男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です 作:rikka
――え~~、巽君、裁縫なんてやるのぉ?
――これアイツが作ったんだって!
――男の癖にウサちゃんかよ!!
――気持ち悪~い。
なんてのは、小学校低学年の頃の――いや、そんな頃だったからこそ行われた残酷な吊し上げだった。
その男子とは別に付き合いがあったわけではない。
この町で老舗の染物屋の一人息子だってことくらいは知っていたが、それ以外は何も知らなかった。
知らないし、関わり合いはなかったが――その空気が気に食わなかった。
そもそもお前らには出来ない事だろうが。
男がするのが気持ち悪いというのなら、女のお前らは出来るのか。
そういった事を棚上げにして、ただ異物を排除する一体感に染まった空気に当てられてる連中は、見ているだけでイライラした。
「……お前、上手いな。完二っつったっけ? その編みぐるみとか、少なくとも俺にゃあ無理だ」
声をかけたのは、そういう嫌な空気への反発心があったのだろう。
「……でも、変なんだろう? 皆そう言って……」
「気にすんな。何も持ってない奴の言葉だ」
「…………けど……クソッ……!」
そして早速、声をかけた事を少し後悔していた。
幼かった自分は声をかけるまで気付きもしなかったが、言葉だけで助けられるなら誰も苦労しないという事実を突きつけられるだけだった。
「…………あ~~~~~、わかったわかった」
ただ、今も昔も俺は負けず嫌いだった。
あるいは、『俺が気に掛けてやったんだから立ち直れ』という傲慢な思いもあったのかもしれない。
「だったら、お前にそんな小っせぇ事いう奴らを全員黙らせてやるよ」
そして、俺は手段を取った。
それは――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「うーす完二、おはよー。週末明けの学校はキッチーよなぁ」
相も変わらずこの『八十稲羽』は田舎――まぁ、言う程田舎ってわけでもないけど閉鎖された町だ。
親に頼んで新調してもらった制服に袖を通し、月曜日という一週間でもっとも憂鬱な日だ。
「な、お――テ、テ、テメェ!
「ん~? どったの完二?」
あの日から結局変に男らしさを求めて悪ぶってしまうようになった我が友は、朝っぱらから顔を真っ赤にして怒っている。
朝から元気な奴だな……こっちは朝の新聞配達ですでに体力三割くらいは使ってるっつーの。
「なんでおめぇがせ、せ――セーラー服着てんだよぉ!!!?」
「? 俺が女の格好してるなんて
裁縫だのお絵描きだのが好きだってのに、ただ『男らしくない』『女らしい』ってだけで除けモンにしようとする空気も、それに流されるコイツにもムカついた。
だから男の俺が、誰よりも女になって周りに認めさせて受け入れられば誰も
そう考えてから本気で化粧勉強して、本気で服の流行り勉強して、本気で文句言われる筋合いが出ないように行動に気を付けまくった。
「おめぇ、学校ン時はいつも薄い化粧だけで恰好は普通だったろうが! ってか着ていいのかよ校則は!? いや気付いたら髪も伸ばしてんなそういや!?」
「全部捻じ曲げた」
「曲がんのかよ!?」
一年の時から主席維持しつつ生徒会に出入りしながら教員とコネ作って交渉してたんだよ。
去年の二学期の時点で校長に話が通って、今年から男女ともに制服はどっち着ても自由。
髪に関しては髪型の種類はともかく長さに関しては融通が利くようになった。
校長はせめてもの保身なのか、あんま大っぴらにはしてねぇけど。
とはいえ町の寄り合いなんかに率先して参加していて顔の広い、成績優秀な『模範生』を維持している俺だ。
町の交番員とも仲のいい俺の提言――それも普通にしていればまず利用されないモンなら通した方が粘られるよりマシって考えたんだろう。
俺が卒業したら名ばかりの制度になるって寸法で。
ついでに親も同様だ。成績その他諸々維持してたからか、服装に関して特に何も言って来ねぇ。
ピアノやら料理やらの習い事の金は新聞配達を始め、中坊の自分でも出来るバイトでどうにか全額稼げているから負担も最小限……に、しているハズだ。
衣服に関しては……金掛けてる自覚があるので、今全力で完二から裁縫を習ってる。
この間試作した服がいい感じだったからこれからは更に安く仕上げられるだろう。
ってか、服作る時は「て、て、テメェの針の扱いは怖ぇんだよ! 貸せ! よく見てろ!」とか言って完二がどこからともなく現れて手伝ってくれる。
誕生日プレゼントっつってくれたミシンも、元はアイツの使っていたお古らしいし。
本当に俺はいい友人を持ったもんだ。
「本気出しゃあちゃんと筋通せんだよ。前から言ってんだろ? 完二」
「…………お前」
――見ろよ、あれ二年の如月か?
