帰りの荷物が大変なことになる。
鈴木智恵
一撃をもらい、口から血反吐を吐き、立ち上がる。
「魔法少女? とやらはなかなか無駄なあがきをするのだな。クヒヒ」
正面にいる怪人がそう笑いながら、浮き上がる。
「しかし、吾輩は怪人の中でもまだまだ下位のランク。魔法少女とやらも大したことはないな」
世界最強の魔法少女サナはまだ来ない。
このまま私が負ければ、怪人は街へ向かう。
その先にいる人たちがどうなるのかなんて、一目瞭然だ。
体が痛い。
死にたくない、怖い。
今すぐ逃げたい。
でも、……逃げるわけにはいかない。その他大勢までは守るつもりがなくても、今世にだって血を分けた家族がいる。家族にだって大切な人がいる……。
そして、こんなところで私が尽きたら、来世のご褒美、眼鏡っ子ハーレムを得られなくなる!
私は唇を噛み、震えそうになる足に力を込める。
手を怪人へ向けた。
「スターダスト!」
いくつもの星型の光が怪人に飛んでいく。
それを避けながら、怪人は片足の踵を振り上げた。
踵は私の直上にあった。その影が私の体に迫る。
潰される。
自分の死を直感した。
その瞬間、怪人の足首が抑えられた。
「あっ、チエちゃん、ちょうどいいところにいた!」
怪人の足首を抑えた少女は、まるで道端で友達を見つけたみたいな顔をしていた。
世界最強の魔法少女サナ。
白とピンクのバトルドレスを着こんだ彼女はこの世界で唯一の希望。
彼女は18歳。魔法少女になると14歳くらいの少女に若返る。
「な、なんだキサマ……」
動きを止められた怪人の声はかき消された。
なぜなら、その可愛らしい魔法少女のサナは、怪人の足首を掴んで振り回し……ブルンブルンと振り回し……空に向かって放り投げたからだ。
「あのね、チエちゃん、相談したいことがあるんだけど……」
サナは右手の人差し指と親指をピンと伸ばし、残りの指を握りこむ拳銃の形を作る。
親指で怪人の方向に照準を合わせると、眩い白い光が人差し指の先に集まり、周囲が虹色に染まる。
「えい」
その小さなサナの掛け声は瞬時に轟音の中に飲み込まれる。
ビーム兵器のような10階建てのビルを簡単に飲み込むような光が怪人へ飛んでいく。
光が消えた後は、怪人の姿はどこにもなかった。
「ミニトマトめっちゃもらって困ってるの。どうしようチエちゃん」
怪人で助けを求めず、ミニトマトで助けを求めるか……。
命の危機だった数秒前が嘘のように、拍子抜けした空気だけがそこにあった。
「とりあえず、回復魔法使ってくれないかな?」
ーーー
世界最強の魔法少女サナは自炊ができない。
自炊ができない系大学生女子だ。
自炊ができない人なんて掃いて捨てるほど世の中にはいる。
別に、それ自体は珍しいことじゃないのだ。
しかし、彼女は自炊ができないせいで、数年後、栄養の偏りによる内臓疾患で死ぬ。
その結果、他に有力な魔法少女がいないこの世界の人類は、滅亡することになる。
魔法少女協会だとか政府とかがサナを支援したり保護すればいいんじゃない、そう思うじゃない。
この世界にはそんなものはない。
魔法少女そのものがサナから始まったからだ。
他にも魔法少女はいるのかもしれないけれど、サナが圧倒的に強すぎる。
怪人が出ても、魔物が出ても、だいたいサナが倒してしまう。
街が壊滅するような大規模災害になることもない。
交通事故よりも発生数が少なく、死亡者数もほとんど出ていない。
だから世間は、
「魔法少女がいるから大丈夫」
と、無意識のうちに思っている。
サナを支援しなければならない。
サナの生活を守らなければならない。
そんな発想そのものが、誰の頭にも浮かばない。例え浮かんでいても、後回しにされる。
世界最強だからこそ……なんとかなってるんじゃね?、と思うのだ。
誰も、変身して見た目がキラキラした彼女が助けを必要としているとは思わなかった。
そのサナの命をつなぐのは、アルバイト先のコンビニの廃棄弁当。しかも冷凍庫で大量保管。
