「『この世界が、人類が、これまで何度も滅びかけていたのは諸君も知っているだろう。そして、その滅びを防いできたのがこの私、ガガンボである事も』」
空を見上げ、周囲を警戒する。・・・うん、今のところは特に襲撃は無さそうだね。
「『愚かしい神々の戯言に踊らされ、救世主たる私に戦いを挑む諸君に、それでも私は慈悲を与えようと思うんだ。・・・軍人諸君、神官諸君。王の首を差し出せ、神殿長の首を差し出せ。忠誠をすて、信仰を捨て。土地を捨てるんだ。神殿を破壊し、罪のない民衆を連れて、即刻逃げ失せると良い。』・・・メディア」
「はい」
気が短いねえ。神殿長の首を差し出せ、辺りからかな。空に暗雲が立ち込み始めた、まあ、神々からしたら迷惑だよねー。折角集めた信者を、信仰を無かったことにされるなんて。
空が光り、雷光が降り注ぐ。神々の魔力が籠った一撃は轟音を上げ、星見台に居座る私に天罰を与える。・・・何て事は、勿論なく。メディアが魔法で難なく跳ね返す。
世界に絶叫が響く。馬鹿だなあ、わざわざ自分たちから天界と現世の間に穴を開けるなんて。自分達じゃどうしようも無いから、転生者なんて回りくどい手を使っているんだろうに、無駄に高いプライドのせいで、怒りを我慢出来なかったらしい。・・・良いデモンストレーションをありがとう。
「『聞こえたかな?神々の絶叫が。たった一人の人間に、自分達の地位を脅かされる事に我慢出来なかったらしい、愚者の声が。人の身で自分達よりも信仰を集める私が、さぞ目障りだったんだろう。自らの力では太刀打ちできないからと、傷付くのが怖いからと、わざわざ異なる世界から、死した人間の魂を呼び込み、神獣の肉体を与え、成立し得ない報酬を餌に自らの尖兵とするくらいには、目障りだったんだろうね』」
この声は、王宮の中にも聞こえている。味方を鼓舞する目的も勿論あるけど、何より、他の転生者には教えて、サツキちゃんには秘密、っていうのは可哀想だからね。せめて、お友達と同じタイミングで絶望すると良い。
「『私立伊野松高等学校三年二組の転生者諸君。君達の境遇は聞き及んでいるよ。何らかの要因で、偶然、悲劇的に、命を落とし、この世界に連れてこられたのだろう?そこで転生者と称えられ、酒池肉林の厚遇を受けた後、ここ、フィーリア王国に元の世界へ帰還する方法があると、そう餌を差し出され、神々の傀儡として戦ってきたんだろう?』」
他が揺れる。稲妻の次は地震か。無駄だとわかってるだろうに、まあ、餌である筈のサツキちゃんに呪いを掛けて殺そうとするほどだ、転生者達の情報は、転生者達自身にも教えたく無かったんだろうね。
メディアが次元魔法を使い、異空間から杖を取り出す。流石に無武装だとキツイらしい、杖の先端を星見台の地面へと突き付ける。
また一つ、神の絶叫が世界に響く。
「『可哀想に、神に騙され、ありもしない希望の為に今日まで戦ってきたんだろう。だから教えてあげよう、私が、救世の大英雄が、この世で最も全能に近い、このガガンボが、諸君に教えてあげよう。何故、諸君が元の世界に帰れないかを教えてあげよう。少し長くなるけど付き合ってくれよ?』」
「ガガンボ様ぁ、何か変なのが登ってきてますけどどうしたら良いですか?」
「ああ、サツキちゃんだね。うーん・・・、面倒くさいし、結界張っておいて」
「はぁい」
まあ、怒るよね。元の世界に送り返せるって言った側からこれだもの。でも許してよ、私は別に嘘は言ってないんだ、本当に、送り返すだけならできるんだ。
「『そもそも、君たちのいた世界とこの世界はルールが違う。君達風に言うなら物理法則・・・かな?身体を構成する物質も、それ等が繋がる方法も、何もかもが違う。と言うかそもそも君等の世界に魔法は無いんだろう?・・・ただ神々が君達に言ったであろう事も全てが嘘というわけではない、私が扱う次元魔法なら次元に穴をあけ、元の世界に送り返す事はできる。でも考えてご覧よ、この世界の法則で成立する肉体を持つ君達が、別の法則で動く世界に行ったら、帰ったら、どうなるか。君達の、今の肉体はどうなるのか。そんなの砕け散って終わりに決まってるじゃ無いか』」
