理由は入れ替わりを際立たせる為です。ふへへ。
「ぐぅ、椅子が無駄にデカく感じる……!!というかなんなんだこの身体は!!全身筋肉痛でロクに動けんぞ!!空崎ヒナァぁぁぁ!!!」
「少し静かにして、マコト。…アコにお願いしてこの部屋からなるべく人を遠ざけてもらってるんだから。外に聞こえたら…貴女だってそれぐらい分かるでしょう。」
「…ぐぐぐ…私の顔で私に諭されると怒るに怒れん…!!」
「……あと、私だって入れ替わるなら貴女より先生との方が良かった。凄く、残念よ。」
感情を抑えることなど一切なく、とにかく眉を吊り上げて怒鳴り散らす『空崎ヒナ』。
呆れたような視線を向け、昨日までは自身のモノだった身体の醜態に恥ずかしさを通り越して虚しさを感じ始めている『羽沼マコト』
ゲヘナでの普段の彼女達の姿をよく知っているこの場の面子は言葉を失っていた。嫌でもこの入れ替わりという事象が真実であることを思い知らせてくるからだ。
「…こんなに表情豊かな委員長、初めて見た…なんかくらくらしてくる…」
「…普段の物静かな怒り方に比べて、今の姿は一周回って…愛らしさすら出てきますね。」
聞き慣れない自身の先輩の怒鳴り声、コロコロとよく変わる表情…幾度も日常と仕事を共に熟してきた風紀委員の面々はやはり困惑を隠しきれなかった。
一方で、万魔殿の面々はというと…
「いやぁ~、クールなマコト先輩は絵になりますねぇ〜。もはや何処を撮ってもカッコいいですよ!すみませんこっち向いてくださ〜い!!」
「ちょっと、遊ばないのチアキ。…まぁ、見てる感じマコトちゃん達に精神的な影響は無さそうね。そこは一安心だわ。」
「えへへへっ、今ならマコト先輩に偉い偉いしてあげられる!イブキうれしいな!」
「そんなことしなくていいですよイブキ。…はぁ…どう状況を説明しましょうか…いや、説明というか…とりあえずマコト先輩の仕事ならヒナ委員長なら普通に出来るでしょうし…」
ある意味では風紀委員会よりも混沌とした修羅場を潜り抜けて来た面々であった為、徐々にお祭り気分になってきていた。書記長に至っては既に記事の作成準備に取り掛かっている。
「…で、マコト先輩。心当たりとかないんですか?」
「何がだ。何故私に聞く。」
「…うわ、改めて返されると違和感が酷すぎますね…いえ、どうせこんなことになったのは貴女が何かをやらかしたからでしょう。早く吐いてください、何時迄も遊んでられないんですから。」
「巫山戯るな、私は知らん!!ただ急に目眩がして、気が付いたらこうなっていたのだ!!」
サイズ感の全く合っていない椅子にふんぞり返り、いつも通りの傍若無人と言った不遜な態度で返すヒナ。
慣れようと思っても慣れない光景だった。
「…マコトの言う通り。今日は先日の事後処理で色々あったからこの部屋に来て…その時に目眩がしたの。そうしたら…こうなっていた。」
どうにも落ち着かないのか、帽子とコートを脱ぎヒナの意見に補足を加えるマコト。始終落ち着き払ったその姿は顔立ちの良さもあって正しくゲヘナの最高権力者の雰囲気を感じさせる。中身は違うが。
「目眩、ですか…」
「…マコトちゃんも委員長も、色々疲れてたものね。先生が手伝ってくれて収束には向かっていたけれど…」
雷帝の遺した種。その一つが芽吹いた事によって巻き起こった事件。
先生の助力もあって奇跡的にゲヘナ内で完結出来た出来事ではあったが、内容が内容なだけに徹底的に箝口令が敷かれ、その事後処理も多岐に渡った。
ただでさえ自由で混沌故に多忙を極めるゲヘナ。普段の業務に加えてそれらの処理に追われ、幾ら先生が手を貸してくれたとはいえ二人ともロクに休眠を取れていなかったのだ。
