この世界には、多種多様な神がいる。戦いの神や豊穣の神の様に大雑把な括りを持つ存在から、直剣の神や小麦の神の様にピンポイントに一つのものを司る神もいる。
それだけ沢山の神々が存在すれば、教会の数も計り知れない程建てられる。勿論人気のない神は崇められないどころか、存在を認知されない事すらあるんだ。だから大半の神は、競い合う様に御子を作るんだけどね。
「で、ここが冒険者に一番人気の神、外傷を治す神の神殿だよ。一般の人には健康の神の方が人気なんだけどね」
「・・・私、神様にあんまり関わりたく無いんだけど」
「心配しなくても良いよ。ここの神は、珍しくまともな存在だ。癒しの神の一種でありながらその派閥に属さない。公平と公正を重んじるん神だ。何せ、他の宗派の人間を癒すどころか、御子すら作らないからね」
だからこそ人気なんだろうけどね。他の癒しの神だと、他宗派の人間を癒さないどころか呪いをかけるやつまでいる。イカれてるなあ。
「これはこれは、珍しいお客様ですね。遂にあの英雄様も手傷を負ってしまいましたか?」
「まさか、直して欲しいのはこっちの子だよ」
私の後ろに隠れていたサツキの首根っこを掴み、神殿長の前に引っ張り出す。何かギャーギャー騒ぎながら暴れているけど時間が惜しいからね、そのままポイっと神殿の中に投げ入れる。
「あらら、いけませんよガガンボ様。女の子をそんな風に扱っては、それも怪我人を」
「良いのさ、あれでもそこらの騎士よりずっと頑丈だからね。・・・はい、これお布施。後で宮廷から迎えが来るだろうから、それまで面倒見てあげて」
懐から白金貨を二枚取り出し、神殿長に手渡す。一枚はサツキの治療代、もう一枚は他の冒険者の治療代だ。他の冒険者は基本、お布施なんてしないからね、定期的に私が払っているんだ。ロミオ辺りをお使いさせてね。
うーん、これは大英雄。
「これはこれは、いつもありがとうございます。これで皆様の治療を続けられる。貴方にもクレオス様のご加護があります様に」
要らないよそんなの。比較的まともとはいえ、所詮神は神だからね。
「魔物の掃討、ご苦労だったなガガンボ殿。ただゴニモス平原が命の気配が消えた荒野になっているそうだが何か知ってるかね?」
「ああ、腸喰らいと戦っていた竜達が無闇矢鱈にブレスを吐いていてね、多分その影響じゃ無いかなあ?」
王宮内、謁見の間。いるのはゴブリンと宰相のみ。前と違い、今回は私が急遽呼び付けた形だからね、公式の場という訳じゃ無いんだ。
「それで、ガガンボ殿。どの様なご用件で国王陛下を呼びつけたのですかな、いつもなら此方が要請してものらりくらりと避ける貴方が」
「テンセイシャの正体が分かったよ、多分その目的もね」
あははは、驚いてる驚いてる。ここが公式の場じゃなくて良かったね。ゴブリンのあんな顔、他の貴族が見てたら笑いものにされていたよ。
「・・・成程。それは確かに何よりも優先すべき事かもしれん。それで、その正体とは何なんだ?」
「テンセイシャ、転生者は、死んだ人間が別の存在として生まれ変わる事を言うらしいよ。これは私でも出来るか分からない、死者の蘇生に近いけど同じ魂で全く違う体っていうのが違う点かな」
「転生者、生まれ変わり。・・・つまり、連合軍は過去の英雄を甦らせ、戦力として引き入れた。という事か?」
「それがどうも違うみたいでね。その転生者に使われた魂っていうのが、異なる世界の人間の物みたいなんだよね」
「異なる世界・・・?しかしそれは・・・」
「そう、異世界に干渉する方法はただ一つ。次元魔法を用いるしか無いんだ。世界で二人、私、ガガンボと、魔王メディアしか使えない、次元魔法をね?」
「や、やはり殺しておくべきだったんだ!!皆んな知っていた筈だ!あの魔女は裏切ると!陛下!今すぐに魔大陸への進軍準備を!」
「・・・落ち着け、宰相。そもそも連合軍と睨み合っている現状、魔王メディアまで敵に回す余裕はない。仮に全戦力を魔大陸に向かわせたとしても勝率は五分。そんな賭けはできん」
あーあー、取り乱しちゃって。まあ無理もないかあ、この世界でメディアに勝てるのなんて私か、旧き神くらいだもんね。ゴブリンは勝率は五分、なんて言ってるけど、私から言わせれば三割にも満たないよ。
「安心してよ。メディアは裏切らないさ、絶対にね」
「・・・そうなると、我々目線では貴殿が裏切った。という事になってしまうが」
