10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない   作:M1tarash1

40 / 40
37.二度目の人生の覚悟

深夜、静まり返った星野家のリビング。

かなの膝の上で、陽菜はようやく恐怖から解放されたように、小さな寝息を立てて眠りについていた。帰宅したアクアは、自分の拳を握りしめながら「明日、陽菜にすべてを話そう」と静かに告げた。

その言葉を聞いた瞬間、かなの瞳の奥に、いつもとは違う――かつてアクアを地獄の底から引きずり戻した時と同じ、鋭く強い光が宿った。

「そうね、アクア。隠し通せる段階はもう過ぎたわ。……でも、勘違いしないで」

かなは陽菜を起こさないように静かに立ち上がると、アクアの正面に真っ直ぐに立ち、その胸元を指先で強く小突いた。

「あんた、また1人で全部背負い込んで、カミキプロダクションの残党と刺し違えようとか考えてないでしょうね?」

「……かな、俺は」

「忘れたとは言わせないわよ。あんたが1人で復讐に狂って、カミキと一緒に心中しようとしてたあの絶望の未来から、あんたを引っ叩いて連れ戻したのは誰だと思ってるのよ」

かなの言葉に、アクアは言葉を失った。

そう、この世界線は、原作通りの悲劇の果てではない。

1周目の世界で、アクアがカミキヒカルと共に海へ堕ちて命を落としたあの結末を知り、すべてを背負って『2周目の人生』へと時間を遡ってきた有馬かなが、その未来を命懸けで変えた世界なのだ。

かなが2周目の知識を総動員し、アクアに寄り添い、絶対に彼を死なせないと誓って動き回ったからこそ、カミキヒカルは心中ではなく「警察への逮捕」という形で生きて法の裁きを受けることになった。アクアが今、復讐者ではなく『医師』として、かなの夫としてここにいられるのは、他でもない、有馬かなが彼を闇から救い出したからだった。

「あんたはすぐ1人で突っ走るから、私が2周目やってまで未来を変えたの。今回の残党だって同じよ。陽菜は、私たちの娘。あんただけのものじゃない、私たちが命懸けで掴み取った『本物の奇跡』なんだから」

かなはそう言うと、アクアの頬に手を当て、少しだけ呆れたように、けれど底抜けに愛おしそうに微笑んだ。

「裏で証拠集めをするのは任せるわ。でも、カミキプロダクションの狙いは陽菜を『舞台に立たせること』でしょう? だったら、芸能界の戦いは、役者である私の領分よ。カミキの狂信者だか何だか知らないけど、私の娘を都合のいい人形にしようだなんて、国民的女優のキャリアを舐めないでほしいわね」

かなの口から出た圧倒的な頼もしさと、2周目としての揺るぎない覚悟。

アクアはフッと緊張を緩め、愛おしそうにかなの腰を引き寄せ、最愛の妻を強く抱きしめた。

「……ああ、そうだったな。お前には、一生勝てそうにない」

「当たり前でしょ。あんたを救うために、私は2回も人生やってんだから」

 

翌朝。

 

リビングの食卓についた陽菜の前に、アクアとかなは並んで座った。

陽菜はまだ少し不安そうな顔をしていたが、かながその手を優しく、けれど絶対に離さないという強さで握りしめる。

「陽菜。昨日、カミキプロダクションの男に言われたこと、怖かったよね。……今から、パパとママの口から、この星野家が隠してきた『本当のこと』を全部話すわ」

かなはアクアと視線を交わし、真っ直ぐに娘を見つめた。

「パパが昔、どれだけ暗い場所にいて、ママがそれをどうやって救い出したか。そして、檻の中にいるあの男が、私たちの何なのか。……全部聞いて、一緒に戦ってくれる?」

その母親の、そしてトップ役者としての凛とした強さに満ちた瞳を見て、陽菜は息を呑み、そして小さく、力強く頷いた。

2周目の有馬かなが紡いできた、たった一つの純愛の物語。その先にある次世代の戦いが、今、星野家のリビングから真に幕を開けようとしていた――。




https://syosetu.org/novel/430687/
推しの子 2作目連載開始
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

有馬かなのホラー怪奇譚(作者:ちいさな魔女)(原作:推しの子)

階段で転んで頭を打ち、前世の記憶を思い出した有馬かな。自らの未来を変える為に、ホラーユーチューバーへの道を歩み始める。


総合評価:275/評価:6.82/連載:4話/更新日時:2026年10月06日(火) 16:01 小説情報

ある看護師が辞めた話(作者:レイ膝)(原作:推しの子)

十六年前、同僚だった医師・雨宮吾郎が突然姿を消した。▼それ以来、彼女は休日になると病院近くの森へ足を運ぶようになった。▼なぜ探しているのか、自分でもよく分からない。▼看護師として働き続けた彼女のもとへ、ある日、警察から連絡が入る。▼――森で、白骨化した遺体が見つかった。▼十六年間、彼女が探し続けていたものが、そこにあるのかもしれない。▼そしてその日を境に、彼…


総合評価:151/評価:8.75/連載:2話/更新日時:2026年09月24日(木) 19:10 小説情報

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5585/評価:5.88/連載:69話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:00 小説情報

星野アイに嘘をつかなくていい日を(作者:M1tarash1)(原作:推しの子)

星野アイは、嘘をつくのが上手な少女だった。▼笑顔を作ること。▼相手が喜ぶ言葉を選ぶこと。▼本当は分からない感情に、それらしい名前をつけること。▼そうしていれば、いつか本物の愛を知れるのだと信じていた。▼そして俺は、彼女がたどるはずだった未来を知っている。▼だから決めたのだ。▼彼女が悲劇を迎える前に、絶対に救ってみせると。▼けれど、実際に出会った星野アイは、俺…


総合評価:12/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2026年10月19日(月) 16:00 小説情報

推しの子ちゃんねる(作者:かんぱにい)(原作:推しの子)

推しの子の世界線のスレ▼正直掲示板に詳しいわけじゃないので色々甘い部分はあるかと。


総合評価:29/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2026年08月24日(月) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>