ソロアート・オフライン   作:I love ?

79 / 133
いよいよグリムロックが登場寸前までいった! 長かった……
あ、あと皆さんのアドバイスのお陰で、やっとセブン倒せました! けど、今までノーマルだったから、ハードにしたら星十のクエストが全くクリアできなくなりました(笑)


満を持して、比企谷八幡はかく語りき。

「……実際に圏内事件の謎が解けたのはヨルコさんが目前で擬装死したときで、オレンジプレイヤーが出張ってくるのがあり得ると思ったのは数十分前だ」

 

目の前で死の瞬間を見せつけるのは失敗だったな。あれが切っ掛けでオレンジプレイヤー達が来ることも判ったんだから……あれ? じゃあ気づいたんだから目の前で死の瞬間を見せつけてよかったんじゃね?

 

「……一つ確かめたいことがある。あの凶器として使った短剣(ダガー)短槍(ショートスピア)はあんたらがグリムロックに頼んで作ってもらった、そうだな?」

 

問いかける視線を送るが、同時に嘘は赦さないと眼光を眼に宿らせる。犯人である二人は顔を見合わせ、やがて一つ頷いた。

 

「……はい。《圏内PKを擬装する》という私たちの計画には、継続ダメージ特化の貫通属性武器がどうしても必要でした。あちこちの武器屋さんを見て回ったんですけど、そんな特殊な仕様の武器を置いているところは見つからなくて……。と言って、鍛冶屋さんにオーダーすれば、武器に銘が残ってしまいます。その人に訊けば、オーダーしたのが被害者である私たち自身であることが解ってしまうでしょう」

 

「だから、僕たちはやむなく、ギルド解散以来はじめてあの人に……リーダーの旦那さんだったグリムロックさんに連絡を取ったんです。僕たちの計画を説明して、必要な貫通武器を作ってもらうために。居場所は解らなかったけど、フレンド登録だけは残っていたので……」

 

フレンド登録が残っていたなら、位置追跡ができたんじゃないか? と指摘しようとしたが、遂にグリムロックの名前が出てきたため耳に――正確には脳の聴覚野に――全神経を集中させ、何も言わなかった。

 

「グリムロックさんは、最初は気が進まないようでした。返ってきたメッセージには、もう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書いてありました。でも、僕らが一生懸命頼んだら、やっとあの二つ、いえ三つの武器を作ってくれたんです。届いたのは、(Caynz)じゃないカインズ(Kains)さんの死亡日時の、ほんの三日前でした」

 

この二人はやはり、グリムロックが奥さんを殺された被害者だと思い込んでいるのだ。それが言葉の節々に感じられた。

ならば、これから話すことは、少なからず二人を傷つけることだ。だが、指輪事件の真犯人を突き止めるためにここまでのことをしたのならば、それなりの覚悟や矜持があるはずだ。

 

「残念なことにな、グリムロックはあんたらのリーダーのために協力するのを渋ったんじゃない。圏内PKなんて演出で大多数の注目を集め、俺達みたいに捜査する人が大勢いたら、気づくかもしれないと恐れたからだ」

 

一呼吸置き、俺は付け足した。

 

「……結婚によるストレージ共通化。それが、離婚ではなく死別による解除だったら、そのストレージ内のアイテムがどうなるのかを」

 

「え……?」

 

俺の言葉の意味を理解できていないヨルコさんが首を傾げる。

しょうがないことだ。アインクラッドに於いて、結婚までいくカップル(リア充)は中々いない。それが離婚……それも死別ならば、そんなケースは、人口が今は六千人強である――しかも男女比が八対二の――この鋼鉄の城では、一件あっただけでも稀だろう。

 

「……いいか? グリムロックとグリセルダさん? のストレージは共通化していた。たとえグリセルダさんを殺害しても、アイテムは全てグリムロックに転送されるんだ。シュミット。お前、片棒を担いだ時の報酬は金だっただろ?」

 

俺の質問に麻痺が解けても未だ地べたに座り込み胡座をかいている鎧男は、首を縦に振った。

 

「中層プレイヤーが一気に攻略組まで登り詰められるほどの大金を用意するには、本当に指輪を売らなければならなかった。そんなことができるのはグリムロックだけだし、アイツはシュミットが計画の共犯者だと気づいていたんだ。つまり……」

 

「グリムロックが……? あいつが、あのメモの差出人……そして、グリセルダを圏外に運び出して殺した実行犯だったのか……?」

 

「いや、多分違うな。万が一グリセルダさんが宿屋から運び出される時に目醒めてしまったら、全て終わりだ。そこはそういう(人殺し)仕事専門のレッドがやったんだろうな。だからと言って、グリムロックの罪が軽くなるわけじゃないが」

