10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
「ちょっとアクア、本当に大丈夫なんでしょうね? 陽菜、泣いてない?」
「さっきから三回目だぞ、その質問。ルビーから『陽菜ちゃんとアニメ観てコール練習してるから安心してデートしてきなさい!』って動画付きでメッセージが来てる」
「それ、全然安心できないやつじゃない!!」
街灯が優しく照らす夜の並木道。有馬かな――今は星野かなは、大きめのキャスケット帽を深く被り、アクアのスマホの画面を覗き込んで声を上げた。
ルビーに「先輩、昨日の罪滅ぼしに陽菜ちゃんのお守り、私がボランティアで引き受けますから! 二人でデートしてきちゃいなよ!」と半ば強引に背中を押され、こうして夜の街へと繰り出した二人だったが、かなは母親としての心配性がどうしても先に出てしまう。
「まぁ、ルビーも昨日の今日だし、今回はお菓子も動画の約束も守るさ。……それより、かな。せっかくのデートなんだから、少しは俺の方を見てくれ」
「な、なによ急に。見てるわよ、ちゃんと」
アクアに真っ直ぐ見つめ返され、かなは誤魔化すように視線を泳がせる。
結婚して、子供が生まれて、家族としての絆は誰よりも深くなったはずなのに、こうして夜に二人きりで歩いていると、不思議と高校生の頃の、あの焦れったくて堪らなかった距離感を思い出してしまう。
「……なんかさ、不思議な感じね」
「何がだ?」
「だって、こうしてあんたと手を繋いで外を歩くなんて、昔の私からしたら絶対にあり得ない『嘘』みたいな未来だったから」
かなは繋いだ手を見つめながら、ぽつりと呟いた。
かつてはスキャンダルを恐れ、お互いのために距離を置き、すれ違いを繰り返していた芸能界という荒波。あの頃の自分たちに、「将来、あんたたちは結婚して可愛い娘ができて、こうして堂々とデートしてるよ」と教えてあげても、きっと信じなかっただろう。
「嘘じゃないさ。俺たちが不器用に、けれど必死に手を伸ばして掴み取った『本当の未来』だ」
アクアは繋いだ手に少しだけ力を込めた。男らしい力強さと温もりが、かなの指先から心臓へとじんわりと伝わっていく。
「……ねえ、アクア。今日さ、どこに行くか決めてるの?」
「ああ。少し歩くが、お前が昔『行ってみたい』と言っていた、あの高台の公園に行こうと思っている。夜景が綺麗に見える場所だ」
「えっ、あそこ……? あんた、私が昔言ったことなんてよく覚えてるわね……」
「お前に関することで、忘れていることなんて一つもない」
さらりと、一ミリの迷いもなくそんな台詞を口にする。タキシードを着た結婚式の日から、この男の愛のストレートさは加速する一方だ。かなはキャップのツバをさらに下げて、真っ赤になった顔を隠した。
「もう……本当に、そういうところよ」
「ただの旦那の本音だ」
二人は他愛のない会話を交わしながら、ゆっくりと坂道を登っていく。
すれ違う人もまばらな静かな夜。都会の喧騒が遠ざかり、代わりに目の前には、宝石を散りばめたような美しい夜景が広がっていた。
「わぁ……凄い。やっぱり綺麗ね……」
フェンスに手をかけ、目を輝かせるかな。横顔を街の明かりが淡く照らし、その瞳はステージの上のセンターに負けないくらいに輝いていた。
アクアはその姿を、ただ愛おしそうに見つめていた。
「かな」
「ん?」
振り返ったかなの肩を、アクアは優しく引き寄せ、その小さな体を正面から抱きしめた。夜の冷たい風を遮るように、お互いの体温が重なり合う。
「……なによ、また急に。陽菜が見てたら怒られるわよ?」
「今は二人きりだ。……いつも、陽菜の母親として頑張ってくれてありがとうな。でも、今夜だけは、俺だけのかなでいてくれ」
アクアの胸に顔を埋めたまま、かなは小さく笑った。そして、アクアの背中にぎゅっと腕を回す。
「言われなくたって、私は最初からあんただけのものよ。……ねえ、アクア」
「なんだ?」
「明日、家に帰って陽菜を迎えに行ったらさ……また三人でキャッチボールしようね。今度は、私、もっと良い球投げるから」
「ああ、楽しみにしている」
復讐に燃えていた過去も、孤独に震えていた夜も、すべてはこの瞬間のためにあったのだと、アクアは確信していた。
美しい夜景の光に包まれながら、二人は静かに唇を重ねた。
24話で迎えた最高の大団円の、その先にある物語。星野家の愛の軌跡は、第29話の夜空の下でも、どこまでも眩しく輝き続けていた。
34話の「31.星野家の物語は、どこまでも輝いて」で完結しようと思ってるのですが続けるべき…?
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続けるべき
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キリ良いしやめるべき