10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
舞台が終わった日の夜。
私はあらかじめアクアを呼び出し、星野家のリビングで二人きりで対峙していた。
部屋の明かりは消したまま。窓から差し込む街灯の光だけが、私たちの影を床に長く落としている。
アクアはソファーに深く腰掛け、私の顔をじっと見つめていた。
その瞳からは、かつての冷酷な復讐心の刺々しさは消え、ただ純粋な『飢え』と『疑問』だけが揺らめいている。「……有馬。約束通り、話してもらう。お前は一体、何を知っているんだ」
「全部よ」
私はアクアの正面に立ち、遮るもののない真っ直ぐな視線をあいつにぶつけた。
「あんたが星野アイの子供だってことも。あんたが自分の命と引き換えに、父親への復讐を果たそうとしていたことも。全部、知ってるわ」
「――っ!?」
アクアが弾かれたように立ち上がった。
その顔は驚愕を通り越し、恐怖に戦慄いている。双子の妹であるルビーでさえ知らない、自分の秘密。
それを目の前の少女が、事も無げに口にしたのだから。
「なぜ……それを……! お前は、何者だ!?」
「私は有馬かなよ。あんたの役者仲間で、B小町のセンター」
私は一歩、アクアに近づいた。
「そして――あんたが死んだあとの未来から、戻ってきた逆行者よ」
「……逆行、者……?」
信じられないオカルト話を前に、アクアの頭脳が処理を拒否してショートしかけている。
私はあいつの胸ぐらをぐいと掴み、自分の顔を限界まで近づけた。
1周目で抱え続けた、私の涙と執念を全部ぶつけるように。
「信じられないなら、あんたのパソコンの隠しファイルにあるこれから調べようとしていた、劇団ララライの過去の在籍名簿の答えを言ってあげようか?」
「有馬……お前、本当に……」
「あんたの復讐は、1周目では一応成功したわよ。でもね、その結末は最悪だった。あんたは映画を使って世間にすべてを暴露し、真犯人と一緒に、包丁で刺し違えて海に落ちて死んだのよ。……残された私やルビーが、どんな思いでその後を生きていくかも考えないで、一人で勝手に満足して死んだの!!」
叫んだ私の目から、溜まっていた涙がポロポロと溢れ出した。アクアは言葉を失い、ただ呆然と私を見つめている。
胸ぐらを掴む私の手が、激しく震えていた。
「そんな未来、絶対に認めない。だから私はあの不気味なカラスのガキに縋って、この時代に戻ってきたの。あんたに人殺しなんてさせない。あんたを、絶対に一人で死なせないために!」
アクアの身体から、すうっと力が抜けていくのが分かった。あいつは自分の両手を見つめ、それから、涙を流す私を静かに見つめ返した。
「……俺の復讐は、間違っていたのか」
「間違ってないわよ。悪いのは全部あいつ。……でも、あんたの手を汚す必要なんてない。あんたが10年かけてやろうとしていた『カミキヒカル』への復讐の証拠なら、私が一般人の大人のコネをフル活用して、この10年間で、合法的に警察が動くレベルのものを全部集めきってあるわ」
「カミキ……ヒカル……」
初めて聞く『本当の父親』の、そして真の黒幕の名前。
アクアの瞳に、新しい、けれど今度は独りよがりではない光が宿る。
「私の10年の仕込みを舐めないで。あんたの復讐劇は、ここで終わりよ。これからは――私の用意した完璧なハッピーエンドに、主役として付き合いなさい、アクア」
私が涙を拭って不敵に笑うと、アクアはフッと、1周目のあいつが一度も見せなかったような、心の底からの穏やかな苦笑いを浮かべた。
「……ああ。お前の勝ちだよ、有馬かな」
この回かなり頑張りました!!