10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
新生B小町の初ステージとなる『ジャパン・アイドル・フェス(JIF)』は、MEMちょの爆発的なネット拡散力と、私が10年間で仕込んだ業界のツテ、そしてファンの熱量によって、1周目を遥かに凌ぐ大盛行で幕を閉じた。
ステージの上で、ルビーは一度も曇ることのない純白の笑顔で輝いていた。
宮崎の事件は、ただの「過去のニュース」として処理されたため、ルビーの瞳に黒い星が宿ることはなかった。
だけど、私の2周目の計画が順調に進めば進むほど、比例して『あいつ』の警戒レベルは跳ね上がっていく。
「……有馬。お疲れ、水分補給忘れずにな」
「あ、ありがと……って、なんでアンタが私のドリンク持ってんのよ!」
陽東高校の教室、あるいは苺プロの事務所。アクアは、私への徹底的なマークを開始していた。
移動中の視線、何気ない会話の誘導。
それだけじゃない。私が仕事で使う台本に不自然な折り目がないか、誰と連絡を取り合っているかまで、あいつの鋭い瞳が常に私を監視しているのが分かった。
1周目のあいつは、あかねのプロファイリング能力や、芸能界の闇にばかり目を向けていた。
だけど今のあいつのレーダーは、完全に私――有馬かなを最重要危険人物としてロックオンしている。
(いいわよ、いくらでも疑いなさい。アンタの意識が私に向いている間は、一人で暗い復讐の計画を練る時間なんてなくなるんだから)
それこそが私の狙いでもあった。
アクアの探偵並みのリソースを、私への監視で使い果たさせてやるのだ。
そんな中、私とアクア、そして黒川あかねの三人は、次なる大きな仕事――2.5次元舞台『東京ブレイド』への出演が決まった。
「……有馬。お前、今回の舞台、何か裏で手を回したか?」
劇団ララライの稽古場へ向かう道中、アクアが私の隣に並び、低く冷たい声で訊ねてきた。
「は? 何言ってるのよ。原作者の鮫島先生が、私の演技を気に入って指名してくれたの。私が実力で勝ち取った仕事よ」
「そうか。……ララライの代表、網代や、プロデューサーの鏑木。お前が彼らと妙に親しげに話している記録がある。お前がララライに、そして『あの男』に近づこうとしているのは、偶然じゃないはずだ」
アクアの言う『あの男』とは、ララライの看板役者であり、あいつの父親候補―上原清十郎のことだ。
1周目のアクアは、この段階ではまだ上原清十郎が黒幕だと信じて疑っていなかった。
のちにDNA鑑定で思い違いだと知る、あいつの最初の大きな挫折のポイントだ。
私は立ち止まり、稽古場の重い扉に手をかけた。
そして、アクアを振り返り、クスリと挑発的に笑ってみせた。
「アクア。アンタ、自分の『答え合わせ』が絶対に正しいと思ってるでしょ。天才ぶって、全部一人で抱え込んで。……でもね、アンタの探している答えは、そこにはないわよ」
「――っ、お前……!」
アクアの顔色が変わる。アイの事件の核心に、私が完全に触れたからだ。
「知りたければ、今回の舞台で私に勝ってみせなさい。アンタが死に物狂いで、私を喰うような演技をしてみせたら……ちょっとくらい、ヒントをあげてもいいわよ?」
そう言い残して、私は稽古場の中へと足を踏み入れた。あいつの復讐心を、すべて私への「役者としての執念」に変換させる。
感情を爆発させる『東京ブレイド』の舞台。
そこでアクアの心の闇をすべて演技で吐き出させ、あいつの復讐の刃を、私が正面からへし折ってあげる。