これも一つの才能である。
鈴木智恵
くそ、不覚にも伊達眼鏡姿の自分に一瞬見惚れてしまった。
二重まぶたのくせに目つきは猫のように鋭く、身長の割に胸が大きい、なんとなく生意気そうなザ・メスガキなのに、黒縁メガネをつけるとさ、なんか実は勉強できる優秀なメスガキ、頼りになるメスガキになるんだわ。
セーラー服姿がさ、思っている以上に似合うんだわ。
それをさ、着替えて、白色の長袖シャツに、紺色のフレアスカート、緑色のカーディガン……。いいじゃないか……。上品な感じなのいいじゃないか! 趣味でピアノとかヴァイオリン弾いていそう。
それらを脱ぎ捨て、今度は中学校の指定ジャージに着替えるとさ、芋っぽさに、この伊達眼鏡がいい味を出す。鏡に向かって蒸気を感じる頬のまま睨みつけるとさ、ヤバい。こいつ、絶対ツンデレ系だって。
前世の自分なら完全に堕ちてるね、絶対に堕ちてる!
かああああー!
なんで私は今までこんなことに気が付かなかったのか!
自分に眼鏡をかければ解決するじゃないか、私の性癖ってやつはぁー!
そう言いながらメガネを外して鏡を見つめる。
……私はナニ馬鹿なことやっているんだろう。
ーーー
サブカルチャーの魔法少女と言えば、魔法少女協会なんてものがあって、魔法少女を守る仕組みがある。
でも、この世界にはそんな甘えはない。
魔法少女は自己責任の世界。
私や世界最強の魔法少女サナ以外にも魔法少女は存在し始めてきたらしいが、性能としては私とどっこいどっこいみたいだ。
サナは手伝いをしに行って会ったことはあるそうだ。
その人たちもまた、戦いの中で死んだり、怪我をして引退したり、インターネット上で心無いことを書かれて魔法少女を辞めたりした人もいるらしい。
私は、サナだけでも守り切らなければならない。
彼女の死亡や引退だけは人類滅亡に直結だから。
ーーー
空から巨大な顔のひび割れた天使の像が現れ、不気味な赤ちゃんの泣き声が空に響き渡る。
その大きさは一つの町を覆い隠すくらいのものだ。
こりゃあ、終わった。
さすがに私の魔法少女人生とか人類終わった。
もう、存在が出会った時点で終わりな存在みたいで、天使の像から滴り落ちる赤い涙によって、水源という水源は赤い色に染まっていた。
すると、太陽を背に落ちてくる一つの影があった。
その影は急に煌めき、そして強く輝きながら、その天使の像の中心をえぐり、貫通する。
強い突風が駆け抜け、街中の木々が揺れた。
天使の像はガラスが砕けるように割れていき、地面に落ちる前に虹色になりながら消えていき、街は元通りの姿に戻った。
地表に降り立ったのは我らが天使、世界最強の魔法少女サナ。
その私生活は誰も知らず。
見た目が14歳くらいの少女。初めて現れてから、もう5年経つのに少しも歳を取らない。
顔は見えるのに、顔を覚えることができない。
不思議な魔法少女である。
その正体は、身長約160cm、細身で優しい瞳をした18歳の女子大学生。困った人がいればすかさず手を差し伸べる天使のような淑女。
その裏で、アルバイト先のコンビニの廃棄弁当で栄養を補給し、数ヶ月前までは自炊の一切が出来ず、数年後には栄養偏重による内臓疾患で死亡する運命であったとは誰も知らない。
ーーー
雨の中歩くのはいい気分ではない。
しかし、今世の両親からのお使いなので文句を言えない。
両親が『いつもサナさんのところで甘えて夕食食べさせてもらっているから持って行きなさい』、と親戚から送られてきた早生みかんをビニール袋一つに入れて、傘をさしながら歩く
おかしいな、むしろ甘えられている気がした。
サナの部屋の扉を開けると、
「ねえ、チエちゃん! 今日はさ、このレシピの料理に挑戦したいんだけど!」
サナが携帯電話の画面を見せてきた。
昨日のテレビ番組のレシピを携帯電話で写真を撮ったらしい。
テレビ画面には、スマホを構えて真剣な顔で写真を撮るサナの姿まで反射していた。
「うーん、私は素人だから味が想像つかない」
「えっ、チエちゃん、シェフになるつもりで料理勉強しているんじゃないの?」
どうなったらそうなるんだよ。
「私レベルで料理人になれたら、みんな名店の料理人になれるよ」
「えー、そうなの!?」
レシピを見る。
オレンジかー。冷蔵庫には無いからスーパーに行かないといけない。サラダチキンのスモーク風味もないよなー。
そう思っていたら、サラダチキンのスモーク風味が冷蔵庫の中に入っていた。
「うそっ、サラダチキン入ってる! サナさん、サラダチキン買う人だった?」
「このサラダチキンのスモーク風味はコンビニで廃棄するやつもらったんだよね。でも、オレンジは買わないといけない」
意外な食材がサナの冷蔵庫にあり、驚く。
これであとは、オレンジさえ買ってきたら作れる。
でも、外を見れば、叩きつけるような雨音に変わり、窓にも雨が当たっていた。
今から買い物に行く気にならない。ていうか、この天気の中、しかも暗くなった時間に帰るのかよ。まあ、いつもご飯をサナの家で作って食べたら夜遅くに帰るけど。
私、一応中学生の女子なんですけどね!
