男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です 作:rikka
辰巳ポートアイランドへ向かうこのモノレールは、地味にこちらに来てから自分が気に入っている物の一つだ。
電車とは違う滑らかな滑り出しから始まり、朝は明るく輝き、夜は月明かりで静かに照らされる海の上を、まるで滑空しているかのような光景は、朝はテンションを上げてくれ、帰り道では落ち着かせてくれる。
「……あの」
「ん?」
「ありがとうございます。こうしてまた、付き添ってもらって……」
気にしてんのかな。
ちょっとデートしてきますってケン坊の腕引っ張って寮出る時、真田先輩はじめ皆何か言いたそうだったからな。
「なぁに、昨日も言ったがこれは俺の性分さ。少年一人で危ない所に行かせるわけにはいかないよ」
「すみません。……あの」
「うん」
「付き添いはとても助かるんですが」
「うん」
「手は、放してくれませんか? 昨日と違って夜遅いわけじゃないんですし」
「やーだね。こっち来たばっかりで右も左も碌に分からない田舎のお姉さんがこんな都会で迷子になったらどうするんだい」
「そもそもお姉さんじゃないでしょう……!?」
おぉ、いいツッコミだ。
飯食ってちょっと元気が出たか。
やっぱり食事は偉大。
たとえコンビニの奴とインスタントの組み合わせとはいえ、おにぎりと味噌汁は日本人を元気にしてくれるな。
調理器具確認して物揃ってたら、今度キチンと買い物した時に好きな物作ってやるか。
「……ケン坊」
「なんです?」
「多分、どうするかは薄々決まっているんだろうけど……その上で今、あえて言っておくよ」
「? はい。何をです?」
「ん。一応の助言」
部屋の中で言ってもよかったんだけど、どこかで聞き耳立てられてたらどう言われるか分かんなかったからなぁ。
「少年。逃げたかったら逃げていいんだよ? 俺が言って先輩らに説明してやるさ」
桐条先輩はともかく、理事長はペルソナ使いは一人でも確保したいだろうし。
「――え」
「戦いが怖いのは当然だし、ましては少年の歳で人の意思を背負うなんざ重すぎて重すぎて……少割に合わないさ。正直ね」
「……でも、如月さんは……」
「ほんの数年だけど、俺はその分少年よりも長く経験があるからね。だから――」
「気にしなくていいさ。もし少年がキツいと、背負って駆け抜けられないって言うなら俺がケツ持ちしてやる」
「少年が駄目だと――空元気で滑っちまいそうって感じたんならちゃんと言いな。そっちの方がいい」
「んでそん時は俺が、少年と荒垣って人の分まで背負って暴れてやるさ」
「……如月さん」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ、あの~~~」
港区、巌戸台。
月光館学院分寮のラウンジには、全員が揃っている物の重苦しい空気が漂っている。
それに耐えきれなくなった
「天田君、良かったんですか? あの子……あの子っていうか、如月君と行かせて」
如月千影。
夏前に突然現れた、召喚器を必要としない異色のペルソナ使い。
男でありながら少女にしか見えない彼は、再び窮地を救って見せた。
恩人ではある。
二度に渡り特別課外活動部のメンバーを救っている。
その中には岳羽自身も含まれているため、彼女も恩義は感じている。
ずっと岳羽自身の中にあった『桐条』を発端とするモヤモヤをハッキリ言葉にしてくれた事もあって、岳羽ゆかりという少女は『如月千影』という男には好意的ですらある。
「いやまぁ、素の強さ的にも問題ないのはゆかりッチも知っての通りだし、なーんか中学生とは思えないくらいしっかりしてるし、大丈夫なんじゃねぇの? うん」
「私もそう思います。今は私達よりも、荒垣先輩を助けてくれた上で寄り添ってくれた如月君の方が……」
その強さを知る伊織順平も同意し、山岸風花も頷く。
山岸としても、ペルソナ使いなのだからと強く在る事を強調されるよりも、ただ自然にそこにいようとする如月の方が『今』という緊急事態には適任ではないかと思っていた。
