10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
あの映画の撮影の後、星野アクアは芸能界から姿を消した。
1周目と同じだ。母親である星野アイが亡くなり、あいつが裏で「復讐」のために動き始めた証拠だった。
(私は、天才じゃない)
アイのような、見る者すべてを狂わせる絶対的な才能はない。
アクアのような、復讐のためにすべてを投げ打てる異常な執念も、探偵並みの頭脳もない。
だけど、私にはあいつらが持っていない最強の武器がある。
これから何が起こるかを知っている、10年分の未来の知識だ。
「有馬かなちゃん、今日もレッスン頑張りましょ」
「はい、よろしくお願いします!」
子役としてのピークが過ぎ、仕事が激減していくなか、私は腐るどころか猛烈な勢いで自分を鍛え直した。
1周目では周囲の才能に嫉妬して、自分の殻に閉じこもって、使いやすい「都合のいい子役」に甘んじていたけれど、今回は違う。
どんな現場でも完璧に求められた役をこなせるよう、演技の基礎を徹底的に叩き込んだ。
それだけじゃない。私がこの10年間で本当に仕込んできたのは、『大人の人脈』だ。普通の子供なら、仕事が減ればそのまま忘れ去られる。
だけど私は大人の精神を持っている。現場の監督、プロデューサー、テレビ局のスタッフ……。
挨拶回りを徹底し、生意気だった態度を改め、「使いやすくて、気が利いて、確実に数字を残す、将来有望な若手役者」としてのポジションを、地道に、泥臭く築き上げていった。
すべては、あいつが再び芸能界に現れた時、私が『使える大人のカード』をたくさん持っている状態にするため。アクアが一人で危険な闇に飛び込もうとした時、テレビ局や芸能界の力を使って、強引にその手を引っ張り戻せるだけの基盤を作るためだ。
さらに、私はもう一つの仕込みを行っていた。
(カミキヒカル。……アンタのことは、全部調べてあるのよ)
さすがに子供の体で直接動くのは無理だったけれど、1周目の知識から、奴が関わっている劇団ララライの動向や、過去の不審な事件のタイムラインはすべて頭に入っている。
私が築いた大人のツテをたどって、奴の周囲の噂や、表に出ない不穏な情報を、10年かけて少しずつ「合法的な記録」として手元に集めておいた。
あいつに、殺人なんてさせない。
大人の男のドロドロした復讐なんて、本物の大人の手に委ねて、あいつには普通の男の子として生きて、笑ってもらう。そのための準備は、この10年で完璧に整えた。
桜の舞い散る、陽東高校の入学式。制服に身を包んだ私の前に、ついにその姿が現れた。
少し背が伸びて、1周目と同じように、どこか世の中を諦めたような冷めた目をした少年。
私の10年間の執念の対象。
「……あ。アンタ…昔共演した…星野アクア?」
私の姿を見て、アクアがわずかに目を見開く。
「有馬…かな」
私は10年分の想いを最高の笑顔に隠して、腰に手を当てて不敵に笑ってみせた。
「あら、奇遇ね。私のこと、ちゃんと覚えてたんだ?」
さあ、役者は揃った。
私の、あんたの運命をひっくり返す2周目の本番が、ここから始まる。