ダンジョン配信講座を田舎でやってたら、生徒のロリババァが配信でバズった 作:ファンダン
ダンジョンでの配信が流行り始めて数年、ダンジョン配信者のタレント会社なんてものも生まれ始めた今日このごろ。
俺、西東タツマはそんなタレント会社を退社して、田舎に戻ってきた。
入社した当初は、これこそ俺の天職だと思ったものだけど、流石に何年もあんな環境で働いていたら身が持たない。
エンタメ業界ってのはただでさえやりがい搾取が常態化している。
中でも、ダンジョン配信ってのは特にハードだ。
業界が始まってまだ数年だからノウハウがない。
ダンジョンという過酷な環境での労働であるため、危険も多い。
三徹した状態で、ダンジョンの中から帰還できなくなったタレントを回収してくれと言われた時は死ぬかと思ったね。
今どきダンジョン内で事故るとか、小学生でも早々ない。
仮にもプロなら勘弁してほしいんだが。
最悪死人が出たら、業界事態が炎上でトブんだぞ?
ちょっと愚痴が出てしまったが、ともかく俺は疲れてしまったのだ。
学生時代からダンジョン探索を続けてきて、プロにはなれなくともそこそこダンジョンには詳しいつもりである。
だからこそ、タレントを支えてダンジョンに関われる配信業界で生きていきたい。
そんな思いで流行し始めたばかりのダンジョン配信の世界に飛び込んだわけだが――しばらくはあの忙しさからは距離を置きたいな。
というわけで始めたのが、田舎でのダンジョン配信講座。
今どき、個人でもダンジョン配信を行うものが大勢いる時代。
興味はあるけど、配信ってどうやればいいかわからない……みたいなダンジョン探索者は多い。
特に田舎だと、昔からダンジョン探索でブイブイ言わせてきた老人とか結構いるからな。
そういう人が老後の楽しみとして配信に興味を持って、業界に新しい風を吹かすかもしれない。
なんて思ってやってみたら――
――生徒の一人のロリババァが、死ぬほどバズった。
いや、仮にも数百歳超えのご老人にロリババァというのは失礼極まりないんだが。
奴に関しては、ロリババァという他ない。
どういう話かって言えば……まぁこれは、具体的に見てもらったほうが早いだろう。
奴の配信を。
『みんな~、こんなのじゃ~。うっふ~ん、エルフの大滝ウメ子なのじゃ~。見てくれてありがとぉ~ん、なのじゃ~』
きっっっっっっつ…………
とにもかくにもきつかった。
見た目だけならうすほそなエルフが、セクシーポーズをしてウインク(できてない)をしながら画面に向かって投げキッスをしている。
無理しているようにしか見えない、すごい。
そしてこれは、俺が直接通話で音声を聞いているから聞こえているだけで、配信には一切乗っていない。
コメント上で「きこえてないぞー」「きっっっつ(幻聴)」などのコメントが流れている。
目ざとく気付いたウメ子さんは、早速俺にアドバイスを求めてきた。
『タツマァ、どうなってるんじゃぁ。声が乗ってないんじゃけど~』
「配信開始前に、一旦音声ミュートにしただろ。それを戻してないんだよ。あとタツマじゃなくて助っ人ね。本名で呼ばないでね」
『むぅ、仕方ないのう。……お、これか。あーあー、聞こえるかのぉ?』
コメント欄から「聞こえている」という反応が帰ってきて、俺もウメ子さんも一安心。
配信は、早速開始された。
――大滝ウメ子。
御年後百歳を超えるロリババァエルフ。
まぁエルフとしてはまだまだ若い部類に入るんだが、本人の感性と雰囲気はすっかりご老人だ。
エルフや妖怪といった人外が、人間種との交配が進み数を減らし、一般的には獣人系以外の種族があまり知られなくなった現代。
本物のエルフというのが物珍しく、ウメ子さんはえらくバズった。
加えて言うと――
『そーら、こんなもんかのう!』
ウメ子さんは滅茶苦茶強かった。
五百年も生きているんだから、そりゃ強いのは当たり前だけど。
そんな強い探索者が、今まで一般に知られていなかったというのがリスナーの興味を誘ったのだ。
以前、ダンジョンオリンピックにて持ち込み装備なしでメダルを獲得したイケオジが、「無課金おじさん」として話題になったように。
人っていうのには新しいものに飛びつくもので、それは古いんだけど知られていなくて、結果的に新しくなったものでも変わらない。
『うわあああああ! キモい!? デカイクモ型魔物はきもいんじゃけど!? 勘弁してほしいのじゃあああ!』
ただまぁ、それだけだとすぐに飽きられてしまうのが、いまの消費社会。
ウメ子さんがバズってからかれこれ一ヶ月、完全にリスナーが定着したのは本人のキャラクター性によるものが大きい。
