10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
「――あった。……俺の番号、あるな」
パソコンの画面に表示された、合格者の受験番号一覧。その中に自分の番号を見つけ、アクアが静かに呟いた。
「――っ、お兄ちゃん!!」
次の瞬間、リビングに響き渡るような大音量で叫んだのはルビーだった。
勢いよくアクアの首に飛びつき、まるで自分が合格したかのように大粒の涙をボロボロと流し始める。
「良かったぁぁぁ! お兄ちゃん本当に良かったねぇ! 毎日毎日、夜中まで机に向かって死にそうな顔して勉強してたの、私ずっと見てたんだからぁ!」
「おいルビー、苦しい。泣くなら俺の服じゃなくてMEMの服で拭け」
「ちょっとアクたん!? 私のこの服、今日のために新調したお高めの私服なんだけど!?」
ソファーの上でカメラを構えていたMEMちょが、大慌てでルビーを引き離す。
そんな騒がしい星野家のリビングの特等席で、私は役者仕事の資料を膝に置いたまま、込み上げてくる涙を必死に堪えて、フイッと窓の外を向いた。
(……本当に、受かっちゃったんだ。あの難関医大に)
1周目のあいつは、いつ死んでもいいような暗い目をしながら勉強していた。
だけど、2周目の今。あいつは自分の意志で、目の前の命を救う『心臓外科医』になるために、自分の力でその未来への切符を勝ち取ったのだ。
私が2周目の10年間を全て捧げて手に入れたかった未来のピースが、また一つ、完璧にカチッとはまった音がした。「有馬」
いつの間にかルビーたちの包囲網を抜け出したアクアが、私の目の前に立っていた。
あいつは少し照れくさそうに頭を掻きながら、けれど真っ直ぐな瞳で私を見つめてきた。
「お前のおかげだ。お前が俺の夢を『向いてる』って、絶対に良い医者になれるって言ってくれたから、最後まで迷わずに走りきれた」
「な、なによ……。私はただ、思ったことを言っただけよ。アンタが死に物狂いで勉強したからでしょ。……おめでとう、アクア」
私が俯きながら小さくお祝いを言うと、アクアは私の頭をいつものように少し乱暴に、けれど最高に愛おしそうに撫で回した。
「ああ。ありがとな、有馬。……これで、ようやく第一歩だ。お前が最優秀助演女優賞を取って世界一の女優へ進んだんだ。俺も、お前の隣に堂々と並べるくらいの、最高の医者になってみせるよ」
「っ――バカ、人が見てる前でそういうこと言わないでよ!」
私が10秒で顔を真っ赤にして怒ると、背後から「ニヤニヤ」「ヒューヒュー!」と、完全に温度の低い、生温かい冷やかしの視線が突き刺さった。
「ミヤコさん見て見て! この二人、付き合って2年経ってもずーっと初々しいの! ごちそうさま!」
「本当ね。でも、これでアクアの進路も決まったし、有馬さんも大活躍だし。……今日くらいは、事務所の予算で一番高いお寿司を奮発しちゃいましょう!」
ミヤコさんの太っ腹な宣言に、リビングのボルテージは最高潮に達した。
「やったぁぁ! ニュースも落ち着いて、お兄ちゃんも医大生になって、私たちがドームのその先で頑張って……今が一番幸せかもしれない!」
ルビーがコーラを持って高く掲げる。その笑顔の眩しさに、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
誰も欠けない、誰も傷つかない。
それぞれの夢に向かって、ただ真っ直ぐに、自分の足で人生の最前線を走り続ける。
アクアが自分自身の本当の幸せを噛み締めるように、優しく微笑んでいた。