私だってコンビニのお弁当は好きだよ。年々味が上がってると思います。時々はいいと思うんですが、毎日はだめだと思います。
それに、コンビニの廃棄弁当が中止になったら、今度は外食に頼りすぎて。食費が足りなくなる。
そうなるとサナは、我慢すればいい、と考える。
そして、食事そのものを減らして体を壊すだろう。
そんなサナを自炊できるように、そして、自炊やっぱり面倒、と思って途中で元の生活に戻らないように、私がたずなを握らなければならない。
ーーー
私たちはサナのアパートにたどり着き、キッチンに行く。
「これこれ!」
サナは冷蔵庫からスーパーのビニール製買い物袋のLサイズくらいの袋、大人の頭が軽くすっぽり入るやつを取り出す。
ビニール袋はパンパンで、赤色や黄色、オレンジ色の親指と人差し指の先で輪っかを作ったようなサイズの球体が詰まっていた。
丸いやつやら、細長いやつやら……。
中身を見せられなくても中身がわかる。
「これ全部、もらっちゃった……ミニトマト……」
サナが両手で抱えた袋を、少し困ったように私に差し出す。
差し出されても私だって困る。
「立派なミニトマトだね。細長いのはアイコで、丸いのは何だっけ……こんなに誰からもらったの?」
「農学部の学生。何度か見たことある子なんだけど、講義が終わって、農学部の敷地を通ったら、農学部の女の子にさ……」
ーーー
『おめさ、ミニトマト、食うか?』
声をかけてきた女の子は同じ大学1年生くらいの子で、日に焼けていて麦わら帽子をかぶって作業服を着ていた。何度かその敷地で作業している子だと知っていて、他でもどこかで会っている気がした。講義かな?
声の感じ、どこの田舎の出かわからない。ただ、訛っているのはわかった。
「え? はい。ミニトマト好きです」
『そうかそうか、ちょっと待ってな』
そう言ってその子を待っていると、その子は戻ってきた。ミニトマトをこれでもかと詰め込まれた、くだんのビニール袋を片手に下げていた。
『学部の畑で作っていたミニトマト、余ってるからもっててくんろ』
「え、あ、ちょっと、多くな……」
『気ぃにするなって。どうせまたすぐ出て来て、カラスが食べに来るほどあるから。それにわたすぅ売ってないし、あげる人も少ないから食べきらなくて』
流石に断ろうと思った。持ってきてくれたのに、悪いな、と感じた。
その時、あの生意気そうなのに、すごく頼りになるし、実は超親切なチエちゃんのことを思い出す。
あの子に相談すればなんとかなるかな……。
私は、ありがとう、と言ってミニトマトの暴力を感じる袋を受け取った。
作業服の胸元を見る。
作業服のネームに『里田』と書かれていた。やっぱりどこかで見たな……。
私の知っている里田さんは、もっとキリッとしたなんかとっつきにくい都会系の人だった気がする。
ふと、入学式の時のことを思い出す。壇上に立っていた私の知っている里田さん姿を思い出す。
でも。日に焼けた顔を白くして、麦わら帽子と作業服を紺色のリクルートスーツに戻してみれば……。
「あっ」
「どうした?」
里田さんが不思議そうにこちらを見る。
「もしかして、入学式、主席代表挨拶していた?」
『あっ、あれ聞いてんだべか? 恥ずかしいな。わたすぅ、訛り酷いから……』
確かにすごく、どこの地方の訛りなんだろうという感じなんだけど、こんなに喋りやすい雰囲気の人だったんだ、と驚いた。
「そんなことないよ。普通に標準語だった」
『良かっただー。あれ頑張って練習したんだ。でも、終わって数日したらまた訛りが戻ってなぁーははは』
里田さんが照れくさそうに笑った。
「でも、私は、里田さんのこっちの話し方が好きだな。私、里田さんとは多分初めて話すと思うんだけど、今の喋り方の方が里田さんらしさがあっていいかなと思います」
その一言に、里田さんの目が驚いたように見開かれた。それから、照れくさそうに口元が緩む。
『おめさ、いいこと言う人だな。よかったらこれももってけ』
