10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
「……で、なんで新婚旅行の行き先が、よりによってまた宮崎なわけ?」
飛行機の窓から見える、青く澄み渡る南国の海を眺めながら、私は隣の席のアクアにジト目を向けた。
超多忙な研修医と、国民的女優のスケジュールをミヤコさんが奇跡的に調整してくれて勝ち取った、三日間の新婚旅行。てっきりハワイとかヨーロッパとか、セブ島とか海外のオシャレなリゾートにでも行くのかと思いきや、あいつが指定したチケットは、まさかの宮崎行きだった。
「嫌だったか?」
アクアはシートに背を預けたまま、機内の冷え込みを気にして私の肩にそっとブランケットをかけてくれた。
付き合って、入籍して、左手の薬指にお揃いの指輪が光るようになってから、あいつのこういう自然な優しさには拍車がかかっている。
「嫌じゃないけどさ……。もっとこう、新婚っぽい南の島とかさぁ」
「ここは俺たちの始まりの場所だろ」
アクアは私の手を自分の大きな手で包み込み、指を絡めてきた。
「お前が2周目の知識で警察を動かして、雨宮吾郎遺体を先回りして見つけてくれた。ルビーを救って、俺の復讐の刃をへし折ってくれた。……そのすべての仕込みの原点が、この場所だ。だから、何も背負わずに、ただの夫婦としてもう一度この街を歩きたかったんだよ」
「アクア……」
あいつの真っ直ぐな言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
そうだった。1周目の宮崎は、ゴローが殺され、アイが命を狙われ、ルビーが絶望した、悲劇の舞台だった。
だけど今の宮崎は、ただの綺麗な観光地だ。あいつが過去の因縁をすべて乗り越えて、私と『新婚旅行』を楽しむためにこの場所を選んでくれたのだと思うと、たまらなく愛おしくなる。
「……ま、まぁ、アンタがどうしてもって言うなら、付き合ってあげなくもないわよ。美味しい地鶏でも食べに連れて行きなさいよね」
私が真っ赤な顔でフイッとそっぽを向くと、アクアはフッと、心の底から穏やかな苦笑いを浮かべた。
「ああ。最高のハネムーンにしよう、かな」
「っ――!?」
不意打ちで呼ばれた名前に、私の頭は一瞬でキャパオーバーを起こした。
ワンピースの襟元を引っ張って、必死に顔を隠す。
(なによ、なによもう……! 2周目の私、本当に大勝利すぎるじゃない……!)
飛行機が高度を下げ、眩い太陽が照らす宮崎の滑走路へと着陸していく。
悲劇の街は、私たちの知略と執念によって、今度こそ世界で一番甘い思い出の場所に書き換えられたのだ。
繋いだ手の温かさを確かめ合いながら、私たちは新婚旅行の第一歩を踏み出した。