「まずは傷を治そうか」
簡単な回復魔法を掛け目立つ傷を治す。折角、綺麗な顔なんだ、傷が残ったら勿体無いからね。
どうやら内臓には余りダメージはない様だけど、念のため身体強化の魔法を使い、自己治癒能力にバフを掛ける。これで内側の損傷も勝手に治る筈さ。
最後に、次元魔法で異空間から
「それを飲めばある程度は魔力が回復するでしょ、腕は自分で生やしてね。他者の肉体を弄るのは得意じゃないんだ」
「・・・はい、ありがとうございますぅ」
私は治癒系の魔法が得意じゃない、そもそも傷を負う事が余りないからね。だから本当はクレオスの神殿にでも連れて行った方が良いんだろうけど、流石に血塗れの魔王を連れて行ったら面倒臭い事になりそうだし。こんなのでも一応、元人類の天敵なんだから。
「クレア、手拭いを」
「かしこまりました」
ドアのすぐ外にいたクレアに声を掛ける。流石にこんな血塗れで部屋にいられるのは嫌だからね、私は意外と綺麗好きなんだ。
傷が癒え、腕を生やし終わり、身体を拭いているメディアに声を掛ける。やっぱりスタイルいいなあ、整形魔法ってすごい。
「それで?何があったんだい。魔大陸がどれだけ魔境でも、君をそこまで追い詰める存在が居るとは思えないんだけれど」
「・・・竜王です」
「竜王?・・・確かに、前に君は竜王が勢いづいている。とは言っていたけど、同時に竜王自体は雑魚だって言っていたじゃないか」
「はい、竜王自体はやっぱり雑魚でした、奇襲とはいえ、最初の一撃で殺せましたし、・・・ただ、取り巻きの人間達が異様に強くて・・・。っでも!三人のうち二人は殺したんです!一人は次元の狭間に落としましたし、もう一人は首を跳ね飛ばしました!・・・けど、最後の一人が余りにも・・・」
人間ねえ、亜人ならともかく純粋な人間は魔大陸にはあんまりいない筈だけどなあ。
「君が純粋な人間に負けるとはねえ、そんなに強かったんだあ、その三人組は」
「・・・いえ、実を言うと殺した二人はそこまででした。精々がこの国の騎士団長と同じくらいで、次元の狭間に落とした方は武具を作り出す見た事のない魔法を使っていましたが、逆に言うとそれだけでした」
騎士団長クラス、つまりはS級冒険者と同程度の戦闘能力。そして、メディアですら知らない未知の魔法。或いは・・・異能。
「でも、最後の人間が妙に強くて・・・、それでも最初は優勢だったんです。なんらかの魔法で此方の魔法を無効化してはいたんですけど、身体能力では優っていたので、このまま勝てる・・・、と思ったんですが」
「魔法の・・・、無効化?」
「?はい、無効化です。発動を阻害する訳でも、結果を打ち消す訳でもなく、只々魔法の影響を受けないって感じでした」
前・・・、ロミオが殺したって言う転生者の異能が、確か魔法の無効化だった筈。その三人組は十中八九、転生者だろう。・・・でも同じ異能を持つ事があるのか?ゴブリンの情報では、個々に違う力を持っている筈。うーん?
「?続けますね、えーと、そう。途中までは妾が優勢だったんですけど、急にその最後の一人が妾が首を刎ねた女の心臓を食べ始めたんです。こう、ガブ!って。そしたらさっきまでと別人みたいに強くなって・・・、挙げ句の果てに、殺した竜王の死体まで起き上がってきたんです!・・・そこからはもう一方的でした。魔法は効かないし身体能力も互角、竜王も首を刎ねようが心臓を潰そうが意に介さず、って感じでしたし・・・。最終的に残った魔力を絞り出してここに逃げてきたって訳です・・・」
魔法の無効化に、心臓を喰らって身体能力を向上させる・・・。異能の二つ持ち?一人一つじゃないのか・・・、
「あの・・・、ガガンボ様・・・?」
無効化ではなく、単純に効いていなかったとか?・・・いや、そこらの魔導士ならともかくメディアの魔法をくらって無傷は旧き神でも不可能だろう。それなら、
「ガガンボ様ぁ・・・、もしかして怒ってますか!?」
心臓を喰らう事で、相手の異能を、いや相手の能力を奪う異能?だとすれば、
「ごべんなざいぃ!!みずてないでぇ!」
そうだ、ロミオが殺した転生者の死体はどこに行った?ゴブリンは回収したなんて言ってなかった。
「むじじないでぇぇ!!!」
「うるさい」
「はぶぅぁ!!」
「ふーん。いや、良くやったよメディア。本当に良く生きててくれた、私は嬉しいよ」
「・・・ありがとうございまふぅ」
「君が持ち帰った情報は価千金、悪竜の財宝より価値がある、誇っていいよ」
