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「いいぞー!」
「がんばってー!」
「やっちまえー!」
その声が向けられている中心では、二人の騎士が刃を
何度も
「『サンダー・ランス』!」
「『フレイム・ランス』!」
「相変わらず手強いね、リュート!」
全身を白い
「こっちの台詞だっての、ようやく追い抜いたと思ったらまたすぐに強くなりやがって」
「でも、君は必ず追い付いてくる」
白の騎士は剣を黒の騎士に剣を向け、
「そうしないと誰かさんが独りぼっちになっちまうからな」
そして眼前に剣を傾けると、刀身をなぞり
「いくよ?」
「ああ」
同時に飛び出した二人の騎士は
地面から二人を
「「!」」
二人の騎士は立ち止まると、その壁を産み出した
「
「なんだよ良い所だったってのによー」
「あいつって団長の部隊のガーランドだよな、なんでここに……」
観客席から聞こえる不満を無視し眼鏡を掛けた騎士は腕を振るう、すると闘技場の中央を二つに分けた鉄の壁が消滅した。
「騎士アルテア、騎士団長殿がお呼びだ」
「俺が?」
アルテアと呼ばれた灰銀の騎士は剣を振るって刀身に纏った闇を消し去ると、ゆっくりと
すると全身を覆っていた鎧が光の粒子へと姿を変え腕輪に吸い込まれ、灰と銀が混じった髪に、青い瞳の青年が表れた。
「ブライト、決着は次だ」
「みたいだね、僕はまた遠征任務があるからしばらく先になりそうだけど」
ブライトと呼ばれた白の騎士は刃に宿した光を散らし、純白の剣を鞘に納め同様に鎧を腕輪に収納する。
金の髪を風に
「んで、行く場所は団長室でいいんだよな?」
「……」
行くべき場所を問われたガーランドだが、返事をせずアルテアのに視線を合わせる。
「なんだよ」
「……いや、
ガーランドは何でもなかったように眼鏡を直すと、向かうべき場所を
「りょーかい」
アルテアは首を
その背中を追いかけて闘技場を出ていく
「彼に一体何があったのですか」
「騎士ディアトリマ、私の口からは何も言う事は無い」
「そうですか……」
ガーランドは用件が終わったと、
ブライトは心配そうな扉を見つめていたが、遠征の打ち合わせがあることを思い出し闘技場を後にしたのだった。
————
闘技場から少し歩いたところには
円卓とは文字通り円い卓が中央に置かれている一室で、基本的には騎士団の
「つまりは
呼ばれる理由になるよう心当たりは、あると言えばある。
それがここまでの物だとは思ってなかったが。
「
『近衛騎士の』の鎧は、白を基調とした鎧に赤い十字の線が兜と胴に塗られ、肩からは赤いマントが下げられている。
この特徴的な鎧を
以前あった騎士団内での交流試合ではかなり目立っていたのを覚えている。
「そこのお前、止まれ」
円卓の扉前で、門番騎士に
「所属と名前を」
「アルバート隊所属、騎士アルテア」
「!、お前があの……」
「ん?」
「うおっほん!騎士アルテアが参りました!」
もう一人の門番の騎士が一つ
「くれぐれも無礼を働くなよ」
「分かってるっての」
自分に対してどんな
「通せ!」
向こう側からの声を合図に扉を開けた門番に
団長含めて十五名の
俺に興味が無さそうな者、逆に興味
なんとも見事に個性豊かな反応だ。
そして、それらに守られるように後ろに居るのは、
国内有数の大貴族であり、騎士団の最大支援者であるアルケウス=ユーステスがそこにはいた。
それはこんなに
「さて騎士アルテアよ、本日をもって貴様には騎士を辞めてもらう」
まあ予想通りだな、まったく嬉しくないが
つまり円卓にこれだけ過剰とも言える戦力を集めているのは、俺が
俺を止めるにはこれだけいると言われているようで、正直あまり悪い気はしないが。
「調査書を」
「はい」
騎士団長が背後に控えていた若い騎士に声を掛ける。
若い騎士は前に出てくると、手に持っていた書状を
「先日、これは騎士団内食堂で起きた件について纏めた物です」
「……では今回の事について一つづつ質問していきますので、それが正しいかどうかについて答えて下さい」
「りょーかい」
「貴様!その態度はなんだ!」
名も知らない隊長の一人が騒ぎ出す、どうせクビになるのならこれぐらい別に構わないだろう。
「まあいいじゃないですか、結果は変わらないんですから」
緑髪の
隊の練度はかなりのもので、それを纏める隊長であるゼクスはかなりの使い手だとブライトが褒めていた。
「……では最初の質問です、騎士団の
「事実だ」
「その相手はユーステス
「ああ」
「その際貴方は彼が装備していた剣や防具を破壊した、間違いないですか?」
「間違いない」