――うっわ、ウチのセーラー服じゃん……っ。え、OKになったの!?
――アイツマジでよくやるわぁ。え、マジでソッチ系?
適当な雑談を交わしながらテクテクと登校している中、ボソリと声が聞こえてくる。
聞こえないように……というよりは、聞こえてもいいと思っているのだろう連中の野次だ。
とっさに、新聞配達と
穏やかな微笑みを浮かべたまま、目標に向けて急接近する。
自他ともに認める凄まじい移動速度。目標は咄嗟に反応できない。
自分を警戒していたとしても。
瞬きする暇もなく。
呼吸する暇もなく。
「せ~~んぱい♥ 今アタシの話してましたぁ?」
「ああああああああああああ匂いが! 俺の腕から女子のいい匂いがぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「藤沢ぁぁぁぁぁっ!!!」
「目ェ覚ませ藤沢、ソイツは野郎だぞ!!?」
「思い出しました、バスケ部の藤沢先輩に佐倉先輩に東先輩ですよね? 前の練習試合で皆さんがそれぞれ得点した所、ちゃんと見てましたよぉ♥」
腕を絡めたまま、一番きれいに見える角度で一番きれいな笑みを浮かべて、空いた手で作ったピースサインを自分の頬に寄せて見せる。
「…………っ……やばい……ちょっとキタ……うっ」
「佐倉ぁっ! お前まで!!」
絡めた腕を放して、まだ息のある目標の両手をこっちも両手で包みこむ。
それを胸に引き寄せて、少しだけ顔を近づける。
「今年の夏も頑張ってくださいね♥ 私、応援してまぁす♥」
そして目標は沈黙する。
呆然としている他の二人をその場に放置したまま、無言のまま電柱に頭を打ち付け始める。
まだまだ肌寒い八十稲羽の商店街に、鈍い打突音だけが連続して響き渡る。
ふっ、またつまらぬ者共を堕としてしまったか。
「イカ臭い娑婆僧共が。ぶら下がってるモンの皮ひん剥いてから出直して来い」
女装を始めたばかりの頃は童顔ゆえのごまかしが効いたが今は違うからな。
化粧もそうだけど体作りに仕草の矯正は頑張っていたし、このまえ越して来た一個上の海老パイセン――海老原先輩に頭下げてメイク周りは徹底的に教えてもらった。
さらには今もパイセンの助力を得ながら研究に研究を重ねている。
そんじょそこらの
やっぱり真面目が一番!
真面目に一つの事を貫き通せば、小賢しい戯言なんぞ叩き潰せる!!
「なぁ! 完二ぃっ!!」
「『なぁ!』 じゃ、ねーんだよなにがだよ!!? ってか怖ぇーんだよお前のそういう所ぉっ!!!」
なんでお前まで顔真っ赤にしてんだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「如月、お前またやったんだって?」
「ん? なんの話ッスか? 一条先輩」
その日の授業を終えて帰る途中――完二の馬鹿は途中で学校フケやがった――、バスケ部の一条先輩とサッカー部の長瀬先輩に捕まって商店街の町中華で過ごすことになった。
「ウチの部の三馬鹿。部活始まってもボケーとしてるから聞いてみたら、お前の名前が出て来てな。『脳がバグった』ってブツブツ言ってたぜ」
「バスケ部の三馬鹿っつったら……藤沢達か? 二組の」
「あぁ。朝俺の格好見てコソコソ話してたんでちょっと挨拶してきただけっスよ。あ、親父さん。麻婆豆腐、如月スペシャルで」
――アイヨー!
