10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない   作:M1tarash1

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07.光の演技

『東京ブレイド』の舞台本番。

客席を埋め尽くす超満員の観客の熱気が、ステージの袖にまで伝わってくる。

今回の私の役は、劇中劇の主人公の行く手を阻む強敵であり、同時に彼を陰から支える相棒の役でもある。

まさに、今のアクアと私の関係そのものだった。

ステージの裏、出番を待つアクアの表情は最悪だった。

あいつは今、アイが死んだあの日のトラウマを無理やり脳裏に引っ張り出し、自分の心をガリガリと削りながら「慟哭」の演技をしようとしている。

(バカね、本当にバカ。そんな風にしか、感情を爆発させられないなんて)

あいつの身体が、微かに震えているのを見逃さなかった。パニック発作の兆候。

1周目、あいつはここで倒れそうになりながら、命を削るようにして舞台をやり遂げた。

だけど――

「しっかりしなさい、星野アクア」

出番の直前、私はあいつの冷たくなった手を、舞台袖の暗がりのなかでギュッと力強く握りしめた。

「――え」

驚いて顔を上げたアクアの瞳に、私は有馬かなとしてのすべての包容力を込めて笑ってみせた。

「一人で逝かせないって言ったでしょ。あんたの苦しみも、絶望も、全部私がステージの上で受け止めてあげる。だから、安心して狂いなさい」

「有馬……お前……」

『本番、行ってください!』

スタッフの声と同時に、私たちは眩い照明の当たるステージへと飛び出した。

カツン、と刀のぶつかる音が響く。アクアの演技は、凄まじかった。

刃を交えるだけで、あいつの胸の奥にあるドス黒い復讐心と、アイを救えなかった後悔の念が、濁流のように私の身体に流れ込んでくる。客席の誰もが、その圧倒的な「リアルな絶望」に息を呑んでいた。

隣で演技をしている黒川あかねでさえ、アクアの放つ異様なプレッシャーに圧倒されかけている。

だけど、私はびくともしなかった。

(その程度の闇で、私を絶望させられると思ったら大間違いよ!)

私は1周目の記憶を持っている。

あいつがどれだけ孤独だったか、どれだけアイを愛していたか、そのすべてを知っている。

アクアが絶望の刃を振るうなら、私はそれを折るんじゃない。

もっと大きな、すべてを包み込むような「光の演技」で、あいつの刃を受け止めてやる。

「――お前は、一人じゃない!!」

台本にはない、けれどキャラクターの、そして私の本心の叫びがアドリブとなって口から飛び出した。

私の木刀が、アクアの刀を激しく弾き飛ばす。

その瞬間、アクアの瞳が大きく見開かれた。

あいつの頭の中に満ちていたはずのアイの死のトラウマが、私の放った圧倒的な演技の光によって、綺麗に塗り替えられていく。

絶望に沈んでいたあいつの心が、私の存在によって、強引に現世へと引き戻されたのだ。

舞台の上のアクアの目から、一筋の、本物の涙がこぼれ落ちた。

それは復讐のためではなく、救われた子供のような、純粋な涙だった。

割れんばかりの拍手が、劇場全体を包み込む。

ステージの幕が下りる瞬間、私は崩れ落ちるように膝をついたアクアに歩み寄り、その肩をそっと抱きとめた。

「私の勝ちね、アクア」

耳元でそう囁くと、アクアはもう私を疑うような目はしていなかった。

ただ、一人の迷子のような顔で、私の衣装の袖をぎゅっと握りしめていた。

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