いや、アドミニストレータの容姿がかなり好きなのですが、性格が……その上死んじゃったし……
あと最後、自分でもワケわからないので、突っ込みはなしでお願いします……などと、お願い前提で書いた第五十三話、どうぞ!
悲鳴が聞こえて真っ先に動き出したのは、KoB副団長アスナだ。
更にキリトが続き、最後に
最初は一番に敏捷寄りビルドのアスナ、次に本当に最初の頃は敏捷寄りだったが、今はエリュシデータを装備できるようにするために筋力寄りになったキリト、最後に敏捷極振りの俺の順で走っていたが、カーブをしたあたりからキリトが次第に遅れる。
リレーで後ろにいた奴に抜かれたら罵声か舌打ち、酷いときには石が――あれ?これってイジメじゃね?……まあ、いい思い出がない俺としては少し胸が痛むが、今はそんなことは言ってられない。
まあ、遅れるといっても、カーブを曲がったらすぐに円形広場に着いたのだが――
「な……にぃ?」
そこで俺は、有り得ないものを目にした。
狩りの帰りなのか、フルプレート・アーマーを着こんだ男が目立っている――ここまではいい。問題は、その男が教会らしき建物の二階の窓から延びているロープに吊るされ、胸に刺々しい片手剣の様な短槍を刺されていることだ。
男は槍を抜こうと、槍の柄を両手で握っているが、動かない。刺された胸からは赤い、血みたいなエフェクト光が出ていて、着実にあの禍々しい短槍が男のHPを削っていってることを示している。あれは一部の
あの短槍には無数の逆棘があり、恐らく継続ダメージ特化の武器なのだろう。
「早く抜いて!」
有り得ない事態ながらも、できるだけ冷静に観察しているつもりだったが、キリトの声でそれは後回しだと結論付ける。
その声に反応し、ノロノロと動かしている両手で槍を引き抜こうとしているが、容易には抜けない。死の恐怖で手が動かないのか。
ロープで首を吊っている状態の男と地面の距離は十メートル強あり、今の俺の敏捷力では届かない。
ならばと、せめてスローイングダガーでロープを切るべきか……などと考えるが、万が一ダガーが男に当たって、HPを全損させてしまうかもしれないという思いが、俺の体を止める。
もちろん普通に考えれば、圏内においてそんなことは有り得ないのだが、そもそもこの状況が有り得ないのだ。何事にも例外はあるかもしれない。
投げるべきか、投げざるべきか……と逡巡している間に、さすが副団長というべき貫禄でキリトに指示を飛ばすアスナの声が聞こえた。
「きみは下で受け止めて!」
キリトの返事を待たずに、恐らくロープを切るのだろうアスナは、猛然と教会内に足を踏み入れた。
「うん!」
すでに教会の中を駆けていったアスナの背中に返事をしたキリトは、ぶら下がる男の真下へとダッシュした。
――だが。
大型ヘルメットから僅かに窺える男の双眸が、俺達から見たらなにもないはずの虚空を凝視している。だが、なんとなく俺には解った。軽装な俺が、攻撃を喰らったら絶対にやること――HPバーを見ているのだろう。正確には、恐らくHPがゼロになる瞬間を。
広場を覆い尽くす悲鳴と驚声の中、男が口を開いてなにかを声に出した気がした。
だが――その声は届かず、今までイヤと言うほど見てきたポリゴン片に姿を変え、無数のガラスが砕け散った様な音を残し、男の姿は消えた。
男を吊り下げていたロープはダランといった様子で垂れ下がり、胸を刺していた短槍は落下し、石畳に突き刺さった。
平和な街のBGMをかき消すプレイヤー達の悲鳴を聞きながら、俺は辺りに眼を走らせる。
公開処刑かなにかは知らないが、圏内で相手のHPを全損――いや、減らせるのはデュエルしか有り得ない。俺みたいな軽装だったらともかく、あの重装甲だと半減決着モードとは考えにくい。恐らく全損決着モードだろう。
あの男がなにを思い全損決着モードを受託したのかは知らないが、デュエルなら『WINNER/名前 試合時間/何秒』という形式の巨大なシステムウインドウが近くにあるはずであり、それを見ればあの男を短槍一本で殺した相手が解る。
――はずなのだが。
「……ない……?」
教会の方も、円形広場にも、上空からはたまた地面までも見たが、WINNER表示どころかなんのシステムウインドウもない。
「くそっ……」
三十秒しか表示されないシステムウインドウを探そうとすると、どうしても焦ってしまう気持ちを抑え、ゆっくり、じっくりと辺りを見回す。