さらに気を良くした里田さんからピーマンと茄子を袋詰めして渡されてしまった。
ーーー
これは知っている。
農家さんあるあるだ。
『おらが自慢の畑の野菜を食ってくれ』
ダンボール一箱くらいに情熱を詰められて託されるやつ。
ぶっちゃけ美味しいし、嬉しいんだけど、突然渡される量がどう考えても一家庭で消費しきれる物ではなく、四、五家庭分あり面食らうのだ。
ピーマンと茄子は大した量じゃないけれど、ミニトマトはこのまま食べていくのはかなりえぐい。
大半を私の家で引き取った方がいいだろうな……。あとはお返し用のちょっとしたお菓子を後でサナに渡して持って行ってもらうか……。
「ミニトマトにもたくさんレシピはある。トマトの味をぎゅっと濃縮した味だし、糖度も高いから、トマト用のレシピにそのまま使っても凄くおいしいよ」
「前に教えてくれたトマトと卵の中華風炒めに使えるの?」
「もちろん使える。私はむしろそっちの方が好きかな」
私は袋の中を覗いた。色とりどりのミニトマトで、どれもつやつやしている。
……本当に、美味しそうだ
ミニトマト一個を取り出して見つめる。スーパーで売っているミニトマトよりも一回り大きい。
トマトソースなら包丁は使わないけれど、まだ外は暑いし、正直トマトソースを使ったあったかい料理は作りたくない。それに、熱を加えるとビタミンCも減っちゃうしな……。採れたての物だろうから、どうせなら生で食べたいよな。なんでも生はいいもんだ。
でも、これは一口では大きすぎるから、包丁を使わないといけないな。
「今回は、さっぱりしたものにしよう」
「冷たいもの?」
「そう。つるっと食べられるやつ」
「それなら嬉しい」
サナが笑顔になる。完熟したミニトマトのような笑顔。その顔を見て、私はメニューを決めた。
「ちょっと買い出しに行っているから、小さなざる一杯分のミニトマトのヘタとりして、ざっと洗っておいて」
「わかった!」
元気のいい声を出したサナを残して、私は近所のスーパー等に買い物へ向かった。
ーーー
【調理!】
黒いタオルと白いタオルをお互いの頭に巻いてキッチンに立った。
「今日は何を作るんですか?」
サナが期待した顔でこちらを見ていた。前より、ほんの少しだけ楽しそうだ。
「ミニトマトとアボガドの冷製パスタです。トマトで作ってもおいしいですが、ミニトマトで作るこのパスタはまた格別です」
私は洗ってある色とりどりのミニトマトの中から、水滴が浮かび上がる赤色の丸いミニトマトを手に取る。
「包丁といえば、三徳包丁とか万能包丁と言われる、先がとんがっていて刃渡りが二十センチくらいのものを想像すると思います。
こっちの小さなペティナイフ一本でも大体の料理はできます。
私は取り回しが楽だし、軽いのでもっぱらこっちしか使いません」
「へぇー」
「サナさんは、今回包丁初めてだし、基本の三徳包丁を使ってみますか。ミニトマトのヘタのあった方を下にしてまな板に乗せます。安定する方を下にするのが基本だよ。そして、包丁の刃を当てて、押しながら奥にスライドさせます。すると、すっと包丁が入っていきます」
「本当だ……切れてる!」
「引いても切れます。私は引いて切るのはお刺身を切る時が多いかな。まあ今回は押しながら奥にスライドで切ってみて」
私は包丁をまな板に置き、半分に切ったミニトマトをボウルに入れる。
おどおどしながら、包丁をサナが手にした。
先日その包丁のみねで再三お肉を叩いたのに何ビビってんだか。かわいいな、このぉー。
指を丸めて、ミニトマトを押さえて、すっと包丁を押しながら滑らす。
すぅー、トンと音がキッチンに小さく響いた。
「包丁で切れたね!」
「切れた!」
私に顔だけ振り返る。私よりも子供のような可愛らしい顔をして。
「じゃー、どんどんミニトマト置くから切ってね。慌てないでゆっくり切ってね」
うん、と頷き、サナが次々とミニトマトを切っていく。切るたびに肩の力が抜けていった。
