ソロアート・オフライン   作:I love ?

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報告。
圏内事件が終わったので、アリスの件について報告します。えー、オホン。
結果は…………アリシゼーション編で登場となりました。リアルで出すかは未定ですが、アリスさんの登場は遥かに遅くなることを謝罪させていただきます。
そして意見をくださった皆様、ありがとうございます。八幡のVR世界に対する考え、オリジナリティある作品と課題は多いですが、始めた以上は書き切りたいと思っていますのでどうぞよろしくお願い致します。


とにかく、人は白熱すると時がいつの間にか過ぎているように感じる。

「えっと、まず自己紹介からしていいかな?」

 

……脱力した。なんか謎を語ってくれる雰囲気だったのに、自己紹介って……いや、逆に考えるんだ比企谷八幡。自己紹介をしておいた方が話がスムーズに進むと思えばいいんだ。そうよ八幡、どんなときでもよかったを探さなきゃ!

 

「私の名前はレイン。主武器は片刃の片手剣だよ」

 

「……お前は知ってるらしいが、俺はエイト。主武器はお前と同じ片手剣だが、俺は両刃(ダブルエッジ)だ。……で? なんで俺の名前を知ってたんだ?」

 

「ああ、それは簡単だよ。アルゴさんから買ったの、情報」

 

……ね・ず・みぃぃぃ〜〜! なにやってくれてんの? アイツ。

憤慨する俺とは対照的に、種明かしが楽しいと言わんばかりに微笑むレイン。後で《鼠》をシメることを決意し、次の質問に移る。

 

「……なんで俺の情報を買ったんだ?」

 

「いや、正確にはエイト君の情報を買ったんじゃなくて、アルゴさんに聞いたの」

 

「……何て?」

 

「この世界で強いプレイヤーは誰? って」

 

え、レインさん。あなたチンピラ? その質問完璧に不良の台詞ですよ? 天辺獲る気?

 

「え、何? チンピラなの? 不良なの? 辻斬りなの? 人斬りなの?」

 

「だから違うよ! ……ちょっと手伝ってもらいたいことがあって……」

 

「じゃあ他当たれ。俺強くないし、もっと強いやつなんか他に大勢いる」

 

なんか警戒して損したな……と溜め息を吐きながら、剣を鞘に収め、赤髪の少女の横を通りすぎる。

 

「わぁーっ、待って待って!」

 

が、裾を握ってきたレインによってそれは阻まれる。うっかり惚れちゃうからそういうことはやめてほしい。

 

「……なんだよ」

 

「その手伝って欲しいことがエイト君の目的と同じなんだよ!」

 

「……」

 

俺の今の目的。それは、《鼠》から聞いたエクストラスキルを取得できるようになるクエストをクリアすることだ。エクストラスキルというからには採集系やお使い系クエストではないだろう。なら殺戮系クエストか。しかも助けを求めるということは、七十レベくらいは余裕であるだろうレインがクリア出来ない……少なくとも、ソロでは難しいと判断するほどの超難関クエストだということだ。なら、共に進行した方が得策だろうが……

害意はない、これは判る。だが、会って数分の相手を完全に信用などできない。

 

「……嘘臭いな……」

 

「え!?」

 

つい口に出してしまった本心に、眼に見えてレインが動揺する。緩めた警戒心を再びMAXにして、いつでも抜剣できるように身構える。

あくまで俺と争う気はないと主張するかのようにレインは両手をまた挙げたレインに対して、俺は「お前の目的はなんだ?」と訊いた。すると、ちょっと言い難そうに口をモゴモゴした。

 

「それは、その……」

 

「……?」

 

様子がおかしいのは確かだ。だが、何かを隠してる感じでもない。なら、なんだというのか。

 

「……エイト君は、覚えてない? 四十層でのこと……」

 

「四十層……?」

 

四十層、四十層…………コイツと何かあったか?

 

「覚えてない」

 

「そっか……」

 

落胆した表情を見せると同時に肩を落とし、少し暗い声で諦念が混じった声音で呟いた。

 

「……何かあったのか?」

 

「ん? うん、大したことじゃないんだけど、一度私エイト君に助けられたんだよ?」

 

「………………は?」

 

助けた? 誰を? あ、コイツを? 誰が? 俺が? え、マジで?

疑問符だらけの内心がなんとなく顔に出ないように努め、再び問う。

 

「すまん、全く覚えてない。会ったことあったか?」

 

四十層……食虫植物が闊歩する植物地獄は、攻略組もかなり苦しめられた。

高い木々が生い茂り、迷宮区タワーを眼で捉えることができず、道なき道を歩いた。更に植物型のMobがその木達に擬態していて、不意打ち強襲によって殺されたプレイヤー達は過去最多。とんだ鬼ゲーだ。あの層では索敵スキルを取得している奴が、ワンパーティー一人は居ないと攻略禁止と、さしもの《攻略の鬼》も言ったほどだ。まぁ、その分ボスが脆弱だったのだが……

あのボス戦で死にかけたのは一人、キリトだけだ。黒猫団の一件があってからの戦闘スタイルはまさに自暴自棄。防御も回避も最小限に、敵を滅多斬りだった。

そしてキリトのHPバーがイエローゾーンに突入するたび俺がタゲを取り、とばっちりを喰らったものだ。

俺がこんな何ヵ月前のことを覚えているのは、俺がとばっちりを喰らった時にアイツが見せた自責の念が余りに濃かったからだ。

クラインやアスナが無理矢理にでも回復させなければ、危険域の体力でもボスに飛びかかって行くのでは、と思うほどに。そしてそれは次の層でも、そのまた次の層でも続いた……。俺が四十層で覚えているのはこれくらいだ。