「その時の状況を、詳しくお願いします」
「食堂内で
真面目そうなコイツのことだ、どうせ事の詳細についてきっちり調べてるんだろう。
だが現状で俺がクビだと告げられている以上、詳細な事実なんてのはなんの意味の無い物だ。
この場ははっきりと茶番だと言える。
「さっきから何なんだその
先程怒っていた騎士隊長が再び
「なんだその目は、貴様は今の自分の立場が分かっていないようだな……!」
騎士顔を真っ赤にして立ち上がり腰の剣に手を掛け歩いてくる、何気なしに目線を送っていたら
こちらとしては別にここで戦っても構わないが。
「そこまでにしておけ」
いつも目を
「……ちっ」
騎士は舌打ちをすると自らの席へ戻って行った。
端の方の席では我らのアルバーン隊長がそれを見て
「…………」
そういった意味の視線を彼に送ると、
「……以上が調査書のまとめになります」
若い騎士は役目が終わったと、騎士団長の後ろに
「騎士アルテアよ、長生きをしたいのであればもう少し相手を選ぶことだ」
騎士団長は
どうやら話は終わりという事らしい、こんなあっさりしているならわざわざ呼び付ける必要など無かっただろうに。
「どうした、下がっていいぞ」
「アルケウス侯爵、アンタに言っておきたいことがある」
余計なお世話だろうが、他の騎士の事を考えるならばこれだけは伝えておかなければならない。
「お前!なんて口の利き方を……!」
「構いませんよ、なんでしょう」
近衛騎士達は掴みかかろうとして来たが、アルケウスの一言で行動を止める。
貴族にしては案外話せる人間のなのかもしれない、まあそれはどうでもいい。
「アンタは国内の差別を無くすために動いているそうだが、それならまずは自分の息子の教育をしっかりした方が良い」
「……いい加減にしろ!お前達この者を早く連れていけ!」
ついに騎士団長が声を荒げ始める、さすがに
「んな事されなくても行くっての」
アルケウスと騎士団長の指示で
最後にアルケウスの顔を見ると、
――
騎士団本部を出て
表情は隠れて分からないが
「どうしたシアン、そんな所で」
声を掛けると、頭から生えた特徴的な二つの耳が反応して
「先輩……!」
膝から顔を上げた騎士の少女シアンの目には涙が溜まり、今にも
「なんだ、またいじめられたのか?」
「先輩が……、私のせいで、ごめんなさい……!」
「お前は悪くないっての、だから泣くなって」
「だって私が……、うううっ」
結局泣き出してしまったシアン、というか俺がクビになるという情報はすでに広まっているらしい。
隣に座って腕輪から綺麗な布を取り出し、なるべく優しく涙を拭いてやる。
「ほら、そんなこすってると目が
「う゛ぅ゛~~~~~!」
泣き止ませようとしたつもりだったが、
「まったく……」
一先ずは胸に顔を押し付けてくるシアンの頭を
「すみませんでした……」
気分が落ち付いたのか、泣き止んだシアンが少し離れ謝罪を口にする。
「まあ、気にすんな」
涙で
「私のせいで先輩が辞めさせられちゃう、なんて」
「シアンのせいじゃ無いっての」
「でも、でも……うぅ」
またシアンが目に涙を溜め始める、こうなるとまたしばらく落ち込み続けてしまう。
「気にしなくても良いって言ってんのに、なっ」
「わひゃあああああ!」
頭の上の両耳を指で触れて撫でてやると、シアンは顔を真っ赤にして跳びはね椅子の裏に隠れる。
「なっ、なっ、なななななな!」
「別に死ぬわけじゃないんだ、そこまで責任を感じる必要はないさ」
ブライトだったらあの場面をもう少し穏やかに納める事だって出来ただろう、ここまで事が大きくなったのは単純に俺の力不足だ。
「さて、そろそろ出る準備しなきゃあいつらに突っつかれちまう」
遠目から眺めている騎士団内の警備騎士達に手を振ると腕を組み視線を
「私も、私も一緒に行きます!」
何かを決心した表情をしたかと思えば、とんでもない事を言い始めるシアン。
「だめだ」
「でも……!」
「でもじゃない、騎士の隊長になる事が夢だったんだろ?だったらこんな事で辞めるなよ」
「うぅ……」
「不安か?」
無言で頷くシアン。
確かにシアンの立場を考えれば味方が
「シアン、手だしな」
「え?はい……」
シアンは困惑しながらも、素直に両手の平を見せる。
「まあ大したもんじゃないけどな」
首の上で繋げていた
「これって、先輩がずっと着けてた……」
「特に魔術やまじないが掛けられてる訳じゃないんだが、まあ
天使の片翼を
単純に見た目が気に入り、騎士団に入ってから最初の給金で買った物だ。
買ってから今日まで一度も壊れた事が無く、それが
「いいんですか?」
「ああ、もし要らなかったら遠慮なく処分してくれていいぞ」
