じ す い !   作:劇団おこめ座

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 チャーハンにだって牛乳が合う
    鈴木智恵


凝ってなくてもいいじゃない かぶの葉チャーハン

 いつものように、怪人をサナがぶっ飛ばす。

 子供が蟻を潰すように、圧倒的勝利。

 離脱する前に、車が目の前に止まり、見たことのある人が出てくる。

 地方局の夕方の番組の看板女性アナウンサーとそのカメラマン。大型のカメラは間に合わないからハンディカムだ。しかし、ゴリゴリにカスタマイズされたあからさま素人感の捨て切られたハンディカム。

 

「すみません! 魔法少女サナさん! コメントもらえませんか!」

 

 アナウンサーの声に私たちは顔を見合わせた。カメラはすでにこちらを向いている。

 もしかしたら、もう生放送に乗っているかもしれない。

 サナはいつものドローンならすぐに消えていただろう。

 何度も見たことのある、アナウンサーに声をかけられて、どうしようか迷うのだろう。

 私は手を引くのだが、サナの体が止まる。

 

「何をコメントすればいいんですか?」

 

 その声を聞いたアナウンサーが、ここぞとばかりに笑顔になるのが私にはわかる。

 

「怪人を倒した今のお気持ちは?」

 

 ちらりとサナの顔を見ながら、あの時、サナが怪人を倒した時の表情を思い出す。

 サナはきっとこう思っているだろう。

 

『ハエに殺虫剤をかけたような感じです』

 

 確実にそうだろうなと思った。ああー、放送事故確定だ。

 サナの口元が少し上がり始めた。

 やめろ! 生卵投げられるようになって、闇堕ちするぞ!

 

「街のみんなが無事で、本当に良かったです!」

 

 私は、顔をこわばらせる。

 えっ、なにこの子、なんと言った?

 そんな、サービス精神旺盛な子ではなかったはずだ。

 その後のインタビューでも、私が予想だにしなかった、いかにも、みんなの理想の魔法少女、みたいな回答を続けていく。

 怪人のお約束を無視して一撃死させる空気の読まないサナさんはここにいなかった。

 

「では、普段のお食事は?」

 

 流石にこれは嫌な予感がした。

 冷凍庫に保管されている廃棄弁当。

 自炊が増えたとはいえ、廃棄弁当を食べないという選択肢は消えたわけではない。

 廃棄弁当……コンビニの弁当はレベルが高いんだよな……。冷凍しても温め直せばそれなりの味になるのだ。

 それに自炊できない日は絶対あるのだ。

 

 廃棄弁当が命の綱です、なんて言葉が世界中に発信されると思い、私は顔を青くした。

 

「パフェや甘いものです!」

 

 キラっと目の横に横ピースをした後に、またいくつかの質問に答えて、サナは私の手を引き空に飛び立った。

 空を飛びながら、サナを横目で見る。

 

「サナさん……今日は心にもないことを言っていたね?」

 

「でも、なんかみんなのイメージ壊せないじゃない。

 魔法少女って、みんなの夢とか希望でしょ?」

 

 てへぺろと笑うサナ。

 そういうところ、私は嫌いじゃない。

 

 ああ、そうか。そういう意味で、この子は真面目なんだ。

 ふと、インタビューの最後で聞かれていたことを思い出す。

 

『魔法少女として、普段心がけていることは?』

 

 サナはカメラに向かって、満面の笑顔で答えていた。

 

『みんなに夢と希望を届けることです!』

 

 きっと、そのためだけに魔法少女、頑張っているのかもしれない。

 

「就職の面接試験で面接官を軽く騙せる、悪い女タイプだね」

 

「えっ、何それ!?」

 

 私はニタリと笑うとサナが釣られて笑い出した。

 

ーーー

 

 サナの家に辿り着いて、サナがソファに力無く座り込む。

 

「あー、お腹減った。こってりしていて、がっつりしたもの食べたい!」

 

「パフェ……って誰か言っていたような……」

 

「甘味は、心の豊かさ。コッテリとした炭水化物はパワーだよ!」

 

「それ、さっきのインタビューで言ってほしかった」

 

「それはダメでーす!」

 

 サナが頭の上で腕を使ってバッテンを作った。

 

 アナウンサーにコメントを求められてしばらくその場にいたから、私たちを映そうとするかなりの数のドローンが寄ってきたので、振り切って逃げ切った時には買い物する時間はもう無かった。

 

 冷蔵庫を開けると、そこそこの物は揃っていた。

 白い球体と元気そうな葉がついた野菜が目についた。

 

「かぶ? サナさん、かぶなんて買ったの?」

 

「あー、それ? かぶのそぼろ煮、お母さんがよく作ってくれて、好きだったから挑戦してみようかなって」

 

