10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
カミキヒカルの逮捕という衝撃的なニュースは、芸能界だけでなく日本中を震撼させた。
だが、世間がどれだけ騒ごうとも、私とアクアの間の空気は、驚くほど穏やかで、そして確実に『特別』なものへと変わり始めていた。すべてに筋を通してB小町を引退し、役者一本で生きていくと決めた私。
そんな私を「一生をかけて支える」と誓い、ついに恋人として隣に並ぶことになったアクア。
私たちは、ようやく手に入れた「ただの男女」としての幸せな時間を噛み締めていた。
だが――1周目のすべての悲劇を知っている私の脳裏には、まだ消えていない『最後の火種』が残っていた。
「……新野冬子」
苺プロの事務所のソファーで、私は手元の資料を見つめながら呟いた。
カミキヒカルが手を下した一連の事件の裏には、いつもあの女の影があった。
旧B小町のメンバーであり、星野アイへの歪んだ羨望と憎悪を抱え、カミキの熱狂的な信者として動いていた狂信者。カミキが冷たい檻の中にぶち込まれた今、あの女が大人しく引き下がるとは到底思えなかった。
「やっぱり、お前もそこを懸念していたか、有馬」
資料を覗き込むようにして、アクアが私の隣に腰を下ろした。その表情は、かつての復讐鬼のそれではない。
大切なものを守るための、冷徹で、けれど確かな光を宿した『役者』の目だ。
「俺の調べでも、カミキの神木プロダクションの残務処理の裏で、新野冬子が不審な動きを見せている。カミキをハメた『裏切り者』を探しているらしい。……ターゲットは、警察に極秘資料を流せる立場にあった、芸能界の人脈を持つ人間だ」
「つまり、私ね」
私はフッと自嘲気味に笑った。怖くはなかった。
私が10年間泥をすすって集めたカードだ。
狂信者一人の悪あがきに、今更遅れを取るつもりはない。
何より、今の私の隣には、世界で一番頼もしい男がいる。
「新野冬子はアイの過去の亡霊だ。カミキが逮捕されて、あいつの信仰は完全に狂いかけてる。何をしてくるか分からない」
アクアは私の手をしっかりと握りしめた。
「だけど、今度は一人で背負い込むなよ。お前が俺を救ってくれたみたいに、今度は俺が、お前の盾になる。……これから先、お前と結婚して、本当の家族になるその日まで、俺はお前を何があっても守り抜く」
「っ……け、結婚だなんて、気が早すぎるわよバカ!」
付き合いたての初々しさのなかで、突然飛び出した「結婚」という言葉に、私は10秒で顔を真っ赤にした。
だけど、アクアの目はどこまでも本気だった。
カミキの公判、そしてニノとの15年目の決着。
私たちは手を取り合い、本当の『家族』という最高のゴールへ向かって、新たな一歩を踏み出す。