「そんなことしません!……ずっと大切にします」
シアンは首飾りを両手で包み込むと胸に寄せ頭を下げる、地面に水滴が落ちた。
また泣かしてしまったらしい。
「それじゃ、また会おうな」
「あ……」
頭を数回撫でてから、荷物を回収するために
自室の扉を開き明かりを点ける。
部屋の中央で腕輪の石をなぞると、部屋の中の私物が次々と光へと変わり腕輪へ吸い込まれていく。
「まあ、こんなもんかな」
すっかり綺麗になった自分の
この部屋に来たのは十八の頃だったか、四人部屋から二人部屋に移った時は一人前と認められたって喜んでいたもんだ。
「一応な」
同室相手の机に置き土産をして部屋を後にする。
通り掛かる騎士達に軽い別れの挨拶をしながら正門へと向かっていると、壁に背を預けるアルバーン隊長がそこにはいた。
「だれかと待ち合わせっすか隊長」
「ああ、お偉いさんに喧嘩を吹っ掛けなきゃ気が済まない馬鹿をな」
「そんな命知らずな奴がいるんすねぇ、一度でいいから顔を拝んでみたいくらいだ」
隊長は呆れたよう笑うと、小さく溜息を吐く。
「あれで騎士団を止めさせるのは、
「本当に首が斬られるよりはマシなんじゃないすかね」
騒動を聞きつけた
まあ
「……その様子だとあまり気にしていないみたいだな」
「まあ、隊長が歳で引退して俺が代わりに登用されるまでもう少しだったんで、それは少し惜しかったっすね」
「馬鹿野郎、俺はまだまだ現役だぞ」
「そりゃなによりで」
日差しで短い白髪を輝かせるアルバーン隊長。
歳は今年では五十五になったらしいが、未だに最前線で大剣を振り回している様は流石としか言いようがない。
「……お前、これからどうするつもりだ?」
「
正直な話、貯まっている騎士団の給料があれば数十年は働かず生きていけるが、何もしないというのは性に合わない。
「そうか、仕事でも紹介してやろうかと思っていたが余計な世話だったみたいだな」
「そこまでしてもらう訳にはいかないっすよ」
「かわいくないやつめ、……たまには家に来い、娘も会いたがってる」
「気が向けばそのうち、それじゃあ俺行きます」
「ああ」
アルバーン隊長は行き場を無くしていた幼い俺に住む場所を用意してくれたり、戦闘の
俺が
「いつか恩を返さないとな」
とはいえどうやって返せばいいのかは全く思いつかないんだが。
本人に聞いてもそんなの要らんと言うだけで、全く答えてくれないのがどうしようもない。
まあいずれ思いつくだろう。
――
正門に着くと一台の馬車が止まっていた。
「もしかして出迎えの馬車でも用意してくれたのか?」
「残念ながら、それは僕の為に準備されたものなんだ」
馬車を眺めていると、騎士寮の方面から歩いてくるブライトに声を掛けられた。
「なんだ、最近帰って来たばっかだってのにもう行くのか、それも一人で」
周りを見渡しても遠回しにこっちを見ている騎士ぐらいしかいない、いくらブライトが優秀な騎士とはいえ何日もの休養日を挟まずに遠征任務とは。
「上の人も人使いが荒くて困っちゃうね」
「本当にな」
そういえば新人騎士しかいない部隊で、魔物の大群の相手をさせられたこともあったか。
その時は本隊が来るまでの時間稼ぎをしろと上の人間は言っていたが、幾ら貴族だらけで上品だった部隊でもどんな無茶だと
あの時は人員こそ少なかったものの、物資自体は大量にあったからどうにか堪える事が出来たが。
幾つも装備を駄目にしたことで幹部連中に怒られた時は、こいつらどうしてやろうかと思ったものだ。
「騎士を辞めさせられたと聞いたよ」
まあ流石に耳に入ってるよな。
「ああ、ついさっきクビって言われた所だ」
「どうしてその話になったのか分からないけど、皆君は悪くないと言っていた」
「まあ相手が悪かったってやつだ、色んな意味でな」
別にその行動に対して後悔はしていないし、次同じ場面があればまた同じ事をするだろう。
「僕の家の力なら、君の退団を止められる」
「よしてくれ、そこまでの事をお前にさせられないっての」
確かに大貴族であるディアトリマ家の力であれば、何とか出来るのかもしれないが。
だからと言って自分の
「……君はそれでいいのか?本当は全く納得なんかしてないんじゃないか」
「まあな、けどこれは自分で招いた結果だ、甘んじて受け入れるさ」
「そういう
「ありがたく受け取っとく」
軽く拳を打ち合わせる。
馬車に乗り込むのを見送っていると、ブライトがこちらへ振り返る。
「良ければ一緒に乗せてあげようか?」
「野郎と二人きりの馬車旅なんて、ごめんだね」
「それは残念だな、なら
「また会おう」
「ああ、またな」
走り去る馬車を見送り、新たな世界へ歩き出した。