雰囲気や挙動は完全にお婆ちゃんなのに、時折言動が割と現代っぽくなる。
キモいとか、ウメ子さんでなきゃ言わないだろう。
ひがな一日スマホを見ながらだらだらしているウメ子さんだからこそ、ある程度現代の感性に迎合できるのだ。
加えて。
『ぎゃああ! 糸で簀巻きにされたのじゃー! 勘弁してたもー! 勘弁してたもー!』
そんなロリババァエルフが、クモ糸で簀巻きにされてびったんびったんのたうち回っていたら、そりゃ面白いだろう。
なんとなく画面の向こうのクモも、呆れているように見えるのは気のせいだろうか。
『助けてほしいのじゃー! クモは本当にダメなのじゃー! キモいのじゃーーー!』
で、その状態でクモがとどめを刺そうと足を振り下ろしても、びったんと跳ねながら回避して見せる。
あまりにも身体能力が高い。
が、それはそれとして本当にクモがダメらしく、反撃に移れていない。
ウメ子さんの戦い方は徒手空拳だ。
倒そうと思うと、クモに触れてしまう。
それがまずいのだろう。
これは……うん、俺が助けに行ったほうが良さそうだなぁ。
「今から助けに行くから、ちょっとそのまま回避しててくれ」
『む! 助っ人ぉ、助っ人が助けにきてくれるそうなのじゃ! ありがとうなのじゃー!』
俺は椅子から立ち上がって、近くに立てかけてあった大きめの剣を手に取る。
現在俺がいるのは、
一番上の階層は魔物がほとんどでないから、配信を見ながらなにか会った時に駆けつけるための場所としてはとても都合がいい。
現代では、ほとんどのダンジョン第一階層は完全に制圧され、探索者の支援拠点となっている。
今俺達がいるのは、田舎の誰も足を運ばないような秘境系ダンジョンだから、いるのは俺だけだけど。
で、コメント欄は「助っ人さんだ!」「助っ人さんキター!」とか盛り上がっている。
俺は現在、ウメ子さんの配信サポートをしていた。
時折ウメ子さんが助っ人と呼んで俺に助けを求めるものだから、俺はすっかりウメ子さんの協力者としてファンに認識されているのだ。
タレント会社時代を思い出すな……
「よし、行くぞ」
『のじゃー! のじゃー!』
通信用のインカムだけを身に着けて、他のパソコンやら椅子やらは格納。
その後、パーティ登録をしている相手のところまで転移できる魔法具を使用。
水晶型のそれを地面にたたきつけて割ると、魔法陣が展開されて俺はウメ子さんの元まで転移した。
「ウメ子さん!」
「助けてほしいのじゃー!!」
びったんびったん、大泣きしながら跳ね回るウメ子さん。
それを撮影するドローン型カメラ。
コメントもそれから確認できるが、流石に遠くてよく見えないな。
多分「助っ人さん来た!」と「お婆ちゃん逃げてー!」で埋まってるんだろうが。
とりあえず、クモの方だ。
俺はさっそく剣を構えると、勢いよく踏み込んでクモに剣を叩きつける。
ウメ子さんを追いかけるのに集中しすぎて、俺の対応をおろそかにしたクモは、一刀両断でずんばらりされた。
流石に、本格的なダンジョン探索から離れて久しいとはいえ、この程度の魔物に遅れを取ることはない。
「よし、終わったぞウメ子さん」
「助かったのじゃー! 糸の方もなんとかしてほしいのじゃー!」
「そっちは自分で何とかできるだろ……ああもう、切られてもしらないからな!」
「のじゃー!」
で、地面にぶっ倒れた簀巻きウメ子さんに剣を入れていく。
どう考えても自力でぶち破ったほうがいいと思うんだが、まぁここは俺が切ったほうが撮れ高だな。
「ああー! そこは! そこはまずいのじゃ! 切られちゃうのじゃー!」
「だから言っただろ!」
あ、コメント欄が「草」で埋め尽くされている。
何にしても、ウメ子さんは無事救出された。
その時――
「助かったのじゃぁ! ありがとうなのじゃタツマー!」
あっ。
ウメ子さんが盛大に俺の名前を口にした。
すぐに気付いたのだろう、ウメ子さんも顔を真っ青にしてこっちを見ている。
コメント欄も「あっ」で埋め尽くされていた。
まぁ、これまで何度も「タ」とか「タツ」とかいいかけてきたからな。
時間の問題だというのは、俺とリスナーの共通認識。
一ヶ月、まぁ十分持ったほうだと思う。
というか、名前だけじゃ流石に俺の身元を特定することは難しいだろう。
学生時代のダンジョン探索でも、そこまで名を残していないから。
ただまぁ、それはあくまで一般人の話。
――俺を知っている人間が、これを知ったら。
はたして、どう思うかなぁ。
なんて。
今後のことに、俺は思いを馳せてしまうのだった。