その時、俺と同じことを考えていたであろうキリトが、広場にいるプレイヤー達に指示を出す。
「みんな!デュエルのウィナー表示を探して!」
すぐに意図を察したプレイヤー達がキョロキョロと辺りを見回してウィナー表示を探すが、未だに発見の声がない。もうすぐ十五秒経つ。
これだけの人数、時間をかけても広場で見つからないことを考えると、建物――男が吊るされていた教会の中か、と思ったとき、問題の窓から純白の騎士服を身に纏った《閃光》アスナが顔を出す。
「ウィナー表示、あったか!?」
普段出さない大声を張り上げるが、それほど有り得ない事態なのだ。
しかし顔を蒼白にして力なく首を振るアスナを見て、言葉を聞かずとも結果が解ってしまった。
「無いわ!システム窓もないし、中には誰もいない!!」
「やっぱりか……」
何度も何度も広場を見渡すが、たかが数秒間俺一人が探して見つけられるはずもなく、数秒が経つと、やがて誰かの声が聞こえた。
「……ダメだ、三十秒経った………」
もう消えてしまったシステムウインドウを探すのを諦め、一階にいたNPCシスターの横をすり抜け、キリトとともに教会の二階へと上がる。
二階は、宿屋の部屋に似ている四つの小部屋があるが、ドアロックはできない。うち三部屋を通り過ぎて、目視でも、俺の索敵でも誰も見つからず、俺より索敵スキル熟練度が高いキリトですらなんの反応もなかったのだろう。
本当に幽霊のような殺人者だと不気味に思いつつ、問題の四部屋目の扉を開け、中に入る。
先に走って教会の中に入って、既に中にいたアスナが毅然と振る舞っているかに見えるが、表情が固いことから、少なからずショックを受けているようだった。
「……教会の中には、他に誰もいなかったよ」
やはり沈んだ声で報告をしたキリトに、KoB副団長は問い返してくる。
「
「それはない。キリトの索敵スキルを無効化するほど性能が高い物は、多分最前線でもドロップしない」
「……ハチ君ならできそうだけどね……」
呆れ四割、冗談四割、本気四割ほどの割合に聞こえたアスナの声。……十二割になっちゃった……
「おい、冗談でもそう言うこと言うのやめろ。何?俺が第一容疑者として疑われてるの?」
「そんなつもりはないけど……攻略組でも一番ハイディングが巧いのハチ君だし……」
「うん、私もエイトを
えー?お前ら最初の頃は二層であっさりリビールしてたじゃん。あれから隠蔽スキル熟練度上がったのは事実だけどさー。
「……ち、違う!冤罪だ!俺は無実だ!」
「犯人は皆そう言うんだよ?大人しく吐くんだ、エイト!」
俺の結構本気な無実主張を、なぜかノリノリで返してくるキリト。刑事なら食いそびれた晩飯代わりにカツ丼下さい。
「……それじゃあ、検証してみたらどうかしら?」
「「え?」」
頭脳明晰副団長様が考えた方法はこうだ。
俺が二階階段前から隠蔽を発動させ、アスナがいる問題の部屋まで歩き、その部屋に続く廊下で顔を壁に向けたキリトが索敵スキルを発動させて待機、俺が来たと思ったら裏拳をする。
見事気づかれずにアスナがいる部屋まで辿り着けたら
もちろん俺は拒否したが、その場合は問答無用で
そんなこんなで検証を開始した訳である。
「はあ……」
開始してすぐに溜め息を吐き、歩いていく。といっても、普通に歩いているわけではなく、隠蔽スキルと《
アスナは固さは取れてきて、少しフランクになったが、その分遠慮もなくなってきた。俺の
……まあ、そこまでイヤなわけではないし、あれが元々の性格だとしたら否定する気もない。ただ自分の見た目を理解し、適切な距離で接してくるなら八幡的にポイント高い。
アスナに対する八幡ポイント評価は、ようやく黒い影が視界に入ったため一時保留。
そーっと、音もなく近づいていき、真後ろに。頭がピクリと動き、漆塗りのような艶やかな髪がハラリ、と一房、肩から落ち、甘い臭いが鼻腔をくすぐる。
後ろを過ぎ、アスナがいる部屋のドアをガチャリと開けると――
――満面の、閃光様がいました。
「はい、逮捕♪」
そう言うとロープのポップアップ窓を出し、結束ボタンを押して、俺をグルグル巻きに――え?これ冗談だよね?ジョークだよね?
「さ、黒鉄宮に行きましょ?」
あれ?事件解決?そんなわけねーよ!冤罪だよ!
そのままズルズルと引き摺られる俺。
あれ?俺って無実だよな?なんか自信なくなってきた……
次回!『捜索』です!