どうも、常夏鳳梨です。
今回は男エルフ達の移住回。
つまり、オルクセンによって保護された男エルフ達の新たな故郷に纏わるお話です。
ヴァッサービッテとは、オルクセン国内に存在する湖──シェーン湖を有する土地である。
そのため、豊かな水が溢れるこの地は醸造所や農事試験場として利用されていた歴史があり、その街には多くのオーク達が暮らしていた。
もちろん、首都であるヴィルトシュヴァインやヴァルダーベルクと同じように、この街にもオルクセンを走る鉄道の駅があるためか、男のエルフ達は移住先となるヴァッサービッテに向かうため、その鉄道に乗っていた。
しかしながら、彼らのほとんどが鉄道と呼ばれる乗り物に初めて乗ったからか、緊張よりも好奇心の方が勝ったようで
「兄様!!この鉄道と言うものはこんなにも速いんですね!!」
「スゲェ!!もうヴィルトシュヴァインを越えたぞ!!」
オルクセンの地を走る鉄道に対し、窓から身を乗り出す形で興奮していた。
と言うのも、ずっとエルフィンド国内の秘密収容所内で暮らしてきた彼らにとって、馬車どころか鉄道にすら乗ったことがなかった。
それどころか、今回の場合はエルフィンドからの脱出ではなく、自分達の新たな居場所への移住だったため、その顔にはワクワクとした表情が浮かんでいた。
その男のエルフ達の中には、ヴィルトシュヴァインで購入した焼きドングリをのんびりと食べたり、オルクセンに来てから安心したのかそのまま寝ていたりと、それぞれ鉄道旅を楽しんでいた。
その男のエルフの一人であるワッデン・モーヴェは、汽車の車窓から見える光景を眺めつつ、ここまでのことに思いを馳せていた。
男のエルフとして生まれ落ちたワッデンは、ベレリアンド戦争時のエルフィンド某所にある秘密収容所にて、ガス室に送られる形で処分される寸前の状態に陥っていた。
元々、体力の無かった彼は齢二一八になる頃には性的搾取の対象というよりかは、暴力の対象として扱われるようになっており、それはとある白エルフに秘密裏に助け出される時まで続いた。
やがて、オルクセンにて保護された末に番号ではなくエルフとしての名前を与えられた彼は、徐々に体力や精神を回復していった彼は次第にこう思っていた。
女のエルフ達がオルクセンは野蛮な国だと言っていたが、本当にそうなのだろうか?と。
ワッデンがそう思うのも無理はなく──何しろ、ワッデンのように秘密収容所に居た男のエルフ達にとって、白エルフ達の噂話が何よりの情報源だったからか、誰一人として本当のオークを見たことが無かったのである。
その反面、オークとは野蛮な種族だというイメージだけは固定されていたため、当たり前だがオルクセンで保護された時の彼はそのギャップに戸惑い、不思議に思ったのは致し方ないことであった。
「──俺達の新しい居場所は、どんな場所なのだろうか?」
やがて、一人称を私ではなく俺と名乗ることを許されたワッデンは、他の男のエルフ達と同様にヴァッサービッテに暮らすことが決まったため、その地に想いを馳せつつもそんなことを呟いていた。
男として得た自分の名前に、オルクセン国内にて与えられた新たな居場所。
ワッデンは男のエルフとして初めて得た自分のアイデンティティに対し、自分らしくいても良いのだと思ったのもあってか、どこか嬉しさを滲ませていた。
女のエルフ達に対する恐怖は未だにあるが、それ以上にこれからの生活と新天地への想いが強かったのか、心なしかその顔には柔らかな表情が浮かんでいたのは言うまでもない。
「ワッデン!!お前もこれ食うか?」
「あぁ、食べる」
そんな会話をした後、闇エルフの男からベリーのジャムとバターがたっぷりと塗られたパンを受け取るワッデン。
ワッデンや彼のように、バターとジャムをたっぷりと塗ったパンを好む男のエルフ達は少なくなかった。
と言うよりかは、今の今までパンですらロクな物を食べたことが無かったからか、オルクセンに保護されてからの彼らはそのパンとジャム・バターの組み合わせなどハマりしていたのである。
「ん、美味い!!」
「本当にオルクセンってパンもジャムもバターも美味いよな」
和気藹々と盛り上がりつつ、鉄道内でそう呟く二人。
彼らのように鉄道に乗りつつも食事をする男のエルフ達は少なくなく、中には蒸したジャガイモを美味しそうに食べている者も居た。
