ソロアート・オフライン   作:I love ?

77 / 133
久々の二連続投稿!
そして前回の次回予告は詐欺です、すいませんっしたー!


予期せず、比企谷八幡は殺人者達と二度目の会合を果たす。

ヨルコさんの体が四散するのを見て、俺が抱いたのは絶望感や虚無感といったものではなく、喉に刺さった魚の小骨がとれた――すなわち、謎が解けたという高揚感だった。

そんな気分になっていた俺は、気づかなかった。二ブロック向こうの同じ建物の上に、黒衣の人影があったことに。

俺がその人影に気づいたのは、キリトが窓からフライアウェイした時だった。

あの人影は、《黄金林檎》のリーダーなんかの幽霊じゃない。あれは、恐らく昨日殺されたはずのカインズだ。

その確証を得るためには、行かねばならない……黒鉄宮にある生命の碑に。

 

「アスナ。俺ちょっと確かめたいことがあるから、別行動していいか?」

 

「はあ!? こんなときに何を……解ったわ」

 

(多分)ボス戦の時にしか見せたことのない、俺の真剣な顔を見てか、許可を出してくれた。

悪いと一言謝り、俺はドアを開け、宿屋の二階から降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一層《はじまりの街》黒鉄宮《生命の碑》。

俺も連日ここに来たのは初めてだ。ここには《圏内事件》のトリックの確信を得るために必要な、ヨルコさんの生存確認のために来た。

Yolko……Y、Y……やはりだ。YolKoに横線は引かれていない……つまり、ヨルコさんは生きている。なら、さっきのは死亡を擬装した――そう考えれば、デュエルのウィナー表示が出なかった理由も、殺されたカインズが異常なほど抵抗がなかったことも説明がつく。。カインズは重装備の鎧、ヨルコさんは分厚い服装の耐久値が0になる瞬間、転移結晶で脱出したのだろう。

それに、なぜカインズが大々的に殺されて、ヨルコさんが僅か四人の前で殺されたのかも解った。まず、カインズを不特定多数の観衆の前で殺したように見せかけ、《黄金林檎》の元メンバーの耳にはいるようにする。そして、目の前で見せつけることで、圏内PK技は存在すると見せかける……つまり、ヨルコさんとカインズはグルだ。

動機はやはり、指輪事件関連だろう。となると……目的は犯人を炙り出すことだな。

《圏内事件》によって、極限まで追い詰められたシュミットが次にとる行動は、全く関わりのない俺にも解る。《黄金林檎》リーダーの墓に、赦しを乞うはずだ。そこに自らがリーダーとグリムロックの幽霊となって出てきたという演出で、シュミットに独白をさせるだろう。

指輪事件の犯人と真相を知りたいだけのはずだから、シュミットを殺したりはしないし、攻略組から放逐されるのに耐えられないはずのシュミットはオレンジになることはしないだろう。

つまり、俺達のこの事件での立ち回りは終わりだ。そう結論付け、キリトとアスナに《フレンド・メッセージ》にトリックを打って送ろうとした。

だが――。

一つだけ、気がかりなことがある。

指輪事件。シュミットの急激な成長。ギルドリーダーの死……こう考えて思い浮かぶのは……

さすがにシュミットがリーダーを殺したとは考えにくい。なら、シュミットは知らず知らずにリーダーの死の片棒を担いでいたと考えるべきだ。多額のコルと引き換えに。

指輪を奪いたかった? いや、あの指輪は婚約者であったグリムロックのも、の……

……つまり、指輪目的じゃなかった? それ以外にリーダーを殺すメリットはないはずだが……

思考を進め、シュミットに片棒を担がせた人物の目的を考えていると、唯一浮かび上がったこと……すなわち、殺すこと自体が目的のレッドプレイヤーによる殺害。そう考えたら辻褄が合う。

カインズ、ヨルコさん、シュミットによる犯行ではないとすると、残るのはグリムロック。今回の凶器を作り、二人に協力したのは三人を殺すため……

そこまで思考が至ったところで、ヨルコさんとフレンド登録をしていたアスナに、急いでメッセージを飛ばす。

 

『謎は全て解けた。フレンド一覧からヨルコさんのいるところを探して教えてくれ。そしてそこにできる限りの攻略組を集めてきてくれ。時間がない。訳は後で話す』

 

ホロキーボードを全力でタイピングし、送信したあとに黒鉄宮を出て転移門を目指す。

幸い、何も訊かずにシンプルな返信が走っている途中に来たので、減速しないでメッセージを見る。十九層《十字の丘》、か。

メッセージを一瞥し、即座に邪魔になるウインドウを閉じながら、敏捷度を最大に活かしたダッシュで駆け込み転移する。

 

