男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です 作:rikka
完全思い付きの雑なプロットのみで書き始めて申し訳ない。
当初の予定だったら今頃八十稲羽帰ってあいか先輩とイチャついたり電話でりせとだべっている頃合いだったんだが本当に申し訳ない
「……なる、ほど。本当に土壇場で残した映像だったんですね」
寮の中ではどこに目と耳があるか分からない。出来る事ならば外で話をしたい。
自分より年下の中学生で、仲間で、参加してからはアイギスと一緒に常に最前線を受け持っている男の子は手早く食事を口の中に詰め込むと、私のパソコンに入れていた動画を何度も見返している。
「ねぇ、如月君」
「千影でいいですよ。自分、山岸先輩の事は信頼していますし」
「え? そ、そうなの?」
「はい。そちらのグループの中で、一番」
ある程度納得がいったのか、如月君は耳からイヤホンを外してまたキーボードの上に乗せてから、ポテトを数本摘まんで口に放り込む。
「そう……。でも、どうして?」
「先輩、あの日自分がケンの部屋に行こうとしたり、連れ出そうとした時に一番素直に安堵してくれましたから」
「アレは……だって天田君は小学生だし」
「それを真っ先に、素直に口と態度に出せたのが先輩でしたからね。何かあった時、最初に相談するのは先輩だと決めていました」
年下なのに、寮内の空気を改善するためにアレコレ動いてくれている。
せめてお手伝いくらいと料理をしようと思ったけど、逆に教えられる始末だ。
今度から週末は、料理の特訓を見てくれる事になっている。
食事が不安定な人達の面倒を見て、寮周りの掃除をして、天田君の面倒を見て……。
正直、今一番お世話になっている男の子だろう。
「とにかく……やっぱ情報開示どうにか急がせられないかなぁ。不安要素がいくつもある」
「えっと……あの映像が言っていた事は――」
「正直、そこはどうでもいいと思っています。……正確には、現時点ではどうしようもない……ですかね」
女の子と歩く時はトラブル避けとして男の格好をしているというが、正直今こうして男子中等部の制服を着ていても女の子に見えてしまう。
普段に比べて仕草がやや乱暴というか大きくて、男性らしさが覗いているけど……
(やっぱり、色気が凄いなぁ……)
高等部とデザインこそ違うけど基本は同じブレザーの制服。
その上着を椅子に掛けてネクタイを緩めて、ボタンを一つ外している首周りはすごく白くて、僅かに出ている浮き出た鎖骨につい目をやってしまう。
同時に、良く分からない気まずさを感じてしまう。
あの時と同じだ。
(腹筋もすごかったし)
大量のカレーを作って振舞った日。
メイド服を着替えて、少しよれたTシャツのまま屈んだ時に見えた体は凄かった。
細くて、引き締まってて、少しだけ見えた腹筋は見るからに堅く、がっしり割れていた。
正直、少し触ってみたいと思ってしまった。
天田君と一緒にお風呂から上がった時は、順平君もいつも目で追ってしまっているくらいだ。
「ニヤ―ー幾月理事長が情報開示を拒み、桐条先輩も消極的ながらそれに乗っている以上、そこの正誤を確認するのは難しい。……というか、超特殊な専門分野なんで仮にすぐさま開示されたとしても、それのどこがどう正しいのかを理解するのは困難だったでしょう」
せめて六月のあの時から参戦できていればなぁ……。と如月君はボヤく。
あの時。私が体育館倉庫からタルタロスに迷い込んで、助けられた日。
初めて千影君が姿を見せた日。
「じゃあ、きさ――千影君が言う不安要素っていうのは?」
召喚器を使わず安定した召喚をしてみせる、理事長や桐条先輩が『本当の自然発生型かもしれない』と注目しているペルソナ使い。
「『この記録が、心ある人の目に触れる事を願います』」
その彼は、あの映像の――ゆかりちゃんのお父さんの最初の言葉を口にした。
「大型うんぬんはさておき、大事なのはこの一節だと思います」
「それって、えぇと……」
「実験が完了した時はおそらく、大勢の人間に害を成す事態が発生した。それも特定の誰かではなく、不特定多数に起きる物……だと仮定しています。だって、研究内容は『滅び』だったのでしょう?」
「うん。桐条先輩のお父さんはそう言っていたけど……」
「それを阻止するために起こしたこの騒ぎの中で、この人が最初に口にしたのがこれの一節」
「つまり詠一郎氏は知っていた。あるいは、心当たりか確信があったんじゃないですかね」
「先代同様、滅びに引き寄せられた人物がいる可能性を」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
とりあえず思った事を言ってみると、少しだけ山岸先輩の顔が蒼くなる。
思いつかなかったというか、想定していなかったんだろう。
