冒険者や騎士、兵士といった戦いを職業にしている人間は強い。一般的な農夫はゴブリンでさえ恐れるが、彼等にとって見ればただの雑魚だ。
しかしそんな彼等でさえ、逆立ちしても勝てない魔物というのも少なくない。私が前に倒した結晶竜とかね?そういう魔物が現れた時はS級冒険者や更にその上の私の所に指名依頼がやってくるんだ。
「ええぇ、神竜もう居ないの?」
「はい、十日程前まで山頂付近で暴れていたんですが、旅のお方が討伐して下さりまして・・・」
「無駄足かあ。・・・誰それ、冒険者?」
「さあ・・・、見た目は冒険者っぽくはありましたけど名乗らなかったもので、女性という事しか」
うーん。神竜は堕ちた神、何て言われるくらいだから普通の冒険者じゃあ太刀打ちできない筈なんだけどなあ、最低でもロミオ位は必要だろうに。
しかし、こんな辺境の地まで来て何もせずに帰る事になるなんて。久しぶりだなあ、指名依頼がスカるなんて。
「まあ、居ないものは仕方ないかあ。じゃ、私は帰るから」
「態々御足労頂いたのに申し訳ありません」
平和なのは悪い事じゃないからね。カテレイブで遊んでから帰ろ。
「成程・・・、神竜は既に討伐されていたと。かしこまりました、ですが申し訳ありません。討伐証明が無い以上、情報料以上の金額は支払えない決まりでして・・・」
「気にしなくて良いよ、カテレイブで荒稼ぎしてきたからね。という訳で冒険者諸君、幸せのお裾分けだ。好きなだけ飲み食いすると良い。全て私の奢りだ」
「待ってましたぁあ!!流石大英雄!!!」「うほほほほーい!」「酒ダァァァァ!!酒を持ってこいぃ!!」「良かっだぁ、まだ酒が飲めるぅ・・・」
英雄たる者、時にはこうして気前の良いところを見せとかないとね。それに今日の私は機嫌がいい、何せ金貨一枚が白金貨二枚になったんだから。偶にはギルドで呑むのもいいかも。
「失礼する。王都の冒険者ギルドは此処で合っているか?」
冒険者達が酒を片手に踊り狂って居ると、ギルドの入り口から一人の若い女が入って来た。
長い金髪に切長の目、女としては大分長身で180程か。質素な革鎧に身を包み、腰にはショートソードを、背にはロングボウ。どちらもかなりの品だね。そして一際目を引くのは髪を掻き分けて伸びる、純粋な人とは違う特徴的な耳。
久しぶりに見たなあ。
「あ、はい。ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどの様なご用件でしょうか」
マンドリルが定型分を口にする。いや、どう見ても冒険者だろうに、初めて見る本物のエルフに動揺してるのかな。
「護衛依頼の完遂手続きを頼む、書類はこれだ。・・・ん?美味しそうなのを食べてるね、ガガンボ。ワタシにもくれ」
「良いよ。今日の私は寛大だからね、好きなだけ食べると良いよ。マンドリル、ブルステーキを二つ追加して」
「マリアンヌです。・・・というかお二人はお知り合いなんですかぁぁぁあ??!?」
あははは、驚いた顔まで猿みたいだ。本当に彼女はイジメ甲斐があるね。
「モモモモモモルフィぃい!?!!S級冒険者の!?」
「モモモモモモルフィぃい、じゃ無いモルフィだ」
「S級?」「マジかよすげぇ」「モルフィって知ってる?」「知らなーい、本当にS級なの?」「神獣狩りの?」「あのモルフィか?何で王都に」「酒場の親父に聞いたことあるかも」「めっちゃ可愛くね?」
幾ら狂っている冒険者と言えども、S級冒険者の来訪となれば酒よりも気になるらしい。元々冒険者は女の少ない職業だ、その上モルフィの容姿は良く目を引くだろうね。
「し、失礼しました。モルフィ様、こちら報酬になります!」
「ありがとう」
報酬を受け取ったモルフィは言葉少なく感謝を述べ、そのまま私が座っているテーブルに向かってくる。
彼女が動く度にギルド内の全ての視線がそれに追従する。面白いね。
「久しぶりだね、ガガンボ。十年振り位かな」
「四十年振りだよ。珍しいねえ君がこんな栄えた都市部に来るなんて。人の多さに辟易したんじゃなかったっけ」
「ワタシも森を離れるつもりは無かったけどね、王命は無視できない」
「成程ね」
私とモルフィが初めて会ったのは五十年程前だ。
当時、私が初めて王都に来た時に彼女は既に王都でS級冒険者として活動していた。フィーリア王国も今ほど強国ではなく、王都もそこまで発展していなかったからね、人混みを嫌う彼女も過ごしやすかったんだろう。
そこに既に世界最強だった私が拠点を構え、この国が有数の強国となるまでの十年間、かなりの交流があったんだ。一緒に依頼に行ったこともあったかな?