「あ、やっべ」
ああ、そう言えば彼女の異能は聞いてなかったなあ。まさかメディアの結界をこんな簡単に破壊できちゃうなんて。あっやっべ、で済まして良い事じゃあ無いと思うけど。
「はぁ、はぁ、・・・・・嘘つき!戻してくれるってっ!帰してくれるって言ったじゃん!!」
「うん、だからそれは出来るって。ただその後確実に死ぬだけで」
「そんなの・・・、そんなの嘘だ!だって、私は今、ここにいるもん!!今までだって普通にくらしてたもん!!」
もー、面倒くさいなあ。・・・えい、超出力結界。
「・・・・・・!!!」
「あははは、聞こえないよ。今から説明するからそこで待っててね」
細かい調整は苦手だけど、単純な強度なら私の結界はメディアのそれとは比べ物にならないからね。もう、無駄な魔力使わせないでよ。
「『えーと、どこまで話したっけ?・・・ああ、そうだ。・・・君達も疑問に思うだろう、何故自分達の体がこの世界で成立するのか、何故元の世界に馴染めないのか・・・。簡単さ、君達の体は本来の物じゃあない。神々が用意した、この世界で成立するよう用意した、新しい身体なんだもの。だっておかしいじゃないか、魔法のない世界から来た君達が、別の世界に来ただけで強力な魔法を扱える、そんなわけが無いだろう?・・・今、君たちが動かしているその身体は、異世界の魂を収容すら為に生み出された、神獣のそれなんだから。転生、生まれ変わりだよ?転移じゃない。君達は既に、君達の体は既に、元の世界で死んでいるんだ』」
あーあ、サツキちゃん泣いちゃった。神々を疑い逃げ出すくらいには聡い子なんだから、うっすらとは気付いていたろうに。本当に可哀想だね。
「『だから、今後はもう少し考えてから行動すると良い。それでも関係ないと、神々の尖兵で十分だと宣い、私に殺されるか、神々と手を切り、この世界で余生を過ごすか、それは君達次第だ。よくよく考えると良い、期限は一週間もあるんだ。・・・ああ、これは各国の国民にも言える事だよ。一週間後、私は八つの国に存在する、ありとあらゆる知性を抹殺する、鏖殺だ。・・・最後にもう一度だけ言おう。逃げ失せよ、国も、故郷も、忠誠も、信仰も、全てを捨てて逃げ失せよ。それが私から諸君等へ与えられる、唯一の慈悲なのだから』・・・ふー」
あー、緊張した。ちょっと邪魔は入ったけど、何とか噛まずにやり切れた。これだけカッコつけて噛んだら良い笑い者だからね。
「さて、これで納得してくれたかな、サツキちゃん。私の事を恨まないでくれよ?悪いのは全部神々なんだから」
「・・・・・」
「・・・・・いや、なんか言ってよ」
「結界解かないと聞こえないですよぉ?ガガンボ様ぁ」
あ、そっか。うっかりうっかり。えい、
「はい、これで聞こえるよ」
「・・・ほんとうに、かえれないの?」
「うーん、わかんない。君達の世界の事を私は何も知らないからね。でも、魔法も魔物もいないなら、こっちに来た時みたいに魂を収める肉体とかも作れない気がするし・・・。無理じゃない?」
「・・・・うっ、ぅぅぅう!」
あらら、また泣いちゃった。というか、作る作らない以前に、サツキちゃん達の世界に、こっちの世界を観測できる存在がいないと作ろうともしないだろうしね。やっぱ不可能だよ。
「ふん、ガガンボ様が保護して下さった上に、この世界で余生を過ごすという道も示して下さったのよ?それなのに感謝もなく、泣いてばっかり。これだから人間は嫌いなのよ」
「変わり身早いねえ、メディア。疲れない?それ」
「もー!ガガンボ様!折角、妾がカッコよく決めていましたのにぃ!!」
まあ、これもメディアなりの慰め方なんだろうね、多分。
しかし、これで連合軍は当分機能しないだろうね。転生者っていう強大な戦力が離反する可能性が出てきたんだから。これなら大丈夫そうだ。
漸くタルタロスに向かえる。