「そんな……だって……大勢の人が死んでしまうようなことを? 自分だって、きっと死ぬのに?」
「これを言ったらおしまいですけど、自殺そのものは珍しくない話です」
俺が十月の――荒垣先輩らの件に関わった日に電車が遅れたのも理由人身事故だったし。
「無理心中も聞かない話ではない。そこにより大きな力を目の当たりして、それを使って死のうとする人間がいたとしてもおかしくないと俺は思います」
昔からずっと思っていた。
それこそ、女装をする切っ掛けになった完二の件からずっと。
なんでこうも人間の社会ってのは嫌になるくらい複雑な物になってしまったんだろう。
完二の趣味だって、染物屋の長男として何もおかしい事はない。
いや、そもそもなんにもおかしい事はないんだが……。
店を継ぐ者としてこれ以上なく合ってる。
堂々と胸を張って誇るべきなんだ。
巽屋の中だけならばきっと完二は褒められて、自尊心を傷つけられることもなかっただろう。
でもそこに男と女という括りが絡んで、グループの関係が絡んで、だから叩きやすい奴は叩かれて、完二はそうじゃねぇけど数年後とかにその恨みがまた関わって……。
たくさんあるグループやしがらみ、それに個々の状況が絡んで雁字搦めになって、目指す先すら見えなくなっていく。
そういう物に嫌気が差して、なにもかもぶち壊したくなるっていう気持ちは……正直分からんでもない。
「…………でも、ゆかりちゃんのお父さんは――」
「緊急事態の中での証言。この一本だけで正誤は分からない。だからこそ、その後の調査や研究の記録を目にしたいんですが……」
これの有無だけでも相当違う。
有って公開しないとなれば、純粋にペルソナやシャドウの力の流出を恐れている最善のパターンか、あるいは本当に滅びを望む人間が細工している最悪のパターンかのどちらかだ。
そしてもし、そもそも調べようとしていないのであれば……。
「それに、この数年間の先輩達の動きも気になります」
「桐条先輩達の?」
「はい。タルタロスよりも、外に出たシャドウの討伐を優先していた事は確認が取れました」
話を聞くという形でそれぞれカフェで話を聞いてみたが――真田先輩の時は取り巻きが本当に面倒くさかったけど――ともあれ証言は取れた。
街にシャドウ反応があれば、最優先で出動していたと。
その結果が二年前のケンの母親の件に繋がるのは皮肉だが。
「……先輩達は、屋久島であの映像を見るまで何も知らない様子だったよ。うん、覚えてる」
「であれば、行動方針を決めていたのはやはり理事長か。つまり、この映像も把握していた」
……と、なると、だ。
「そうなると、言及されている大型よりも、あの時間に突然現れるタルタロスの方が本当の意味のイレギュラーだ。より調査を進めようとするのが道理のハズなのですが……」
……この間戦った後にラーメン奢らせた真田先輩曰く、タルタロスの中に入ったことはほとんどなく、入口付近をウロついてシャドウ凹ってただけらしい。
確かに、ペルソナ使いの数が足りないという事情もあったのだろう。
今でこそ山岸先輩がいるけど、当時は桐条先輩が唯一の探知役。
つまり完全な探索役は真田先輩と荒垣先輩の二名のみ。
実際に、二階から三階まででしか戦ったことはなかったと聴取の際に言っていた。
だが、それならなおさら――
(他のペルソナ使いを探そうとしなかったのか? 現に俺がいるし、それに荒垣先輩に
戦力が足りなくて調査が進まないなら、増やそうとするのが普通の思考だ。
……いや、そうだ。絶対になにか手段を取ったハズなんだ。でなければおかしい。
なのに今の二年生組が現れるまで、メンバーは三年生組の三人だけ。
……間に何かあった??
あって、それがなんらかの形で失われた??
…………。
クソ、札無しのあてずっぽうに意味はねぇ。
やっぱり隠されている面、知らない――知らされていない面が多すぎて明確な方針を突き付けられない。
「……千影君の言う通り分かっていないことが多いのに、なんだか私達、なにか……流れを分かった気になって戦っていた気がする……」
「だから先日、理事長と先輩らに次の満月の戦いを一度延期して様子見できないかって直談判してみたんですが……」
「あ、高等部でちょっと噂になってた理事長室での揉め事って……」
「はい。結局影人間増加を理由に押し切られましたけど」
次の週には最後の大型シャドウ戦。
本当に岳羽主任研究員の発言が正しければいいんだが……。
(……保険、かけておくか。念のために)
気になってる点はもう一つある。
小さな、小さな違和感だ。
――この記録が、心ある人の目に触れる事を願います。
岳羽主任の発言でもっとも信頼できるのはこの言葉だ。
すなわち、少なくともこの人は善と信じて行動している。
そしてその意思を、心ある人間に託そうとした。
だが――
――この記録を見ている者よ!