「おお、いいじゃん」

 

 成長したものだなぁ……。自分から料理に挑戦したいとか、一か月くらい前のサナに聞かせてやりたい。

 

「でも、今日はかぶのそぼろ煮って気分じゃないんだよねぇー」

 

 贅沢なやつだなーと思うが、私もかぶのそぼろ煮という気分ではない。

 おあいこである。

 

 冷蔵庫の中をじっと見つめると、ご飯が入っていた。白米だけのパックが二つ。

 

「これは?」

 

 取り出してサナに見せると、

 

「昨日、廃棄のご飯もらって冷蔵庫に入れたの」

 

と答えた。

 

「じゃあ、コッテリ系チャーハンを作るか」

 

「コッテリ系?」

 

「お肉と脂が多めならコッテリになるよ」

 

 材料を取り出す。最近は自分の家でもないのにガサゴソとサナの部屋の冷蔵庫を漁っているな、と思う。もしかしたらサナよりも冷蔵庫の中身に詳しいかもしれない。

 

「豚肉の細切れ1パック150gくらいの使って、玉ねぎ1/2個、にんじん1/2個、卵は一個でいいや。あとはかぶのそぼろ煮は葉っぱ使わないでしょ?」

 

「かぶの葉? 使わないというか捨てるけど」

 

「それをすてるなんてとんでもない!」

 

「えっ、なんかちょっとレトロな言い草?」

 

「かぶは二度美味しいの! 根の部分、そして葉の部分。葉にはビタミンCやβカロテン、カリウム、カルシウム、鉄が含まれています! 食物繊維も多いから便通にいいの! その上、下茹で不要でクセのない野菜です! 面倒臭さが少ないし、栄養価が高い優秀な可食部です! 捨てるなんてとんでもないです!」

 

「ドゥードゥードゥゥゥ。チエちゃん、栄養になるといつも熱く語りすぎるね」

 

 だって、お前がちゃんと野菜とかいろんな食べ物をちゃんと食べないと、人類が滅亡するんだぞ。耳をかっぽじって聞かせたいくらいだ。

 まあ、直接は言うなと神様からの約束なので、どうしても口酸っぱく言ってしまう。

 

「し、仕方ないじゃない。すごい野菜だって伝えないと、食べてくれない人いるんだよ。とりあえず、かぶ一個分の葉使うね」

 

 そうなんだー、と呟きながら、ソファーから立ち上がったサナが冷蔵庫をガサガサと漁ると、納豆を取り出した。

 

「栄養のこと気にするなら、納豆も入れる? 納豆チャーハンってあるよね」

 

 そう言われた時、私の顔は、自制できないほど歪む。

 

「ダメ」

 

 私の顔を見たサナが一瞬ひきつった。

 

「えっ? 納豆嫌い? 美味しいって聞くけど?」

 

「作ってる最中が地獄!」

 

「そうなの?」

 

「テレビやインターネットの動画で、納豆チャーハンはにおいが少ないって言ってるけど、あれは食べる時のことしか語ってない。

 作ったら、熱で納豆のにおいが濃くなったものが部屋中に充満。

 私には耐えられない。

 控えめに言って、クソ汚い靴下をフライパンで炒めているような気分。納豆のにおいが不得意な人は納豆の加熱はお勧めしない。

 とりあえずね、料理番組や動画で『作っている最中はそんなにくさくない』なんて言った人、私は絶対に許さない!

 珍しく休みの日に誘われた合コンに行く日、昼食に作った納豆チャーハンのあの香りが全身にまとった時のあの絶望感!

 絶対に……絶対に許さない!」

 

 サナが私の形相と早口を聞いて、ドン引きしている。

 

「ほ、本当?」

 

「嘘だと思うなら、私のいない時に一人でやって。私が黒い目をしているうちは、私の前で納豆チャーハンは誰にも作らせない!」

 

「すごい闘志を感じる……」

 

 サナが納豆をそっと冷蔵庫に戻した。

 

「今のチエちゃんには、誰も勝てない気がする……ところで……」

 

 サナが私の方を振り向く。

 

「今の中学生って、合コンあるの?」

 

 私は深呼吸し、あざとく頬に人差し指を立てた。

 

「えーっと、智恵は、納豆はそのまま食べるのが一番好きかな」

 

「チエちゃん、回答が質問と噛み合っていません!」

 

 ウィンクを追加でして誤魔化した。

 

 

 

 にんじんと玉ねぎをみじん切りにする。

 にんじんは、にんじんスティックを作るように細長く切った後に1センチ角に切って、包丁の先をまな板につけて、刃の根元側を使って切る。

 

