男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です   作:rikka

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003:6月8日(前)

 その少女は弓に矢を番え、迫りくる巨体に向けて弦を引き絞り、撃ち放つ。

 その鏃は子供が使うような玩具の吸盤でなければ、訓練用の布を固く丸めた物でもない。

 目標を貫く事を目的とした、まごうごと無き『凶器』である一矢。

 

「こん……のぉ……っ!!」

 

 目標は二体いる巨体の内一体。

 

 黒を基調とした巨体の中心に赤い十字架を思わせる装飾を持ち、頭部には王冠を連想させる棘飾りが付いた個体。

 

 先ほどから何度も何度も少女が撃ち込んでいるように矢はその巨体に突き刺さる。

 

 そして――何事もなかったようにそれを弾いて、弓を持つ少女目掛けて足を進める。

 

「どうなってんの……!? ペルソナの魔法だって……っ」

「岳羽、下がってくれ! 『ペンテシレア』!!」

 

 すでに疲弊して立つのがやっとである弓の少女を守るように、赤みがかった女性が前に飛び出し、そして拳銃のような物を自らのこめかみに当てて引き金を引く。

 

 同時に、彼女の内から人の形をした力が沸き上がる。

 ペルソナ。

 人が困難に立ち向かうために被る、人格の鎧。

 

「マハブフ!!」

 

――パキィィン……ッ!

 

 通常の人間では起こし得ない力の発現を可能とするそれは、強い冷気の槍を地面から出現させて二体の鎧に瑕を付ける。

 

 はずだった。

 

「くっ、風も冷気も、そして互いの武器も駄目とは……っ」

 

 やはり、傷一つ付かない。

 

 ただ硬いのではなく、まったくダメージを与えられていない。

 

 王の後ろから同じ速度で近づいている青い――こちらは丸っこい身体に、青いマントのような物を羽織っている――巨体が、手にした杖を振るう。

 

 同時に、二人の少女の頭上にバチバチという音と共に、空気が焦げる臭いがする。

 

「不味いっ、岳羽!」

 

 弓を持つ少女が――少女が身に宿すペルソナの特性が電撃に弱い事を知っている長身の女が咄嗟に彼女を抱えて後ろに飛ぼうとする。

 

 だが、互いに満身創痍の身である彼女達に逃げるだけの体力は残っていなかった。

 

 甲高い空気を焼き裂く音と共に、

 

「くぁ……っ!!」

「きゃあああああああ!!!」

 

 強烈な雷が二人の身体を貫いた。

 

 唯一回復手段を持っている弓の少女は弓を取り落とし、その場に崩れ落ちる。

 

 気絶こそしていないが、立ち上がれそうにない。

 

 唯一まだ気力のある長身の女性は、フラつきながらも立ち上がり、再び拳銃のような物をこめかみに当てようとするが――

 

 傷一つ無い『王』の方が早かった。

 

「ぐは…………っ!!」

 

 巨体が女性の身体が弾き飛ばされ、近くにあったバイクにその身を叩きつけられる。

 同時に女王が放つ雷による追撃が入り、そのバイクや積まれている機材が破壊される。

 

「た……たけ……ば……」

 

 もう立ち上がる余力もない。

 だけど、このままでは死んでしまう。

 殺されてしまう。

 

 ゆえに、女性は拳銃のような物に手伸ばし――気付く。

 

 ない。

 

 先ほどの突進を受けた時に、取り落としたのだと。

 

 弓を持っていた少女は、未だ起き上がる気配はない。

 

「岳羽……っ」

 

 女王が再び、杖を振るう。

 倒れている少女を見て、雷を落とそうと。

 

 

――ったく、初めて俺以外の人間この時間に見たかと思えば!

 

 

 その時、倒れている少女に向けて無意識に手を伸ばしていた女性の頭上を、小さな影が飛び越えた。

 

「一昨日のイ(・)ノ(・)シ(・)シ(・)じゃねぇか!!」

 

 それは女性が見たことがない、セーラー服を着た小柄な少女だった。

 セーラー服の上からジャケットを纏い、丈の短いスカートの下にスパッツを履いている少女は人間離れした跳躍力を見せて空中で一回転し、

 

「とにかく沈めや、三下ぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 女王の丸っこい身体を、思い切り蹴り飛ばした!

 

 到底人間の力ではビクともしなさそうなその巨体が、信じられない勢いで吹き飛ばされ、この変質した広い空間を支える白い柱に叩きつけられる。

 

「あ……なた……?」

 

 長身の女性はその少女を知らず、だけど弓の少女は知っていた。

 つい先日、助けられたから。

 

「明らかに怪しいモンあるから調べておこうとは思ったけど……違う当たりを引いたな、こりゃ」

 

 女王が傷つけられて、王が怒る。

 

「いけない……逃げろ!! 君では戦えない!!」

 

 弓の少女は意識はあっても動けない。

 残る彼女の手元には武器はあっても銃がない。

 二体の敵に対抗するのに必要な、心(・)の(・)鎧(・)を呼び出すための銃が。

 

 例えこの時間を動ける人間であっても適性がなければ、そして召喚器(銃)がなければ太刀打ちできない。

 

 ただし、

 

 

「行くぞ……三下共がぁ……」

 

 

「ペルソナッ!」

 

 

 何事にも、例外はある。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「ポイズンアロー」

 

 最近覚えた毒混じりの一撃。

 状態異常もそうだが威力も期待できる一撃が、思った通りに赤いデカブツを吹き飛ばしてくれる。

 

 ……ただ、さすがに毒は入らなかったか。

 

「貴女(あなた)……召喚器無しで……ペルソナを……」

 