「……そうだな。先ほど、念のためにこちらで天田の部屋の様子を伺っていたのだが、如月は天田とそれなりの関係を構築したように見える。遅くなるようならば連絡を入れる必要はあるが……今は如月に任せよう」
そして、もっともこの状況に頭を悩ませていた――そして、この事態を防げなかった事を後悔している女性によって、決断が下される。
「明彦、それでいいな?」
「……ああ。しばらくは奴に任せよう。それで美鶴、シンジは?」
「医師の話では一応、身体的には持ち直したようだ。ただ、意識はまだ……」
「…………そうか」
復帰してからそう時間はかかってないにも関わらず、この活動の精神的な支柱だった荒垣を失ったのは大きな痛手であった。
「しっかし天田の奴、違う意味で大丈夫なのかねぇ?」
再度重々しくなった空気を打ち消すように、今度は伊織が声を上げた。
「? どういう意味?」
「いやぁ、如月が付いているって言うけど、それこそ如月って男でもあのビジュじゃん? しかも今日はニーハイ履いてるとはいえミニスカだしぃ?」
「? だから、なによ?」
「いやだからさ。あんな美人の男に四六時中手を引かれて色々世話を焼かれんだろ? 男だと分かっていても、色々ねじ曲がっちまうんじゃねーの?」
伊織の品のない言葉に、ずっと黙って来ていた有里はため息を吐き、山岸は「えぇ――えぇっ!?」となぜか一番顔を赤くしてビックリしている。
「んなわけないでしょ。アンタじゃあるまいし。馬鹿じゃないの? …………。てか馬鹿じゃないの?」
「あら……デジャブ」
なお、この一月後。
人一倍お洒落に気を使う岳羽ゆかりという少女をして、如月千影という存在を『呼吸をしているだけで女の敵』と吐き捨てるようになり――
伊織順平は自分の軽率な発言を死ぬほど後悔することになる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(さて……どうしたものかな)
やってる事は昨日と変わらない。
路地裏前での見張り役。
違うのはこの前みたいな入口ではなく、もう少し踏み入った所でケン坊を待っている事だ。
(ケン坊は問題ねぇ。アイツはもう覚悟は出来ている)
壁一枚を挟んだ向こう側で、意思を感じた。
俺も初めて見る現象だからちょっと自信はないが、ケン坊から感じていたペルソナの気配が強くなった。
進む道を決めたんだろう。
(……さっきちゃんと言ったんだけどなぁ)
逃げていい。逃げていいんだ。
というか、正直言えば弱音の一つでも吐いてくれた方が安心出来た。
給料どころか駄賃程度も与えられなくて、その上で命かけて戦え。
過去に自分達の活動で親失ってるけど乗り越えろなんざ、「無茶言うな」「まずはお前らがケジメつけろ」と言いたくなる有り様だ。
復讐ありきとはいえ自分で立候補したんだしそれはそれだし、荒垣さんの事は無論行動に出たケン坊の責任はある。
その上で、そもそもお前らがやるべき事やってなかったからだろうって思いが強い。
……違うな、そう手引きしなかった大人共は何をやっていたんだ。年上とはいえ学生に背負わせる荷じゃねぇぞマジで。
荒垣先輩がそうだったように負い目は感じているようだが、外から見てるとあのグループがケン坊の母親の件の償いに動いているようには見えない。
……さすがに桐条は天田の面倒見ているっていう親戚になにかしらの援助をしているとは思いたいが……。
因縁があったのにペルソナが使えて自薦してきたからって戦いの場に放り込むとかマジかよ。
(桐条先輩……は、ともかくとして……やはりあのニヤケ眼鏡か?)
今の所一番気に入らねぇのは奴だ。
あのグループの唯一の大人なのに、どこか自分を外に置いてやがる。
まるでお客様気分、あるいは観客気分のようにしか見えねぇ。
奴が顧問――統括である以上、あのグループの中に入るのは余りに危険すぎる。
(けど、覚悟を決めたんならばそれを曲げさせるのは年長者として違うよなぁ)
昨日、血まみれになって荒垣さんの止血をしていた時の事を思い出す。
ケン坊に生きろと、自分の為に生きろと言う言葉を残した後。
――お、お前……如月……だな? 新入りの……。
――新入りかどうかはともかく……うっす。
――悪い。面倒を、かけ……ぐぁ……っ……!
