ソロアート・オフライン   作:I love ?

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俺ガイルのモノレールがすごかったです……
一つ謎なのは、なんで圏内事件はこんなに進むペースが遅いんだ!(関係ない)



半年の歳月を経て、彼ら彼女らは再びの会合を果たす。

シュミットを手近な道具屋に待たせ、俺達はシュミットが出してきた条件についてできるだけ手短に話し合った。……頼んでいる立場だからか、ボス攻略の時とは打って変わって殊勝な態度のシュミットに、僕はとても驚きました。

 

「危険は……ないかしら? あるのかしら?」

 

「うーん……」

 

キリトが唸る。可能性は低いが、ヨルコさん、またはシュミットのどちらかが圏内事件の犯人だとして、会わせた瞬間に圏内PK技炸裂! みたいなことを危惧しているのだろう。まあ、もしヨルコさんがそんな(スキル)を使えるのなら、事件捜査をしている俺達も今頃カインズと同じように殺されててもおかしくないのだが。……笑えないな。

 

「……まあ大丈夫じゃないか? 万が一の事態になりかけたら取り押さえたらいいしな」

 

ヨルコさんは攻略組じゃないので俺達誰か一人でも取り押さえられるし、シュミットは攻略組だが、二人がかりなら大丈夫だろ。問題は刑事みたいにちゃんと押さえられるかだが……

 

「うん……それにスキル発動までにはある程度プロセスを踏まなきゃいけないから四、五秒かかるし、眼を離さなければ大丈夫だと思うけど、問題は……」

 

「シュミットが今更どうしてヨルコさんに会わせろって言ったか、だな」

 

まあ、特に事件には関係なさそうだが、真意を確かめないと安心して会わせることができないのも事実だ。

 

「さあ……実は片想いしてたとかじゃ……ないわよね、うん」

 

「えっ、ほんと?」

 

んなわけないだろ……もし仮にそうだとしたら、俺は絶対邪魔するぞ。『人の恋路は必ず邪魔をして、もし馬に蹴られそうになったらリア充に馬を仕向けろ』が親父の教訓だからな。さすが親父、クズいな。

 

「違うって言ってるでしょ! ……ともかく、危険がないならあとはヨルコさん次第だわ。メッセージ飛ばして確認してみる」

 

「う、うん、よろしくお願いします……」

 

自分でウケないと思った冗談を、冗談ともとられなかったことに怒っているのか、はたまた何か別のことに怒っているのかは定かではないが、とにかくホロキーボードに怒りをぶつけるようにタイプしている。キーボードクラッシャーみたいだ。

キリトが「私、何かした?」みたいな眼で見てくるが、人は時として自分でも解らない激情に駆られることがあるのだ。「何かその表情ムカつく!」とか、「ていうか顔がムカつくな」とか、挙げ句の果てには「お前の存在がムカつく!」だからな。何? 俺は存在することすら許されないの?

今アスナが打っている《フレンド・メッセージ》は、離れていても即座にメッセージが届く便利な仕様になっている機能だが、当然誰にでも送れるという訳ではない。結婚相手か同じギルドのメンバー、またはフレンド登録した人にしか送れない。アスナとヨルコさんは女同士……つまり同性なので結婚相手などではないし、ヨルコさんは血盟騎士団ではない。となると、フレンドということになるのだが……いつの間にしたんだ? まあ、要は俺達と何の繋がりもないグリムロック氏には《フレンド・メッセージ》は送れないということだ。名前が判っていれば送れる《インスタント・メッセージ》なるものもあるにはあるが、同じ層にいないと届かない上に届いたかどうかを確認する術もない。

ヨルコさんからの返信は直ぐにあったらしく、ウインドウを一瞥してからアスナは一つ頷いた。

 

「OKだって。じゃあ……ちょっと不安だけど、案内しましょう。場所はヨルコさんが泊まっている宿屋でいいわよね」

 

「いいんじゃないか? 圏内PKはできても、さすがにシステム全てを無視なんてできないだろうしな」

 