時間は少しかかったが、しっかり切れた。
「じゃあ次にベーコンも切ろっか。これは押すように切っていいよ。100 g分くらいかな。前残っていたブロッコリースプラウトも合うから入れちゃおう」
サナにベーコンを1センチくらいの幅に切るように指示し、切れたベーコンとブロッコリースプラウトをボウルに入れる。
「じゃあ、ボウルに入れたミニトマトに調味料を入れていきます」
私はボウルに
エキストラバージンオリーブオイル大さじ5杯
と
塩小さじ1杯
ニンニクチューブを1センチくらい
を入れる。
「生のニンニクが辛くて苦手なら、ニンニクは電子レンジで熱を通すといい」
「そうなんだー」
「ボウルにラップをして冷蔵庫に入れて冷やします。
次は、スパゲッティを茹でます。
ここで便利アイテムです」
私はプラスチックの細長いケースを取り出す。
「なにこれ?」
サナは頭を傾げた。
「正式名称は知りませんが、電子レンジで乾燥スパゲッティを茹でることができる商品です。百均に行けば大体置いてあるアイテムです」
「電子レンジで?」
「そう」
「そんなことできるんだ……、これで茹でると9分で出来上がるスパゲッティも9分なの?」
サナはスパゲッティの袋の茹で時間の欄を私に示した。
「いや、倍くらいになる。その代わり、ずっと鍋のそばにいて混ぜる必要がなくなります。茹で加減は容器や電子レンジによって違ったりするけれど、私の家で使っているのは、水道のお湯40度のを規定量より少し多めに入れて20分500wで加熱すると丁度いいんだよね」
「へぇー」
「とりあえず、うちでの茹で方でやるね……。私このパスタは絶対おかわりするから多めにするけど、サナさんも増やす?」
「じゃあ、私も!」
「食べる気満々じゃん」
「だって、もうお腹空いてきたもん」
サナが笑う。その自然な笑顔を見ると、なんだか、私まで少し嬉しくなる。
「では、250gのスパゲッティを取り出して、プラスチック容器にいれて、塩を小さじ1いれて、規定量よりお湯を入れて、小さじ1程度オリーブオイルを入れて電子レンジに入れて500w20分加熱します」
「塩とオリーブオイルは?」
「塩は味付け的な意味、オリーブオイルは麺をくっつかせないとか、ザルに出した時に混ざり合うようにとか」
「そうなんだー」
「そうそう、乾燥スパゲッティは賞味期限も長いし、災害時の備蓄にも向いてるよ。私は一人暮らしの頃、三キロくらい常備して、和えるだけで食べれるたらこスパゲッティソースを5パックくらい常備してた」
「中学生が……ひとりぐ……らし……?」
サナが真顔でこちらを見る。しまった。
「あー、そんな妄想してたってこと」
「妄想?」
「そう。中学生になった今の私が、一人暮らしをするなら何を備蓄するかなって」
サナはしばらく私を見て、ふっと笑った。
「チエちゃんって、見た目と生徒手帳以外中学生じゃないよね」
「気のせいです。次はアボカド」
クスクスと笑い声が聞こえたが聞こえないことにした。
「アボカドってこんな形しているんだね」
「食べる瞬間しか見たことないとわからないよね。皮の色を見て注意してほしいんだけど、緑色のものはまだ硬いことが多くて……もしそういうやつを買ったら数日常温のところにおいて置きましょう。
完熟の状態は品種によるみたいだけど大体が黒っぽくなって、押すとほんの少し柔らかいくらいが目安。
スーパーによっては食べ頃のアボカドとして表示していることもあるので、不安な時はそっちを買うべきかな」
「私はもし買う時はそうするかな」
「でも、少し値段が高いんだよね。安いアボカドを何個か買って挑戦して慣れるのもいい経験にはなるよ」
そこで、アボカドの栄養をサナに伝えていなかったのを思い出した。
「それとアボカドなんだけど、森のバターと呼ばれるほど脂質は高いけど、オリーブオイル同様にオレイン酸の割合が高くて、とっても体にいいです! 取りすぎも良くないけどね!
