「ガッ・・・ぁ・・・」
神々の目的が、転生者を作った理由が、私をこの世界から排除する事だと判明しても、私の日常は変わらない。というか変えられないんだけどね。
「ブモォォォオ!!!・・・ォ・・・?」
神の意思が絡む神獣、それとは無関係に只々強い魔物。どちらにしても対処できる戦力は限られている。特に最近はロミオが王宮に缶詰状態だからね、大方サツキちゃんの監視兼護衛でもやっているんだろう。王宮も人手不足で大変そうだあ。
「ギィ、ギィィィイイイイ!!!!」
「逃さないって」
そうなると、当然モルフィも忙しくなる。この前屋敷で見かけた時はアルコール片手に壁に話しかけていた、人見知りの引き篭もりには今の状況は辛いらしい。・・・今度魔大陸でも連れてってあげるかあ。あの子、あっちのご飯好きだったし。
「おおぉおぉぉぉおぉぉぉ!!!!!」
「はい、お終い。・・・やっぱり増えてるなあ、こっちがサツキちゃんを保護したのがそんなに不都合かねえ?」
サツキちゃんを保護してから一週間。ゴブリンからの使いは一度も来ていない。まあ順調って事なんだろう、仮にサツキちゃんが情報を喋りたがらない様なら私に協力を仰ぐだろうしね。
私が拷問禁止って言ったんだ、ゴブリンが約束を破る事はないだろう。
「あれ、古代亀の討伐証明ってどこだっけ?・・・まいっか、このまま持って帰っちゃお、確か食べれたもんね、コイツ」
あって良かった次元魔法。どんなに巨大な魔物でも収納できるからね、転生者を作るために使うなんてナンセンスさ。
「英雄様のおかえりだよー、崇めたまえー」
「うおぉおお!!!ガガンボ様ぁ!!!」「大英雄のおかえりだぜぇ!!?」「お酒・・・、お恵み・・・」「今夜は朝までパーリナィ!!!」「あぁん!!抱いてぇ!!!」「ビール!ビール!」
うーん、蛮族。というかまだ奢るなんて一言も言ってないんだけどなあ。まあ、奢るけども。
「やあ、マリアンヌ。手続きを頼むよ」
「マンドリルです、ガガンボ様。・・・んえぇ?」
遂に認めたね、このお猿さん。自ら認めたね、自分がマンドリルだって。
「違います!マリアンヌです。そうです、ようやく覚えてくださいましたか!まさか、こんな日が来るとは・・・」
「そういうの良いから、手続きお願いね、マンドリル」
「・・・・んもう!!」
あははは、やっぱり彼女を虐めるのは楽しいね、溜飲が下がる。
「神竜の逆鱗、ミノタウロスの大角、エンシェントスライムの魔力核・・・、おや、古代亀の喉甲板が有りませんが?」
「ああ、喉甲板かあ。討伐証明がどこかド忘れしちゃってね、丸ごと持って帰って来たんだあ。ギルドの外に置いてあるよ」
「やっぱりお前かぁぁあ!!ガガンボぉ!!」
あら、久しぶりのマヌケ面。冒険者の激務に辟易して、楽な王宮に逃げたんじゃなかったのかあ。
「ざけんな!寧ろ王宮の方が大変だわ!!それなのにせっかくの休みに問題起こしやがってぇ・・・!王都のど真ん中に古代亀が出たって大騒ぎになってんだろうがぁ!!!」
あははは、元気いいなあ。何にもいい事ないんだろうね、可哀想に。
「お前の!せい!!でなぁ!!!」
「じゃあこれ皆んなの飲み代ね」
「かしこまりました、ガガンボ様」
「あと、外の古代亀。ギルドで好きに使っちゃって良いから。余ったらみんなに振舞ってあげて」
マンドリルに白金貨を一枚渡し、ロミオのいる席に戻る。
「それで、サツキちゃんの様子はどう?暗殺者に殺されたりしてない?」
「してねぇよ。・・・まぁ、暗殺者自体はビックリするほど来るけどな。今んところは俺と騎士団の奴らだけでどうにかなってる」
やっぱり狙われるよねえ、連合軍、というか神々からしたら絶対に渡したくない、情報の塊だもん。戦力としてもかなりのものだろうけど、ロミオなんかよりよっぽど強いだろうけど、それでも戦争においては情報の方が圧倒的に大事だからね。
「同感だ、一言余計だけどな。・・・でもまぁ、今後は暗殺者も減るんじゃねぇか?この一週間でフユゾラが持ってる情報は大概喋ったろ、今更殺したって大した意味はねぇ」
「かもね。・・・それで、何か新しい情報はあったのかい?」
「あるにはあったな。いや結構重要な情報ではあったんだけどな?案外当人達も情報を与えられて無かったみてぇなんだよ、他のテンセイシャの異能も半分ぐらいしか知らねぇみたいだし」
まあ当然だろうね。神々がわざわざ転生者を創った理由の一つに、この世界について何も知らないっていうのもあるだろうし。
「?それに意味があるのかよ、寧ろ知ってた方が融通が効くんじゃねぇの」
「馬鹿だなあ、君は。あほ。この世界の何処に私に喧嘩を売る奴が居るのさ、ある程度の知識があれば戦う前に逃げるだろう?」
「あほは余計だ。・・・でも成程な、お前を知らないからこそ、この世界の恐怖を知らないからこそ、できる事があるってことか・・・。何か可哀想な奴らだな」
「本当にね・・・。君みたいなのに同情されるなんて、私なら耐えられないよ」
おっ?おっ?やるかい?どうしたんだい槍なんか持っちゃって。私と喧嘩したいのかい?