 さっきチラリと声が聞こえた気がしたが、やはり死んではいなかったか。

 ヤベェデカブツが近づいてるのにピクリともしなかったから久々に焦った。

 

「とりあえず安全な所まで運びますんで、その弓持ってジッとしててください、イノシシ先輩」

「だ……れが……イノシシよ……っ」

「場の空気乱してまで話聞きに行った相手を初手挑発した上に挑発重ねて、しかも段取りどころか自衛策もノープランがイノシシじゃなくてなんなんスか……いやマジで……」

 

 とりあえず文句言えるくらいにはしっかりしてるか。

 なら問題ない。

 

 誰かが襲われているのが見えて全力ダッシュ+全力ジャンプで駆け付けたが、まさか一昨日自分からあぶねー所に行って自分から危険な状況作ったやべー先輩と再会するとか……。

 

 ……まさか、あん時いた顎ヒゲの先輩と気だるそうな先輩もいるんじゃねーだろうな。

 

 とりあえず手足に少し力は戻ったようで、弓をしっかり抱えている。

 幸い敵二体はどっちも今動けないようだ。

 急いで抱き抱えて、俺に「逃げろ」と叫んだ人の所に運ぶ。

 とりあえず今の二体から一番離れているのは、なんかの機材積んでるデカイバイクの残骸ン所だ。

 

「まさか、他にもペルソナ使いがいたとは……しかも……いや、すまない。助かった。桐条美鶴だ」

 

 もう一人の美人さんは比較的マシだが、こっちも相当に甚振られている。

 戦闘に参加できる体じゃないだろう。

 

「如月(きさらぎ)ッス。すみません、手持ちの薬と簡単な食料置いてくんで手当てと、出来るんなら補給もして少しでも体力と気力回復しといてください」

 

 割と本気で蹴り飛ばしたのに膝を付く気配ない。ポイズンアローぶちかました方もだ。

 

 現にもうどっちも立ち上がっている。

 どちらもクリーンヒットした感じはあったのだが……これまで戦ってきた連中とは話にならないダンチの耐久力だ。

 

(時間が戻る前にはホテルに戻ろうと思ってたけど……こりゃちょっと時間ギリギリまで粘る必要あるかも)

 

「……とりあえず――」

 

 自分の中にある何かを引き絞るように、それを具現化させる。

 蒼く輝く、タロットカード。

 

「もっかい転べや!!」

 

 それを握りしめた拳で撃ち抜き、砕く。

 同時に、俺の頭の上に『ランマル』が具現化される。

 

 どこからか取り出した火縄銃で赤い方に狙いを定め、毒の混じる一撃を放つ。

 

(片方をスッ転ばせながらジリジリ削って行きゃあ力尽きるだろ! 手応えがなかったわけじゃ――)

 

――パキィン!!

 

「…………おっ……とぉ?」

 

 先ほどとは全く違う。

 手応えがない。

 

(……クリーンヒットはまぐれ当たりだった? いや、しかし……)

 

 少し、嫌な予感がする。

 

「『ランマル』、後ろの二人にラクカジャ」

 

 ただ耐久力があるだけの敵じゃないかもしれん。

 万が一に備えて、後ろの二人にも防御力上昇のスキルを掛けておく。

 もしも俺がこの二体の足止めに失敗するようなことになった時に少しでも耐えられる可能性は上げておくべきだ。

 

 チラリと横目で見ると、まだ動けないイノシシ先輩の手当てをしている桐城先輩が小さく頭を下げるのが見えた。

 こっちの補助に気付いたのだろう。

 

(気付けたって事は、マジで俺と同じペルソナ使いか。それが二人いてあそこまでボコられるっててことは……)

 

 青い方が杖を振る。

 さっきチラリと見えた光が俺の頭上で輝き、雷が落ちてくる。

 

 赤い方が手みたいな棘を振るう。

 突然空間に斬撃が発生して、俺に襲い掛かる。

 

 どちらも俺の身体を直撃して――ほんのわずかな傷を作る。

 

 それだけだ。

 

「……っ、てて……ラッキーな事に、お前らにとって俺のペルソナは相性最悪みてぇだな」

 

 ずっと一人で化け物と戦い続けられたのは、俺のペルソナが連中の体当たりや斬撃っつった普通の攻撃全般を軽減してくれるからだ。

 気付くのに随分と時間がかかったが。

 

 それと、偶然気付いたが電撃系の攻撃に対しても効きづらい。

 今の一撃も本来ならあの二人がヤベェ事になるくらいのダメージが入る代物なんだろうが、俺にはちょっと軽いパンチが入った程度にしか感じない。

 

 上に羽織っているジャケットの中から爆竹を取り出しておく。

 打撃が効かなくなっても、あるいは通じるかもしれない。

 というより、通じるかどうかを確かめる必要がある。

 

 出来る事は何でもやって、少しでもこのデカブツ共の情報抜きださねぇと、多分不味い。

 

 ただ――

 

(敵の技との相性は悪くない。ダメージを最小に抑え続けながら立ち回れば……あるいは時間が戻る(タイムアップ)まで粘れる可能性がある)

 

「二体一だが卑怯なんざ言わねぇよ。……ガチでセメントやろうじゃねぇか!」

 

 

「歯ぁ食いしばれや!! デカブツ共ォッ!!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や…………そのシャドウに歯はないでしょ……」

「……岳羽。君、実は余裕があったりしないか?」




ペルソナ『ランマル』 Lv25
物理:耐 火:ー 氷:ー 雷:耐 風:弱 闇:ー 光:ー

力:22  ・両腕落とし  ・ポイズンアロー
魔:11  ・ラクカジャ
耐:20  ・淀んだ吐息
速:24  ・気絶耐性
運:17
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