「此処も変わった、まさかギルドの位置が変わってるとは思わなかったよ」
「・・・ギルドは移動してないよ?その方向音痴はまだ治ってないんだね」
「・・・そうか」
「・・・うん」
ご覧の通り彼女はエルフだ。人間の十倍以上の年月を生きる、亜人の一種。二十中程に見える彼女も実年齢は三百を超えているだろうね。
「それで?王命って事は当分は王都に滞在するんだ」
「さあ?詳しい内容はまだ聞いていない。明日王宮に出向くからその時に詳細を知らされるだろうね」
「そっか、なんか用があったらギルドに来なよ。私は基本此処で暇してるからね」
「わかった」
言うが早いか、ステーキを食べ終わったモルフィは挨拶も無しにギルドを出て行った。相変わらずマイペースだなあ、二つ頼んだブルステーキ両方食べてるし。
片方私のだったんだけどなあ。
同日深夜、私はフィーリア王国と、敵対国であるエレウス教国との国境に来ていた。あのゴブリン、貴殿の力を借りずともどうにかなるだろう。キリッ みたいな事言っておいて一週間も経たずに指名依頼とか恥ずかしく無いんだろうか。
「しょうがねぇだろ、経験が浅いとはいえS級クラスの騎士だ。育成に幾ら掛かったか分かったもんじゃねぇ、見捨てる訳にもいかねぇだろ」
「もう死んでたりして」
「不謹慎な事言うなバカ!!」
今回の仕事は敵国に潜入していた騎士の救助だ。
二週間程前から潜入させていた部隊が、敵に見つかり襲撃を受けたらしい。部隊の壊滅を避ける為一番強い騎士が殿を務め、その犠牲のお陰で部隊は無事帰還し、辛くも情報を持ち帰れた。というありふれた英雄譚が三日前の話。
「ありふれたとか言うな」
ところがどっこい、今日になってその死んだ筈の英雄様から救難信号が届き、慌てて私を呼び付けた、と言う訳だ。絶対罠だと思うけどなあ。
「かもな。それでも可能性がゼロじゃ無い限り救援は出さなきゃならねぇ、今後の士気に関わるからな」
「それで向かわせた救援が冒険者二人ってどうなの?騎士団から不満出そうだけど」
「その辺は陛下が上手くやるだろうよ。俺達はただ騎士さまの無事を祈ってりゃ良い」
此処まで来るとツンデレっていうかただのデレだよね。ゴブリンと盗賊のラブコメなんて何処に需要があるんだろう。
「お前なぁ・・・、任務中だぞ、真面目にやりやがれ」
「しょうがないだろう、暇なんだから」
「・・・はぁ」
ふふん、勝った。
「ねえ、まだーー?もう日が上るよ、死んでるって絶対」
「うるせぇ!まだ三時間も経ってねぇだろ!!ガキか、お前は!!」
割に合わない依頼だよ本当に。終わったら報酬ふっかけてやろう、そうしよう。
救難信号が届いたのが日を跨ぐ少し前、そこから私のところに依頼が来るまで二時間、そしてこっちに来てから更に三時間、合計五時間。S級クラスなら百キロ程度は移動できる筈、それなのに未だに姿を見せない。現実的に見て厳しいだろうに、随分とこだわるねえ。
「・・・悪いかよ。・・・アイツは王宮で肩身の狭い思いをしていた俺にも分け隔て無く接してくれたんだ。冒険者だからって差別せずにな、だから俺は信じてる。あんな良い奴がこんな所でくたばる訳ねぇってな」
「その話長くなりそう?」
「この・・・、お前には空気を読むって発想はねぇのか!!」
「あ、チョウチョだ」
「本当に何なんだよお前・・・」
私は私だよ。世界で一番強くて人をおちょくるのが趣味なただの仕事人間さ。
と言う訳でお仕事の時間だ。
「いや、感動しました。愛とはかくも素晴らしい!部下を逃す為、単身敵に挑む騎士、その騎士を信じ生還を望む友!ああ!世界は神の愛に溢れているぅ!!!!!」
「・・・誰だテメェ、どっから湧きやがった」
「見てわからないの?変態だよ、変態の魔物だよきっと」
ロミオで遊んでいると、国境の向こう側に道化師風な衣装に身を包んだ新種の魔物が現れた。うーん最近は魔物もオシャレするのかあ、知らなかったや。
「それで、お仲間は出て来ないのかい?」
「・・・何だ気付かれてたのか、折角楽に殺してあげようと思ったのに」
「やはりバレてましたか、だから言ったじゃ無いですか、不意打ちは良く無いと!」
「貴方が出て行ったせいで気づかれたのでは無くて?」
「・・・・・」
「ちっ、何人いやがんだ」
四人、木々の影からゾロゾロと出てくる。というかロミオ、本当に気付いてなかったんだ、S級失格じゃ無い?大丈夫?
「気付いてたんなら教えろよ・・・、大丈夫だよな?変な情報漏らしてねぇよな俺ぇ」
「あははは、変な顔」
「・・・随分と余裕だね。状況わかってる?」
「はっ、雑魚が何人集まろうが意味ねぇよ。国境を一歩でも超えてみろ、その心臓に風穴開けるぜ」
「雑魚本人が言うと説得力あるなあ、自虐ネタかい?」
「・・・頼むから黙っててくれ」
シリアスな時こそふざけたくなる。あるあるだね。