「転移! 《ラーベルク》!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は十時過ぎ。思考の海に浸っていたため晩飯を摂っていないせいで仮想の胃を苛む空腹感も忘れ、一心不乱に一回だけ行ったことがあるフィールドに向かって駆ける。

現実世界でこんな長時間連続疾走したら確実に横っ腹が死ぬが、そこは仮想世界。全く痛くならない。

煉瓦造りの門の下を疾駆し、《OUTER FIELD》と表示された瞬間《索敵》スキルを発動させる。

《圏外》のフィールドを直進してから数分後。オレンジカーソルが三つ、グリーンカーソルが三つ、グリーンカーソルはヨルコさん、シュミット、カインズだと解るが、まさかオレンジカーソルはラフコフトップスリー……

正直、厄介事に首を突っ込むのも、人殺しと命を懸けて戦うのもまっぴら御免だが、人の命をなんとも思わなくなる方が俺は御免だ。

黒ポンチョ、髑髏マスク、頭陀袋……確定だ。ラフィン・コフィンの頭三人だと判断するや抜剣。左腕は肘を曲げ、指と指の間にダガーを挟み、右腕はしっかり伸ばし剣が体の後ろにある状態だ。

走ったままダガーを《シングルシュート》で投擲。光跡を描いた投擲武器はあっさり友切包丁(メイトチョッパー)に弾かれるが、そのまま肉薄し右斜め上段斬り。またも防がれ、辺りを照らす火花が散る。

 

「Oh……とんだサプライズがあったもんだ。会いたかったぜ、エイト」

 

「ハッ、心にもないこと言ってんじゃねーよ。俺はちっとも会いたくなかったぜ、PoH」

 

ガキィィィン! と金属音と火花を散らしてバックステップし、一度距離をとる。相変わらず一合打ち合っただけで逃げ出したくなる狂気を纏ってやがる。

 

「ヘーイ。久しぶりぃエイトォ。あの日からお前を殺すために頑張ったんだぜぇ?」

 

軽い調子で声をかけてきた頭陀袋の男……確か、ジョニー・ブラックって言ったけな。

 

「……なんだ、誉めてほしいのか? お子ちゃま頭陀袋」

 

「ああ!? ンの野郎……! 今すぐぶっ殺してやろうか!」

 

「そいつは勘弁願いたいな。そもそも俺戦いに来た訳じゃねーし」

 

毒ナイフ持っている奴となんか戦いたくねえよ。幸い……と言っていいのかは判らないが、エストック使いの髑髏マスクは、武器でヨルコさんとカインズを牽制してるから戦闘に参加はなさそうだが、シュミットも麻痺で動けないため二対一だ。

 

「ほう……じゃあお前は何しにここに来たってんだ?」

 

「あ? まあ、あれだな。《犠牲(サクリファス)》は《犠牲(サクリファス)》らしく、先兵の特攻兵だよ」

 

なんなら自爆兵まである。ま、意味が伝わろうが伝わらまいがやることは同じ、時間稼ぎだ。

 

「つまり先兵のお前をぶっ殺せばいいんだよな?」

 

「……ま、先兵の仕事は攻撃だけじゃないけどな」

 

本隊が来るまでの囮とか。

そんな呟きは聞こえなかったようで、いきなり毒ナイフが投げられてきたので剣を薙ぎ払い弾いた。

 

「おいおい、リベンジがしたくてウズウズするのは解るが、短期は損気だぞ」

 

出きるだけ言葉を重ね、時間を稼ぐ。存外、戦闘しているときより会話をしているときの方が長く時が過ぎるものだ。

しかし相手は会話に応じる気はないようで、毒ナイフを投擲しながら接近し、短剣――もちろん毒が付着している――を振りかざす。

その短剣を自分の剣で上にパリィし、膝を曲げてしゃがみ、腹パン――実際には掌底だが――をするような体勢になる。

俺の左手が黄色く煌めき、ジョニー・ブラックを二メートルほど吹き飛ばす。序盤に何度も助けられた、体術スキル基本単発技《閃打》。

一合一打しただけで解った。――こいつ、強くなっている。

今のも吹き飛ばしたのではなく、自らが後ろに跳ぶことでダメージを緩和したのだ。その証拠にHPが0.5割しか減っていない。いかに初級、いかに敏捷寄りだとしても、諸に入ったなら一割は減っているはずだ。

しかし俺に一撃喰らわされたのが気に食わなかったのか、明らかに憎悪の黒い焔を眼窩の奥の瞳に宿し、こちらを睨み付ける。

ジョニー・ブラックは先ほどと同じ構えで短剣をかざし臨戦態勢に入った。俺は剣を水平に構え、カウンターを狙う。

《人殺し》の《犠牲》への雪辱戦第二ラウンドのゴングが、鳴った気がした。

 




次回!『時間稼ぎ』です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。