脂肪はトマトとかミニトマトに含まれるリコピンの吸収を助けてくれるし、味もすごく合うから、アボカドは最高のパートナーなの!
他には食物繊維・カリウム・ビタミンE・葉酸が豊富に含まれています!
もう、体にいいから、時々食べてほしい食材!」
息継ぎもそこそこに一気に喋りきると、サナが苦笑しながら私の肩に手を置いた。
「はいはい、落ち着こうね、チエちゃん、ちゃんと今度から食べるね」
約束だよ!、と言いながらアボカドを手に取る。
「じゃあ、まずは種を取り除くために縦に包丁で、一周、切れ目を入れます。
そのあと捻って、分離させると、種が片方の身にくっついています。スプーンで取ると簡単です」
「本当だ! 簡単だね!」
「でしょ。次に皮なんだけど、完熟しているなら、皮は手でむけます」
「するっとむけた……簡単……」
「ちょっと硬いアボカドだと、包丁でむくことになるけど、それはケースバイケースということで、これを先ほど冷やしていたボウルに入れます」
「最初から一緒に冷やしたらよかったんじゃない?」
「色が悪くなっちゃうんだって。まあ、私はあんまり気にしないけど、一応、基本の作り方だから色が悪くなりにくいような順番にしてる」
「へぇー。色が悪くなるんだ」
電子レンジの音が聞こえて、茹で上がったスパゲッティを取り出す。
「お、茹で上がった」
私は容器を取り出す。
「熱いから気をつけて」
サナが、うん、と頷いてスパゲッティをザルに上げて湯を切る。
そのまま水を流して冷やす。
「熱を取るために冷水で冷やして」
「はい」
サナが言われた通りに手伝ってくれる。
「最後に氷と塩を入れた冷水を容器の中に入れて、スパゲッティを入れてしっかりキンキンに冷やす」
「キンキンに?」
「そうキンキンに」
サナが真剣な目をしながら聞いていた。
「その間に冷蔵庫に入れていたボウルを取り出します」
冷蔵庫から取り出したボウルを見る。
「綺麗だね、これ……」
ミニトマト、ベーコン、ブロッコリースプラウト。、そしてアボカド。
赤、黄色、オレンジ、緑、濃い緑……彩りが一気に増えた。
「料理は見た目も大事だからね。では、キンキンに冷えたスパゲッティをザルに戻し、水を切って、さらにキッチンペーパーで水分を取り除きながらボウルに麺をいれて混ぜます。
あとは皿に盛ればできあがり。
これには牛乳が合うので牛乳も添えましょう」
「難しそうな感じしたけど、大雑把に考えると、具と調味料を絡めて冷蔵庫に入れて、スパゲッティを茹でたものを冷やして、あとは全部混ぜれば終わり?」
「そう。アボカドの色をあまり気にしないなら、最初から全部切って調味料を混ぜて冷やせばいいし、冬に作ったりあまり冷たくしなくてもいいや、という感じなら、最後の塩氷水で冷やさなくてもいいです」
「じゃあ、もっと簡単にもできるんだ」
「料理は、自分が食べるものなら、自分が美味しいと思うようにすればいいんだよ」
サナが料理を見つめる。
その顔に、ほんの少しだけ自信が浮かんでいた。
「ただし」
「ただし?」
「キッチンペーパーで水分をしっかり取らないと、水っぽい仕上がりになるので、ここだけはきっちりやった方がいいです」
「分かったよ、チエちゃん」
サナが頷く。
そして、少し考えてから口を開いた。
「感覚的にさ、簡単な料理だと思ったけど正解?」
「包丁使えるなら簡単な料理で、正解!」
「包丁で初めて切った料理だったけど、簡単な気がしたよ」
「成長した証!」
私は親指を立てた。
なんだか、少しだけ……自分のことのように嬉しかった。
