10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない   作:M1tarash1

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一応ストーリーとして完結はしていますが書き続けたいのでここからは後日談のようなものです。


すれ違う亡霊、書き換わるシナリオ
11.アクアの幸せ


東京ドーム公演の成功から、2週間が経った。

新生B小町は一躍トップアイドルの仲間入りを果たし、私はそれまで以上に目まぐるしい毎日に追われていた。

だけど、私の頭の中の何割かは、あのドームのステージ裏での出来事に支配されたままだ。

『付き合うのは時間の問題だろ。俺のファンとしての義務期間は、一生分残ってるんだからな』

あの日、私の手を握ってそう言った星野アクアは、有言実行とばかりに私の周囲に現れるようになっていた。

前のあいつのような、復讐のための不気味な監視じゃない。

ただ純粋に、一人の男として、真っ直ぐに私を甘やかそうとしてくるのだ。

「……なによ、その顔」

ある日の夜、苺プロの事務所。他のメンバーが帰った静かな部屋で、デスクワークをしていたアクアが私を見てフッと笑った。

「いや。お前、さっきから台本を持つ手が止まってる。また俺のことを考えていたんじゃないかと思ってな」「だ、誰がアンタのことなんか! 私は次のドラマのセリフを頭の中で整理してたの!」

2周目で慣れているはずなのに、アクアを前にすると、途端に子供のような安い嘘しか出てこなくなる。

顔がカッと熱くなるのが自分でも分かった。

アクアはペンを置き、ソファーに座る私の隣へと歩み寄ってきた。

開いた距離を詰めるように、当然の顔をして隣に腰を下ろす。近すぎる距離に、私の心臓がトクトクと警報を鳴らし始めた。

「有馬。俺はこれまで、復讐のことしか頭になかった。誰かを好きになるとか、誰かと未来を歩むなんて、自分には許されないことだと思ってた」

アクアの瞳が、窓の外の夜景を反射して静かに揺れる。1周目のあいつの目にあったドス黒い闇は、もうどこにもない。

「でも、お前がその未来を力ずくで変えてくれた。カミキは逮捕され、ルビーも笑っている。……だから、そろそろ俺も、自分の幸せについてちゃんと考えてもいい頃だと思ってな」

「アクア……」

「俺にとっての幸せは、お前の隣にいることだ。だから、今度のオフ、俺と二人で出かけないか。仕事でも、ルビーの付き添いでもない。……ただの、デートだ」

あいつの大きな手が、私の小さな手をそっと包み込む。その温かさに、胸が締め付けられるように愛おしくなった。

 

……けれど、私はその手を、意思を込めてそっと引き抜いた。

 

「……今は、ダメよ」

 

「有馬?」

 

アクアが意外そうに眉をひそめる。

私は立ち上がり、あいつに背を向けて、自分のブレザーの裾をぎゅっと握りしめた。

「私、今アイドルなのよ? B小町はドームを成功させて、これからもっともっと上に行く。ルビーやMEMちょの足を引っ張るような中途半端なスキャンダルなんて、私は絶対に許さない。ファンを裏切るような真似もね」

1周目でも、私はアイドルとしてのプロ意識から、アクアへの恋心をずっと心の奥底に押し込めていた。

2周目の今だって、私の役者として、アイドルとしてのプライドは変わらない。

私は振り返り、アクアの目を真っ直ぐに見据えた。

「有馬かなが、誰かの特別になる時はね。……この衣装を脱いで、B小町を完全に引退する時よ。すべての人に筋を通して、一人の女の子に戻ってからじゃないと、私はアンタの隣には並ばない」

私の強い決意を前に、アクアは数秒間呆然としたあと、すぐにフッと、降参したように目元を和らげて苦笑した。「……そうか。お前はそういう奴だったな」

「だから…私を推すなら今のうちよ」

アクアはソファーから立ち上がり、私の前に歩み寄ると、私の頭を少し乱暴に、けれど最高に愛おしそうに撫で回した。

「分かった。お前がその最高のプライドを持ってアイドルをやりきるまで、俺は一番近くで待ち続ける。……俺を、世界一贅沢なお前のファンにしてくれ」

あいつの言葉に、今度こそ私の胸は、甘い高鳴りで一杯になった。

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