男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です 作:rikka
「へ~、アンタ格闘技やってたんだ」
「最初の方の相談の時に言ったし、前に軽くやってみせたじゃないッスか、パイセン」
「? あれってダンスじゃなかったっけ? ブレイクダンス的な」
「的なって……」
徐々に暖かくなってきて、そして梅雨が近づくある日の土曜日、放課後。沖奈市。
その駅ビルのカフェにて、たくさんの紙袋と共に席についている俺の対面の椅子に座っている海老パイセン――ザ・ギャルって感じの海老原先輩がストレートのアイスティーをストローで吸い上げている。
ガムシロとか一切使わないストレートな所に、パイセンの美容に関してストイックな所が覗いているわぁ。
「カポエイラっつーダンスに見せかけた蹴り主体の格闘技なんで、ダンスも兼ねてるって言ったらそうッスけど」
「? 蹴り? アンタ、あたしを無理やり車に乗せようとしたチンピラやっつけた時はパンチしてなかった?」
「殴りも一応ありますけど、ほとんどは我流ッスね」
「ふ~~ん。ま、おかげで足腰強くてたくさん持てる荷物持ち兼護衛がいてくれて助かるけど」
「普段パイセンには色々相談乗ってもらってますからね。時間さえ合えばこういうお供は大歓迎ッスよ」
単に荷物以ってパイセンの後ろ付いていくだけだし。
その間メイクやそれ以外の話は面白いし、女装してても完二とは入りづらい――というかアイツが入りたがらないカフェやスイーツの店に入れるし。
「……女装もそうだけど、やっぱアンタ変わってる」
「そッスか?」
「去年いきなりあたしを呼び止めてさ。あ~、うっざい告白でもされるか~と思ってたら頭下げて『化粧教えてください!』とか言い出すし。アレほんと笑ったわ」
「俺の知る中で一番化粧上手い美人はパイセンだったんで」
「……アンタ、今誤魔化すのが上手いっつった?」
「言葉を歪曲させるのは止めましょう先輩」
そもそも本気で美人でしょう。
パイセンを不細工って言ってる奴なんざまず聞いたことない。
整形だって噂を振りまいている奴らなら知ってっけど。
「それにこういう遊びもさ。たまに誘ってやる男は、二回目まではヘラヘラしてても三回目あたりで段々文句言い出すのよね。ヤバいのだと汗まみれのまま無理やり手を繋ごうとして来たり、腰に手を伸ばそうとして来たり」
「パイセンが餌を与えてやらないからでは?」
いやまぁ、確実に下心デカいタイプとか下半身コントロール出来ない奴だからやらなくて正解なんだが。
「餌ねぇ……。でもアンタは特に何も言わずに荷物持ち続けてんじゃん。もう半年になるっけ」
「俺ぁすでに世話焼いてもらってますからね。冬に先輩が組み立ててくれたサーキットトレーニングのメニュー。あれ続けて、今良い感じに体引き締まってるんスよ」
「つっても、アンタも男の子だからちょいちょい筋肉目立つようになってきたじゃん」
「……やっぱ、分かります?」
「よく会うしね。それに最近暖かくなってきたのにちょっとタイツとかストッキングが厚めになってたから、そうかなって」
相変わらずよく見てる。
さすが先輩だわ。
「アンタ、前触らせてもらった時にも思ったけど結構鍛え方本格的だし、肌見せる方向じゃなくて全体的に長めの……シックな方向目指した方がいいかもね。幸い、鍛えても根っこは細いままだし」
「やっぱそう思います? 俺も方向転換必要かなと思って、さっきから店回ってる時にこっそりそういうのチェックしてたんスよ」
「……なんでこっそり?」
「いや、俺今男装中じゃないスか。一人なら男装女装どっちでも堂々と店員に声かけれますけど、あくまで先輩の連れとしてなら、変に思われるかもしれない真似は出来ませんって。女のための商品男が触ってたら、不快に思う客だっているでしょうし」
俺がそう言うと何かがツボにハマったのか、パイセンは珍しくゲラってる。
(しかし……ホントあの時間どうにかなんねーかな……)
今までは大した事なかった。
確かに化け物は出るが毎夜出るというわけではなく、むしろ一月に一回出ればいい方だった。
それが今年……ってか、年末あたりか? そんくらいから段々頻度が増えている気がする。