「…その目眩は、こう…頭が痛かったりとか、そういうのがあったりしたのか?」
「いえ、特には……これが終わったら流石に休もう、と思ってたのだけれど、まだ休むのは難しそうね…」
「いや、休め。それはこのマコト様の身体だぞ。お前のように筋肉バカではないのだ。繊細かつ丁寧に扱え、分かったな?」
「……いっそこのまま広場で裸踊りでもしてやろうかな。」
「委員長!?!?」
ただでさえ疲労が溜まっていた時に起きた出来事。目の前で偉そうに喋りふんぞり返る自分の顔。マコトの精神は既に限界だった。
「ひとまず、医務室に行きましょう?二人とも身体に異常がないかも調べなきゃダメよ。」
「いや、サツキ先輩。それよりも大事なことがありますって。」
「それよりも……って、何かしら。」
「これ、私達以外の生徒になんて説明するんですか?」
「普通に入れ替わっちゃったって言えばいいんじゃないですかねぇ?面白いですし、これ。」
「そんな簡単に説明出来るようなものじゃないですよ…また乱心したとか思われたらどうするんですか。」
入れ替わり。それも、ゲヘナを揺るがせたばかりのトップ二人の。
先日の騒動と合わせて、どう考えても現状のゲヘナ生徒達がマトモに取り合ってくれるはずがない。寧ろまたおかしくなったと疑われるに決まっている。
ではどうするのか。少なくともこの2人が機能しないようではゲヘナの活動が停滞する。常時ならばともかく、タイミングがタイミングなだけに下手にそうするわけにいかない。
であれば、と。
「無論、この場の人間以外には話さん。」
「…先生にも。これ以上、迷惑は掛けられない。」
当事者二人は既に話を擦り合わせていたらしく、声を揃えて応える。入れ替わりの露呈はこの場だけに収め、外部に漏らす気は一切無い。
こういった状況で話すべき相手である、先生にも。
「…もっとも、お前達には苦労をかけることにはなるがな。済まん。」
「…アコにも後で言わなきゃだけど…ごめん、二人とも。助けて、欲しい。」
空崎ヒナが、万魔殿のメンバーに頭を下げる。
羽沼マコトが、風紀委員会の面々に懇願する。
本来ならばそもそもこの場の面々すら巻き込みたくはなかった。だが流石に手に負えるようなものでもない。
だから素直に助けて欲しい、と伝える。
そして当然ながら。
「モチロンですって!…ぁあ、じゃあこの記事は封印ですかねぇ…残念です…」
「フフッ、らしくないわよマコトちゃん。そういう時こそいつも通りに命令して頂戴な。困った時はお互い様、なんだから……それに、友達でしょう?私達」
「イブキもたっくさん手伝うからね!皆にナイショにするのなんて簡単だもん!しーってするだけだから、ねっ!」
「…ホント、仕方ない先輩ですよ。放っといたらすぐにこんな面倒事を起こすんですから…その後処理をするのはいつも私達なのに、今更なこと言わないでください、全く。」
万魔殿に、否を唱える人間は居ない。
「私がどれぐらい役に立てるか分からないけども…委員長が困ってるなら手伝わせて。いつまでも委員長頼りになんかしてられないしさ。」
「そうですよ、こういう時ぐらい……いえ、何時だって私達に頼ってください。その肩の荷を少しでも下ろせるよう、全力を尽くしますから。」
同じく、風紀委員会にも。
「…キキキッ、愚問だったか。」
「…うん、頼りにする。有難う、二人共。」
「ちょっとぉ!?私だけ省かないでくださいませんか!?この場をセッティング出来たのだって私が必死に裏回ししたからなんですからね!?」
「うむ、御苦労だったな。」
「ぐぎぃっ……!!ヒナ委員長の顔なのにっ、このっ……くぅっ……」
「……アコ。気持ち悪いから止めて。」