「・・・こうえいでふ」
「・・・なんかムカつくなあ、その喋り方」
「ガガンボひゃまのせいじゃないでふかぁ!!」
実際、メディアが持ち帰った情報はかなり重要だ。これまでの情報だと転生者を含む連合軍相手でも、現在のフィーリア王国の国力なら、ある程度の被害はあっても負けることは無いと、私も、ゴブリンも思っていた。
しかし、魔法を無効化すると言う相性があるとはいえ、メディアを打ち負かす存在が居るなら話は変わる。それも、おそらくそいつは今後もっと強くなる。
神々の狙いもあるし、これは私も本格的に参戦しなきゃダメそうだ。
全くもって面倒臭い。
「さて、メディア。傷も、魔力も、既に回復しただろう?」
「はい!妾、完全復活です!」
「よろしい。じゃあ、もう一回魔大陸に行こうか」
「はい!・・・・・・え?」
魔大陸に現れた転生者は、おそらく現状の連合軍において最大戦力の一つ。しかも、喰らった心臓の数だけ強くなるというおまけ付きだ。場合によっては、千に一つ、万に一つの可能性ではあるけれど、将来的には私を凌駕する可能性もあるだろう。・・・なら、育ち切っていない今のうちに叩いてしまえば良いじゃないか。
勇者の成長を待ってくれる魔王なんて、物語の中にしか居ないのさ。・・・私は英雄だけどね。
「さあ行こう、今行こう、すぐに行こう。場所は分かるだろう?メディア。竜王のところにゲートを開くんだ。可愛い君の為に、私が直々に仇を打ってあげよう、そうしよう」
「え?あ、はい・・・?じゃあ、開きますね?」
さて、私のメディアにこれだけのことをしたんだ。少しくらい、本気を出させてくれよ。
飛行魔法で、上空から竜王の領域を見下ろす。
いや、まあ分かってたけどね?メディアに逃げられた時点で私が出張ってくるのは想像できるだろうし、その場に留まるほど馬鹿じゃあないだろう。・・・折角やる気出したのになあ。
「あれが竜王の死体かな、・・・ただの黒竜じゃないか、あんなのが竜王名乗ってたの?良く他の竜に殺されずに済んでたね」
「ですね、・・・思えば、最初からあの人間達に操られていたのかもしれませんね。何度か傘下に入る様、使いの者を送ってはいたのですが返事すら寄越しませんでしたし」
哀れ、黒トカゲ。下等な人間に操られ、竜王を僭称させられた挙句、魔王に殺されその死体も弄ばれるとは・・・。無様過ぎて笑えるね。
「まあ、居ないものはしょうがない。ついでだし、ここも消しちゃうか」
「え?」
「英雄ビーーーム」
説明しよう。英雄ビームとは、何か色々な魔法を同時発動し、重ね合わせる事で手からビームっぽい物を発射する、超高等複合魔法なのだ。
良い子のみんなは真似しちゃダメだよ、失敗すると暴発して死んじゃうからね。
「えぇぇぇぇええええ!?!!?」
「はい、一件落着。・・・そうだメディア、君の国に敵対してる魔王と獣王ってどの辺にいるの?」
「えっと・・・、え?なぜ?」
「いいからいいから」
「あっはい。・・・魔王の方はここから、北に百四十二キロ、西に三百九十三キロ。獣王は・・・、東に千二百キロ、南に十二キロ。・・・の所にいる筈です・・・、はい」
「英雄グラビティ」
説明はしない。ただの超遠距離重力魔法だもの。
「あ、あのぉ。ガガンボ様ぁ・・・?」
「どうしたの?メディア」
「・・・空から巨大な岩が地平線の向こうに落ちている様な気がするのですが・・・」
「ねー。自然現象って怖いなあ」
本当は、綺麗なまま魔大陸を統一したかったんだけどね、今はデロンド大陸内の事に集中したいからさ、少し魔大陸には静かにしてほしいんだよね。
「うーん、流石の威力。これだけ離れてても、衝撃が届くとはね」
「ひぇ、だ、大丈かなぁ、妾の国ぃ」
「あははは。大丈夫じゃないでしょ、あれだけの衝撃だもん。魔大陸中に衝撃が伝わった筈だよ」
「えぇぇ・・・」
勿論、魔大陸だけじゃなくて、デロンド大陸にもね。特に海に面しているエレウス教国は大変な事になってるんじゃないかなあ?天災に対する備えとかちゃんとしてると良いんだけど。
全く、災害は怖いなあ。・・・だけど時間が経つとみんな忘れちゃうんだよね、受けた痛みなんて。だから対策を忘れてしまうんだ、自分には関係ないと、心配する必要は無いと、そう勘違いしてしまう。
それなら思い出させてあげよう、連合軍の諸君に、神を名乗る愚者共に。英雄という名の災害を、ガガンボという名の天災を。
少しだけ、暴れようか。