「・・・ふぅっ、マジで、何でこんな奴が世界最強なんだよ・・・」
「あははは、私から言わせると、なんで君達がそんなに弱いのか、愚かしいのかの方が気になるけどね。・・・でも君、さっき良いこと言ったよ」
「あ?良いこと?なんか言ったっけなぁ、俺」
「この世界の恐怖を知らない、ってとこさ」
「おぉ?それがどうしたんだよ。ワタシの恐怖を教えてやるぅ。ってか?」
「違う違う。あるじゃないか、この世界の生物なら、いや神々でさえも、本能的に恐怖を覚えるものが。例えそれを使えば私を未来永劫封じる事が出来るとしても、恐怖によって近付くことすらできない場所が」
「?なんだそりゃ」
なんでここまで言ってわからないのさ、もう馬鹿とか云う次元じゃないよ?大丈夫?王宮の秘密とか喋ってない?
「喋んねぇよ!・・・喋るなって言われた事は・・・」
「何か一回やらかしてるじゃん、その言い方。・・・はあ、馬鹿で、アホで、マヌケな君でも名前を聞いたことくらいはあるだろう?地獄の最下層
ロミオと別れ、帰路に着く。次元魔法で帰っても良いけど、今日は少し歩きたい気分なんだ。
地獄の最下層タルタロス。正確に云うと、地獄の最下層にある、そのさらに下に繋がる穴の事をタルタロスって呼ぶんだけどね。
タルタロスの中は時間が進まない。年も取らないし、劣化もしない。その中に入った瞬間から誰かに掬い上げられるまで、何の変化も起きない。だから私でも脱出は不可能なんだ。動けない、だけじゃない。思考ができない、だけでもない。タルタロスに落ちた事すら認識する事はできず、対策という概念すらない、絶対の牢獄なのさ。まあ、外から掬い出すのは案外簡単なんだけど。
だからこそ、タルタロスの中には厄ネタが大量に詰まっている。旧き神から大魔王まで、当時の世界最強や世界最悪も、勿論生物だけじゃない。存在するだけで世界を蝕む魔剣やら無限に生命を生み出し続けるトーテムなんかも有る。
その封印が解けた百年前、既に私が生まれていて本当に良かった。じゃなきゃこの世界は滅んでいたろうさ。
「やっぱり一回見に行った方が良さそうだね。神々も安易にタルタロスの封印を解除する気は無いだろうけど、私を排除するにはあれを使うしか無いだろうし」
正直私は殺されるのは怖く無い。というのも、他者の蘇生ならともかく、自己の蘇生なら多分出来るからね、死では私を縛る事はできないんだ。
何て考え事をしていたらもう屋敷に着いてしまった。築五十年、私とメイド達、最近はモルフィもか、で住んでいる私の家。
魔力を認識し、登録したもの以外の侵入を防ぐ結界を貼ってある。それこそ神々でも侵入は不可能だろう、なのに、それなのに、一つ、登録した覚えのない魔力が探知に引っ掛かる。
「おかえりなさいませ、ガガンボ様」
「ああ、ただいま。クレア」
いつも通り、メイド長のクレアが出迎える。
「どうやらお客さんが来てる様だね」
「ええ、ガガンボ様のお部屋でお待ちです。・・・応接間でお待ちする様言ったのですが・・・」
「良いよ、気にしなくて」
屋敷に貼られた結界は空間魔法による転移は弾けても、次元魔法による次元の移動は防げない。・・・ああ、次元魔法を扱える神が産まれたなら、この辺も調整しないとね。
自室のドアを開ける。そこには予想通り、一人の女が立っていた。
血に塗れた白い髪、美しかった顔は傷だらけで左目に至っては潰れている。竜の一撃でさえ傷一つ付かないはずのドレスは引き裂かれ、何より目を引く、
「あ、お帰りなさい、ガガンボ様。・・・えへへへ、あの、へへ、すみません。・・・妾、負けちゃいました」
私がその名を継ぐ百年前まで、世界最強の名を冠していた大魔王は、どうやら魔大陸から追い出されてしまったらしい。
タルタロスに出向くのはまた今度だね。