「ああ、そうだね。メディアが私を裏切る確率より、私が君達を見捨てる確率の方が遥かに高いだろう。・・・けど、その発言は的外れだよ、メガロス。私なら一切の策略なしでこの世界の生物を皆殺しにできる。わざわざ転生者、なんて回りくどいことをする必要はない」
実際、この国の人間を皆殺しにするのに、私なら一週間も掛からないだろうしね。
「それは・・・、たしかに。ではどうやって連合軍は異世界に干渉したのだ?」
「さあ?私は別に全知というわけではないからね、知らないものは知らないさ。・・・でも予測はできる。大方、神々が何かしたんだろうね」
「神々が?しかし、次元魔法を操る神など聞いたことも、いや、まさか・・・!?」
気付いたみたいだね。これまで、次元魔法を操る神なんて誰も知らなかった。まあ、当然だ。何せ、次元魔法を開発したのは、メディアだ。
それも大体百五十年前の事。いかに神といえども、存在しない物を司ることは出来ない。
つまりはね。
「産まれたのか・・・!?次元魔法を司る、新しい神が!」
って事なのさ。
「まあ、まだ予測の段階だけどねー。単純に私が知らないだけで異世界に干渉する術がある可能性も否定できない」
「・・・いや、嘘だな。貴殿が私にこの話をしたという事は、何か確信めいた物がある筈だ。いつもは巫山戯た事ばかりするが、国の危機を引っ掻き回す様な事はしないだろう」
「・・・わーお。流石メガロス、四十三年の付き合いは伊達じゃないね」
私も家庭教師として鼻が高いよ。
「実はね、転生者の一人を保護してるんだ。今はクレオスの神殿で治療を受けているよ」
「何故それを早く言わない!!!?宰相!今すぐ人を送り神殿の周囲を固めよ!騎士団長も使って構わん!」
「か、かしこまりました!直ちに!」
「決して逃すなよ!」
神殿の周囲は結界を貼ってあるから大丈夫なんだけどなあ。サツキちゃんは逃げないし、竜が攻め込んできても守り切れるからね。そんなに慌てる必要もないと思うけど。あ、転んだ。
「その子はサツキちゃんっていうんだけどね?その子の魔力がちょっと異質でさ、少し神々のそれに近いんだよね。それで思い出したんだ、私は昔、・・・転生者を殺している」
「それは・・・、おかしいじゃないか。次元魔法を司る神が生まれたのが最近だとすれば、既に転生者が存在していた、という事実と矛盾が生じる」
「いやいや、昔といっても六十年前くらいだからね、その時既に生まれていてもおかしくない。・・・それでね、その時転生者が言ってたんだ。お前が神様の言っていたガガンボか、ってね」
「つまり、神が転生者に何らかの情報を与えている、場合によっては命令を下している事が確定している訳だ。いやそれよりも、貴殿を名指していたという事は・・・」
「言っただろう?目的も分かった、ってね。転生者の、或いは転生者を創り上げた神々の狙いは、
私の抹殺だよ」
「さて、今わかっている事はこれで全部だ。私の抹殺方法、まだ見ぬ使者、この戦争の勝利条件。この辺はまだ見当もつかないからね」
「そうか・・・、護衛は必要かな、英雄殿?」
「あははは。誰に言ってるんだい、ゴブリン風情が。・・・それよりも、私をこの国から追放しなくても良いのかい?巻き込まれるかもしれないよ」
「戯言を、神々が貴殿を狙っているという事は貴殿を笠に着て国土を広げて来た我が国も標的になり得るだろうよ。一蓮托生さ」
・・・人の成長は早いねえ、すっかり賢王様だ。
「ゴブリンと大英雄様が一蓮托生なんて勘弁してよ。恥ずかしくって表を歩けないじゃないか」
「それもそうか、失礼したな。ゴブリン殿?」
これは一本取られたかな。・・・なんか最近メガロスが段々私に似て来た気がするんだけど、これって私のせいじゃないよね?
「それじゃあか弱い私は退散させてもらうよ。・・・ああ、最後に。転生者のサツキちゃんの事は丁重に扱うようにね。異能やら連合軍の事を色々聞かなきゃいけないだろうけど、拷問とかはしない様に。分かったかい?」
「貴殿のその喋り方は懐かしいな。・・・ああ、分かっているとも。先生」
よろしい。神々の手先である転生者には手心を加えるつもりは無いけど、サツキちゃんの場合は完全なる被害者だからね。いつか全てを理解して絶望するその時迄は優しくしてあげよう。
これでも一応、強きを挫き、弱きを助ける、救世の大英雄だからね。