 

「うーん、五ヶ月くらい前、かな」

 

脳内検索用語に五ヶ月前と追加し、再検索。検索結果は……

 

「……あれか? まさかあの……ダンジョンの奥地の?」

 

四十層迷宮区タワーの更に北に位置する森のダンジョン……正式名称《暗闇の森》。そこは《迷いの森》に並んで脱け出せないことで今は有名なダンジョンだ。

今は、とわざわざ付けたのは、当時は五十層開放が出現のキーであった隠しダンジョンのため、知っている奴が少なかったのだ。

では、なぜ俺が攻略済みの層にいたのか……理由は単純、ただの偶然だ。

あの頃は《攻略の鬼》様の最高潮。傍若無人、天上天下唯我独尊、我田引水……はちょっと違うか。まぁとにかく、猪突猛進の副団長が無理矢理攻略に参加させようとしたので、自由奔放な僕が本当の鬼とバーチャルリアリティー鬼ごっこしているんだが。みたいな売れないラノベのタイトルみたいなことをしていたのだ。

俺がちょっとした用で四十層フィールドに居たとき、中層プレイヤー育成でもしていたのか血盟騎士団員を数名引き連れ、バッタリ遭遇。

そこからはお説教の嵐。なんでこんなところにいるんですか? 攻略は? やる気あるんですか? etcetc……

鬱憤が爆発した家出少女よろしく駆けて逃げ出すと追いかけてくる鬼。修羅。夜叉。ちなみにこれは全部アスナさんを指す言葉として有名なものでした。

そんな鬼をなんとか撒くためにダンジョンに入り込むと、そこが暗闇の森だった……というわけだ。

アイテムも装備も余力があるし、探索していくかとブラリ旅を開始し、Mobをバッタバッタと薙ぎ倒し、ダンジョン最奥でボス《ザ・ウィッププラント》――直訳で鞭の植物――に正に殺されかけていたプレイヤーを救出。高価な回廊結晶を使い、そのプレイヤーを主街区に転移させたのだ。

まさか、その時のプレイヤーが……

 

「……お前だったのか……」

 

「えへへ、そうなんだ〜」

 

頬を照れ臭そうに掻きながらはにかむ。え、でも、ねぇ? 人違いじゃないの?

 

「でね、ちゃんとお礼がしたいなーって思って、強くなろうとエクストラスキルを取ろうとしたんだけど、ソロじゃ厳しくって……助っ人を頼もうとアルゴさんに強いプレイヤーは誰? って訊いたら、あの日助けられたエイト君だったんだ」

 

「……つまり、物凄い確率で再会したってことでOK?」

 

「うん、OKOK」

 

右手の人指し指と親指で丸を作っているレインを見て、この日何回目かの脱力をした。

 

「……じゃあ話を戻すぞ? お前はエクストラスキルを取得できるようになるクエストに協力してほしい、と」

 

「うん」

 

「そしてそれは俺への恩返しのためだ、と?」

 

「うん」

 

再びの肯定。

 

「なら話は簡単だ。礼なんて要らんから、お前がスキルを取得する必要性はない」

 

「……え?」

 

いきなりの否定的な言葉に戸惑っているレインはさておき、俺は口を動かす。

 

「そもそもな、見返りが欲しくてやったわけじゃないんだ。よく言えばボランティア、無償の奉仕。悪く言えばただの自己満足だ。だからお前が気に病む必要まったくなし。よってエクストラスキルを取る必要も全く無し」

 

「でも、私がエクストラスキルを取るのを邪魔する権利はエイト君にはないよね」

 

小悪魔的な笑みを浮かべ、試すような口調だったので、俺もつい反論してしまった。

 

「……まあな。でも、俺が手伝う必要もないよな?」

 

「うっ、それはそうだけど……でも――」

 

「いや――」

 

当初の目的も忘れ、平行線の言い争いを日が落ちるくらいまで続けていると、モンスターが滅多にポップしないここで、珍しく出現したMobが襲いかかってくる。

するといち早くレインが動き出し、霞むほどの剣速で狼型Mobを一撃で葬る。その一撃の威力、精密さ、速さはマジで攻略組レベルかもしれない。

なんとなくドヤ顔がウザかったので、無視してクエストが請けられる小屋へと向かい歩き出すと、子犬のように着いてくる。横目でその様子をチラリと見やり、大きく溜め息を吐きながらパーティー申請をレインに送る。

後ろで喜んでいるレインの声を聞きながら、俺――いや、俺達は早足で日没までに目的地に着くべく、会話無く黙々と歩き続けた。




エイト LV90

ステータス割り振り。筋力1;敏捷9

装備
片手剣……ホロウ・ファントム・ワンハンドソード
頭防具……なし
体防具……ウィルブースター・コート
下防具……ウィルブースター・トラウザーズ
手防具……ウィルブースター・グローブ
首防具……スピーディー・ネックレス
指防具……なし

スキル
《片手直剣》、《索敵》、《隠蔽》、《体術》、《忍び足》、《自動回復》、《投剣》、《軽業》、《料理》、《武器防御》、《暗視》、《???》、スキルスロット空き数1

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