――今は喋んないでください。この時間が終わり次第救急車を運びますので。
――た、頼む……。お前に……俺達とのしがらみが薄い、お前だから……。
――…………。
――天田を……頼む。
――……押忍。
(頼まれて、しかもそれを了承したんならば一生懸命考えて、行動しなきゃなぁ。この異常事態の中で本当にただ側にいるだけだったら、それこそ帰ったら完二にぶん殴られる)
あんな血塗れの『頼む』ほど重い言葉はないわ。
軽い足音が離れた所から近づいてくる。
これから寮に戻って、先輩方に頭下げて、ケン坊はまたあの『特別課外活動部』での戦いに戻るんだろう。
だけど――
(情報が足りない――というよりは情報を精査したい。だけど、現状頼れる存在がいない。となると、まずは誰がどういうスタンスで活動してるのかの見極めが必要になってくるな)
影時間を消す。
それはいい。
だけどその目的のために提示された手段が……余りにブツ切りだ。
信じて戦うには肝心なピースが足りていない。
12体のシャドウがいる。それは確かなんだろう。
それが岳羽先輩のお父さんの行いにより発生した爆発で散らばった。そこも恐らくは間違いないのだろう。
だが、それが影時間に作用する部分が曖昧なままだ。
繋がるような言い方をしているだけで全て推測。
影人間の増加と同じく、ほぼほぼ推測に近い仮説でしかない。
その部分が曖昧なまま、残された映像一つを頼りに動いている。
(……やっぱり情報がいるな。映像そのものの確認もそうだが、それをいつ、誰が、どういう順番で手に入れたか。その後、映像の情報を精査するためにちゃんと動いていたのか)
その部分が、命を懸ける覚悟をして上京した身としてどうにも引っかかっている。
本当に大型シャドウを全て倒して消えるのであれば、そもそもそれが今年なって動き出した理由は?
それまでに捜索を行なったのか? その記録は?
そもそも、映像の証言が本当に正しいのかどうかの研究や実験などはどれだけ積み重ねたのか。
(……まずは誰と関係を深めるべきか)
ニヤケ眼鏡は当然除外。
桐条先輩……いずれ数歩は踏み込む必要はあるけど、初手は不味い。
真田先輩は武闘派すぎる。後回し。
現場のリーダーである有里先輩は、6月の時の感覚では一番波長が合うけど、リーダーって立場上目立つ。桐条先輩と同じで後回し。あるいは向こうからの接触待ち。
伊織先輩は…………あの、うん。
岳羽先輩は……あまりにデリケートすぎるし6月の路地裏での一件を見ても短気で直情型。
話の持っていき方に気を付ければ情報抜き出せるかもしれないけど……危うい。
あの猪っぷりは舐めたらヤバイ。
直球しか投げられないタイプだ。
ロボっ娘はちょっと待って。
まずその存在を飲み込むのにもうちょっと待って。
となると――
(やっぱり、山岸先輩しかいないか)
ある程度話は聞いて回ったけど、あの6月の戦いで仲間入りしたから桐条さん達先輩方と近い訳じゃなく、どちらかと言えば『桐条』を疑っていた岳羽先輩よりで、それでもしっかり中立寄り。
そして自覚はないだろうけど、唯一無二のナビゲーターとして重要な立ち位置にいるため、比較的自由に立ち回れる。
あと可愛い。一番。
「……如月さん」
「ん」
明日からの段取りを立てていたら、ケン坊が戻って来ていた。
昨日みたいなグズグズの顔じゃない、覚悟を決めた男の目をしてやがる。
(……んな歳の男の子に、んな目をさせて喜べるほど俺はまだ壊れてねぇんだが……)
ここに完二がいりゃあ、どう声を掛けただろう。
地味に自分が誰かに優しくする事を『恥』だと思ってそうだから、ぶっきらぼうな言い方になるだろうか。
なら、海老パイセン……認めた相手以外総じて扱い雑だ。
(……所詮、能力あっても一介の中坊に過ぎねぇ女装野郎に出来る事なんざ、突っ走って背中見せる事しか出来ねぇか)
手を差し出すと、そうすると分かっていたのかケン坊も手を軽く握ってくれた。
「如月さん」
「ん?」
「……正直、ちょっとお腹空いてません?」
「ケン坊もか。実は俺も」
「おにぎりだけじゃ足りなかったですね」
「あくまで緊急食のつもりだったしな。ケン坊、この時間で食えるいい場所知ってる?」
「……ラーメン、どうです?」
「いいね。豚骨? 塩?」
「醤油です。でも、トロ肉たっぷりで美味しいですよ。特製がオススメです」
「決まりだな」
「行こっか、ケン坊」
「はい!」