10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない   作:M1tarash1

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31.星野家の物語は、どこまでも輝いて

「お父さん、お母さん、こっちだよ」

陽菜の風邪騒動から、早いもので数年の月日が流れていた。

小学校へと上がった陽菜は、少し引っ込み思案なところがありつつも、学校の環境にすっかり馴染み、毎日を楽しそうに過ごしている。今日は、そんな陽菜のクラスで行われる『授業参観』の日だった。

「陽菜、廊下は静かに歩くんだぞ。席はどこだ?」

「あっちの、窓側のうしろから二番目。じゃあね、パパ、ママ」

小さな手を少しだけ振って教室へと入っていく陽菜の後ろ姿を、アクアとかなは見送った。

周囲に余計な気を遣わせないよう、アクアは落ち着いたトーンのスーツ、かなもシンプルで目立たない綺麗めの私服を選び、静かに教室の後方へと並ぶ。芸能人としての派手なオーラは一切消し、今ここにいるのは「星野陽菜の親」という、どこにでもいる一組の夫婦だった。

今日の授業は、国語の『将来の夢』の発表会。

子供たちが一人ずつ教壇の前に立ち、自分で書いた作文を読み上げていく。

「――次は、星野陽菜さん。どうぞ」

担任の先生に名前を呼ばれ、陽菜がトコトコと前へ進み出る。少し緊張した面持ちで、小さな手で作文用紙をきゅっと握りしめていたが、その瞳には、自分の言葉をしっかりと届けようとする真っ直ぐな光が宿っていた。

陽菜はゴホンと小さく息を整えると、教室の後ろまで届く丁寧な声で、作文を読み始めた。

「私の将来の夢は、お母さんみたいに、いつでも周りの人を笑顔にできる優しい人になることです」

その言葉が響いた瞬間、かなは隣でそっと胸に手を当て、嬉しそうに目を細めた。派手な涙ではなく、ただ静かに、我が子の成長を愛おしそうに見つめる母親の、とても穏やかな表情だった。

「私のお母さんは、毎日お仕事が忙しいけれど、お家に帰るといつも私の話をたくさん聞いてくれます。私が悲しいときは一緒に考えてくれる、自慢のお母さんです。だから、私も大きくなったら、お母さんみたいにみんなに元気をあげられる人になりたいです」

かなは嬉しさを噛み締めるように、そっと隣に立つアクアの手を握りしめた。アクアもまた、ポケットの中でその手を静かに握り返す。大袈裟な機材で記録するよりも、今この瞬間の我が子の姿を、その言葉を、しっかりと二人の目に、記憶に焼き付けたかった。

陽菜の作文は、父親への言葉へと続いていく。

「それから、もう一つの夢は、お父さんみたいに、困っている人を助けてあげるお医者さんになることです。私がお熱を出したとき、お父さんがずっと手を握ってくれて、とても安心しました。お父さんは、私とお母さんをいつも守ってくれる、世界一かっこいいパパです。二人の子供になれて、とっても幸せです。これで発表を終わります」

パチパチパチ、と教室中から温かい拍手が巻き起こる。

教壇の上で、陽菜はほっとしたように、少し照れくさそうな、けれど嬉しそうな笑顔を両親に向けていた。

アクアは拍手を送りながら、胸の奥が静かな温かさで満たされていくのを感じていた。

かつて前世で孤独に死に、現世でも長い間、復讐という暗い影の中で生きていた自分が、今、こんなにも穏やかで優しい光の中にいる。あのとき、泥泥の世界で有馬かなという光を信じ、手を取り合ったからこそ、この何気ない、けれどかけがえのない『本当の家族の日々』へと辿り着くことができたのだ。

「……よかったな、かな」

「うん……。あの子ったら、いつの間にあんなこと書けるようになったのかしら。帰ったら、陽菜の好きなオムライス、たくさん作ってあげなくちゃね」

かなは目元を少しだけ潤ませながらも、一人の母親としての、とても誇らしげで優しい笑顔を浮かべていた。そこには「芸能人の娘」という重圧ではなく、ただ愛情をいっぱいに受けて育った一人の少女の、等身大の未来への希望だけがあった。

――その日の夜。

星野家のリビングは、いつにも増して穏やかで賑やかな時間が流れていた。

「いいなー! 陽菜ちゃん、お父さんとお母さんのこと大好きじゃん! 先輩、これはもう最高の親孝行ですよ!」

「ふふ、ルビーに自慢するために育てたわけじゃないわよ。でも、本当に嬉しかったわ」

「おめでとう、かなちゃん。アクアくんも、いいパパの顔になってるよ」

「あかね、余計な分析はいい。……ほら、せっかくルビーたちがケーキを持ってきてくれたんだ、陽菜が起きているうちに食べよう」

リビングには、ルビー、あかね、MEMちょが静かに集まり、陽菜の発表会を祝うささやかなお茶会が開かれていた。

皆それぞれが芸能界の第一線で戦う大人であり、かつての因縁をすべて乗り越えた大切な戦友たち。アクアがすべてを懸けて掴み取ったこの世界線では、誰もが自分の居場所を見つけ、こうして一つの大きな『家族』のように、温かい時間を共有していた。

「アクア、ほら、あんたもこっち来なさいよ。陽菜の隣、空いてるわよ」

かなが、優しくアクアの袖を引いた。

指先から伝わる温もりは、出会ったあの日から、そして夫婦になった今も変わらない、確かな本物の愛の証だった。

「ああ。今いく」

アクアは陽菜の隣へと腰掛け、かなの肩にそっと手を回した。

リビングの窓の外には、静かな夜空と、どこまでも穏やかな街の明かりが広がっている。

嘘がとびきりの愛である世界で、彼らはたくさんの嘘を乗り越え、これ以上ないほどの『本物の幸せ』を見つけた。星野家の物語は、派手なスポットライトの中ではなく、この温かいリビングの光の中で、これからもずっと、どこまでも眩しく続いていく――。




アンケートの結果から連載を続けて欲しいという意見を多く頂いたので、もう少し続けます

34話の「31.星野家の物語は、どこまでも輝いて」で完結しようと思ってるのですが続けるべき…?

  • 続けるべき
  • キリ良いしやめるべき
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