「……待って、如月スペシャルって何?」
「普段の四川風から辛味少ない広東風の奴に変えて豆腐多めにしてもらった奴ですよ、一条先輩。辛くないから汗あんまかかなくてメイク崩れにくいし、豆腐だから罪悪感なくパクパク食えるんでオススメッスよ?」
あいか先輩――ここの親父さんの娘とアレコレ話している間に、気が付いたら出来上がっていた試作という名の隠しメニューと言う奴だ。
今度ちゃんとした名前つけて裏メニューにしてみるって言ってたっけか。
「元々は丸久さんトコの御婆ちゃんと、配達しやすい所にもっと豆腐を売る方法はないかねぇって話をされて考えてた奴の一つなんスよね。レディースランチみたいな感じで出して、当たれば愛屋も丸久さんも互いにwin-winって事で試作を頼んで……まぁ、この規模の店じゃ当たっても微々たる差でしょうけど」
「…………お前、最初は女装している変な奴としか思ってなかったけど……マジで顔広いよな」
いつも通りのジャージ姿の長瀬先輩が、頼んだ肉丼搔き込みがら感心している。
うむ、実際狙ってアチコチに顔出しているからね。
おかげで校内でも大分認められてきたし……生徒会長の進め通り、後期は生徒会どれかの役職で立候補して見ようかな。
校則変えさせた実績もあるし、今なら票もガッツリ取れる気がする。
なにせ今日初めてセーラー服着て行ったのに、否定的な声はあんま耳に入らなかったからな。
むしろ生徒会長から「やっとか」って言われたくらいだった。
女装という点も含めて、『如月千影』という存在が受け入れられている。
(完二の奴も、曲げずに堂々としてれば受け入れられると思うんだけど……)
そりゃ、100人中100人全員ってのは無理だろうけど。
俺と同じで。
(まぁ、でも……どっかにある『これが普通だろ?』って枠の重圧がキツいってのも間違いないしな)
それに関しては身を以て思い知っている。
全部行動でねじ伏せたけど、ねじ伏せるまでの重さは尋常じゃない。
「そういや、この前越して来た海老原さんとも仲良くしてんだっけ? なんか、この前の日曜日に沖奈市で一緒に歩いている所見た~ってウチのクラスの連中が騒いでたぜ。男子も女子も」
「……良く分かりましたね、先輩のクラスの人。沖奈市に女子と出かける時は普通に男装してんスけど」
「いや、お前が男装ってそれ普通の格好だろ。ってか、どうして女装しなかったんだ? お前なら沖奈市でも映えるだろ」
「あ~~、前に女装したまま海老パイセンと沖奈の町歩いてたら、面倒な連中にナンパだのスカウトだのされたんで」
死ぬほど面倒くさかったなあの二人組。
俺が男だって言っても信じねぇし。
片方は分かっているのかいねぇのか、男でもいいじゃんとか言い出すし。
……そういやスカウト連中も同じ事言いやがったな。
「……あ~~~~~~」
「ココいらじゃ女装少年『如月千影』は有名でも、沖奈じゃな……」
「俺一人ならともかくパイセンいるッスからね。トラブル出来るだけ減らすためにも、そーゆー時は男避けに徹する様にしてます」
いざって時は暴力に頼ってもパイセン守るつもりはあるけど、暴力が出る所まで行ったらアチコチに迷惑かかるからな……。
完二と暴走族潰した時とか――いや、話聞いて止めに行った結果乱闘に巻き込まれてしまったわけだけど……。
幸い警察側は俺の言い分をすぐに信じてくれたけど、色々やらかしてる完二がヤバくて……深夜徘徊の補導……というか、厳重注意だけで済ますのに苦労した。
「で、海老原さんとお前ってさ、良く買い物に行ったり――」
「付き合ってんのか?」
「!? バッ――! 長瀬お前、こういう話はもうちょい段階をだな……っ!」
「?」
おろ。
一条先輩、海老パイセンに興味あんのか?
普段の感じからてっきり、先輩と同じクラスの里中先輩狙いと思ってたけど。
あの緑の人。
「パイセンは俺の師匠ッスよ」
「??? って、師匠? 如月の?」
「ウス。あの人、メイクとか流行りの服とか相当勉強している人なんですよ。あと、運動とかも」
「? アイツ、スポーツとかやってるのか?」
「いえ、そっちじゃなく……えぇと、ダイエット……というか、体の引き締め方とかそっちのほうですね。よく相談に乗ってもらってます」
ってなことを少しボカして相談したら、真面目に色々調べたり考えてくれたりした人だ。
なんなら食事のメニューとか栄養計算まで。
「海老パイセンも今彼氏はいないと思いますよ? 多分、好きな人も。いたら俺と二人で沖奈行ったりしないだろうし」
「あ~、まぁ、そうだよなぁ」
……思ったよりも食いつかないな。
聞いてきたのはただの好奇心か。
……だったら里中先輩とどうなのか凄く聞きたい。
すっごく聞きたい。
河原で走り込んでいる時にたまに話す人だし。
超純情な一条先輩をそっち方面で揶揄うのはさすがに野暮が過ぎるからここはステイ一択だけど。
とはいえ、少し残念だ。もしパイセンの方に気がありそうなら協力したのに。
(見た目派手でなにかと変な噂される人だけど、普通にいい人だよなぁ、パイセン。皆そこらを知らないだけで)
代価として提出課題とかやらせようとするのを上手い事自力でやるように誘導するのにちょっと手間取るけど。
アンタ今年受験だろ。
そもそも二年生の俺に三年の数学やらせようとするな。一応履修済みだけど。
(……まぁ、普通に
…………。
「って、そういや先輩方は受験じゃないッスか! 俺なんかと絡んでていいんスか?」
そうだよアンタらもパイセンと同じく中三じゃねぇーか!!
