」
「いや、紹介くらいあってもいいんじゃないかな?その背中の女の子について」
「は、はい、そうですね」
もう転移結晶使っちゃおっかなーと思ったが、なにもやましいことしてないしー?無理矢理やらされてるだけだしー?そもそもやましいことしてても、キリトには関係ないしー?
……というか、彼女いないから関係ある奴いないな……
「あ、はい!私はフィリアって言います。エイトとは……どんな関係だろう?」
「俺に振るなよ……」
依頼主と依頼受領者でいいんじゃないか?
フィリアなりのジョーク(この場においては起爆剤)が炸裂する。
「そうだな……エイトの彼女、かな?」
ビシッ、と空気が凍った。ただならぬ空気を感じ取ったのか、既に広場には誰もいない。
「へ、へー、そうなんだ……」
ヤバいよ、キリト眼がイッちゃってるよ。虚ろだよ。ヤンデレみたいになっちゃってるよ。戦場○原さんみたいだよ。
「エイトの……バカーーーーッ!」
キリトの右手が黄色く光る。あれは、貫手の体術スキル《エンブレー》……
「ザッ!」
腹にクリーンヒット。要求筋力値が異常に高いと言っていたエリュシデータを装備するために底上げしているキリトの半端ない筋力値で、アンチクリミナルコードによって保護されているため、HPは減らないが、衝撃で吹き飛ばされる。
そのまま破壊不能なオブジェクトであるベンチに当たり、ようやく俺は止まった。
……ていうかフィリア。さりげなく避けんじゃねえよ。動けるなら直ぐに背中から退いて下さい……。
次回!『ちょっとしたトラブル』です!