ーーー
【実食!】
「冷たいうちに食べよう。いただきます」
「いただきます」
フォークに巻きつけて一口入れる。
ニンニクの香り、ミニトマトの酸味と濃厚な甘味、アボカドの濃厚なコク、ベーコンの塩味と旨味が口の中で重なり、小さな幸せが広がる。
生のバジル入れたいな、と思った。
飲み込んだ後に低脂肪乳を口に流し込む。
あー、これこれ! ニンニクの刺激を気持ちいい程度に残しながら、他の不快感を洗い流してくれる。
「自分たちで作ったもので言うのもなんだけど、今日の美味いね!」
サナは方を横目で見ると、一口飲み込んだ後、フリーズしていた。大丈夫かな、この子と思いながらじっと様子を伺っていると、こちらに視線を合わせた。あっ再起動できたんだね。
「あの、これ、レストランで出ても不思議じゃないレベルなんだけど」
「アボカドとトマトとベーコンの組み合わせがチートなんだよ。人間が作り出した罪深いチート!
人間以外は大体猛毒になる、このアボカド……今世も人間に生まれて来れて、本当に良かったぁー!」
「チエちゃん、大げさ。だけど、これは本当に美味しい。ミニトマト……甘すぎる。それなのにスパゲッティ全体の味を壊してない。里田さんに会ったら感謝しなきゃ。
そういえば、これ、お母さんは作ってくれなかったなあ」
サナの声が、少しだけ遠くを見るような響きになった。
アボカドがあまり馴染みない食材の一つなんだよなー。今では普通に野菜コーナにならんでいるけど。
「アボカドが一つの敷居の高さを感じるよね。買っても完熟するまで使えないし、完熟したと思ったら傷んでいたこともあるし。
それに冷製パスタって難しそうって感じるのかもしれない。まあ、私の持論だけど」
「この料理、実家でみんなに振る舞いたいなあ」
フォークをクルクルと回しながらスパゲッティを絡ませて口に入れたサナが、うーんおいしー、と目を細めた。
「できるさ、きっと」
ーーー
【本日の夕食の栄養価】
・ミニトマトとアボカドの冷製パスタ
・低脂肪牛乳
【ミニトマトとアボカドの冷製パスタ+低脂肪牛乳】
(一人前)
栄養素 パスタ 牛乳200cc 合計 充足率
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カロリー 約750kcal 約90kcal 約840kcal 約42%
タンパク質 約19g 約7g 約26g 約52%
ビタミンC 約34mg 約2mg 約36mg 約36%
βカロテン 約750μg 約8μg 約760μg 約19%
カリウム 約860mg 約300mg 約1160mg 約45%
カルシウム 約55mg 約260mg 約315mg 約48%
鉄 約2.1mg ほぼ0mg 約2.1mg 約21%
※栄養価は使用する食材や製品によって変動します。
※βカロテンは4000μgを基準としています。
※本日の作中のレシピは概ね3人前で作っています
【アドバイス】
あっさりしているけど、森のバターと呼ばれるアボカドとオリーブオイルでカロリーは高めです。
とはいえ、これくらい食べる日があっても気にしすぎる必要はありません。
タンパク質やビタミン、カリウム、カルシウムなども取れるので、なかなか優秀な夕食です。
ただし、これだけで一日に必要な栄養素を全部取れるわけではありません。
朝食や昼食でもいろいろな食品を食べて、バランスよく栄養を取りましょう!
読んでいただきありがとうございます。
『アボカド』のことを私はずっと『アボガド』と読んでいました。