 

「…………」

 

シュミットはもう声を発さず、焦点の合わない瞳で空を仰ぎ見ているだけだった。

そんな沈痛な表情をしていたのは、ヨルコさんもカインズも同じだった。やがて、濃紺髪をしている女性は、かぶりをふった。その動作はドンドン大きくなり、やがて髪が狂乱の如く振り乱された。

 

「そんな……嘘です、そんなことが! あの二人はいつも一緒でした……グリムロックさんは、いつだってリーダーの後ろでにこにこしてて……それに、そうです、あの人が真犯人だというなら、なんで私たちの計画に協力してくれたんですか!? あの人が武器を作ってくれなければ、私たちは何もできませんでした。《指輪事件》が掘り返されることもなかったはずです。違いますか?」

 

なるほど、中々に的を射た反論だ。確かに協力しなければ過去が掘り返されることもなかったかもしれない。だが、指輪事件の真相が明らかになる可能性が完全に消え失せる訳でもない。

故に、俺は反論に反論した。

 

「あんた達は、グリムロックに計画を一から十まで説明したんだろ? なら、あいつは知っていたはずだ。カインズが殺される序章からシュミットに独白させるこの最終章までの計画の筋書きを。なら、逆にそれを利用すれば、完全に指輪事件を闇に葬り去ることも可能だ。その事件の解決を求めるあんたら二人、共犯者のシュミット、三人まとめて消せばいい」

 

「……そうか。だから……だから、あの三人が……」

 

虚ろな表情のシュミットがぼやいた言葉に首肯する。

 

「ああ、その通りだ。《ラフィン・コフィン》がここに現れたのは、たまたま偶然じゃない。攻略ギルドDDA前衛隊長シュミットという大物の獲物が、一切仲間を連れずにここに来ると、グリムロックが情報を流出したんだ。パイプは恐らく、半年前からあったんだろうな」

 

「…………そんな……」

 

力なく膝から崩れ落ちそうになったヨルコさんを、カインズが右手で支えた。しかしそのカインズの横顔も、ヨルコさんと同じ……或いはそれ以上に蒼白に見えた。

カインズに支えられたまま、ヨルコさんは一層弱々しい声で囁いた。

 

「グリムロックさんが……私たちを殺そうと……? でも……なんで……? そもそも、なんで結婚相手を殺してまで、指輪を奪わなきゃならなかったんですか…………?」

 

「……さあ。俺は探偵でも警察でも心理学者でもないから、動機までは判らん。でも、《指輪事件》はアリバイ作りのためにギルド本拠地に居なきゃならなかったグリムロックも、今回ばかりは見届けずにはいられなかったはずだ。なにせ、二つの事件が迷宮入りになる瞬間だからな。まあ……詳しいことは本人に訊けばいいんじゃないか?」

 

俺はここに向かって疾走している最中、あるメールを二人に送った。内容は、『グリムロックはヨルコさん達の近くにいるはずだから、見つけて連れてきてくれ』と。

事実、三つのグリーンカーソルを、俺は索敵スキルによってもう捉えており、《聞き耳》スキルを取っていないため聴力補正(ブースト)されていない耳でも、もう三つの足音が聞こえてきている。

夜空の中でも目立つ栗色髪と夜空に溶け込む黒髪。月明かりを反射する華美な細剣(レイピア)と、月光を全て食らいつくすようなシンプルな黒い片手剣(魔剣)。まず目に入ったのは、立場的にも見た目的にも対極とも言える攻略組でもトップの実力を持つ剣鬼と剣姫……アスナとキリトだった。

白黒二人の愛剣二振りの切っ先と、鋭い眼光に急かされるように、一人の男が歩いてきた。

かなりの長身。裾長な、ゆったりとした前合わせの革製の服を着込み、やけにつばの広い帽子を被っている。目の辺りで時折光る物体は眼鏡だろうか。その容貌は、武骨なおっさんが営んでいるイメージがある鍛冶屋よりも、アジア系の(主に中国や韓国、香港など)マフィアと言った方がしっくりくる。ハンマーを振り降ろすより、SAOには存在しない銃を振りかざすほうが似合いそうだ。

三人ともカーソルはグリーン……つまり、グリムロックは逃走せずに、悠々と二人に言われるがままにここに来たのだ。……これは、自分が《指輪事件》の真犯人だと認めさせる……或いはボロを出させるためには、相当骨が折れる長丁場になりそうだと溜め息を吐き、すぐに気を引き締め、どうやって嵌めようか……と、思考を開始した。




次回!『グリムロックへの詰問』です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。