10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
アクアと「結婚して本当の家族になる」という約束を交わした、その数日後。
残されていた最後の火種は、あまりにも唐突に、けれど必然のタイミングで私の目の前に現れた。
仕事終わり、すっかり夜の静寂に包まれたテレビ局の地下駐車場。車に乗り込もうとした私の背後から、コツ、コツと、不気味なほど正確な足音が響く。
「……有馬かな、だよね」
低く、けれどどこか異様な熱を孕んだ女の声。
振り返ると、そこに立っていたのは、フードを深く被り、狂気でギラギラとした瞳をこちらに向ける女――旧B小町のメンバーであり、カミキの狂信者、新野冬子だった。
「アンタ……元B小町の新野冬子ね。何の用よ」
私は逃げずに、大人の精神と1周目の知識を持って、その女を真っ正面から睨みつけた。
「カミキさんが捕まった。警察にあの完璧な物証を流したのは、芸能界の人脈を駆使して裏で10年も動いていた、あんただって突き止めたよ」
新野冬子はコートのポケットに手を突っ込んだまま、ジリジリと距離を詰めてくる。
そのポケットの形が、尖った『刃物』の形に不自然に突き出ていた。1周目でアイの命を奪ったストーカーに、カミキの情報を流して裏で糸を引いていたのは、目の前のこの女だ。
「カミキさんをハメて、アイの復讐を果たしたつもり? 滑稽だね、有馬かな。アイを一番愛していたのは私だし、あの人はただ、アイの輝きを永遠にするために――」
「バカ言わないで、新野冬子」
私は彼女の言葉を、容赦のない冷徹な声でピシャリと叩き折った。
「アンタがアイを一番愛してた? 笑わせないでよ。アンタはただ、自分にないアイの天才的な才能に嫉妬して、狂って、それを認めたくないからカミキの『人殺しの思想』に依存しただけの、ただの哀れな敗者よ。アイはアンタのこと、最後まで愛そうとしてたのにね」
「――っ、あんたに何が分かるのよ……!」
激昂してポケットからナイフを抜き、私に飛びかかろうとする新野冬子。
だが、その瞬間。
「動くな、新野冬子」
暗闇から弾かれたように飛び出してきた影が、あいつの細い手首をガシッと掴み、そのまま壁際へと激しくねじ伏せた。星野アクアだ。俺がお前の盾になると誓ったあいつは、私のマークだけでなく、新野冬子の動向を最初から完璧に先読みして、私のすぐ近くに潜んでいたのだ。
「がっ……、離しなさい、星野アイの子供……っ!」
「大人しくしろ。テレビ局の警備員と警察は、もう有馬が裏から手配して手筈通りに呼んである。殺人教唆の証拠は、俺たちが全部持ってるんだよ」
アクアの冷徹な声が、駐車場のコンクリートに冷たく響く。
パトカーのサイレンの音が、遠くからこちらに向かって近づいてくるのが聞こえた。
「カミキヒカルの事件は、あいつ一人の罪じゃない。アンタという狂信者がいて、初めて完成した悲劇よ。……その15年目の亡霊の呪い、今ここで、俺たちが完全に終わらせてやる」
アクアの言葉に重なるように、警察官たちが一斉に駐車場へと突入してくる。
新野冬子はガタガタと震え出し、ついにその場に崩れ落ちて咽び泣いた。
カミキに続き、新野冬子も逮捕へ。
1周目のすべての悲劇の根源が、私たちの知略と覚悟によって、今度こそ完全に粉砕された瞬間だった。