「包丁を叩きつけるように切ると、材料が飛び散るので、こうやって切る方がいいかな」

 

 玉ねぎは半分に縦に切った後、さらに5ミリ幅くらいに玉ねぎの根元を残して切れ込みを入れる。次に、繊維に対して垂直に5ミリ幅で切る。

 

「玉ねぎのみじん切りはこんな感じ」

 

「にんじんより楽だね」

 

「では、にんじんと玉ねぎは電子レンジ500wで4分くらい加熱します」

 

「前に言っていた、あらかじめ熱を入れて柔らかくするってやつね」

 

「そうそう。これをしておくと後で楽なんだよね。特ににんじんは火の通りが遅いからフライパンで炒めると時間がかかる」

 

 かぶの葉をかぶから切り取り、水洗いする。

 

「これを1センチ幅にザクザク切って……さっきより楽だと思うけど、油断するとざっくり指を怪我するから慎重にね」

 

「慣れた時こそ危ないってやつだね」

 

 サナは、慎重にざくり、ざくりと切っていく。

 その間に、電子レンジの加熱の終わったにんじんたちを取り出し、ご飯を温め直す。

 

「そういえば、ご飯はなんで温め直すの?」

 

「冷えているご飯は、くっついて固まるから、ほぐしやすくするために温めるの」

 

「あっ、パラパラチャーハンってやつ?」

 

「日本で一般的なジャポニカ米で、お店みたいなパラパラチャーハンを家庭で作るのは、けっこう難しいんだよ。よく混ぜ合わせてしっとりした出来上がりが日本の家庭でできるチャーハンだよ」

 

「パラパラの方が美味しいの?」

 

 私はうーんとうなる。

 

「私はー、好みじゃないかな? 私はパラパラが売りの中華屋さんのチャーハンを食べたけど、口が乾いた感じになって、しっくりこないと思った」

 

「なるほど。じゃあ、別にパラパラチャーハンを目指さなくてもいいんだ」

 

「お店みたいなパラパラを目指すなら、いろいろ工夫が必要だけど……例えば、炒める前のご飯を溶き卵でコーティングしたりとか……。でも、私は卵は具として食べたい……まあ、私はそこまでしなくていいかな。しっとりしてる方が好きだし」

 

 フライパンにごま油大さじ1を入れて、火を入れ、温まってきたのを確認してチューブニンニク1センチくらいを入れる。

 

「すごく美味しそうな匂い! お腹すごい減る!」

 

「料理作る時の、このニンニクを炒める匂い、本当にいいよね。サナさん、豚肉をザバっとフライパンに入れて」

 

 サナがトレーに入った豚の細切れ肉を入れる。

 その空になったトレーを私は受け取り、薄いビニール袋に入れて、2回縛ってゴミ袋に入れる。

 

※ 自治体によって、ゴミ出しのルールは違います。このお話の舞台の自治体は比較的ゴミ出しのルールが緩い自治体です。

 

「そういえばチエちゃんはトレーをビニール袋に入れて捨てるよね」

 

「うん。一人暮らしだとゴミ袋を出すまで何日も置くことがあるからね。肉のドリップ(※肉から出てくる赤い液体)が残ってるとにおいやすいんだよ。だから、肉の入っていたトレーは袋に入れて縛って捨ててる」

 

「トレー、流水で洗えばいいんじゃない?」

 

「絶対それはダメ。シンクや蛇口、他の食器にお肉についていた菌が飛散するから食中毒を起こすよ! 絶対ダメ!」

 

ーーー

 

 サナが樹脂ベラを使いながら、肉にまんべんなく火を通していく。お肉の色が変わってきたので、あらかじめ火を通した玉ねぎとにんじんを入れる。

 じゃわっと湯気が立ち、すぐにかぶの葉を横から入れる。

 

「手早く混ぜちゃって」

 

「うん」

 

 サナが混ぜている横で、中華だしのソ海シャンタンを冷蔵庫から取り出し、小さじ一杯分ほど削り、フライパンに入れる。

 

「ソ海シャンタンって本当になんでも使えるね」

 

「これ、結構塩味もあるから、出来上がりの時に味見して塩を足した方がいいかな。私はあんまり足すことはない」

 

「へぇー」

 

 お肉に完全に火が通り、かぶの葉がしんなりしてきたら、温めたご飯を入れる。

 

「ちょっとご飯固まっているから、樹脂ベラで切るよう混ぜて」

 

 サナは真剣にフライパンの固まったご飯に樹脂ベラを引いて切るように押し込んで混ぜていた。

 

「うんうん、そんな感じ。ほぐれたら、フライパンの中身をよく混ぜて」

 

「中華屋さんみたいにフライパンあおるの?」

 

 ちょっとやってみたそうな顔をするサナ。

 

