妹がVTuber……らしい。それどころじゃない 作:ズッカーニ
「Ggggg…!」
夜の帳を裂き、暗闇の裏路地を駆ける奇妙な影。
「Oooooo!!」
二足で地を蹴り、大地を駆けるその姿は、ある意味ではヒトに似ているといえるだろう。
…だがやはり、その姿は人のそれからは逸脱している。
化け物、怪物、あるいは…怪人。そう呼ぶに相応しいほどに。
昼間の大通りならば騒ぎとなることが確実であろう風貌。
しかし今この場所は夜闇の裏路地だ。当然、目撃者などいよう筈がない。
いかにも犯罪者が好みそうなシチュエーションだが…実は
「逃がすか」
「おらァッ!!」
力の入った雄叫びと共に、放たれる強烈な蹴り技。
繰り出された重い一撃が、怪物の胸部を深く沈ませ――貫く。
「――――――――っ!!!!!????」
声にならない絶叫をあげる怪物。
確かな感触、足裏に感じる手応え。
致命の一撃を放ちし下手人は、黒猫のごときその仮面の下で笑みを浮かべた。
「
突然の宣言。
直後、蹴り上げた怪物目掛けて飛び上がる黒猫。
対する怪物。黒猫に穿たれた大穴のせいか、抵抗すらできずに自由落下。
「ほいっと」
無抵抗の大穴へ黒猫の腕が差し込まれ、瞬時に目的とするものが取り出される。
「三つ」
黒猫の言葉の通りか、あるいは偶然か…それは卵だった。
勝ち取ったその戦利品を、絶妙な力加減で握り締め、音も無く着地する黒猫。
ゆるりと立ち上がり、振り返ることなく帰路につく。
「本日も、お勤め完了ってな」
腰に身につけたベルトから、また異なる種類の卵を取り外し、上着の内ポケットへと放り込む。
ゲットした戦利品は…まぁ、いつも通りズボンのポケットでいっか。
力の源を絶たれたからか、光に溶けるかのように、どこにでもいそうな青年の姿へと戻る黒猫。
――歩き去る彼の背後にて、一体の怪物がその命を散らした。
抜き足差し足忍び足で2階へとよじ登り、きちんと靴脱いでから窓を開ける。
もちろんここも音は立てないよう慎重に。バレたら一環の終わりだからな。
部屋に入れたらもう安心。……ということもない。
色々あるけど、第一に今手に持ってる靴どうにかしないといけないからな。
クローゼットを開け、隅に作った専用の隠しスペースにベルト一式もまとめて突っ込む。
戦利品はこっそり拝借した卵のパックに。
ここなら母さんが掃除機かけに来たってバレないという寸法だ。
「はぁ」
ぶっちゃけ、一人暮らしならこんな気を遣う必要もないんだけどなぁ。
でも、そんな贅沢できるほど金に余裕があるわけでもないし。
単なる大学生。オマケに事情が事情でバイトも難しいとなっちゃあ、実家で親のスネ齧るしか選択肢もないわけよ…
バイトしないの?って母さんたちにせっつかれるのもなかなか心に来るもんだが…一番は妹の真白。
「お金ないんでしょ?はいこれって渡されたら、もう尊厳も何もねぇよ…」
当然お断りしましたけどね???涙を飲んで、鼻水も飲んで!
それこそエ〇エックスでほんのちょびっとでも儲けてなかったら迷わず飛びついてたところだ。威厳ぇぇ…
かぁーっ人生キツイなぁッ…!!!
これ俺中身大人じゃなかったら心折れてるぞ!?ぺっきりってな!
「……はぁぁ」
沸き立つ悲しい怒りを、深いため息と共に流し出す。
そうだな…そうだよな。どうせ、嘆いたって変わらないんだ。
母さん、父さん、真白。
俺の大切な家族たち。
みんなを守る。そう決めただろ、
決意を新たなに風呂場へ向かい、パパっと服脱ぎシャワーを浴びる。
「つめたっ」
翌朝。
少し遅めの起床をした青年。
枕元の時計をぼうっと見つめ、なにかを考え込んでいる。
「今日休みだっけ」
凄くくだらないことだった。
いや学生というご身分の俺からすれば結構、いやかなり大事なことだからな?
しかも俺、謎に不可思議狩りっていう二足目の草鞋も履かされてるしな。
脱ごうと思えばいつでも脱げるくせにって?…それはそう。
いや脱がねぇからな???
そんな一人芝居を他所に、階段降りて洗面所で顔を洗う。
適当にうがいもして、ドア開けてリビングに入った。
「おはよ」
「おはよう。今日も遅かったわね」
「休みだからね、しょうがないね。」
本音は寝不足と筋肉痛です。
「全く、またそんなこと言って…そんなんじゃ休み明けがしんどくなるわよ?」
休み以前にもう既にしんどいっす。
母さんと軽口叩き合いつつ、母お手製朝食をペロリと平らげる。
「ごちそうさま。美味かったよ」
しっかり皿まで洗って、お礼を言ってからリビングを出る。――否、出ようとした。
「あぁちょっとまって」
なんか呼び止められたすけど。
「うん?」
まだなんかあんのかね。
「そういえば、なんだけど…真白のチャンネル、登録したかしら?」
………。あー。
「…いや、まだ」
「えっ本当にまだだったの!?やっとくってこの間言ってたわよね?」
確かに言ったけどさぁ…今それどころじゃないんよなぁ。
「ま、そのうちやっとくよ」
いつになるかは、わからんけどさ。
「本当かしら…」
疑わしそうな声だなぁ。
まぁ、登録以前にまず名前すら知らんってのが俺クオリティだし、そこら辺の信頼はゼロどころかマイナス振り切ってても無理ないか。
……いや改めて思うと俺とんでもないクソ兄貴だな。自覚してるけど。
けど、ねぇ?
ぶっちゃけ最悪そこは信用してもらえなくてもいいのよな。
なにせ、俺にとって重要なことは、たったひとつだけ。
家族の平和を守る。
きっと、俺がこうして生まれてきた意味も、手に入れたあの力だって、そのためのものなんだろうから。
「なぁなぁ蓮」
「ん?」
「お前、見たよな?今日こそ見たんだよな!?」
「見たって…何をだよ」
「はっ!?おま…また見てねぇのかよ!?ミィアちゃんの配信だよ!」
あぁ、またそれかよ。
「何度も言ってるだろ。俺配信とか見てられねぇタチなんだよ」
動画ならいけるんだけどな。
…いやそれでも1時間以上はキツイよなぁ。
集中もたねぇし、何より飽きる。
だから俺に配信は無理なんだって、こいつには何回も説明してるんだけど…一向に諦めないんだよな。
「ミィアちゃんまじ可愛いんだって!1回見たらぜってぇハマるから!!
だから見ろ!ほら今すぐ見ろ!!」
「うるせぇな。スマホ近づけてくんなって」
頬当たっていてぇんだよ。
グリグリ押し付けられるスマホの画面には、白い髪をした猫の獣人のようなキャラクターが映し出されていた。
なんだっけ、か。興味なさすぎて殆どわからん。
でもあまりにもしつこく布教してくるもんだから、名前と簡単な概要くらいは記憶している。
今をときめく大人気VTuber事務所、ネクステップの2期生であり、同期の中ではトップクラスの人気を誇る稼ぎ頭のひとり。
…で、あってたよな。
仮面ライダーマイス!!めっちゃ楽しみです!
今気づいたんですけど、サブタイトルもなんかおかしなことに…