両親め、采配を誤ったな……。いい顔しようと思って親がみかんをサナに持って行くように言わなければ……。
そこで、ふと、手元にあったビニール袋の中身を見つめる。
「早生みかんで作ってみよう」
「ワセ?」
ーーー
【調理!】
説明しよう!
早生みかんとは、早い時期に収穫できるみかんで、皮は緑色から黄色の色合いをしている。味は酸味が強めである。しかし、残暑の残っている時期に食べることを考えれば、さっぱりしていて私は好きである。
「この時期は迷うよね! ぶどうも出てくるし、梨も、柿も、りんごも目白押し! その中でキーンとする酸味の早生みかん……。
果物の宝庫の秋!
私は本当に日本に転生できて良かった」
「また謎の中二病設定が始まった……」
うっかり、口走った転生の話題も、私が中二病なんだと暖かい目で見守ってくれる。
サナはホント、ちょろいぜ!
……ふぅー、危なかったぁ……。
「果物はビタミンCやカリウム、食物繊維が豊富に含まれていて、生食できるから、ビタミンCも破壊されず体に吸収できます。果物を普段から食べることは、動脈硬化につながる心血管疾患のリスクを低下させるんだよ! 毎日一個を目標に果物を食べよう!」
「美味しくて体にいいなんて、神様は素敵なものを創ったものだね」
そう言うと、なぜか外の雨の勢いが収まってきた。
神様は私には厳しいけど、サナには甘いな、このー!
乾燥スパゲッティ200gをプラスチック容器に入れて、水を張って、電子レンジに入れる。500w20分にセットして加熱を開始する。
「麺を茹でている間にほかのことをやります。早速ですがみかんの皮を剥きます。包丁で剥くほうが中の薄皮も少し取れるからおすすめだけど、手でも剥けるので楽な方でオッケー」
サナが皮を剥いたみかんを預かり、ザクザクと包丁で切る。
「みかんは包丁で1センチ角に切って、同じくサラダチキンスモーク風味も1センチ角に切ります。そう言えば、サラダチキンって食べたことある?」
「ないよ」
食べたことないのに、廃棄でもらってくるとか、サナ、なかなかチャレンジャーだな。
「鶏胸肉で作ったベーコンみたいな感じ」
一切れを渡して味見してもらう。
「あっ、本当……ベーコンみたいな……すっごくあっさりしたベーコンに感じる」
「美味しいよねー。お腹すいた時にそのまま食べる間食にも使えるよ。カロリーも100キロカロリーくらいだし。プロテインバーみたいに食べる人もいるくらい。最近値上がり気味だけどね」
「最近の中学生はプロテインバーにも詳しいとか……頭が痛くなってきたよ」
私は咳払いして誤魔化す。
「では、次にミニトマトを半分に切ります」
切り終わった材料をボウルにいれて、オリーブオイル大さじ2、塩小さじ1をいれ、レモン汁大さじ1を入れる。
「次は粉末のソ海シャンタン……鶏ガラスープの素を小さじ1入れます」
「あれ? 缶のやつじゃないの?」
「冷製パスタだから、粉末のほうが混ぜやすいの。固形タイプは冷たい料理では溶かしにくいからね」
「用途に合わせて変えなきゃいけないんだね」
「味が足りなかったら、塩とか鶏ガラスープの素を後で追加してね。サナさん、ボウルの中身、よく混ぜ合わせて」
サナに任せて、茹で上がったスパゲッティを取り出して、冷水でしっかり冷やし、キッチンペーパーで水分を取り除いて、ボウルに移す。
「急に増えたから混ぜにくい」
菜箸で慣れない量のスパゲッティを持ち上げては、ボウルの中のソースと混ぜ合わせる。
今だ。このタイミングならいける。
ボウルに胡椒を一振り、ラー油を数滴落としながら、
「がんばれっ❤️ がんばれっ❤️」
とニヤニヤしながらサナを見た。
そう、メスガキといえば、このあおり口調の応援である。
それを聞いたサナの反応は……。
「チエちゃんのためなら、えんやこらー!」
くそっ、思っていた反応と違う!