昨日に至っては久々に殴る蹴るが通用せず、俺のペルソナの技も通らない化け物が出てきて大変だった。
商店街の雑貨屋で緊急用に買ってた爆竹や花火使ってどうにかすっ転ばしてボコったけど……見せる用じゃないから別にいいとはいえ、あの戦闘用のブーツがもうボロボロである。
(何だろうな。今年に入ってから
おかげで戦う回数が増えて、筋肉増える勢いが増したように感じる。
ちょい前までは、たまに戦う必要が出てきても基本的にはただ一日に雰囲気最悪のアディショナルタイムが差し込まれただけだった
だからほとんどは宿題やったり服や小物作ったり、時間が進みそうな気配がするまで河原を走ったりするのが
ちょっと前までは一月に一回、一体か二体出るか出ないかだったのに、だ。
「で、六月に東京で大会だって? その……カポーラ……カポエーラの?」
「ウス。港区に新しく建てられた多目的施設が会場になるらしくて……。で、土曜スタートなんすけど勝ち上がれば最長で月曜夜まで流れ込むんで、火曜まで学校休む事になったんスよ」
荷物運びの代金と言って驕られたケーキセットを平らげて、ドリンクに口を付ける。
この人が『オススメだから』って進めてくる店、マジで外れがない。
今度カップルに見せかけて完二と来るか。
アイツ自身も、こっちの手芸屋に足運びたいって言ってたし。
……問題は電車の時間と本数だな。
高校上がって16になったら速攻で単車免許取らなきゃ……。
沖奈駅前で遊ぶのってマジでタイミングとの戦いだからな。
「で、せっかく港区行くんで向こうの店でこれ買っといてっていうのあります? こっちの都合にも寄りますけど、先払いでよければ回ってきますよ」
「……ひょっとして、珍しくアンタから『今日買い物の用事とかありませんか?』って聞いてきたのはその話するため?」
「そろそろ新しい服買いに行く頃合いだってのもありましたけど……そッスね。細かい話はメールとか電話だけじゃズレるっしょ。買い間違いが一番キツいッス」
観光用のタウンマップも自分の予習と兼ねてさっき本屋で買ってきたし、止まるホテル周りの店ならば足を運べるだろう。
なんか、思ったよりもいいホテルに泊まるみたいでビックリしてる。
「アッハハハ! なにそれ! あたしも気の利く出来る弟子を持ったわね!」
あとこの人、金遣いが荒いし男の扱い雑なのは事実だけど――
「でもまぁ、今回はいいわ。格闘技の大会って事はアンタもそん時疲れてるでしょ」
一度踏み込んだ相手に不義理をするような人じゃあないし……。
「いいんスか? 先週、ネットショッピングでパチモンってか粗悪品の化粧品掴まされてキレてたじゃないッスか。あっちならあるだろうから探して買って来ようと思ってたんスけど」
「いーのいーの、他に欲しい色の奴見つけたし。来年オープンするジュネスならそれなりの品ぞろえあるだろうし。それよりアンタは自分の事に集中しな」
ちゃんと気遣ってくれる人なんだよなぁ。
もうちょいちゃんとした男にモテてもいいハズなのに、なんで女慣れしてない奴と慣れ過ぎてる奴しか寄ってこないかな。
「正直、スポーツとかにマジになる気持ちってあたしには全然分かんないけど、アンタの鍛え方がマジってのは知ってるしね。お土産とかも気にしなくていいから、ちゃんと頑張――ちゃんと気張んなさいよ?」
「――ウス……ッ!」
そんでこういう事言える人が、外見がそれっぽいってだけで売春だのパパだの事実無根の噂で後ろ指刺されるんだから……。
ホントに世の中理不尽なもんだ。
「……ってか、その日に合わせてあたしも行こうかな。人工島って事は辰巳ポートアイランドでしょ? 面白い店たくさんありそうだし、アンタがいるなら男避けにも護衛にも最適じゃん。6月のいつだっけ? 6日?」
「いや、先輩出席日数……はともかくとして……受験、大丈夫ッスか?」
「は? アンタが教えてくれるんでしょ?」
「一つ下の後輩に入試合否の責任を押し付けると申したか」
いや、でも素行が良くないのも確かだったわ。
完二といい、そこんとこどうにかなんねーかなぁ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして6月。辰巳ポートアイランド。
「……普通、獣ってのは田舎の方が出やすいモンなんだけどなぁ……」