やがて、鉄道はトンネルに入ったかと思えば──そこから抜け出すかのように進んでいくのと同時に、彼らの目の前に現れたのは
「「「「わっ──!!」」」」
辺り一面に広がる美しい湖とそこを中心に広がる街、それから雄大な自然であった。
そのため、多くの男のエルフ達は思わず声を漏らす形でその光景に見惚れていた。
ここが自分達の新たな故郷で、心の拠り所たる居場所となる場所なのだと思えば思う程に、彼らの胸は高鳴るのと同時に踊っていたのか、多くの男のエルフ達は一斉に窓から身を乗り出していた。
それはワッデンも同じだったようで──オルクセンから与えられた護符をギュッと握ると、これから始まる日常に前向きな気持ちを抱き始めていた。
それから十分後、ヴァッサービッテの駅に到着した彼らは代表者の出迎えを受けた後、それぞれ自分達の暮らす住宅へと案内される形で街を歩いていた。
そして、今後のために職業訓練校に通うことが決定した事実が伝えられたワッデン達は、いよいよ本格的にオルクセンで暮らすことを理解したのか、改めて頑張ろうという想いを抱いていた。
それから数時間後、地元民との交流とばかりに食事会が開催されたのだが、そこで彼らに振る舞われていたのは──シェーン湖で獲れた魚を使ったスープであった。
そのスープはふっくらとした魚の身に、優しいコンソメ仕立ての味付けも相まってか、それを食べたワッデン達はその味に深く感動を覚えたようで、後に料理人を志す男のエルフ達もある程度は居たとか。
また、その際に出ていた白パンもよっぽど美味しかったようで、何回もスープと白パンをおかわりをしていたからか、オーク達は良い食べっぷりだと微笑みながら褒めていたため、彼らは思わずビックリしたような顔になっていた。
その理由は至って簡単で、今までそういう風に食べたところでエルフ達から野蛮だと笑われていたからである。
なので、それを聞いたオーク達は分かりやすく絶句し、それならドンドン食べろとばかりに料理を振る舞っていった。
その反応を見た男のエルフ達は、地元のオーク達に自分達が受け入れられたのだと気がついたようで、嬉しそうに料理を頬張っていた。
「──美味しい!!」
「こんなにも美味い料理が食べられるなんて──まるで夢みたいだ!!」
あぁ、こんなにも美味しい物を食べられるなんて、これ程までに幸せなことはあるのだろうか?
そう思いつつ、楽しげな様子で料理を食べる男のエルフ達。
そんな品々の中には白ビールも混じっていたようで、それを飲んだ男のエルフの中にはその味を気に入ったのか、この飲み物は何なのかと尋ねていた。
それを聞いたオーク達はとても嬉しそうな顔になった後、彼らと話が合いそうだなと喜んでいた。
やがて、料理と酒を堪能した彼らは初めてほろ酔い気分に戸惑いつつも、各々の家へと帰宅した後──気持ちの良い温度のシャワーを浴びると、そのまま寝巻きへと着替えるとフカフカで居心地の良いベッドに飛び込んでいた。
「今日からここに暮らすと思うと──胸が踊るのは何でだ?」
そう呟いた後、眠たげに瞼を閉じるワッデン。
それは他の男のエルフ達も同じだったようで、それぞれ安心した様子で眠りに着いていた。
その後、それから約一年も職業訓練を行うことになったワッデン達は、それぞれ農家や料理人にパン職人、それからビール職人として羽ばたいていった。
それはワッデンも同じだったようで、彼は土いじりや野菜作りの楽しさは目覚めたらしく、そのままエンドウ豆のを育てる農家として働き始めたのだった。
「よぉワッデン、今日も飲みに行くか?」
「あぁ、お手柔らかに頼むよ」
なお、そんな彼らは闇エルフと同じように白ビールを好んで飲むようになり、それがキッカケで女エルフへの苦手意識が薄れるようになるのはまた別の話である。
Xでフォロワーさんと話をして思ったけど──エルフィンドのエルフ達って、仮に男エルフが存在していたとしても迫害しそうなんだよなぁ。
むしろ、弥栄!!とか言いながら先陣を切ってやりそうな予感。
と言うか、同族だけども闇だからと言う理由で迫害するのなら、男も男で似たような理由で迫害しそうだなぁ(遠い目)
これもまた偉大なる支配者の介入が原因だからね仕方ない。