「? 別に外の高校受けるわけじゃないし、大丈夫だって」
「俺も一条もハチコー行きって決まってるからな。ちょっと教科書読めば大丈夫だ」
それ大丈夫じゃねぇ!!
や、一条先輩は家が家だからしっかりやっているだろうけど!
「……行き詰ったり不味いと思ったら、遠慮せず頼ってくださいね。海老パイセンにアレコレ教えたり宿題手伝ったりした結果、一応三年生の範囲まで勉強しちゃったんで」
口の中の脂をウーロン茶で洗い流しながら、一条先輩と長瀬先輩が顔を見合わせる。
「如月、お前って結構……」
「……苦労人だよな」
頼り甲斐があるって言えやコラァ。
パッドとブラした状態で後ろから抱き着いて耳元で甘い言葉を囁いてやろうか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一条先輩らと別れて、公民館で堂島先生がやってるピアノ教室を終えて、家に戻る。
ちなみに、完二の奴は見つからなかった。
アンニャロウ、今度絞めてやる。
去年出席日数ギリギリだったろうが……一学期からいきなり削りやがって。
ともあれ家で飯食ってから、丸久さん所に行って豆腐の仕込み手伝って駄賃もらって――ちくしょう、高校に上がったらちゃんと稼げるバイトに切り替えてやる。
んで家に戻って風呂入って、自分の部屋に戻る。
宿題終えて、予復習を終えて簡単なストレッチをやってから――
殴る時に手を保護するグローブ、玄関にはあえて置いていない、蹴る時や受け止める時の衝撃から足を保護できる程頑強なブーツ。
変わり者のオッサンが商店街に開いている『だいだら』という物騒な品を揃えた店で買い揃えた、俺の装備だ。
これらの手入れをしてからメイクを――戦う前なのでササッと簡素に終わらせてから姿見の前に立って、エクステで盛った髪を後ろで束ねる。
そしてサポーターとスパッツの上から、今日の気分に合わせてゴシック風のミニの上下で揃える。
そして静かに時間を待つ。
夜、11時57分。
58分。
59分。
そしてさらに針が動き、
世界が変わる気配が肌の上を走る。
なんてことのない庭の地面に、まるで血痕のようなナニカがにじみ出る。
いつも見上げればそこにある月が怪しく輝き、どこか緑を思わせる不思議な闇が広がる。
――オォ……ォォォオオォォォォォオォォォォォォ………。
「あー、クソ。今日は
ここからやや遠く。多分は
来年に営業を開始する大型モールの辺りから、気配を感じる。
どこからともなく現れ、動く者に襲い掛かる『影』の気配が。
窓を開けて側にブーツを用意してから、家の中を見て回る。
リビングに、二つの棺桶が並んでいる。
この時間は、コレが父さんと母さんの姿だ。
二人だけではない。
他の場所に人たちも、全員。
動けるのは俺だけで。
だから俺が『影』に見つかれば、襲われる。
ブーツに足を差し込み、紐でしっかりと固定する。
「んじゃ、行くか。まずはいつもどおり補助から」
いつからか、気が付いた時には午前0時と一分の間に奇妙な時間が差し込まれている事に気が付いた。
襲われたその時に、妙な力が生えた事も。
拳を握りしめると体の内から青い輝きが湧き出る。
そして――同じように青い、一枚のカードが。
ゆっくり目の前でクルリクルリと回っているそれを、握りしめた拳で打ち貫く。
――ペルソナ。
――来い、『ランマル』!
①アナタの理想のヤンキー風小悪魔系JKギャル(ゲス顔差分有り)の姿をご用意してください。
②チ〇コを生やします。
③理想的な女性寄り中性ボイスCVを選択し、ぶち込みます。
④『如月千影』完成。
マイボイスはファイルーズあいさん。
絶対イケる。
ペルソナ『ランマル』 Lv22
力:19 ・両腕落とし
魔:11 ・ラクカジャ
耐:18 ・淀んだ吐息
速:22 ・気絶耐性
運:15
※26/9/8/23:00
ステ値が高すぎたので修正しました