怪物共と戦う――あるいは逃げ切る体力作りのために、殴り合ったりしない格闘技という事で始めたカポエイラの関東大会は順調に勝ち進んだ。
準決勝で当たっちまってポイント失ったけど。
まぁ、ギリとはいえ入賞出来たからそれはいい。
完二やパイセン、一条先輩達にも胸張って報告が出来る。
「まさか、都会の方が化け物が多いとは……」
だが、それゆえその分長く、いつもとは違う都会での『裏時間』を体験する羽目となっていた。
クラブの先生が取ったホテルでの俺の部屋は六階。
八十稲羽で今の所一番高い学校の屋上以上の高さから外を眺める。
いつもと同じように地面や壁にはあちこちに血痕が滲み出ている。
違うと言えば、そこらにそびえ立つ棺桶の数が段違いと言った所か。
そして――あの化け物共も。
たくさん、というわけではないが数匹がウロウロしている。
八十稲羽ならこれだけ出るのは一年に一回あるかどうかって数だ。
(化け物はともかく棺桶が多いのはまぁ、まんま人が多いからだな。発生する瞬間も確認できたし、やっぱり棺桶=人ってのは間違いないか)
ふと、こっち着いた日の夜から早速トラブル発生して絡む羽目になったのを思い出す。
あんま暴力とかに馴染みなさそうなのに、明らかに危ないと見て分かる駅周りの路地裏にホイホイ入っていった不用心な三人組が、案の定絡まれるトラブルが発生したのだ。
俺みたいな『おのぼりさん』って感じじゃないのにアレだったんでこっそり後付けてみたらやっぱりヤバい空気になって。
とりあえず絡んでいる――三人組の中のやけに可愛い紅一点に手ェ出そうとしてた奴の顎に蹴りを掠らせて、脳を揺らす事で黙らせて場を硬直させた。
周りの連中に取り囲まれるかと思って三人連れて逃げる算段してたら、知り合いノされてんのにビビりもしなければ怒りもしねぇ、ただ笑ってるだけの連中ばっかで胸糞悪かったな……。
その後三人組に普通に声掛けてた大柄な野郎は特にそういうの感じなかったが……。
(
存外、都会は都会で面倒くさいもんだわ。
俺には、沖奈の駅周り位がちょうどいい。
カフェ入るだけで死ぬほど並ぶし注文終わらせて座る席ねぇし、一人だと席取りも出来ねぇし……疲れる。
(ともかく、人が多い所の方が化け物も多いってのは新発見だ。だけど、それよりも明らかにおかしいのは……)
まだ疲労と筋肉痛が残る身体を外気で冷えた窓に預けてその方向を見る。
地図で言えば、月光館学院というデカい私立の学校がある
「……少なくとも八十稲羽にゃあ、裏の時間に
そこには、趣味の悪い目立つ塔がそびえ立っていた。
初日の夜から気にはなっていた。
気になりすぎていた。
この時間に動ける人間であれば、絶対に気になる物だろう。
「さて、大会も無事終了。後は明日の朝電車で帰るだけなんだし……」
ここまで来てアレを見て、調べないって選択肢はない。
戦いの可能性に備えて、勝負服に袖を通す。
大会での遠征なので、持って来ている衣装は制服であるセーラー服のみ。
戦う時に着るには気合が入らない服装だが仕方ない。
加えて、この時間は冷えるのでジャケットも。
そして、荷物がクソ重くなる事を承知で持ち込んでいたいつもの装備。
打撃の一切が通用しない敵に備えた爆竹類に傷薬一式。
慣れたそれらを身に着けて、道具はセカンドバッグに放り込んで扉を開ける。
エレベーターは動かない。
分かっていたが、やはりこの時間は機械の類は動かない。
恐らく、フロント前の出入り口である自動ドアも動かないだろう。
あまり良くないが、ドアストッパーを掛けてドアを少し開けたままにして、手近な所にある窓を探し、それを開く。
ここは六階。
普通ならば大怪我必至。頭からなら死にかねない高さだが。
「『ランマル』、ラクカジャ」
叫ぶと同時に、自分の手足と重なるように赤い身体が重なる。
刀を持った花魁だか歌舞伎役者を思わせる異形――なぜかそれが『ペルソナ』と呼ばれる力であり、『ランマル』という名の個体であると分かる、俺の力。
軽い身体強化を伴う力の発現と同時に、防御力を向上させるスキルをかけて体を更に頑丈にさせて、棺桶だらけの地面に降り立つ。
――とんっ。
「……うし」
「行くか」
先に宣言しておくと、P3はほとんどカットしますね。
切っ掛け周りはある程度描写しますが、後はポツポツ語ったり思い出す形で八十稲羽行き。