10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない   作:M1tarash1

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番外編02.キャッチボール

カミキの逮捕、そしてニノの不穏な影。

不穏な未来の火種はまだ残っているけれど、今日ばかりはそれらをすべて頭の隅に追いやることにした。

なぜなら今日は、アクアと付き合ってから初めての、本当の『デート』の日だからだ。

「……で、なんでデートの行き先が、こんな寂れた河川敷の広場なわけ?」

私は手にした小ぶりな革のグローブをパタパタさせながら、隣を歩くアクアに目を向けた。

ワンピースにキャスケット帽という、私なりのデート服に対して、あいつの手にはしっかりとした野球グローブと白球が握られている。

「お前が前に言ったんだろ。本当に暇な時があったら、いつでもキャッチボールくらい付き合ってやるって」

「それは高校に入ったばかりの時の話でしょ! バカアクア!」

ぷんすかと怒ってみせるけれど、あいつが私の何気ない一言をずっと覚えていてくれたことが、本当は嬉しくてたまらない。

「ほら、行くぞ」

アクアはそう言って、少し離れた位置まで歩いていくと、綺麗なフォームでふわりとボールを投げてきた。

すとん、と小気味いい音がグローブに収まる。

「アンタ、進路どうするの? アタマ良いんだから、良い大学行けるでしょ。また役者やる気はないわけ?」

ボールを投げ返しながら、私は1周目と同じ質問をあえて口にしてみた。

1周目の時は、あいつは「一応、医大を受けるつもりだ」と言った。

アイを救えなかった後悔から、心臓外科医を目指すのだと。

けれど今のあいつは、私の先回りによって、アイの死も、すべて乗り越えている。

だからこそ、あいつが今、自分の本当の意志でどんな未来を描いているのかを知りたかった。

アクアは私の投げたボールをパシッと受け止めると、少しだけ空を見上げ、それから真っ直ぐに私を見た。

「……医大を受けるつもりだ」

「医大!?」

「ああ。医者になる。……心臓外科医に、なるのが俺の夢なんだ」

あいつの口から出た言葉は、1周目と同じだった。だけど、その瞳に宿る光は、あの頃のような悲壮な義務感じゃない。

「長い長い…夢」

誰かを救いたいという、一人の人間としての、純粋で前を向いた「夢」の輝きだった。

「良い! 良いわよ、アクア! 向いてると思う!」

私はグローブを大きく振って、心の底からの笑顔をあいつに弾けさせた。

「助けたがりのアンタにはピッタリよ、絶対に良いお医者さんになれるわ!」

「……そうか。そう思うか」

アクアはふいっと顔を背け、グローブを口元に当てて俯いてしまった。

耳の裏が、ほんのりと赤くなっている。

「あー! 珍し! 照れてやんの! 照れてやんのー!」

「……うるさい。お前はどうなんだよ、有馬」

あいつは照れ隠しにボールを少し強めに投げ返してきながら、今度は私に問いかけてきた。

「B小町を引退して、役者一本に絞るんだろ。お前の夢はなんだ? やっぱり、国民的女優とかか?」

アクアの問いに、私は胸を張って、今度こそ嘘偽りのない、二度目の人生の本当の夢を叫んだ。

「当たり前じゃない! アンタが最高のお医者さんになるなら、私は世界一の女優になってやるわよ! ……それで、アンタを、私が独占してあげるんだから!」

「っ――」

私の直球すぎる宣言に、アクアは今度こそ完全に言葉を失い、顔を真っ赤にして固まった。

そんなあいつの不器用な姿を見て、私は河川敷に響き渡るような、最高の笑い声をあげた。

ただの男女として、私たちは今、本当の未来を歩き始めている。

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