そして、ボウルの中身はお皿に盛り付けられて、出来上がる。
ーーー
【実食!】
お皿の上には、ミニトマトと粒の見えるほぐれたみかん、サラダチキンスモーク風味の角切りが混ざり合ったスパゲッティが盛られた。
「そうそう、盛り付ける時は菜箸やトングで捻りながら高く盛り付けると、同じ量でも綺麗に見えるんだよね」
盛り付けたパスタを少し弄り、高く盛りつけ直して、サナに渡す。
「あれ? 本当だ!? なんか美味しそうに見える。不思議ぃー!」
二人で手を合わせて、いただきます、と声を出して、サナが迷うことなくフォークをパスタに差し込み、クルクルと巻き込み口に入れる。
「さっぱりしているのに、味がしっかりしてる」
サナの目元が緩んだ。
味の想像できない私は、顔色を変えないが恐る恐る口に入れた。爽やかなみかんの香りが口の中に広がる。
「みかんの甘みが合わないかも、と思ったけれど、甘さがコクになるから美味しいね」
「なんていうか、ラー油や中華だしを入れたから、ちょっと冷やし中華っぽいね。でも、これはこれで美味しい!」
あぁ、味の違和感はこういうことか。
もし、メニュー名が冷やし中華風早生みかんの冷製パスタならしっくりきただろうけど、イタリアンなイメージで食べると違和感が来る。
「言われてみれば……冷やし中華みたいな味わい……。チキンコンソメだったらもっとイタリアンな感じになるかな」
あとはラー油はやめて胡椒を増やすか一味唐辛子にするか、あとはエキストラバージンオリーブオイルを増やして香りを増やすかみたいな……次作るときに試してみよう。
とりあえず鶏ガラ中華だしはコンソメに変えよう。
「前のミニトマトとアボカドの冷製パスタみたいに、これにアボカド入れたいね。サラダチキンのスモーク風味がそのままベーコンぽいし、絶対合いそう」
あの、トマトと混ぜると味のチート効果の生まれるアボカド……。ミニトマトがあるし、絶対に合いそう。サナ、なかなかいいことを考えるじゃないか。
「わかる。アボカドのコクやねっとり感、これに合う気がする」
うーん、でも、アボカドを入れると今回のパスタと差別化が難しいな。きっと、美味しい気がするけど……まずは試してみるかな……。
もやもやと考えているとサナがニコリとこっちを見ていた。
「とりあえず、早生みかんの冷製パスタ、ありだね! また新しいレシピ挑戦してみたいな」
まあ、自分に合うならそれでいいよね。
あぁ、うっかり、酷いレシピを天然良い子のサナが信じて作らないようにアドバイスしなきゃ。
「初めて作るレシピは、著名な料理研究家さんの出した本や、メーカーのホームページ、レシピサイトの中でも作った人の多いレシピ、テレビの料理番組、YouTuberの中でも有名どころの人、は外れにくいから、まずはそこからチャレンジするといいよ」
でも、納豆チャーハン、お前の存在だけは許さねえからな。
「チエちゃん、急に目が死んでいたけど大丈夫?」
ーーー
【本日の夕食の栄養価】
・早生みかんの冷製パスタ(一人前)
乾燥スパゲッティ100g、早生みかん1個、ミニトマト4~5個、サラダチキン1/2個、オリーブオイル大さじ1、レモン汁大さじ1/2など
栄養素 栄養価 充足率
カロリー 約580kcal 約29%
タンパク質 約27g 約54%
ビタミンC 約50mg 約50%
βカロテン 約1,350μg 約34%
カリウム 約680mg 約34%
カルシウム 約45mg 約7%
鉄 約2.0mg 約19%
【アドバイス】
カルシウムが少なめです。
パスタにしらすを入れるのはどうでしょう?
もしくは、小松菜のおひたしや、豆腐のお味噌汁を添えるのもいいと思います。
もちろん、手軽に牛乳200mlもいいと思います。
読んでいただきありがとうございます。
先日、テレビで見たレシピを早生みかんで作ったら美味しかったので載せました。
いろいろ試したいことをやれたら、その結果もそのうち載せたいと思います。