というかできたら困る。宿屋の錠も開錠できるなら、圏内PK技で寝ている間に死んでいた……なんてこともあり得る。

キリトがシュミットに向けてOKの意を示す大きな丸を両腕で作っているのを見ていると、改めて犯人に対してうすら寒いものが背筋を走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達一行が五十九層から五十七層主街区《マーテン》に転移をし、青ポータルから出たとき、アインクラッドには赤い夕陽が昇っていた。朝から夕方まで働きづめとか、俺マジ社畜。上司(アスナ)に全く逆らえてないじゃん。

全体的にオレンジの色合いが加わった街では、NPCや商人プレイヤーの売り声が響く。軒並み連なる店の間を縫うように一日の疲れを癒しにきたプレイヤー(社畜)達は歩いているが、まるで避けるように――実際避けられているのだろう――ポッカリと人がいない空疎な空間があった。言わずもがな、カインズが槍に胸を貫かれ、ロープで吊るされていた教会に面している一画である。

人が惨死を遂げた場所を見る悪趣味も度胸もないので、さっさと視線を前に座標固定し、昨日歩いたのと同じ道を二人……いや、三人の後ろをやはり一歩退いて歩き進む。なんならこのまま逆走ならぬ逆歩でランナウェイまである。

それからほんの数分後に宿屋に到着し、 階段を上る。二階長廊下の一番奥の部屋がヨルコさんが滞在している……悪く言えば閉じ籠っているスイートルームだ。

キリトが三回ドアにノックし、キリトです、とちゃんと名前を告げる。……俺だったら名前を告げずに部屋に入って、錯乱したヨルコさんに包丁で刺されてたかもな……圏内だから刺さんないけど。

キリトの声にヨルコさんの細い声でいらえがあり、キリトがノブを回した。《フレンドのみ開錠可》設定のドアロックがかちんと金属が擦れる音ともに外される。

引き開けられたドアの正面に位置する、向い合わせのソファーの片方に、ヨルコさんは腰掛けていた。滑らかな動作で立ち上がり、ダークブルーの髪を揺らしながら俺達……いや、恐らくシュミットに一礼した。

ギルド《黄金林檎》の元メンバーの二人の心境は再会した歓喜などではなく、お互いがお互いを敵視しているとまでは言わなくとも、少なくともギルド時代の信頼関係はないだろう。その証拠に二人の顔は同じように強張っている。

メインは二人。本来何の関係もない俺達は……いいとこ仲介人だろうか。一向に口を開く気配のない二人に対し、一応の忠告をしておく。

 

「……まあ、双方思うところはあるだろうが、どんだけ激昂したり錯乱しても、武器だけは抜くなよ? もし抜いたなら……」

 

左腰にあるコバルトブルーの鞘を手に持ち、カシャン、と金属音をならす。くすんだ銀色の柄が夕光を受け、わずかにだが怪しく鈍く輝いた。

さすがに(まだ強化素材が出現していないため)未強化とは言えども今の最前線より少し上――六十層クラスの武器をちらつかせたら大胆な真似は出来ないだろうと思ってやったことだが、効果は覿面だったようだ。

 

「……はい」

 

「解っている」

 

俺の《ホロウ・ファントム・ワンハンドソード(虚ろな幻影の片手剣)》のステータスは、キリトの《エリュシデータ》みたいな《魔剣》クラスではないが、剣の威光は通用したようで、ダメージを与えられない《圏内》だということも忘れ、ヨルコさんは顔面を蒼白にして、シュミットは虚勢を張りそれぞれ答えた。

そしてまた無言。

お前が会わせろって言ったんだから、会話を切り出せとシュミットに言うのは酷だろう。顔を合わせただけで苦い思い出が蘇る相手と積極的に話したい訳がない。

かつて同じギルドのメンバーだったと言えども、攻略組として最前線で戦ってきたシュミットとミドルプレイヤーであるヨルコさんとでは、今はレベル差が二十以上あるだろう。しかし、堂々としているヨルコさんと萎縮しているシュミットとでは、どう見てもヨルコさんの方が立場が上にしか見えない。

いい加減口を開かねばなるまいと思ったのか、ヨルコさんがシュミットに挨拶をする。

 

「久しぶり、シュミット」

 

そして薄く微笑む。

 

――シュミットが何を思い、ヨルコさんに会わせろと言ったのかは解らないが、黄金林檎元メンバーの久しぶりの会合。それが事件の謎を解く切っ掛けになったことを、俺は十数分後に知ることになる。

 




次回!『ヨルコさんの死』です!

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