10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
純白のウェディングドレスに身を包んだ有馬かなは、控室の大きな鏡の前で、何度も深呼吸を繰り返していた。
胸元に施された繊細なレース、綺麗に広がるシルクのスカート。
どこからどう見ても完璧な花嫁の姿がそこにはあったが、かなの心臓はさっきから破裂しそうなほどのビートを刻んでいる。
「ちょっと、アクア……本当にこれで大丈夫? 変じゃない? 太って見えない?」
「さっきから百回はそのセリフを聞いている。どこからどう見ても完璧だ。世界一綺麗だよ、かな」
タキシード姿のアクアが、呆れたような、けれど底抜けに優しい声で微笑む。
「世界一綺麗」なんて恥ずかしいセリフを、今の彼は至極真面目な顔で口にするからタチが悪い。
かなの頬は、ドレスの白とは対照的に、一瞬で真っ赤に染まった。
「な、なによそれ。あんた、そんなこと言うキャラじゃなかったでしょ……!」
「今日くらいは言わせてくれ。俺の奥さんになったんだから」
アクアはそっとかなの元へ歩み寄り、その小さな手を優しく包み込んだ。かつて子役時代に出会い、ぶつかり合い、すれ違いながらも、芸能界という荒波を共に生き抜いてきた。
たくさんの嘘と、ほんの少しの本当を積み重ねて、ようやく辿り着いたのがこの日だった。「……ねえ、アクア」「ん?」
「私さ、アンタの『推しの子』になれてるかな」
少しだけ不安そうに、上目遣いで尋ねるかな。その言葉に、アクアはクスッと短く笑った。
そして、繋いだ手に少しだけ力を込める。「何を今更。とっくになってる。……いや、違うな。俺にとってお前は、もう『推し』なんて言葉じゃ収まらない。それに俺たちの推しの子だっているだろ?」
アクアはかなの額に、そっと自分の額を合わせた。
「一生をかけて愛し抜く、俺の特別だ。これからは、ずっと俺の隣で笑っていてくれ」
その瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。
「お兄ちゃん! ロリ先輩! もうすぐ入場だよーって、うわあああ! 激甘空間!!」
「ちょっとルビー、ノックくらいしなさいよ!」
「だってMEMちょとあかねちゃんが『早く見てこい』ってうるさくて! ほら、二人とも、最高の笑顔でいくよ!」
カメラを構えるルビーに、かなはいつものように文句を言いつつも、最高の笑みを浮かべる。
その隣で、アクアもまた、前世では見せたことのないような、心からの穏やかな笑みを浮かべていた。チャペルの扉が開く。差し込む光の向こうには、彼らを祝福する大切な仲間たちの姿があった。