――
その言葉がひっくり返っている。
誰でもいいからシャドウを倒せ。それさえいなくなればいいと。
……緊急事態の中での発言だ。特別おかしくはない。あり得る小さな矛盾と言える。
だけど――
「……やっぱ引っかかるんだよなぁ」
クッソ、やっぱどうにか一か月引き延ばして、その間に出来るだけの情報寄越してくれないかな。
多分どちらにもリスクはあるん。倒すことと、保留する事。
取り返しがつかないのは前者だ。
ただし、後者は犠牲者が増える事を許容すると受け取られても仕方ない。
事実その通りではあるのだから。
「山岸先輩」
「うん」
「桐条先輩を通して満月の作戦の延期か、あるいは情報開示の陳情って出来ませんかね」
「……頼んでみるのはいいけど」
「やっぱり、難しいと思いますか」
「うん。もう一週間だし……」
「っスよねぇ」
さぁて、どうすんべか。
とりあえず、最優先で保険の仕込みに入っておくか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どうした美鶴。わざわざ作戦室で考え事か?」
「……明彦。あぁ……」
同時刻、巌戸台分寮4F。作戦室。
その中に設置されたソファに腰を掛けたまま、桐条美鶴は浮かない顔のまま深い息をする。
「お前はどう思う。如月の提案について」
「……大型の討伐を一度止めて様子を見るべきではないか、か」
「……これまで、大型を倒せば影人間は回復していた。それゆえに大型シャドウを討つ事に何のためらいもなかった。だが……」
「ここに来て、倒しても数が増えるばかり。奴の言う『因果関係』が不明瞭になった」
「ああ。……そして影人間増加の勢いはこれまでの日ではない。何もしなければ、町中が影人間で溢れる事になる」
「……だが、シャドウが敵である事には変わりない」
「その通りだ」
自販機で買ったお茶に口を付けて、美鶴は現在までにいたる影人間の増減率を印した資料に再度目を通す。
「それにお前が言った通り、何もしなければ増えるばかりだ。戦うしかないだろう」
「ああ。正直、私も戦うしかないだろうとは思っている。だが――」
だが、という言葉の後が続かない。
何を言おうとしたのか、その本人である桐条美鶴自身分かっていないのだから。
「明彦。お前は先日、如月と戦ったらしいな」
「ああ」
「なぜだ?」
だからか、彼女は話題を変える。
この一月ほどで、如月千影はもはや高等部にまでその名を轟かせることになった。
その一端とも言える異種格闘技戦の起こりは、当然生徒会長である美鶴の耳にも入っていた。
「……シンジが倒れた翌日。アイツを仲間に引き入れようとした時だ」
「あの会談か」
「あの時、アイツは俺が思いもしなかった方面から、シャドウとの戦いについて考えを口にした。こちらに関わったのはまだ二度目だというのに、影時間について相当考えていたのだろう」
グッと、真田明彦は拳を握る。
低姿勢を利用して間合いを詰めて、リーチのある蹴りの連撃で自分を追い詰めた中学生を思い出す。
「一学期の終わり頃に岳羽に問い詰められた時と同じだ。自分が何のために戦っているのか、奴ほど考えて戦っているのか……迷いが出てしまった」
「それで決闘か?」
「そんなものじゃない。……ただ、手を合わせて確かめたかった。アイツは……アイツもシンジから託された男だ」
「……それで、どう感じた?」
もっとも天田乾という少年を気にかけていたぶっきらぼうな親友は、その存在を数度会っただけの男に任せた。
「かなり計算して身体を作っているタイプだ。でなければ、あの細さであれだけのパワーは出せん」
真田は強さにこだわってきた男だ。
とある事件をきっかけに、強さだけを見て鍛えて来た。
「綿密に計算して作ったトレーニングメニューと食事を続けて、それを根気よく続けている。準備に相当力を入れるタイプとも言える」
「……つまり、用心深い」
「その上でここぞという時に賭けられる。ずっと一人で戦ってきたのもあるだろうな。勝負勘は相当な物だった」
その真田から見て、如月千影の強さは本物だった。
純粋な闘いだけでも相当な物な上に、立ち回りが上手い。
いわば飛び入り参加に近い存在なのに、リーダーである有里が「合わせやすい」という程だ。
この一月の間、タルタロス探索では高い頻度でメンバーに選出されている。
「…………放置は、やはり出来ない。影人間増加との因果関係はともかく、シャドウが人を襲う存在である事には違いない。大型もしかりだ」
「ああ、俺もそう考えている」
「だが……そうだな」
「大型を倒し、一段落付いたら……彼とは改めて話す必要がある」
「理事長からも、それからならば全部公開しても構わないだろうと許可が出ている」