「実はそれ必要ない。しっとりチャーハンだし、そもそも、火力の強い業務用のコンロじゃないと、逆に熱が弱くなるのでおすすめしないです。あとご飯とかが飛び散って掃除が大変」

 

「ああー、じゃあやめます」

 

 フライパンを樹脂ベラで混ぜ合わせ、米がほぐれたのを確認して

 

「真ん中にスペースを開けて」

 

と言い、フライパンの具材を端に避けさせて、真ん中のスペースに割った卵を入れる。

 

「そこでスクランブルエッグを作るつもりで樹脂ベラで混ぜて、完全に固まる前に具材と混ぜて」

 

「こう?」

 

「そうそう。混ぜ合わせたらフライパンに醤油ひと回しかけて、よく混ぜて、火を止めて、お皿に盛り付ければ出来上がり!」

 

ーーー

【実食!】

 

 ステンレスの味気ないスプーンに赤色、黄色、緑色と色が乗る。

 

「いただきます!」

 

 そう言いながらサナが口にほおばる。

 

「おいひぃー。ハフハフ」

 

「はいはい、お水」

 

 私が氷を入れたコップを渡すと、サナがグイッとあおる。

 

「ありがとー。お肉が大きいからなんか食べてる感じがするね」

 

「ひき肉だと混ざりやすいんだけど、お肉食べてる感が少なくなるから、私はこっちの細切れ肉をそのまま入れる派です」

 

「シャキッとしているかぶの葉がいいよね。あっさりしにきてるのに、コッテリ感が消えない。それに、味もしっかりあるよね。チエちゃんにマジ感謝だね」

 

「中華だしのソ海シャンタンのおかげかな」

 

 私にじゃなくて、こういう調味料を作ってくれたメーカーさんに感謝するべきだと思う。本当にありがたい。

 

「家で作るチャーハンって美味しいんだね。パラパラしてなくても」

 

「パラパラしたい人は頑張って作ればいいさ。でも、自分で作るならこのくらいの味なら十分でしょ」

 

「だね! むしろ、私もこういうのが好きだなぁ。また作ってみよう」

 

「チャーハンはいろんな材料に変えられるから、余っている野菜をいろいろ入れてみて、チャレンジするのも楽しいし面白い発見もあるかもね。基本は、ご飯とお肉と玉ねぎまたは長ネギくらいかな。そこに色々余っている野菜を一つか二つ入れてみてね」

 

「なんか、そうやって試してみるの面白そうだね……。パラパラじゃなくてもいいし、捨てるはずだったかぶの葉も使える」

 

 サナは、食べ終わったチャーハンを見ながら笑った。

 

「捨てるものだったのに、美味しい料理になっちゃうんだ。料理って、魔法みたいだね」

 

「まあ、魔法少女が言うと説得力あるね」

 

「でしょ?」

 

 サナが胸を張る。

 

「私も、みんなが思ってる魔法少女の中身とはちょっと違うけど、しっかり魔法少女やってるから」

 

「まあ、サナさんは頑張っているよ」

 

「嘘ついて可愛い子ぶったりするのも、魔法少女のお仕事のためだから」

 

「それ、違うじゃん。サナのイメージのためじゃん」

 

「あっ、バレた?」

 

 そう言って、ヘラヘラと笑ってサナが手を合わせた。その笑顔はとても眩しすぎた。

 

「今日もごちそうさまでした!」

 

 本当に世界最強の魔法少女はフィジカルだけじゃなくて、メンタルも強いわ。

 

ーーー

【本日の夕食の栄養価】

 

・かぶの葉チャーハン 一人前(ごはん200g、豚こま切れ肉75g、卵1/2個、玉ねぎ1/4個、にんじん1/4本、かぶの葉1/2個分など)

 

栄養素   栄養価   充足率

カロリー  約630kcal  約32%

タンパク質 約24g   約48%

ビタミンC  約27mg   約27%

βカロテン  約3,400μg 約85%

カリウム  約650mg  約33%

カルシウム 約105mg  約16%

鉄     約1.9mg  約18%

 

【アドバイス】

 豚肉や卵、かぶの葉が入っているので、タンパク質やβカロテン、ビタミンCなどはしっかり取れます。

 一方で、かぶの葉自体は少なめにしているので、カルシウムと鉄は少なめです。

 カルシウムは牛乳やヨーグルト、豆腐などを追加すると簡単に補えます。

 毎食ですべての栄養素を完璧にする必要はありません。ほかの食事で不足分を補って、バランスよく食べましょう!




読んでいただきありがとうございます。

パラパラチャーハンはロマンですよね。
炊飯器チャーハンもまた美味しいのです。
それぞれ良さがありますよね。
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