10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
東京ドーム。
地鳴りのような歓声が、極彩色のレーザービームが飛び交う巨大な空間を揺らしている。
ステージの袖、私たちは出番を待っていた。
きらびやかな衣装に身を包んだルビーとMEMちょが、緊張と興奮の混ざった顔で互いの手を握りしめている。
「ロリ先輩、ついに、ついにここまで来たね……!」
ルビーが潤んだ目で私を見つめてくる。その瞳には、あの過酷な『復讐』の黒い星なんて、欠片も宿っていない。
ただひたすらに、純粋な光だけを湛えた本物のトップアイドルの瞳だ。
「当たり前でしょ。あんたたちがここで輝くために、私は今日まで走ってきたんだから」
私は二人の背中を、一本の迷いもない力強さでパチンと叩いた。
「行くわよ。星野アイが夢見たステージの、その先へ!」
ステージに飛び出した瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。
次の瞬間、目に飛び込んできたのは、ドームの天井までを埋め尽くす何万本ものサイリウムの海。
赤、黄色、そして、会場を優しく染め上げる圧倒的な『白色』。
イントロが鳴り響き、私たちの歌声がドームに響き渡る。
踊りながら、私は客席の最前列、関係者席の特等席にいる『あいつ』の姿を見つけた。星野アクア。
1周目のあいつは、いつも死人のような目で、復讐のためだけに世界を睨みつけていた。
だけど今のあいつは違う。
フードも被らず、堂々と顔を上げ、まるで子供のように純粋な目で、ステージの上の私たちを見つめている。
その右手には、私のイメージカラーである白いペンライトが、少し照れくさそうに、けれど誰よりも力強く振られていた。
(――見届けてくれた? カラスのガキ)
心の中で、あの夜に出会った不気味な少女に問いかける。これが、私の欲しかった未来だ。
誰も死なない。誰も傷つかない。
天才たちがその才能のままに輝き、凡人の私が執念だけで手繰り寄せた、完璧なハッピーエンド。
曲のラスト、私はアクアの真っ直ぐな視線を真正面から受け止め、カメラに向かって、1周目の私では絶対にできなかった生涯最高の笑顔を見せた。
――アンタの推しの子になってやる。
その誓いは、もう復讐を止めるための嘘じゃない。
これからの長い未来、ずっとあいつの隣で笑い続けるための、本物の約束だ。
ステージが終わり、割れんばかりのアンコールの歓声を背に受けて幕が下りる。
舞台袖に引っ込んだ瞬間、ルビーとMEMちょが泣きながら私に抱きついてきた。
「ロリ先輩! 最高、最高だったよお……っ!」
「かなちゃん、私、アイドルになって本当に本当によかった……!」
「はいはい、泣かないの。化粧が落ちるでしょ」
そう言いながら、私の目からもボロボロと温かい涙が溢れていた。
そんな私たちの元へ、関係者通路からゆっくりと歩いてくる人影があった。
「最高のステージだったよ、有馬」
アクアが、白いペンライトを持ったまま、呆れるくらい優しい顔で笑っていた。
「私の勝ちね、アクア」
涙を指で拭いながら、私は1周目のあいつには一度も言えなかった我が儘を、二度目の人生の特権として口にした。「これからは、あんたが一生かけて、私のファンとして私を支え続けなさい。……いいわね?」
アクアは少しだけ驚いたように目を見開いたあと、フッと、心の底から愛おしそうに微笑んで、私の小さな手をきゅっと握りしめた。
「ああ。喜んで、その義務を全うさせてもらうよ」
差し込む舞台裏の光のなかで、二つの影が静かに重なる。私の命がけの2周目の役者人生は、これ以上ない最高のカーテンコールで幕を閉じた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
有馬かな主人公の逆行・救済ifストーリー、これにて【全10話・完結】となります。
「推しの子で2周目モノが書きたい!」と思い立って書き始めた今作ですが、自分でも驚くほどの熱量で一気に最後まで書ききることができました。原作の最終盤の展開が切なかったからこそ、「もし1周目の最悪の結末を知っている有馬かなが、子役時代からガチの仕込みをしていたら?」という妄想をこれでもかと詰め込みました。
ラストステージで、アクアが白いサイリウムを振って心から笑っている未来を手繰り寄せられたのは、10年間泥をすすりながら足掻き続けた重曹ちゃん自身の、意地と執念の完全勝利です!途中で時系列がごちゃ混ぜになってMEMちょがワープしそうになるハプニングもありましたが笑
温かく見守ってくださった読者の皆様のアドバイスや応援のおかげで、矛盾のない綺麗な10話に仕上げることができました。本当に感謝しています。これから多くの人にこの「重曹ちゃん大勝利ルート」を見つけてもらえたら嬉しいです。もしよろしければ、
「このシーンのここが熱かった!」など、一言でも感想をいただけると、次の作品へのモチベーションになります!
初心者が書いていて拙い文章も多い中、改めてここまでのお付き合い、本当にありがとうございました!